本の学びを深めるオンライン講座「flier book camp」を運営する株式会社フライヤーが主催したイベントに、『構造化思考のレッスン』著者の荒木博行氏が登壇。うまく構造化ができない原因と必要なアプローチについて解説しました。
フレームでスッキリまとめたはずなのに、ぐちゃぐちゃに…
久保彩氏(以下、久保):(
スキルマトリクスについて)すごくいいチャットが入りましたね。
荒木博行氏(以下、荒木):「見ると簡単そうに見える」んですよ。
久保:見えちゃうんですよね。
荒木:でも、いざ自分でまっさらな状態から作ろうとすると、「なんかしょぼい」というようなことになってしまうことが多い。
久保:ほんと、それ!
荒木:これ、すごく重要なポイントなんですが、一番多く見られる症状を、ここでズバリ言ってもいいですか?
久保:お願いします。
荒木:それは、「ノイジーになる」んです。
久保:おおー。
荒木:とにかく、めちゃくちゃノイジーになる。
久保:300件の構造化を見てきて、その共通する特徴が「ノイジーになる」?
荒木:そうなんです。「これも入れたい、あれも入れたい」となって、例えば、「3軸で表現したいです」とか、Pillar(支柱)が5つ、6つ出てきてしまうとか。
久保:うんうん。
荒木:そうなると、最初は「寿司パックを作るつもりだった」のに、気づいたらまたスパゲッティになっている、みたいなことが起きてしまうんです。
久保:あぁ……ぜんぜんまとまってない状態に戻っちゃう。
荒木:で、それがなぜ起きるかというと、結局のところ、原因はここにあります。
久保:おお、目的?
荒木:はい、Purposeがまったく定まっていないということです。
久保:じゃあ、この「何のために」という部分を、ちゃんと書くことが大切なんですね。
荒木:そうです。そこがしっかりしていないと、「構造化した上でそれをどう使うのか」というイメージがまったく湧いてこない。だから、「あれも入れよう、これも入れよう」になってしまうんです。
だからこそ、「目的のためだけに最適な構造」をまず作る訓練が必要で、それを徹底的にやっていく。そこが一番大事なんです。
久保:はい。
荒木:もちろん、その先には応用的な話もいろいろあります。複数の目的に対応できるような、多面的な構造も存在します。ただ、それは応用レベルの話なので、まずはシンプルに「1命題・1構造」で考える。そんなアプローチから入るのがいいと思います。
AIが得意なことは“もう人間がやらなくていいんじゃないか”問題
久保:めちゃくちゃやりたくなってきました。というか、数をこなせば慣れるものなんですか? まず考え方を知って、でも実際に手を動かす、自分の実例や目的に当てはめて考えてみないと、先ほどもチャットにありましたけど、人の構造を見て「簡単そう」って思ってしまうだけで、自分の中にはぜんぜん定着しないですよね。
荒木:そうですね。だから、まずは型に自分をしっかり押し込むような、ちょっとしんどいフェーズがあります。でも、その上で数をこなす。そしてフィードバックを受ける。加えて、「フィードバックする」という行為もすごく大事だったりするんですよ。
「フィードバックを受けることが成長につながる」ってよく言われますけど、実はこの構造化のようなテーマにおいては、「人にフィードバックをする」ことで、自分の型を反すうするようになる。それが非常に効くんです。
というのも、人が出してきた構造って、もう全然意味がわからない“スパゲッティ”に見えることもあって(笑)、「あー、でも、これってこういうことか?」「だったらこう整理できるんじゃないか」とか、そうやって対話しながら自分の理解が磨かれていくんですよね。
久保:今チャットに入れてくださった方も言ってましたけど、それってAIで出した構造が「なんかしっくりこない」って時と似てますよね。なんか違和感があるのに放置しておくとそのままになるけど、人のを見て修正しようとすると、どんどん精度が上がっていく。
荒木:そうですよね。ところで、今出てきたChatGPTやCopilotなど、生成AIは、構造化って意味ではすごく得意ですよね。
久保:そうです、じゃあ、「私たち人間がもうやらなくていいんじゃないのか」というのは気になります。
荒木:そう、「やらなくていいんじゃないか仮説」っていうのが、実際にあるんですよ。これ、マジで。久保さんはどう思います?
久保:うーん……そうですね、瞬発力が問われるシーン、つまり会議や対話の中で構造的に物事を捉える必要はあると思います。あとは自分の経験から導き出すことは、人間ならではだと思うんですよね。
それに、AIって自分の経験や具体的な要素をきちんと入れないと、適当な問いかけだと、いいアウトプットが出てこないところがあります。簡単にアウトプットが出てくるけど、よくよく見るとリアルな自分たちの経験とはまったく異なる結論を導き出していることがある。
そう考えると、これらのアウトプットを見て修正する力、つまり「自分の中に構造化スキルを持っていたい」という“欲”はあります。意義とか理屈というより、もう欲レベルで(笑)。
AIが普及する中で人間が出せる2つの価値
荒木:今すごく大事なことをおっしゃった気がします。
久保:気がする(笑)。いや、あんまり刺さってなかったかもしれないけど……はい、どうぞ(笑)。
荒木:僕は、ここには2つのポイントがあると思っていて。1つは、まさに久保さんが言っていた「瞬発力」です。
これからの時代、人間の価値って、瞬間的な対話や、その場での反応力、つまり「即興性」が求められる場面にどんどんシフトしていくと思うんですよ。
例えば、会議でのディスカッション、意思決定の現場、あるいは1on1の場面などで、どれだけ対話の中から出てきたものを、その場でかたちにできるか。ここがすごく大事になってくる。
もちろん、「時間があればAIがやってくれる」というのはあると思います。でも逆に言えば、時間をかけずに、創発的に、瞬時に対応できるというところにこそ人間の価値が出てくる。そういう世界に、これからますますなっていくと思っています。
そういった“その場で発揮できるスキル”を持っているかどうかが問われるというのが、1つ目の理由です。
もう1つは、「AIが時間をかけて構造化してくれるから人間はやらなくていい」と考えた場合、そのプロセスがブラックボックス化してしまうと、できあがった構造が「良いものなのかどうか」を判断できなくなってしまう、という問題です。
つまり、構造を見抜く「審美眼」を、自分の中に持っておく必要がある。そのために、自分で構造化できる力を身につけておくことが大事なんです。
久保:なるほど。今後は、誰しもがAIで作られた構造を“読む側”にもなる可能性が高いからこそ、「この構造、なんか違和感あるな」って感じた時に、「それって目的に合ってないんじゃない?」とか、「具体の洗い出しが足りてないんじゃない?」みたいに、ちゃんとチェックできる力が必要になるってことですね。
荒木:おっしゃるとおりです。
AIや機器の進化で、もう英語を勉強しなくてもいいのか?
荒木:これは僕、「英語を学ぶ必要はあるのか?」という問いと、わりと似ていると思うんですよね。今は、POCKETALK(ポケトーク)のような翻訳機器もあるし、ChatGPTの翻訳機能もすごく進化している。「英語を勉強しなくてもいいんじゃないか」みたいな意見もあると思います。
でもやっぱり、即興的な人間同士のコミュニケーションには、翻訳だけでは補えない部分がある。そういった「即興性」が、むしろこれからますます価値を持っていくんじゃないかなと思っています。
あとは、翻訳機などのテクノロジーを介した時に、本当にその内容が正しいのか、判断が難しいという問題もあります。主導権を相手、ここではテクノロジーに握られてしまうのは、けっこう危険なことだと思っているんです。
さらに言えば、「英語を学ぶ」という行為そのものが、言語だけではなくカルチャーや異文化を理解することにもつながります。そういった意味でも、言葉を学ぶ価値は、今後もずっと残ると僕は思っていますし、むしろテクノロジーが進化したからこそ、その価値は“希少リソース”としてさらに高まると考えています。
だから、構造化スキルにおいても、同じことが言えると思っています。
直感的で右脳型の人に意識してほしいこと
久保:質問が来ていますね。「ロジカルな思考が強い『左脳型』の人は、図表を使ってポイントを押さえやすいと思いますが、『右脳型』でビジュアル思考が強い人は、どのように物事を整理するとよいのでしょうか」というご質問ですね。
なんとなくわかる気がします。私も、どちらかというと右脳寄りというか、感受性や人の感覚への関心が強いタイプなんです。
荒木:そういう意味では、前著の
『裸眼思考』は、どちらかというと右脳的で、直感的な思考をどう鍛えるか、という本でした。今回の
『構造化思考』はその逆で、左脳的な思考にフォーカスしていて、対象としては真逆なんですよね。
だから、両方を使えるようになることが理想だと僕は思っていて、それが今回のメッセージでもあります。右脳型の人にひとつ意識してほしいとすれば、「優先順位を明確にする」ということです。
久保:どういう意味でしょうか?
荒木:右脳型の人って、いろんな要素を一度に表現するのが得意なんですよね。
久保:確かに。できちゃうからこそ、ですね。
荒木:そうなんです。例えばアート思考もそうですが、1つのビジュアルの中に複数の意味を込める、というアプローチが可能です。でも、構造化思考はその逆で、「1つの意味をシンプルに伝える」ことを重視します。
もちろん、アート的な感覚で「1つに多くを含ませ、それが相手の中で広がっていく」という表現もすごく大事です。ただ、それが有効な場面とそうでない場面がある。構造化思考を使う場面では、「目的をとがらせる」ことが最も重要なんです。
久保:やっぱり、「目的」ですね。
荒木:そうです。そこをシンプルに絞っていく、という意識が必要です。
パッと思いつくアイデアは悪くないが、イケてるとは限らない
荒木:最後に少しだけお話しすると、今回は仕事やスキルの例を挙げながら構造化を考えてきましたが、こういう思考を積み重ねていくと、自然と俯瞰して自分を見られるようになるんですよ。どなたかが「内省につながるのでは?」と書いてくださいましたが、まさにその通りです。
構造化できるようになるかどうかは、「自問力」があるかどうかに直結していると思います。
最初にパッと思いつくアイデアって、誰でもすぐ出せる。でも、大抵そういう「パッと出た答え」って、悪くはないんですが、イケてるとは限らないんですよ。
むしろ、それを手がかりに“彫刻のように削っていく”。問い直していくことが大事なんです。
いきなり完成させるのではなく、「いい問い」をその構造に向けられるかどうかが勝負です。その問いのフレームとして、今回紹介した「5P」がありますし、本の中ではそれをさらに細かく展開しています。そういった問いを繰り返していくことで、だんだん自分を俯瞰して見られるようになる。
それを表した「ダンスフロアとバルコニー」という比喩表現があります。

フロアで踊っている自分を、同時にバルコニーの上から眺めているような感覚が身につくようになる、ということですね。
久保:「確かに」とコメントくださっている方がいます。メタ思考ができるようになる、ということですよね。
荒木:自転車の乗り方っていうのは、口で説明できるものって一部だと思うんです。そのあとは「乗ってみよう!」みたいな感じじゃないですか。だからあとはもう手を動かしてやっていく、ですね。
久保:ありがとうございます。では、荒木さん、最後にどんな方に今回の講座にきていただきたいかやどんな場所にしたいのか、一言いただけますか?
荒木:みなさんの身の回りに散らばっている構造化されていない事象を取り扱っていきたいと思っていますので、「タスクを整理したい」とか、さっきのお題でもありましたけど、「自分ってどんなスキルを持っているんだっけ」といったことを、いろんなお題を使いながらやっていきたいと思っています。興味がある方はぜひお越しいただけたらと思います。
久保:ありがとうございます。それではお時間になりましたのでこちらで終了させていただきたいと思います。みなさん、午後も今日のヒント「5P」を思い出して活かしていただけたらと思います。本日はご参加いただきありがとうございました。荒木さん、ありがとうございました。
荒木:ありがとうございました。