企業のマーケティング支援を行う株式会社Digital Arrow Partnersと株式会社SAKIYOMIの共催セミナー。今回はSAKIYOMI社の執行役員CMOで『マーケティングの全施策60』の著者・田中龍之介氏が登壇したセッションの模様をお伝えします。BtoBマーケの戦略を考える時に必要な3つの視点について語られました。
BtoBマーケの戦略を考える時に必要な3つの視点
田中龍之介氏:続いての問いは、「BtoBマーケの戦略の考え方は主に何通りあるか?」です。ぜひ、頭の中で少しイメージしてみてください。みなさんがBtoBマーケの戦略を考える時、どんな選択肢があると思いますか?
基本的には、この戦略に沿って「どこに注力するか」「どの施策から着手するか」といった優先順位を決めていきます。その考え方は、状況に応じて組み合わせるべき3つの視点から整理できます。

1つ目は、事業や経営の観点から。2つ目は、顧客やプロダクトのサービス、またその市場や業界ジャンルに基づく観点。そして3つ目が、現在のマーケ指標の数値におけるボトルネック別での視点です。この3つの視点を押さえることで、BtoBマーケの戦略設計や施策の優先順位は大きく外すことなく組み立てられると考えています。
この3つの観点が頭に入っていない状態だと、マーケティングのマネージャーや責任者、経営者が適切な意思決定を行うのは難しくなります。だからこそ、絶対にこの3つを押さえておくことが重要です。1つずつ見ていきましょう。
BtoBマーケは“受注に近い施策”から始めるのが鉄則
まず1つ目は、事業・経営的な観点です。これは非常にシンプルで、図の右側にもあるように、「受注に近い施策から順に整備していくこと」が基本です。

よくあるのが、マーケティングをゼロから立ち上げる際に、いきなりオウンドメディアを立ち上げたり、SNSアカウントを作って運用し始めたりするケースです。もちろん、どれも重要な施策ですが、優先順位の観点では、まず受注に近い領域から手をつけるべきです。
この考え方を示したのが、こちらの図です。

例えば、商談や受注に直結する施策と比べて、SEOやタクシー広告のような施策は、成果が出るまでに半年〜1年ほどの時間がかかることも珍しくありません。
こういった時間のかかる施策から始めてしまうと、「半年間マーケに取り組んだけど、これって意味があったのか?」と振り返ることも難しくなります。仮に方向性が間違っていた場合、修正するまでに時間がかかってしまうため、リスクが高くなります。だからこそ、まずは短期間で仮説検証ができる施策から着手すべきなのです。
また、施策の効果が出るまでに時間がかかるほど、成果を出す難易度は上がり再現性も低くなっていきます。例えばタクシー広告で成果を出すのは、かなり難易度が高く、再現性も低いイメージがあるのではないでしょうか。
同時に、必要な予算も大きくなります。タクシー広告をはじめ、YouTubeチャンネルの立ち上げやオウンドメディアの構築、SEOへの投資など、どれも毎月数十万円単位の予算がかかることが一般的です。
このように、受注から遠い施策ほど、成果を出すまでに時間がかかり、難易度も高く、予算もかかります。反対に、受注に近い施策ほど、短期間でPDCAを回しやすく、成果にもつなげやすいという特徴があります。そのため、マーケ施策は「受注に近いものから順に整備していく」ことが鉄則だと考えています。
よくマーケティングの文脈で「バケツの穴を塞ぎましょう」という表現がありますが、まさにここにあたります。下層の仕組みがガバガバな状態で、どれだけ上流の施策に注力しても、構造的に成果が出にくくなってしまいます。だからこそ、下から順に整備していくことが重要です。
自社と相性の良いマーケ施策を見極める方法
加えて、顧客属性や業界によって「どの戦略や施策が相性が良く、優先度が高いか」も変わってきます。ここでは、リードを増やすために一般的によく取られるマーケティング施策を4つに分類してみました。

初期接点の獲得に関しては、おおまかに4つのパターンに分かれます。一方で、初期接点を得たあとの「いかに受注につなげるか」は、どの企業でも基本的に共通です。

まずはこの構造を押さえた上で、先ほどの話にあった通り「受注に近い施策」から着手していくことが基本です。つまり、まずはどの企業にも共通する“セオリー”をしっかり実践する。その上で、自社にとって相性の良いマーケチャネルや施策を選定していくフェーズに進んでいく、という順序です。
ただし、とはいえすべての施策を一気に実行するのは、リソースや予算の観点から現実的ではありません。そこで、自社と施策との相性を見極める際に使える分岐の考え方をお伝えします。

まず1つ目の基準は、検索ボリュームの有無です。GoogleやWeb上で情報収集をしている人がどの程度いるかという観点で、メインキーワードの月間検索ボリュームが最低でも5,000件程度は欲しいところです。この検索ボリュームは、Googleの無料ツール「キーワードプランナー」で簡単に調べることができます。この「5,000件あるかどうか」が1つの分岐点になります。
狙いが「中小企業」か「エンタープライズ」かで施策は変わる
次に、狙っている顧客が中小企業かエンタープライズかという点です。この属性によって、相性の良い施策も大きく変わってきます。それを示したのが、図中の「◎」「○」「△」の評価です。この評価をもとに、各施策の相性をざっくり判断できます。
例えば、検索ボリュームがあって中小企業向けのサービスであれば、よくあるのがマーケ支援会社や、SAKIYOMIのInstagram運用代行事業もここにあたります。市場に一定の検索ボリュームがあり、Instagram運用代行をGoogleで探している企業が存在している。
また、SAKIYOMIでは月額50万円〜80万円といったパッケージで支援を行っているため、契約社数が増えれば売上も比例して伸びていくモデルです。このようなビジネスでは、「1社で1億円の売上をつくる」のではなく、「月額50万円の契約を100社、200社、300社と増やしていく」という戦い方になります。
一方で、エンタープライズ向けのサービスでは、例えば大手向けのコンサルティングが該当します。わかりやすい例としてはマッキンゼーなどですね。こうした企業では、「1社から1億円、10億円、あるいは100億円」といったスケールで案件を受けるケースもあります。
もちろん、コンサルを探している企業も存在はしますが、こうしたエンプラ向け案件はリファラル(紹介)などを通じて案件が回ってくることも多くなっています。
広告やオウンドメディアに走る前に考えるべきこと
検索ボリュームがないパターンで中小企業を狙っている場合、それは黎明期の市場であることが多いです。SAKIYOMIがInstagram運用支援事業に参入したのは6年前ですが、その当時もまさにこのパターンでした。当時は検索ボリュームもまだ小さく、市場としては黎明期の状態でした。
ただし現在は、ある程度市場も確立してきています。例えばBtoCのブランドを持つ企業であれば、「さすがにInstagramのアカウントは作らないといけないよね」といった認識が当たり前になってきており、今では「検索ボリュームがある中小企業狙い」に分類される状態へと移行しています。
一方、検索ボリュームがなくてエンタープライズを狙っている場合は、ニッチな業界のSaaS、例えば建設業界向けのバーティカルSaaSなどが該当します。
ここまでをまとめると、先ほどお伝えしたように、顧客との接点をどこで作れるかを顧客視点で捉えることが非常に重要です。この視点が欠けていると、「とりあえず広告をやってみよう」「ひとまずオウンドメディアを作ってみよう」といったアプローチになりがちですが、そうしたケースは多くの場合、失敗します。
業界の特性上、施策との相性の良し悪しは必ずあるので、ぜひこの分類表をスクリーンショットして、自社がどこに当てはまるのかを確認してみてください。全体像がつかみやすくなるはずです。
自社のボトルネックがわかる「階段設計」
そして最後、3つ目の観点はボトルネック別の施策設計です。ここでは、「数値的にパフォーマンスが悪くなっている=バケツの穴になっている部分」をしっかり塞いでいきましょうという考え方がベースになります。
本当はこのあとに「階段設計」の話をしたかったのですが、時間の都合もあるため簡単にお伝えすると、顧客のカスタマージャーニーに沿って歩留まりが悪くなっているフェーズを特定し、改善していくという考え方です。

もしご興味があれば、僕のYouTubeチャンネルや書籍でも詳しく解説していますので、そちらをご覧いただければと思います。
ちなみにSAKIYOMIでは、ブログやホワイトペーパー、YouTube、セミナーといったチャネルごとに階段設計を行っており、さらには全チャネルを統合した設計も行っています。「自社のどのフェーズにボトルネックがあるのか」を確認するために、こちらの画像をぜひスクリーンショットして、マーケチーム内で共有してみてください。
例えばこの図では、「1件の受注に必要なPV数やリード数、各段階の転換率」が示されています。

具体的には、LPに1,250PVを集めた場合、そのうち2パーセントがサービス資料をダウンロードし、さらにその20パーセントがアポにつながり、そこから20パーセントが受注に至るという設計です。
この計算でいくと、1件受注するためには、1,250PVまたはサービス資料で25件のリードが必要になるということです。こうした設計を確認していくと、実は多くの企業で「アポ率が8パーセントしかない」「受注率が12パーセント」といった明確なボトルネックが存在していることがあります。
その場合、いくらリード数を増やしても、最終的な受注につながる効率が悪く、成果が出づらい構造になってしまいます。実際、僕がBtoBマーケの支援に入る際も、「マーケティングを強化したい」というご要望からスタートしながら、最終的には営業側のアポ率や受注率がボトルネックになっているケースも少なくありません。
だからこそ、マーケ起点で営業側の成果を改善するという視点で支援を行うことが、結果として効果的なアプローチになるケースが多いです。このように、マーケチームとしてもセールスチームと連携しながら、どこがボトルネックになっているのかを見逃さずに確認していくことが、非常に重要な観点だと考えています。
3つの問いで見えてくる、自社に最適なBtoBマーケの施策順序
それでは最後、まとめに入っていければと思います。今回は駆け足でお話ししてきましたが、冒頭でもお伝えしたとおり、この資料は「BtoBマーケの施策に関する3つの問いに答えられるようになること」をテーマに構成しています。
まず1つ目の問い、「BtoBマーケの施策は全部で何個あるのか?」という点については、冒頭でもお話ししたように、僕なりに整理したところ60種類あります。
2つ目の問い、「施策の考え方や戦略、優先順位の付け方にはどんなパターンがあるのか?」については、「事業・経営的な観点」「顧客・業界別の観点」「ボトルネック別の観点」の3つの観点で整理できるとお伝えしました。
そして3つ目の問い、「今の自社マーケにおいて何が一番のネックになっているか?」については、各フェーズの数値データをもとに、歩留まりが起きている箇所や営業効率が落ちている箇所を特定することで、どこに注力すれば、どれくらい売上が伸びるのかを数値ベースで把握することができます。
なお、紹介した60個の施策については、それぞれSAKIYOMIでどのように実践したか、どんな数値データが出たのか、どんなクリエイティブや参考事例を用いたのかなど、詳細を
書籍にすべてまとめています。ご興味があれば、ぜひそちらも参考にしてみてください。
僕のパートは以上です。ありがとうございました。
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