一見ムダだが愛される「企業らしさ」が大事
三浦:そうですね。だから、「BtoC」「BtoB」ということを分ける以前に、マーケティングはやはり人間を対象にするテクノロジーなので、「人間とはいったい何か?」ということに対する洞察がないと、本当に強いサービスは作れないなというのが一番大事なところだったりしますよね。
でも僕が常々思っているのが、BtoBのマーケティングは「ムダを削ぎ落とすことが重要だ」って、わりと論説的にはあるじゃないですか。そこにみんなごまかされちゃっている。結局ブランドは、ある種のムダさがやはり……「ムダ」という言い方をすると良くないんですけど。
僕は最近、「エビフライ理論」という言い方をよくしていて。エビフライの尻尾って、あんまり食べないじゃないですか。この話をたまにインターンの学生とかにすると、「いや僕、エビフライの尻尾も食べます」と言われて、「じゃあ、この話は終わっちゃったね」となるんですけど、尻尾は食べないじゃないですか。
エビフライの尻尾は食べないんだけど、尻尾がないまま出てくると、エビフライだって認識されないし、あんなに愛せないじゃないですか。一見ムダに見えるけれども、愛される1つの企業らしさみたいなものが必要だよということが、めちゃめちゃあるなと思っていて。
田部:なるほど。
お客さんを名前で呼ぶスターバックスの戦略

三浦:これはBtoCですけど、例えばスターバックスはお客さんのことを名前で呼ぶじゃないですか。「田部さん」みたいな。あれ、ちょっと恥ずかしいけど。でもあれはやはり、スターバックスというブランドが「サードプレイス」という。
「『家庭』と『職場』というそれぞれの居場所には、自分はそれぞれの役割を置かれてしまうけれども、そうじゃない1人の人間としての空間を提供するよ」というフィロソフィーがあって。そのフィロソフィーを実現するためのわかりやすいアクションとして、「社長」でも「旦那さん」でもなく、「田部さん」「三浦さん」という名前で呼ぶというサービスに落ちている。
それは一見、サービス的にはムダかもしれないけれども、それがスターバックスというものを機能させて、スターバックスというブランドを確立している、すごく象徴的なものになっている。いわゆるエビフライの尻尾が大事だというのは、こういう話だと思っています。
だからBtoBのサービスも、「自分たちらしく認知されるための重要なポイントをどう作るか?」ということになってきますよね。例えば、「社長がすごく有名な人」とか、あるいはタイミーとか、わかりやすいキャラクターがいたり、独自の企業文化としていろんな言葉を作ったりとか。
「あの会社、なんかいいよね」で受注が決まることも
三浦:自分たちのカルチャーを表すような何らかの特徴みたいな、社内外に通じるようなものがあったほうがいいなというのは、最近よく思っているところですね。そういうのでうまくいっている事例とか、聞いたことありますか?
田部:例えば、うちの会社のノバセルで、起業の方向けに無料で僕らがスポンサードして、10人くらい有名な講師を連れてきて、無料で講師をしている。
三浦:やってる! うちの会社は「THE CREATIVE ACADEMY」をやっているので、「あ、なんか目障りだな」と思いました。
田部:(笑)。
三浦:(笑)。現場の超いいマーケターの方々がたくさん集まって、無料で講義されていますよね。
田部:そうそう。あれは一見するとムダなんですよね。お金もけっこうかかっているので。なんですけど、結果あれで実際に参加した企業の方から、何か選ぶ基準が出てきた時に、「あの人たち、なんかすごくこの業界に良いことをしてくれているから、こっちの会社を選んだほうがいいんじゃない?」ということで、実際に受注になったケースもあったんですよ。
だからそれを言語化すると、「なんか好き」とか「なんか好感度が高い」は、売上とひもづかないと言われがちなんだけど、今のはひもづいた事例なんですよね。「なんかこの人たちいいな」「この会社、いいことをしているな」みたいなのがある。
そういうもののひもづけは、けっこうBtoBで言うと否定されがちというか。「機能の独自性を伝えていけばいいじゃん」みたいなことをマーケティングの定石でやるんですけど。もちろんそれも重要なんだけど……。
三浦:それもやり尽くすのが前提としてね。
田部:前提なんですよね。その上で、結局選ばれる、指名されることはあんまりないから。結局、3社、2社の中で選ばれる時に、「あの会社、なんかいいよね」という……だから「愛されるエビフライをどう作るか」というのがけっこう重要で。僕らはあんまり狙ってやらなかったんですけど、それはけっこううまくいったなという気がしますね。
三浦:そうですよね。