次世代の変革をリードする20~30代のハイクラス向けキャリアアップ支援サービス「MELIUS(メリウス)」のマネジメントセミナーに、元マッキンゼーで現在はMELIUS事業責任者を務める田中直道氏が登壇。ピラミッドストラクチャーを作る際のポイントや、ピラミッドストラクチャーの「縦方向」と「横方向」の考え方などを解説しました。
前回の記事はこちら ピラミッドストラクチャーを作る際のポイント
田中直道氏:ここまで
ピラミッドストラクチャーの基礎を説明してきましたが、このフレームワークは一番上に言いたいことを置き、それを下支えする根拠に分解していく構造です。これを作る際のポイントについて触れていきます。
具体的には、「縦方向」と「横方向」の意識が重要です。
まず、縦方向のポイントとして、階層構造が明確であることが挙げられます。サブピラミッドの要素は、必ず上位のメッセージを支える内容になっている必要があります。つまり、下位の要素が上位のメッセージをしっかりと支えるかたちに昇華されていることが重要です。
ピラミッドストラクチャーを作る際の基本は、上の主張が下の根拠によって支えられ、逆に下の根拠から上の主張が導き出せるようにすることです。この行き来がスムーズにできる状態を作ることが重要です。
次に、論理的な整理についてです。「論理整合的に」という言葉がスライドにありますが、具体的には、横方向の粒度を揃えることが挙げられます。同じレベル感の内容を並べる、並列関係を保つ、または時系列に沿って整理するなど、一定の法則性を持たせることが必要です。
また、MECE(ミーシー)という考え方に基づき、抜け漏れや重複がないように情報を整理することもポイントです。
ピラミッドストラクチャーの「縦方向」と「横方向」の考え方
では、これを実際にピラミッドストラクチャーに落とし込んだ例を見てみましょう。
一番上のメッセージとして、「より良いエネルギーへの転換が遅れると、種の滅亡が現実化する」という主張があります。これを支えるための根拠として、「2050年までに危険な気候変動の発生が確実視されている」と「2050年までに深刻なエネルギー不足に陥る可能性がある」という2つのポイントがあります。この2つがあることで、一番上のメッセージを支える構造が成り立っています。
さらに、この「危険な気候変動の発生が確実視されている」という根拠を分解すると、「気温上昇が危険水域に達する可能性がある」や「CO2の排出によって気温が上昇する」といった具体的な要素が出てきます。このように、上位のメッセージが下位の根拠によってしっかりと支えられる構造を作ることが、ピラミッドストラクチャーの基本です。
次に、このピラミッドストラクチャーを基に「何を伝えたいのか」を整理するプロセスに進みます。
スライドにある「エグゼクティブサマリー」という言葉は、いわゆる伝えたいことの骨子やストーリーラインを指します。このストラクチャーを使って最も言いたいことを一言で表現すると、「より良いエネルギーへの転換が遅れると、種の滅亡が現実化する」というメッセージになります。
このエグゼクティブサマリーが、ピラミッドストラクチャーの頂点に位置する最も重要なメッセージです。そして、そのメッセージを支えるための具体的な根拠や内容を、この構造の中に整理していくことで、伝えたいことをより効果的に相手に届けることができるようになります。
私自身も、SlackやWordでメモを取る際に、いちいち図解はしませんが、このエグゼクティブサマリーの形式で階層構造を意識して整理するようにしています。
マッキンゼーのマネージャーが「資料を作る前」に準備するもの
マッキンゼー時代で言うと、まずマネージャーが全体のストーリーラインを作成するところから始まります。
このストーリーラインを基に、各ポイントについてメンバーにタスクを割り振ります。「このメッセージを支えるために必要な情報を調べてきて」とか、「この部分をこういうかたちで説明して」といった具合です。ストーリーラインの作成は、クライアントにメッセージを伝える際の根幹となる作業です。
エグゼクティブサマリーを先に作ってから、「PowerPoint」の資料に落とし込んだり、クライアントに送るメールやメモを書く際も、このピラミッドストラクチャーを基に進めます。基本的に、すべてのアウトプットの土台となるのが、このエグゼクティブサマリー、つまりピラミッドストラクチャーをテキスト化したものです。どんな種類のコミュニケーションでも、このサマリーを作成することがポイントになります。
エグゼクティブサマリーを使った本部長への提案例
例えば、
先ほどお話しした冷蔵庫の企画のケースをエグゼクティブサマリーのかたちに落とし込んでみると、以下のようになります。
まず、黒ポチのメッセージだけを見ると、重要なポイントは次の2つです。1つ目は、「家庭用冷蔵庫市場、特に500リットル以上の冷蔵庫において、共働き世帯をターゲットに家事の軽減につながる訴求をした商品を企画するべきだ」と考えられること。
2つ目は、「具体的な打ち手については、より精緻な調査が必要であるが、現時点での仮説としていくつかの方向性が考えられる」ということです。これが全体のストーリーラインの骨子です。
では、この「家事の軽減につながる訴求をした商品を企画すべき」という主張を支える根拠について考えます。例えば、冷蔵庫の販売台数は減少していないものの、販売単価が直近で下落している、というデータがあります。
「じゃあ、この平均単価の減少を防ぐために何をすべきなのか?」という点について考えてみます。まず、冷蔵庫の購入者データを分析すると、約50パーセントが週5回以上家で夕食を食べる共働き夫婦であることがわかりました。
さらに、この50パーセントを分解してみると、購入者の85パーセントが夫婦世帯で、そのうち共働き世帯の割合は81パーセントです。この共働き夫婦の74パーセントが、週5回以上家で夕食を食べています。このように、85パーセント×81パーセント×74パーセントという形で計算すると、全体の約50パーセントが「週5回以上家で夕食を食べる共働き夫婦」であることが裏付けられます。
エグゼクティブサマリーの活用で提案を強化する
次に、「共働き夫婦にはどのようなニーズがあるのか?」を把握するためにユーザーインタビューを実施しました。その結果、共働き夫婦の約2人に1人が、「その日に作る料理に必要な食材を買い足すために、週2回以上仕事帰りにスーパーに寄る」という行動をしていることがわかりました。さらに、これが彼らにとって大きなストレスになっているという課題が浮き彫りになりました。
これらのデータを基に、「この課題を解決するためにどうするか」という提案を作成しました。具体的には、共働き夫婦の負担を軽減するような商品企画やサービスを設計し、家事の効率化を支援する方向性を示しています。
こうしたストーリーは、今回の本部長への説明の骨子となりました。
今回は結論ファーストの王道スタイルを採用し、まず「単価の下落が問題である」という前提をしっかりとインプットしました。
また、本部長が着任したばかりで情報が十分に整理されていない可能性を考慮し、共通認識を醸成するために、データやサーベイ結果を基にした基盤情報を伝えました。最後に、ユーザーインタビューの結果を提示し、顧客の具体的なニーズや課題に基づいた提案を組み込むことで、議論の土台を強化しました。
このミーティングの目的は、打ち手の方向性に関する仮説を共有し、それに対して意見をもらうことでした。そのため、エグゼクティブサマリーの中でも2つ目のポイントである「具体的な打ち手」に関して、現時点での仮説を提示しました。例えば、「スマホ連携可能なAI搭載冷蔵庫によって家事効率を高める施策を進めるべきではないか」という方向性を示し、これに対するフィードバックを得ることを目指しています。