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マッキンゼー流 クライアントの心を動かす プレゼン資料と伝え方のコツ(全5記事)

プレゼンで突っ込まれそうなポイントの事前準備法 マッキンゼー流、顧客や上司の「意思決定」を加速させる工夫

次世代の変革をリードする20~30代のハイクラス向けキャリアアップ支援サービス「MELIUS(メリウス)」のマネジメントセミナーに、元マッキンゼーで現在はMELIUS事業責任者を務める田中直道氏が登壇。プレゼン資料を成功に導く6つのポイントを解説しました。

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「優秀な人=議事録を書ける」は事実

田中直道氏(以下、田中):ピラミッドストラクチャーを使いこなせるように鍛えるためには、日々の準備が重要です。例えば、発表用の原稿を作成する際にピラミッドストラクチャーを意識して整理することが効果的です。そして、特に若手の方にとっては、議事録を活用することが最適なトレーニング方法だと思います。

マッキンゼー時代にも、議事録を通じてピラミッドストラクチャーを学ぶよう指導されました。議事録を単なる記録としてではなく、情報をピラミッド構造に整理して作成することが推奨されました。

議事録を書く能力は、それだけで優秀さを証明するわけではありませんが、優秀な人は必ず議事録を構造化して正確に書けるものです。そのため、議事録をしっかりとしたピラミッドストラクチャーで書けることは、基本的な能力として必要条件だと考えています。

また、議事録作成は「息を吸うように」自然にできるようにする必要があります。コンサルティングファームではもちろんのこと、事業会社でも同様です。

私自身、入社直後の1〜2週間は議事録を書いては添削を受けることを繰り返し、徹底的に鍛えられました。会議終了後には、関係者にすぐにストラクチャー化された議事メモを送信することが求められ、「お疲れさまでした」と言う瞬間に送信ボタンを押す運用が当たり前でした。

文字起こしだけならAIで十分対応できますが、議事録作成の本質はそこにありません。重要なのは、情報をしっかりと構造化し、議論の論点が整理されているかを意識することです。議事録を論点ベースで整理し、会議の内容が適切に構造化されていることが、より高いレベルのコミュニケーションを実現するために不可欠だと考えています。

プレゼン資料を成功に導く6つのポイント

田中:ここまで、聞き手を理解し、メッセージを明確化するプロセスについてお話ししましたが、次は資料作成について説明します。コンサルティングファームでは、PowerPointが成果物として非常に重要な役割を果たします。ここで、資料作成のポイントを6つに分けてお伝えします。

まず1つ目は、エグゼクティブサマリーを基に資料を作成することです。先ほどもお話ししましたが、エグゼクティブサマリーはアウトプットの根幹です。何が言いたいのか、そしてその主張を支える情報は何なのかを整理したうえで、それに沿って資料を構築していく必要があります。このプロセスを踏むことで、伝えたいメッセージを軸に一貫性のある資料を作成することができます。

2つ目は、Appendix(参考資料)を有効活用することです。本編に含める情報を極力絞り込み、削ぎ落とした情報をAppendixに送る、という意識を持つことが重要です。

本編にはメインメッセージに直接関連する内容のみを残し、それ以外の詳細情報や補足資料はAppendixに回すことで、資料の主軸がぶれるのを防ぎます。Appendixは「とりあえず作るもの」ではなく、意志を込めて情報を整理した結果として活用するものです。

3つ目は、1ページに1つのメッセージを盛り込むことです。PowerPointの各ページには、伝えたいメッセージを1つに絞るようにします。2つ以上のメッセージを入れると議論が発散してしまうため、1ページ1メッセージを徹底することで、資料全体の焦点を明確にします。「1チャート1メッセージ」という言葉があるように、1ページで1つの内容を伝えることを意識しましょう。

4つ目は、わかりやすい見せ方を選ぶことです。例えば、グラフを使う場合は適切な種類のグラフを選び、イラストを使う場合はメッセージを補完しやすいものを選びます。資料のビジュアル部分は、伝えたいメッセージをいかに効果的に補強できるかが重要です。

5つ目のポイントは、資料全体の一貫性を保つことです。一つひとつのページが独立して理解できることは重要ですが、それだけでは不十分です。複数のスライドを通して、一貫したストーリーや見た目の整合性が保たれているかを確認する必要があります。デザインや体裁が統一されているか、ストーリーラインが途切れずに続いているか、全体の流れを意識することが重要です。

通称「マッキンペーパー」を使った構想まとめ

田中:6つ目のポイントは、作業を始める前に全体を手書きなどで構想することです。いきなりパソコンでスライドを作成するのではなく、まずは「紙芝居」を作る感覚で、手元でページ構成を下書きすることをおすすめします。

マッキンゼー時代には、A4横書きの方眼紙、通称「マッキンペーパー」を使って構想をまとめてから作業に取り掛かることが一般的でした。この手法は、「考える時間」と「手を動かす時間」を分ける、という生産性向上の考え方と同じです。

考えずに作業を始めると、手戻りが多くなり、結果的に非効率になりがちです。まずは資料の構成をイメージし、「紙芝居」のようにストーリーラインを一枚ずつ設計してから作業を始めることで、質と生産性を同時に高めることができます。

司会者:途中ですみません。QAフォームにご質問をいただきました。6つのポイントについて、これらはすべてマストで盛り込むべきなのか、それとも参考にする程度でよいのか、というご質問です。人によってスライドの作り方は違うと思うので、そのあたりのバランスについてお聞きしたいとのことです。

田中:これらのポイントはあくまで参考にしていただくもので、必ずすべてを守る必要はありません。ただ、私自身の経験からいろいろな資料作成の要素を挙げていくと、10個、20個といった数になることもあります。その中で、実際に多くの場面で意識される公約数的なポイントを集約すると、この6つに落ち着くかなと思っています。

必須ではないですが、この6つをチェックリスト的に使っていただくと、質の高い資料作成の助けになるのではないかと思います。

顧客や上司の意思決定を早めるAppendix活用術

田中:1つ目と2つ目のポイントについて補足します。

Appendixを有効活用しましょうという話ですが、先ほどもお伝えしたように、「Appendix用の資料をたくさん作りましょう」という意味ではありません。本編に入れるメッセージをしっかりと絞り込んだ結果、そこに含まれなかったものをAppendixに入れる、という感覚で進めることが大切です。

ただし、これとは矛盾するように聞こえるかもしれませんが、あえて本編と直接関係のない情報をAppendixに入れることが有効な場合もあります。例えば、本編とは無関係に見える情報でも、説明の際に突っ込まれる可能性が高いポイントがあると想定される場合です。

このような情報をAppendixとして準備しておくことで、突っ込まれた際にスムーズに回答できるようになります。もし、本質的でない議論が紛糾してしまうと、意思決定が遅れるリスクがあります。例えば、今回のように本部長との接点が月に1回しかない場合、その場での意思決定が遅れると、1ヶ月分のビジネスが停滞してしまうことにもなりかねません。

そのため、相手が気にしそうなポイントを事前に想定し、本編とは少し外れた内容であってもAppendixに準備しておくことが重要です。これは、本質的でないように思えるかもしれませんが、意思決定を円滑に進めるためには非常に重要な準備です。

「1スライド1メッセージ」の原則

田中:さらに、3つ目のポイント「1スライド1メッセージ」についてもお話しします。

例えば、以前のマネジメントセミナーで使用した資料では、メンバーへの関与の度合いを決める際に、「任せる業務の重要度」と「メンバーのスキル」を軸として判断するというメッセージを伝えることが目的でした。

このメッセージをしっかり支えるために、各ページを構成し、1スライド1メッセージの原則に基づいて資料を作成しました。このように、メッセージを明確に伝えるための準備が資料作成の要となります。

4つ目のポイントは、「1スライド1メッセージ」を意識した際に、そのメッセージを主張するためにPowerPointの中でどのような情報を使うべきか、という話です。

ここで用いる情報の形式は自由です。テキストを使うのもよいですし、グラフや表を用いるのも効果的です。

ただし、伝えたい内容に応じて適切な表現方法を選ぶ必要があります。例えば、円グラフや棒グラフ、散布図など、それぞれに最適な使い方があります。具体的な選択肢については詳細な解説を始めると長くなるため、関連書籍などを参考にしていただければと思います。

個人的には、『外資系コンサルのスライド作成術』という本が非常に参考になりました。「外資系コンサル スライド作成」といったキーワードで検索すると、この手のTipsが豊富に見つかると思いますので、ぜひ情報をインプットしてみてください。

また、定量的な情報だけでなく、定性的な情報を見せる際にも適した形式があります。このようなスライド作成のノウハウについても、巷に多くの参考書籍があるので活用していただければと思います。

スライドを構成する3つの要素

田中:次に、スライド全体の一貫性についてです。

エグゼクティブサマリーがしっかり作成されていれば、内容面での一貫性は確保されているはずです。しかし、ここで意識すべきは見栄えの部分、つまり体裁の整合性です。体裁自体は本質的ではありませんが、メッセージを伝える際に視覚的なノイズが入ると、内容が伝わりにくくなることがあります。

そのため、体裁を整える作業は、ノイズを排除し、メッセージをより効果的に伝えるための「ゴミを取り除く」作業と考えていただければと思います。

スライドの基本構成について、3つの要素があります。1つ目は、タイトル、中身、単位、ソース情報、ページ番号など、スライドの共通フォーマットが全ページで統一されているかどうかです。これが整っていないと、資料全体の一貫性が損なわれてしまいます。

2つ目は、色使いです。色の使用は必要最小限に絞りましょう。色を使うことで受け手は「何か意味がある」と感じ取るため、特に意味がない場合は色を使わないほうが良いです。強調が必要な箇所だけに色を使い、例えば濃紺のボックスで重要なポイントを示す、といったシンプルなルールで十分です。

逆に、赤線や蛍光ペンで強調を多用すると、どれが本当に重要なのかがわからなくなります。色使いは慎重に、的確に行うべきです。

3つ目は、フォントです。フォントやフォントサイズも統一しましょう。特にフォントサイズは、小さすぎると視認性が悪くなるため、マッキンゼーでは16ポイント以上を推奨していました。12ポイント以下のフォントを使うと、読み手にとって負担が大きくなるため避けるべきです。資料作成時は、統一感を保つため、フォントやサイズの設定を意識してください。

マッキンゼー時代には、これらのルールがグローバルで徹底的に統一されていました。そのため、マネージャーがストーリーラインを作成し、「Aさん、このページを作ってください」「Bさん、この資料を作ってください」とメンバーに分担した後でも、最終的に資料を統合して違和感が出ることはほとんどありませんでした。

最後にマネージャーが全体を確認し、体裁が整っているかをこれらのポイントに基づいてチェックします。この共通ルールが全員にインストールされていることで、資料の統合後もすぐに発表できる状態を保つことが可能でした。

資料作成は「手書きで紙芝居」から始まる

田中:6つ目のポイントはこれです。

いわゆる「手書きで紙芝居を書きましょう」という話です。最も重要なのはエグゼクティブサマリーであり、この内容を説明するためにページを構成していきます。

例えば、一番左上にあるエグゼクティブサマリーを見てみます。①の項目には、「施策の背景認識として、A社の売上の42パーセントを占める500リットル以上の冷蔵庫の販売台数は減少していないものの、平均単価が年平均4パーセントで下落している」と記載されています。

このメッセージを伝えるため、マネージャーが新卒1年目のメンバーに「このメッセージを伝えるための資料を作ってください」と依頼します。私自身も1年目のころ、こういった依頼を受けて「どうやってメッセージを視覚的に伝えるスライドを作るか」を考えました。

具体的には、まず売上の42パーセントを占めるという情報を伝える必要があります。これは割合の情報なので、「棒グラフが適している」と判断し、売上全体の中で42パーセントを濃い色で強調する棒グラフを作成します。

次に、この42パーセントの内訳を示すために、「販売台数は変わらないが、平均単価が下落している」という情報を伝える必要があります。この場合、時系列での推移を示す必要があるため、棒グラフではなく折れ線グラフが適切です。このように、データの性質やメッセージに応じてグラフ形式を選び、資料を構築していきます。

ポイントは、上位のメッセージを伝えるために資料を構成することです。逆に言えば、下位の情報を見れば上位のメッセージが浮かび上がる、つまり、資料全体がピラミッドストラクチャーの形をなしているということです。この例はその典型です。

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