BtoBマーケで赤字を防ぐ「許容CPA」の考え方
次の事例としてご紹介したいのは、「施策ごとの基準値を定めていないために、どこまでやりきればよいのかがわからなくなってしまう」というケースです。これは、かなり「あるある」ではないでしょうか。
例えば「YouTubeをやるぞ」となった時に、「月に何本投稿すればいいのか」「1本あたりどれくらいコストをかけていいのか」「どれくらいの人的リソースを割いてよいのか」といった判断基準がないまま走り出してしまうと、「結局どこまでやればいいのかわからない」「そもそもお金を使えないし、投資もしづらい」といった状況に陥ってしまいがちです。
ここで、みなさんにぜひ考えていただきたいのが「自社の許容CPA(Cost Per Acquisition)」です。みなさん、ご自身のビジネスで、許容CPAを即答できますでしょうか? 「自社の許容CPAは○○円です」とはっきり言えますか?
例えば、これはNG例ですが、「1件あたりの粗利が100万円なので、広告費が100万円までならCPAとして許容できます」という考え方。これくらいの粗い解像度でしかCPAを捉えられていない場合は、かなり危険だと思ってください。
というのも、先ほど田中さんのパートにもあった通り、売上や利益を構成する要素にはさまざまなものがあります。初期費用や月額費用、継続率などを掛け合わせてLTV(顧客生涯価値)を算出するところまでは、多くの方が対応されているとは思います。
しかし、例えば既存顧客からの紹介によって新たな案件が生まれる、あるいは一度解約した顧客が再契約してくれるといった派生的な価値をどこまで見込むか。また、逆にコスト面で見逃されがちなのが、営業やカスタマーサクセス、インサイドセールスといった人件費です。
「YouTube広告を出稿する」といった施策を実行する際にも、制作費用や広告運用費だけでなく、受注に至るまでに発生する人件費が1件あたりいくらかかっているのかまで見えていないと、適切なCPAを算出するのは困難です。
だからこそ、売上・コスト・粗利、さらにはそれらにひもづく細かい要素までしっかり見える化することが重要です。
BtoBマーケで起きがちな“見積もりミス”による機会損失
もちろん、最初は受注に近い施策から着手することが原則にはなりますが、例えば「リードタイムが長い商材を扱っている」「成果が出るまでに半年以上かかるようなマーケ施策を予定している」といった場合、当初は見えていなかったコストが後になって浮上してくることも十分にあり得ます。
そのため、「今はまだ見えていないコストが存在するかもしれない」という視点を持ちながら、初期の施策設計をしていく必要があると思っています。
ここまで「赤字が出てしまう」「コストを見える化しないと危ない」といった話をしてきましたが、正直、これはみなさんすでに理解されていることだと思います。効果や予算を高く見積もりすぎた結果、「この施策にはこれくらいの広告費をかけてもよい」と思って実行したところ、実は赤字でしたといった事例は数多く起きています。
一方で、その逆の「見積もりが低すぎることによる機会損失」も非常に大きなリスクです。例えばLTVをしっかりと計算してみたら、実は商材の価値が想定以上に高かったというケースがあります。本当は許容CPAが2万円だったにもかかわらず、自分の中で「1万円が限界だ」と思い込んでしまっていたことで、取りうる施策の選択肢が狭まってしまう。
「このYouTubeコンテンツにもっと投資できたのに」とか、「有料のカンファレンスに出たほうが成果が出たのに」といった後悔につながることが起きかねません。
だからこそ、「赤字を出さない」という前提は当然守るべきですが、それだけでなく「低く見積もりすぎて機会損失が生まれていないか」という点にも意識を向けながら、各施策の妥当性を検討することが求められてきます。
1人マーケターで施策を回すポイント
続いて、組織面のお話に移ります。そもそも「BtoBマーケターって何をする人なのか?」という話があると思います。
60もの施策がある中で、さらに「うちの会社はマーケター1人です」という方も多いのではないでしょうか。製品の企画をして、プレスリリースも書いて、EFOもやって、UI/UXの改善にも関わって、さらに経営陣にBtoBマーケの効果を説明する必要がある……とにかく忙しい立場だと思います。

そうした中で、僕たちが提案しているのは「フリーランスのマーケターを積極的に活用する」という手段です。なぜかというと、僕自身にも得意・不得意の領域があるからです。自分の専門外のことに時間を割くよりも、その領域に強い人にお願いしたほうが、精度もスピードも上がります。まさに「餅は餅屋」という考え方です。
60個の施策すべてを、自社で、しかも1人でやりきるのは現実的に不可能です。受注に近いところから認知領域まで、すべてを網羅するのはどう考えても無理がある。だからこそ、「どこまでを自社でやるのか」「どこからは外部の力を借りるのか」をしっかりと設計していく必要があります。
今日お伝えしたいのは、大きく2つです。1つ目は、60個の施策にただ反射的に手をつけるのではなく、まずは顧客の解像度をしっかりと上げること。そして2つ目は、許容CPAを数値として正確に見える化すること。この2点をやらずして、いきなり施策を実行するのは避けるべきだと思います。
その上で、自社だけですべてをやりきるのではなく、適切に外部パートナーを活用することも選択肢に入れていただきたいです。実際に、僕が今日使っているこの資料も、図やデザインを含めてフリーランスのマーケターさんに制作をお願いしたものです。
SAKIYOMIさんのような代理店、あるいは弊社と提携しているようなフリーランスの方々の力をうまく取り入れながら、自社にとって本当に必要な施策に集中していくことが、成果につながる最短ルートだと考えています。
▼主催
株式会社Digital Arrow Partners