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アート思考研究会「すごい壁打ち~アイデアを深化させる壁打ちの極意」(全7記事)

知識や経験があっても「壁打ち相手」には向かないことも 「良い壁」になれる人が組織のキーパーソンになる理由

『すごい壁打ち~アイデアを深化させる壁打ちの極意』の出版を記念して開催した本イベント。著者で株式会社インキュベータ代表取締役の石川明氏と、創造性ART思考研究会代表幹事の秋山ゆかり氏が「すごい壁打ち」について対談します。本記事では、「良い壁」になれる人が組織のキーパーソンになる理由についてお伝えします。

壁打ちをお願いされた時は「きく」の使い分けが大事


石川明氏(以下、石川):
じゃあ、今度は壁打ちを受ける側の話を最後にしてもいいですか? 「球を受ける側の立場からの壁打ちはどういうものかな?」と考えると、私はある種、受けることを仕事にしているわけなんですけど、自分は3つの「きく」の使い分けをけっこう意識します。

「聞く」「聴く」「訊く」の3つの字が違うというのは、よく話題になるところだと思うんですけど。まず初めに傾聴が大事という話がありますが、傾聴は聞かれるほうにもけっこうプレッシャーになりませんか? 「えっ、どうしたの? どうしたの?」って身を乗り出されると、「いや、別にそんな大層なことを言うつもりはないんですけど」みたいな感じになっちゃいそうな気がするから。

まずは、相手が話しやすいことがとても大事な気がするので、そんなに構えずに、別に身も乗り出さずに自然体でいて、相手が話し始めるのを待つのがとても大事かなと。

待っていて、「で、どうしたの? どうしたの?」と言うのもちょっと急かしすぎている気がするので、なるべく相手が自分の言葉で話し始めるまで待つ。

話し始めているのに、「いや、それを言うと俺もね」なんて、せっかく彼が話し始めた時にそこで止めちゃったらもったいないじゃないですか。という場面も見たりするので、まずは自然体で「聞く」こと。

それを過ぎた後で促したり、ポジティブに否定しないで相手に「つまりどういうこと?」とか「それってこういう意味?」みたいなことを言って、うまく相手の気持ちを引き出してあげる。

知識や経験のある人が「良い壁」になれるとは限らない


石川:
だけどさらにもう一歩上に進んでいくと、「こういうのはどういうふうに考えているの?」とか、「今『真の』っていう言い方をしたけど『真の○○○○』と言うなら、じゃあ今のやつは偽物ってこと?」みたいな。ちょっと意地悪にも聞こえるかもしれませんが、そんなことで問いを立ててみる。「ところでさ、これは海外ではどういう事例があるんだろうね?」なんて角度を変えてあげたりする。

でも、いい壁になろうと思う方は、「まず傾聴が大事」といって身を乗り出しちゃうとか、「いや、問いを立てることが大事みたいだ」と、一生懸命何を問うかに注力して話をちゃんと聞いていないことがある気がしていて。

場面場面でどの「きく」がいいかは違うと思うんですけど、ここはちょっとうまく使い分けてやられるといいかなと思っています。

2つ目は、声をかけられやすい人。「この人にあんまり壁打ちの相手をしてほしくないな」という人はやはりいるんですよね(笑)。それはやはり相手もけっこう空気でわかってしまうので。例えば知識や経験、発想力があるとか、人脈があるとか権限を持っている人は、壁打ち相手として指名されることはけっこう多いんですけども。

そればっかりで良い壁になれるかというと、やはり実はその手前で、「この人はちゃんと話を聞いてくれそうだな」とか。(壁打ちは)自分の弱みをある種さらけ出すようなところもあるから、「あいつ、この間こんな変なことを言っていたよ」なんてほかのところで言われたらたまったもんじゃないので(笑)。

そんな人はいないかもしれないですが、そういう人としての信頼があるかどうかが大事なんじゃないかなと思います。

「良い壁」になれる人は組織のキーパーソンになる

石川:この間こういうことを、HR分野で著名な武田雅子さんと話をしていた時に、「やはりこれはリーダーとしてのたたずまいじゃないか」という言葉を言われていて、良い言葉だなと思いました。「あっ、この人は壁打ちの良い相手になってくれるな」とただずまいで人間はけっこう見分けるので、そんな人を目指すのは1つあるのかなと思いました。

私は良い壁になるような人は、きっと組織のキーパーソンになると思うんですよね。そういう人はいろんな人や情報が集まってくるから、もしかしたら5年後、10年後は当然になるような新しい情報をキャッチしているかもしれないし、ユニークな仮説の可能性を感じているかもしれない。

しかも信用されて、何かあった時には力になってくれるような、そんな人たちが周りに集まってくる。これは間違いなく組織のキーパーソンなので、壁打ちの上手な方になっていただけるといいんじゃないかなと思っております。

AIと壁打ちするメリット・デメリット

秋山ゆかり氏(以下、秋山):先ほど「ChatGPTなど、AIを相手にした壁打ちはどう思いますか? 友人など人のほうがいいですか?」という質問が来ていましたけれども、石川さんはどうですか?

石川:私もけっこうやりますね。これは便利ですよ。だって誰に声をかけなくてもヒュッとやればできますし、同じような質問をしても怒らずに何度も答えてくれますし(笑)、まぁ、律儀なやつやなと思って。年間いくらかお金は払っていますが大した額でもないですし、これは本当に僕はもうどんどん使ったほうがいいと思うんですね。

ただ、1個やはり人間のほうがいいかなと思うところは残っていて。やはり向こう(AI)は理屈で来るんですよね。非常に合理性でバシバシと来るので……合理性でバシバシ来てもらわなきゃ困る時もあるんですが、こっちとしては「今気弱になっている時に、そんな言い方をしなくたっていいじゃない」みたいな(笑)。

「いや、俺だってよくわからないから相談しているんじゃん」「俺だってそんな確信を持っているわけじゃないんだよ」とかいう時には、ちょっと言い方があるんじゃないかなとか。

あとやはり壁も、別にみんながみんなフラットである必要もなくて、時にはそれを聞いて怒り出すような人がいたっていいと思うんですよね。「なるほど。こういうことを言うと怒り出す人もいるんだ」ということが1つの情報としてわかるので。

もしかしたら近未来ではこのカメラを通じて、僕がどんな精神状態かわかった上で、いい感じの言葉をかけてくれる(笑)。時には厳しく、時には優しくなんていうAIになってくるのかもしれませんが。今私が触れているAIはそこまで気を遣ってくれないので、もうしばらくは僕も(壁打ちの相手は)人間でいいんじゃないかなとは思っています(笑)。

壁打ちの時間は、間柄によっては15分で十分

秋山:ちなみに私はChatGPTちゃんに、「聞いてもらうだけでいいんです。優しい相づちとかもっと話したくなるような相づちを入れてください」って頼んだりします。

石川:そういうの、ありますよね(笑)。

秋山:あと、フィードバックも欲しいので「BCGの先輩で元株式会社オオゼキの社長だった八十川(祐輔)さんになりきってビシビシ、フィードバックをください」と言って、彼の記事をいくつか入れたりして(壁打ちを)やってもらった後に、リアルな八十川さんに時間をいただいたりしていますよ、私。

石川:すごいすごい(笑)。

秋山:リアルの壁打ちは、だいたいどのくらいの時間を使っていますか? 

石川:リアルですか? 僕の場合は仕事で請けることが多いので、そうするとどうしても30分とか1時間とかが多いですかね。

これもやはり初対面の方だと、背景を理解しないといい壁になれないことが多い。その背景理解にちょっと時間がかかるので、やはり1時間ぐらいは欲しいなとは思いますが。けっこうある程度間柄でわかっていて、「こういうことについてちょっと意見を聞きたいんだよね」ぐらいの話であれば、もう15分でも僕は十分だと思いますね。

秋山:相手の余裕によっても変わるじゃないですか?

石川:そうですね。

秋山:私はだいたい30分か50分かどっちかなんですけど。残りの10分は向こうが次の会議の準備があると思うので、そこで「50分で」と言って、50分でさっと消えるんですが。やはり相手の余裕がない時は、けっこうきついのがガンガンと返ってきたりするので。

石川:そうですね。

秋山:やはりそこの部分はすごく気にしています。でも30分だと終わらないこともちょいちょいあるので。そのへんの時間がいつも難しいなと思いますね。

石川:それこそ本当にモヤモヤしているのをひもといていくのにはちょっと時間がかかりますけども、例えばさっきみたいに、「石川はAIとチャットするのってどんなふうにやっている?」ぐらいだったら、ちょんちょんとできたりしますしね。

秋山:それだったら短くなりますね。

石川:5分しゃべるだけで随分違うと思いますから。

仕事以外の場でも行われる壁打ち

秋山:キタガワさんからのコメントで、「今は診察室の中も昔のように雑談ができる雰囲気はなくなり、5分診療が多くなってしまいました」と。

石川:なるほど、なるほど。

秋山:診察室の中でもそうなんだなって。

石川:そうですよね。そういう背景も理解した上で、この人(患者)が「最近なんか疲れているみたいなんですよ」という、この一言をどう受け止めるかはありますよね。

秋山:難しいですよね。あと、同じキタガワさんから、「昔は政局が訪れると会派を超えて国会議員同士が囲碁を打っていましたが、壁打ちの範疇に入っていたのか気になりました」と。

石川:でも、そういうのもあるかもしれないですね。囲碁とかしながらポツ、ポツと言うような話が意外と響くというのはありそうですね。いやぁ、ありそうだな。

秋山:そういうのはコロナ以降、すごく減ってしまった感じがあって。だからこそやはりこういう壁打ちの本が出て、オンラインでもいいから、どんどん人との接触を増やしてほしいなと思いますよね。

石川:本当にそうですよね。

秋山:いったん、ここまでとさせていただきます。ありがとうございました。

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