壁打ちでネガティブな指摘をされてイラっとしてしまう人　ついやってしまうもったいない行動と頭の切り替え方 [1/2]

壁打ちでネガティブな指摘にイラっとしてしまう人

石川明氏（以下、石川）：最後に、壁打ちをうまくやるためのコツをもう1点だけお話します。重々考えておかなければいけないのは、壁打ちは相手のことを説得する、納得させるためにやるものじゃないんですよね。

ですから例えば、その方が私に対して打ってきたものが、どうも私がピンと来なかったとするじゃないですか。「うーん。なんかちょっと言っていることがいまいちよくわからないな」みたいな反応を（こちらが）返したとします。

そうすると向こうがだんだん怒り出しちゃう時があるんですよね。「石川さんもこういう分野の専門家なんだから、何を言っているんですか」「これからの時代はこうですよ、ああですよ、石川さんは技術のことがちょっとおわかりになっていらっしゃらないから、そういう反応かもしれませんが」と。

僕を一所懸命に説得しようとするんですけど、僕が説得されても別に何もいいことはなくて。結局、その方が会社で起案した時に起案が通ることが大事なわけですから。

だとしたら私が何かネガティブな反応をした時には、「なんでこの人はこういう反応なのかな？」「なんでこの人にはピンと来てもらえないのかな？」ということを掘り下げて考えていけば、「あっ、こういう説明だから良くなかったんだ」「こういう視点が抜けていたんだ」みたいな気づきがけっこうあると思うので。

これはもう自分のアイデアを磨いていく上での一番の財産になりますので、そんなことを意識して壁打ちをされるといいんじゃないかなと思います。

相手を説き伏せようとする「もったいない」リアクション

石川：ちょっと長くなったので、いったんここで置いて、受ける側の話はもう1回後にしてもいいですか？

秋山ゆかり氏（以下、秋山）：いいですよ。最近「theLetter」で、私は本についていろいろ書いているんですけど。

先週、石川さんのこの『すごい壁打ち』を取り上げさせてもらったんですが、そこでネガティブなことを言っている人に、私はけっこう「なるほど、この人はもしかしたらアイデアの宝庫かもしれない」と思って、余計にいろいろ聞いた話を書きました。「あっ、私はこういうところを見ていなかったんだな」というヒントにできるので。1対1の時にネガ反応をやられると特にめげるんですけれども。

石川：そうなんですよ。

秋山：すごく大事なヒントがいっぱいあって、逆にそこに気づかせてくれていると思うと本当に、「ちょっとタダで（壁打ちを）やってもらっちゃっているけどいいのかしら？」と思う時がありますよね。

石川：（笑）。でも、批判されていると思ってしまったり理解できなかったりすると、どうにかしてこいつを説き伏せたくなるという、その気持ちがわからんではないんですけど、もったいないですよね。

「最近の学生は頭が悪い」というのは大きな間違い

阪井和男氏（以下、阪井）：今のお話を聞いて1つ気づいたんですけど。僕は理学博士なんですが明治大学の法学部に32年間いて、法学部の1、2年生とかに教えていたんですね。

だから法学部で物理の話は教えられないので、結局何をやっていたかというと、自分のいろんな知見、やり方をベースに、社会的、現代的な問題をいろいろと議論する。そういうのを、僕は学生相手に壁打ちしていたんだなと気がつきましたね。

石川：なるほど。

阪井：だから、「学生にどう響くんだろう？」と。やはり教育というのは、たまたま私の授業を選んでくれた学生だけにどういうインパクトを与えられるかが問題なので。多くの先生は、「いや、最近の学生は頭が悪い」とか「勉強しない」とか言うんだけど、それは僕は大きな間違いだと思っています。

石川：おっしゃるとおりですね。

阪井：私たち教員は受講する学生を選べないんです。目の前の学生にどれだけ教育的なインパクトを与えられるかがすべてだと思っているので。自分のやりたいことや彼らが関心を持っていそうな社会のさまざまなことをベースに、どういうふうに響くかを一生懸命に延々と繰り返す。これはまさに壁打ちなんだなと今の話を聞いていて気づきました。ありがとうございます。

学生に知識を与えるのではなく、壁打ち相手になる

石川：本当にそうですよね。そういう打てる壁がそこにいるというのは、ある意味本当に恵まれていますよね。

阪井：そうなんですよ。

石川：そうじゃなかったら、自分の中だけで考えるしかないですけど。

阪井：だからそういう意味では、僕は講義というか自分が知識を体系立てたものを学生に与えるというスタイルを、奉職してから10年ぐらいしてから一切やめちゃったんですよね。

それは案外意味がないし、彼らはもう1週間経ったら覚えていない（笑）。だから延々とやり続けなきゃいけない。それはおかしいだろうと思って、それで壁打ち的に（自分のスタンスが）大きく変わっていきましたね。

石川：なるほど。

阪井：その中のツールの1つとしてワークショップ的な方法を取り入れた。でもおもしろかったのは、最初にそういう授業をやった時に、一番後ろから1人の男の学生がポンポンポンとやってきて、授業が終わった後に私に一言、「先生、授業をやってください」と言ったんですよ（笑）。

石川：へぇ。そうなんだ。

阪井：その場でそいつの顔をじっと見て、僕は「嫌だ」と言ったんですよね（笑）。

石川：（笑）。

阪井：「そうか、確かにそういう奴もいるんだな」という感じがしましたね。

石川：でも、それも1つの反応ですもんね。

阪井：そうですね。

石川：それは本当に、よく言いに来てくれましたよね（笑）。

秋山：言いやすいというのもあるんでしょうね。

石川：いや、そういうことだと思いますよ。

阪井：なるほどね。

壁打ちをお願いする立場に必要な「素直さ」

秋山：さっき言おうとしたのが、私はけっこう壁打ちをさせてもらうし、付き合うのも両方やるんですけど。散々付き合ってもらってネガティブなこともいっぱい言われるんです。1回（相手に）、「なんでいつも付き合ってくれるんですか？」と聞いたら、「ゆかりちゃんは素直さが最大の武器だよ。本当に真正面から受け止めてくれて、それを実践しようとする姿勢がある」と。

石川：わかる、わかる。

秋山：「真摯にやってくれているのがわかるから、こっちも真摯になるし、『あっ、また来たらやろう』って思っちゃう」と言われて。じゃあ、そこはもう変えないでいこうかなと本当に思ったことがありますね。

石川：いや、それは大きいな。

秋山：ネガティブなことを言われても、「あっ、そうなんですね。私はそう考えたことがなかったんですけど、これはなんでですか？」とか言って、すごくちゃんとメモを取っているし。

石川：秋山さんはそれを本当に、おべんちゃらじゃなくて素で言っていらっしゃいますもんね。