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アート思考研究会「すごい壁打ち~アイデアを深化させる壁打ちの極意」(全7記事)

壁打ち相手の選び方とお願いする時の一言 頭の中のモヤモヤを言語化するヒント

『すごい壁打ち~アイデアを深化させる壁打ちの極意』の出版を記念して開催した本イベント。著者で株式会社インキュベータ代表取締役の石川明氏と、創造性ART思考研究会代表幹事の秋山ゆかり氏が「すごい壁打ち」について対談します。本記事では、石川氏の考える「壁打ち」の定義やよくある誤解についてお伝えします。

「悩むぐらいなら、しゃべってみろ」と言う上司

石川明氏(以下、石川):(先ほどお伝えした僕の考えに対して)秋山さんの考える壁打ちとは近いですか?

秋山ゆかり氏(以下、秋山):近いは近いですけれども。私は外国育ちですが一応日本人なので、もうちょっと準備はするかなと思いながら聞きました。

本当におっしゃるとおり、自分1人で悩んでいても、自分の頭の整理はまったくできなくて。新卒2年目の時の上司が、「悩むぐらいだったら、頭の中に浮かんでいる断片的なものでもいいからしゃべってみろ」とよく言う人だったんですよ。

しゃべっている時に、「あっ、こういうことを私は言いたかったのかもしれません」と言うと、「ほら、出てくるじゃないか。もうちょっとしゃべってみろ」と言う人だったんです。その人がそういうやり方をしてくれたので、「あっ、上司ってこうやってしゃべりかけてもいいんだ」と思っちゃったのがまずかったのかな? 良かったのかな?

石川:でも世の中、そうやって受け止めてくれる上司ばかりでもないですもんね。

秋山:そうなんですよね。あと、例えばBCGの先輩方ってけっこう忙しいし。

石川:いや、そりゃそうでしょう。

秋山:あと、転職するとみんなけっこうなポジションに就くわけですよね。だから、「ちょっと頭貸してください」とか言いにくいので。

石川:だって、「頭貸してください」って言ったら「1時間10万円だぞ」みたいな(笑)。

秋山:そういう人には頼まないけど、それでもやはり頻繁に頭を借りますが、何もわからない状態で行くというよりは、もうちょっと準備はするようになったかな。やはり私は人によって使い分けている感じがしています。

そういう偉い人たちにはすごく準備をしていくけど、例えばうちの夫とか親友とかには、「ごめん、何もまとまっていない。整理するから話を聞くだけ聞いて」と言う。

石川:わかる、わかる。

あえて「違う業界の人」と壁打ちする

秋山:その時に、うちの夫は男性だからかもしれませんけど、「話を聞くだけでいいの? 相づちだけでいいの? それともアドバイスが欲しい?」って聞くので、「相づちだけでお願いします」とか。

「今回の件はちょっとフィードバックが欲しいんですけれども、フィードバックは10パー(パーセント)程度にしてください」とかの注文はつけます。そうするとぐちゃぐちゃの状態でしゃべり出しても、別に相手は怒らない。

石川:よく男性と女性の行き違いみたいな話で、女性はただちょっと愚痴を言いたいから聞いてくれればいいだけなのに、それを男の人が「これは間違えているよ」とか「これはもっとこうすべきだ」と言うのは、男性はそういうのをつい助言したくなってしまう生き物なのかな(笑)?

秋山:わからない。でも整理をしたいから壁打ちを使うというのが私の中での壁打ちの位置付けです。整理をするのともう1つは、行き詰まっている時に「飛躍したい」、事象をぜんぜん違う視点から見直したいというのがあるんですよね。

石川:ありますね。

秋山:その時に壁打ちを使う感じかな。だから、そういう時はあえて自分と違う業界にいる人に声をかける。

「今、うちの会社ではこういうことに悩んでいて、ちょっとうまく言えないんだけど、こういうことってそっちの業界でもある?」みたいに言うと、「いや、初めて聞いた」と。「そうなんだ。もしこういうことが自分の会社で起きたらどう思う?」と言ったら、「えっ、まずドン引きする」とかって会話から。

石川:(笑)。

秋山:「あっ、こういう業界だとこういうソリューションに向かっていくんだな」というインプットだけもらって、それを自分用にカスタマイズするみたいな。そういう使い方もしますよね。

相談と壁打ちは違う

石川:そうですよね。それから、本当にモヤモヤしていてまったくよくわからんという時の壁打ちもあれば、いったんまとまったような気はするんだけど、いまいちパッとしないなみたいな(笑)。こう着状態になっちゃって、自分だけでは広げられない時ってありますよね?

秋山:だから、モヤモヤにもいくつかの種類があるんですね。本当に整理されていないモヤモヤと、「これってある程度はカタチになったけどこれが解決策じゃないよね」「これ、100パー(パーセント)の答えじゃないよね」のモヤモヤとか。

石川:はいはい。それから、例えば「壁打ちとかしてみればいいじゃん」って周りの人に言った時に、「そんなの上司に言えるかよ」みたいな。「俺、それでも勇気を出して言ってみたんだよ。そしたら、『で、結論は何だ?』って」。

秋山:(笑)。

石川:「いや、結論が出ていないから今来ているんですけど」みたいな。そんな話になってしまうと、もう二度とその上司にはそういう状態では相談できなくなってしまうので。

秋山:だから壁打ちという言葉を使うのは、私はすごくいいんじゃないかなと思っています。「相談させてください」と言うと、何かアドバイスがほしいのかなって思うし。

石川:やはり相談と壁打ちは違いますよね。

壁打ちとは「ディスカッション」ではなく「アイデアの整理」

秋山:相談と壁打ちも違うし、あと、メンタリングと壁打ちもたぶん違うし、コーチングとも違うじゃないですか?

石川:違う、違う。

秋山:そこを言葉にして出してみることで、相手が「あっ、こういうことを求めているんだな」とわかってくれるツールになるといいなと思いながら本を読みました。

私は壁打ちがけっこう周りで当たり前に使われている業界にいるけど、先ほどアンケートを採った時には、そうじゃない人たちのほうが大半だったから。だから、壁打ちとはディスカッションじゃなくてアイデアとか思考の整理ですよ、みたいになるといいなと思いました。

石川:そうですね。いや、なので今日の後半で、聞いてくださっている方々に「壁打ちってどんなふうに理解していましたか?」とか、「今この2人の話を聞いてみてどうでしたか?」って、ぜひ感想を聞いてみたいんですけど。

そもそも壁打ちという言葉も、使うところでは使うけども使わない人はぜんぜん使わないし。メンタリングとかコーチングとかも……コーチングは多少協会もあったりするからちょっと定義がされているのかもわからないですけど。メンタリングは言葉としてあんまりちゃんと定義されていない気がしません?

秋山:私も雰囲気だけで「メンターです」とアサインされたことがあって。

石川:そうそう。

秋山:「たくさん経験をされた偉そうな方が、その経験をもとに私にアドバイスをくれるのかな?」みたいな感じの印象を受けて。「キャリアのこんなことでちょっと悩んでいるんですけど」みたいなことを言ったら、「私の時はこうだった」みたいな。

石川:経験談をね。

秋山:経験談から「甘い!」とか言われて、「あっ、甘いんだ私」、シュンシュンシュン(心がしぼむ音)、みたいな感じのことを経験したので。

石川:(笑)。

秋山:「メンタリングってそういうものなのかな?」と思い込んじゃっているところはあるかもしれないです。

ある経営者が「高校生のメンター」をつける理由

石川:なるほど。いや、もうこれも本当に正しい定義かどうかよくわからないですが、確かにメンターというとちょっと経験豊富な年配の方が若い人に対して自分の経験談を含めて諭すみたいな(笑)。

秋山:アドバイスするみたいな感じですよね。だから、上下関係みたいなものがあるなと。指導者とその弟子みたいな印象を、私は受けています。

石川:なるほど。少し前に、ある尊敬する経営者の方が、「最近新しいメンターを見つけたよ。彼と話しているとすごくいいんだ」と。そのメンターは高校生なんですって。

秋山:でも台湾とかはそうですよね。

石川:あっ、そうなんですか?

秋山:大臣に若いメンターをつけますよね。逆メンタリングですよね。

石川:だからやはりメンターというのは経験豊富で、自分よりも目上の人という印象を持っている人からすると、「高校生がメンターって何ですか?」みたいな感じかもしれないけど。実際にはたぶん高校生と会話することで得られるものが多いというのは、きっとありますよね?

秋山:なので高校生が特に経験していることを伝えている感じなんだろうなと思いながら、ニュースを見ていましたけど。

石川:そうなのかな、なるほど。

秋山:だって、私の年代で経験できないことを高校生はいっぱい経験しているわけなので。それを(高校生に)教えていただく。

石川:それは本当にそうですね。なので僕の場合は、その時にはもう壁打ちという言葉を使っていたんですけど。例えば(2000年代に)オールアバウトでインターネットの事業をやっていた時に、もちろん自分でもインターネットを使ってはいましたけど、どう考えても自分はインターネットネイティブではなくて、ちょっと無理やり使っている感があるわけですよ。

「もう、インターネットを使わなきゃダメだ」みたいな感じで一生懸命仕事モードで使っているんですけど。もうその頃、「いや、俺は高校時代から使っていますよ」みたいな感じの若い子が普通にいたわけですよ。

「インターネットは今後、どういうふうに使われていくんだろう?」みたいなことを考える時には、理屈で考えている人よりも、彼らに壁打ちに付き合ってもらったほうがどう考えてもいいんですよね。だから僕の中ではそういう若い人はすごくいい壁打ち相手でしたね。

壁打ちが広がっていくことで、今より生きやすい世の中に

秋山:なるほどね。だから壁打ちという言葉が市民権を得れば、みんなが「これは壁打ち案件にしよう」とか、「これはディスカッションにしよう」とか、「これは相談にしよう」とか。そういうのを使い分けていけるようになるんじゃないかなって、ちょっと考えたので。ぜひこの本がたくさん売れていただけるといいなと思いますね。

石川:そう言っていただけると(笑)。こういうテーマでたくさんの方に視聴していただいているのがすごくうれしいんです。自分としては、「壁打ちってけっこう良さそうだから、自分もちょっとやってみようかな?」とか、「周りの人にもすすめてみようかな」と、世の中に壁打ちが広がっていくと、今よりもうちょっと生きやすい世の中になりそうな気がするんですけど(笑)。

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