企業のマーケティング支援を行う株式会社Digital Arrow Partnersと株式会社SAKIYOMIの共催セミナー。今回はSAKIYOMI社の執行役員CMOで『マーケティングの全施策60』の著者・田中龍之介氏と、Digital Arrow Partnersの小畑匡平氏によるパネルディスカッションの模様をお伝えします。自社サービスに強みがない時にやってはいけないマーケティングや、マーケ施策で上司の承認を取るための説得ポイントなどが語られました。
今BtoB領域で“穴場”のマーケティングチャネルとは
小畑匡平氏(以下、小畑):時間的に、次のテーマで最後にできればと思います。「サービスの『強みがない』からこそやるべきマーケティングとは何か?」という点について、まずは田中さんの考えからうかがってもいいでしょうか?
田中龍之介氏(以下、田中):サービスの強みがないからこそやるべきマーケティング。これは前提として、いわゆる3Cで言うところの「競合」「市場」がどんな状態かによっても変わってくるとは思います。
例えば、SAKIYOMIがInstagram運用代行の事業に参入した当初も、すでに市場には競合は存在していました。ただし、当時は市場全体がまだ黎明期で、「この領域はこの会社が取っている」と言えるような明確なポジショニングがなかったんですよね。
しかも、競合の出しているコンテンツが非常に弱かった。僕らも事業立ち上げに際して、Instagram運用のノウハウを調べようとしましたが、どこも有益な情報を出していなかった。参考になるようなコンテンツが本当に見つからなかったんです。
ということは、他社の担当者や、Instagramをがんばりたいと思っている企業も、同じように情報を求めて困っているだろうと。であれば、僕たちが「このコンテンツさえ見れば大丈夫」という状態を作れば、一気に市場の第一想起を取れるだろうと考えました。
つまり、今の話を整理すると、「強みがないからこそやるべきマーケティング」とは、競合が手薄で、なおかつ一点の突破力で大きな成果が見込めるチャネルを1つ見極め、そこに集中投下してポジションを取ること。それができると、てこの原理じゃないですが、1チャネルの成功が他チャネルへの横展開にも波及して、全体の成果が1.5倍、2倍と伸びていくんですよね。
SAKIYOMIも、最初はテキストコンテンツで一定の認知と信頼を獲得できたことで、その後のYouTubeやInstagram、広告などもすべてが相乗効果でうまくいきました。だからこそ僕だったら、まずは「勝ち目のある未開拓チャネル」を見つけて、そこに全力投球します。あえて1チャネルに絞る、という選択も大いにアリだと思っています。
小畑:それは本当にそうですね。一点突破で、まだ競合が力を入れていない領域にフォーカスし、そこを制することで他の領域にも展開していける。いわゆる競合をまくっていくような戦略ですよね。
田中:まさに、そのとおりです。
小畑:そういうチャネルって、実は探せば案外ありますよね。
田中:あると思います。直近だと、本当にBtoB領域でのYouTube活用はかなりの穴場だと感じています。最近になってようやくSEO支援会社なども参入し始めた印象ですが、どこもまだ成果が出ているとは言いがたくて、全体的に手薄な印象ですね。十分に狙えると思います。
自社サービスに強みがない時にやってはいけないマーケティング
小畑:逆に、「サービスに強みがない時にやってはいけないマーケティング」みたいな観点でいうと、すでに競合が多数取り組んでいるようなキーワードでオウンドメディアの記事を書く、みたいな施策は、最悪の選択肢になりかねませんよね。
田中:そうですね。もし、その中に埋もれても勝てる自信があるなら別ですが、勝てる見込みがないのにあえて埋もれていくというのは、正直かなりもったいない。だったら、少しでも尖ったチャネルに振り切って、そこから信頼を獲得していくほうが、よほど有効だと思います。
視聴者や見込み顧客がついてくると、サービスの内容以上に、会社そのものへの信頼からリードにつながり、受注へと進んでいくようになる。そういう状態が理想的ですよね。
それに、「強みがない」と言っても、SAKIYOMIも最初はそうでした。でも、その状態から強みを作りにいくという発想で、マーケティングがプロダクトに働きかけ、コンセプトから一緒に作っていくような動きも、創業初期には実際にありました。
小畑:そこ、すごく重要なポイントですよね。結局、どれだけマーケティングを工夫しても、強みがないサービスは売りにくいですし、どこかで限界が来る。それを補う意味でも、やはりプロダクト自体の磨き込みは欠かせないというか。
田中:そうですね。もちろん、マーケ側からプロダクトの改善提案や方向性の見直しに入っていくにはそれなりにエネルギーが要るので、そこは経営陣や責任あるマーケ担当者が本気でコミットするべき領域だと思います。
「PayPay」「Airペイ」に学ぶ、BtoBでも使えるオフライン施策の戦略
小畑:強みがない、あるいは差別化が難しい領域でのマーケティングで成功した例として、おもしろいなと思うのが、リクルートさんが展開した「Airペイ」のケースです。決済サービスって、今では本当にたくさんありますよね。クレジットカードも対応しているし、QRコード決済も使える。そんな中でリクルートさんは後発だったわけです。
じゃあ、どうやって勝ったのかというと、店舗と契約すると「iPad」を無料で提供したんですよ。
田中:はいはい、ありましたね。
小畑:これがなぜ有効だったのかというと、飲食店や小売店って、会計の時にiPadで操作して、スムーズに決済できるだけでだいぶ楽になりますし、例えば「食べログ」などのオーダーシステムとも連携できたりして、1台あるだけで業務の幅が一気に広がる。PCがなくても、iPadがあればある程度まかなえる環境ができるんですよね。
それをAirペイ用として提供するけれども、仕入れ管理などにも使っていいですよという提案をしたことで、多くの店舗にとって「導入しない理由がない」状態が作られた。結果としてAirペイの導入が一気に進んだんです。
むしろ広告に多額の予算をかけるよりも、iPadを配ったほうが顧客獲得コストは明らかに下がったという話もあります。他社がやっているマーケ手法を踏襲するだけでは到達できなかった結果だと思いますし、田中さんが話していたように、プライシングやプロダクトの売り方そのものを変えるという考え方にも通じる事例ですよね。
田中:確かに、オフライン施策って、意外と穴場であることが多いと思います。例えば「PayPay」も、全国のソフトバンクの営業代理店が地道に1店舗ずつ営業して口説いていったのが、大きな普及要因だったはずです。
もちろん、テレビCMなどの空中戦もうまく活用してはいましたけど、根本的にはあの全国的な営業組織があったからこそ、決済サービスとしてトップを取れたんだと思います。ああいう取り組みは、意外と見落とされがちですが、本当に重要ですよね。
“インテントセールス”という言葉で市場を切り拓いた「Sales Marker」の戦略
田中:逆に空中戦に全振りして成功している例だと、「Sales Marker」なんかはおもしろいと思います。あの会社は、言葉の発明をしていますよね。いわゆる「インテントセールス」という新しい言葉を生み出して、それを市場に流通させた。
プロダクトそのものは、僕の視点では既存のフォーム営業ツールと大きな違いがあるとは正直思えないんです。でも、その言葉をうまく使い、あたかも新しい市場を創り出すかたちで広げていった。なので僕は、Sales Markerの最大の強みは、プロダクトではなくて「言葉を発明してポジションを取ったこと」にあると思っています。
小畑:あと、言葉の発明は、コストがあまりかからないというのも大きいですよね。
田中:そうなんですよ。それで言うと
書籍の出版も、実際にやってみて思ったよりお金はかからなかったです。
なので、これは意外とハードルが高く感じられたり、最初から選択肢に入らない人も多いと思うんですけど、こういうアプローチも、例えばまずXやYouTubeで伝えたい内容を発信して反響を見て、それが好感触なら書籍にして広げる、みたいな流れはありだと思います。実際に僕もその順番でやってみました。
小畑:それはかなり参考になるマーケ施策ですね。ありがとうございます。