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佐渡島庸平×安藤昭子 『問いの編集力』出版記念トークイベント(全5記事)

『ドラゴン桜』作者から学んだ、解釈の齟齬が起きない伝え方 佐渡島庸平氏が語る、世界観の違う人に説明するコツ

『問いの編集力 思考の「はじまり」を探究する』の出版を記念して開催された本イベントでは、著者であり編集工学研究所の安藤昭子氏と株式会社コルク代表の佐渡島庸平氏が登壇。本記事では、世界観の違う人に説明するコツを語ります。

不安や困難も単なる刺激でしかない

司会者:そろそろお時間なので、会場からや、今オンラインで配信を聞いている方からも、ご質問を1つ2つ募集できればと思います。会場の方は緊張されるかもしれないですけれど、手を挙げていただけると助かります。では、どうぞ。

質問者1:「不安や困難を、編集によって変えていける」ということだったんですけど。困っている時って、どうやって解決するかとか、どうやったらうまくいくかみたいな質問を自分にすると思います。その質問を変えていけるとしたら不安じゃなくなるということでしょうか。

安藤昭子氏(以下、安藤):それもあると思います。どこかで、不安や困難は解決するしかないと思っていると苦しいと思うんですよ。さっき佐渡島さんも、何かネガティブなことに出会った時に、「それって単なる刺激でしかなくて」という言い方をされていましたけど。ある刺激をもらったことによって、ふだん見えていなかったことに気がつくこともあるわけですね。

それを自分の好奇心に変えてしまうと、「なんだ、あの人ってそういう感じのことを言うんだ」みたいな。イラッとすることがあったとしても、「『そういう感じのことを言う』っていう一面があるんだ。へぇ」と思えるじゃないですか。

だれかを動かそうとか、なんなら言い負かそうみたいな、こちらの目的だけが先行するとイライラするかもしれないけれども、自分でいろんな抜け道をおもしろく設定することもできますよね。さっきちょっと「別様の可能性」という言葉を出しましたが、私たちが何かに出会っていくある場面や機会には、いろんな無数の可能性が隠れています。

私も佐渡島さんも今こうやって座って話をしていますけど、別にここで急に立ち上がって、何か演説し始めたっていいように、私たちは常にたくさんの可能性を持っているわけです。その可能性に目を向けることが、情報を編集することの1つじゃないかなと思います。

佐渡島庸平氏が漫画家との打ち合わせで伝えていること

佐渡島庸平氏(以下、佐渡島):そこに関して(『問いの編集力』の中で)気になった一文があります。「こうして私は常に何らかの事情にさらされているわけだが、世界と自分の間にあるインターフェイスが固いままだと、私がいつもの私の中にとどまったままになり、環境とのズレに追いつかなくなる」という文章があります。

「別様の可能性」という言い方は、抽象概念として取り扱っているとわかりやすいんだけれども。実際にふだんの思考実験の中というか、想像力を働かせる時だと、「あれ? 相手の事情ってどういうことだっけ?」となる。

「ムカつくな」と思っても、「相手には事情があって言っているのかもしれない」と思うと、その言葉の意味の受け取り方が急に変わります。ある種、相手自体を地図的に俯瞰して見るというのもありなんだけれども。

僕は漫画家との打ち合わせだと、「キャラの事情を読者に説明しようよ」とめっちゃ言うんですよ。事情があると共感できるし、事情がわからないと共感できないので。ここで「事情」が出てくるのも、文章の中だと事情のほうがわかりやすくて、「ああ、この言葉遣い、僕もするな」と思って共感したんですよね。

安藤:なるほどね。だいたいどんな時も、私たちは何かにがんじがらめなわけですよね。そのがんじがらめになっているものをさておいて、何かを解決しようとか、何かを作り出そうとか描こうとすると、とても苦しくなっちゃう。

だけれども、「がんじがらめの事情ごと取り扱うんだ」と決めてしまえば、いろんなことを「おもしろいな」と思うことができる。ありがとうございます。

1人で松岡正剛氏の後を継ぐのは不可能

司会者:他にもしあれば。

佐渡島:どうぞ。

質問者2:ぜひお聞きしたいのが、松岡先生のようなずば抜けたカリスマの後を継ぐ時に、安藤さんは何を問うて生きていらっしゃるのか。

安藤:いやいや(笑)。まず、1人で松岡正剛の後を継ぐのは不可能です。それはできる人はいないと思っているので、後を継ぐというか、松岡正剛がやろうとしてきたことに、何かちょっとでも感じ入る人たちが集まったり、お互いに交わしたりする機会は絶対に絶やしてはいけないと思っています。「それをするためにはどうしたらいいだろうな?」ということは、日々考えています。

それもまた1つ、普通に考えちゃうとプレッシャーとか「自分にできるかな?」というのがあるかもしれないですけど。

さっきの話のように、それも情報を編集することだと思えば、みなさんの力を借りながら、これもこれでめちゃくちゃおもしろいチャレンジじゃないかなと思っていますので、ぜひなんらか助けてください。ありがとうございます。

世界観の違う人にどうしたら伝わるか?

司会者:じゃあ、最後の人。

質問者3:僕は10年くらい広告をやっていたので、この本を読んですごく共感しました。僕はシェアハウスに住んでいるんですけど、25歳から30歳くらいの人から相談されることがあって、だいたい転職についてなんです。

特に転職で悩んでいる若者は、相手が人事部だったりすると相談しづらい。人事部の人は非常に外形的で、何を言うかより誰がいいか。さらに時短で、会社の中でコンセンサスを取りやすい人を採用する方向にあるので。

こういう話を、宗教違いの人間に話さなきゃいけないみたいな苦労をしているんですね。もしそういう宗教違いな人にぶち当たった時に、「こういう話をするとうまく伝わったな」というエピソードがあるとうれしいです。

安藤:世界観の違う人っていうことですかね?

質問者3:そうですね。非常に本質的な話じゃなくて、外形的にとらわれやすい人とか。あと、こういう中身の話ってすごくしにくいと思うんですよね。

安藤:じゃあ佐渡島さんが考えていらっしゃる間に。佐渡島さんがお得意なことだと思うんですけれども、例え話とか、さっき「見立て」とか「言い換え」というのが出てきましたけれども。あんまり世界観が違う人に対して、分解してこちらの世界観を伝えても、それはもう無理じゃないですか。

だけど、相手の方が持っている世界観の中で、「それって例えば、あなたの世界観の中で言えばこういうことですよね」ということを(伝える)。広告のお仕事をされてきた方であれば、おそらく一般の生活者の方に対してそういうことをされていたかもしれないですけれども。

やはり編集力の中でも、見立てるとか、アナロジーとかメタファーは、ものすごく大事なんですよね。その方がどれくらい強固な世界観でいらっしゃるかわからないんですけれども、さっきお話しした「エディティング・モデル」もそこに近いところです。相手が持っている編集の構造の中に入っていって、それを動かしてあげるコミュニケーションがよろしいんじゃないかと思います。

『ドラゴン桜』作者の新人漫画家への伝え方

佐渡島:同じ言葉でも、ぜんぜん違うように使っていることってすごくあって。そういう違う人とだと、たぶん言葉の定義がそろっていなかったり、「同じ言葉に違う意味を入れていますね」ということを、僕はけっこう言いますね。それで1回、「本当に同じ単語を同じ意味で使っているのかを擦り合わせません?」と言います。

この前クリエイティブ職についている友人が「企画を立てる時は深く、細く、刺すんだ」と言ったんですよ。それ自体は僕も大賛成で、みんな合議制(複数の人物の合議によって事を決定する制度)で広く取っていこうとするんだけど。

僕も『ドラゴン桜』をやっている時に、しょっちゅう見開きでイメージ図を入れていたんですが、やはり(伝えたいことを)どうやって絵にするかは重要なんですね。

『ドラゴン桜』の三田紀房さんが、新人漫画家に「企画とは針の穴を通すことなんだ。針の穴が通った後は、広い世界が待っているんだ。だから、どうやって針の穴を通すか(が大事)なんだ」と言っていました。

こういう絵になるような説明をすると、違う世界観の人もわかりやすい。「深く、細く、刺す」という伝え方だと、みんながそれぞれ好きな言葉で解釈したりとか「俺は俺なりに、深く、細く、刺している」と思っちゃったりする時があるから。やはり、わかりやすい見立てみたいなものを出せるかどうかは重要かもしれませんね。

安藤:すばらしいエピソードですね。

司会者:ありがとうございました。

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