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マッキンゼー流 クライアントの心を動かす プレゼン資料と伝え方のコツ(全5記事)

どんなに説明しても話が伝わらない“マトリョーシカ現象”とは? マッキンゼー流、メッセージが明確になる構造的アプローチ

次世代の変革をリードする20~30代のハイクラス向けキャリアアップ支援サービス「MELIUS(メリウス)」のマネジメントセミナーに、元マッキンゼーで現在はMELIUS事業責任者を務める田中直道氏が登壇。コンサル会社の新人が最初に学ぶ必須のフレームワークや、明確なメッセージを作るために必要な考え方などを語りました。

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コンサル会社の新人が最初に学ぶ必須のフレームワーク

田中直道氏:ここまでで「聞き手理解」のプロセスが完了しました。次のステップでは、「誰に何を伝えるのか」、つまり伝える内容(What)の部分を考えていきます。この段階では、「意味合い出し」と「ストーリーライニング」が重要です。どういったメッセージを伝えるのかを具体化し、それをストーリーとして組み立てていきます。

私が前職のマッキンゼーにいた際にも、「わかりやすく、シャープに、そしてアクショナブルに」という基準がよく求められていました。わかりやすいだけでなく、具体性を持ち、それが行動に結びつく内容であることが重要です。この視点を意識しながら、ストーリーライニングを行っていきます。

さらに、ストーリーを組み立てる際には「ピラミッドストラクチャー」を活用します。このピラミッドストラクチャーは、コンサルティングファームでは最初の研修で叩き込まれるほど重要なフレームワークです。

石のピラミッドをイメージしながら、伝えたいことを頂点に置き、それを支える根拠や情報をその下に配置する階層構造で話を整理します。この方法によって、伝えたいメッセージが論理的かつ明確に伝わるようになります。

ピラミッドストラクチャーについては後ほど具体例でも触れますが、これはプレゼンやスピーチのような場面だけに限らず、メールの文章や議事録など、あらゆるコミュニケーションにおいて意識すべき考え方です。マッキンゼー時代には、これを常に意識して使うよう求められていました。

ただし、このフレームワークはコンサルティングファームに限ったものではありません。どんなシチュエーションでも有効な、いわば「王道」のコミュニケーションスタイルです。パソコンで例えるなら、OS(オペレーティングシステム)のような役割を果たしていると言えます。つまり、共通の思想としてインストールされていることで、相互のコミュニケーションが円滑になるという大きなメリットがあります。

どんなに説明しても自分の話が伝わらない“マトリョーシカ現象”

ピラミッドストラクチャーのポイントとして、右側の図に示されている濃い青色の部分を見てください。一番上に配置されるのが、最も伝えたいメッセージです。その下に、このメッセージを支える根拠や情報を並べていくという構造になっています。

さらに細かい点ですが、この根拠を下支えする要素は、最低でも2つ以上に分解されている必要があります。例えば、1つの根拠だけで支えられている場合、それは実質的に同じことを繰り返しているだけであり、十分に分解できていないと言えます。複数の根拠を持つことで、主張がより説得力を持つようになるのです。

よくある問題として、上位のメッセージに対して、その下が1つの根拠でしか支えられていない場合があります。これを、当時のマッキンゼーでは“マトリョーシカ現象”と呼んでいました。

これは、主張を掘り下げようとすると、また同じ主張が出てくるだけで中身が変わらない、という状況を指します。このような構造は何の意味も持たないため、根拠は必ず2つ以上に分解することを意識する必要があります。これが、ピラミッドストラクチャーを使う際の基本的な作法の1つです。

明確なメッセージを作るために必要な考え方

ピラミッドストラクチャーは目的そのものではなく、あくまで相手に物事を伝えやすくするための手段です。最終的な目的は、相手に明確なメッセージを届けることにあります。

そこで、「明確なメッセージ」と「明確でないメッセージ」の違いをイメージしていただくため、1つのメール文例を用意しました。この例では、ロンドン出張に関連する連絡がテーマです。

まず、左側の文章を見てみてください。この文面では、ロンドン出張に向けてフライトを予約したプロセスが、ボトムアップの形式でダラダラと書かれています。「ホテルを探したが予約が取れなかった」「大きなイベントがあるためどこも空いていない」など、この人が何をしてきたのかという事実は並んでいますが、結論が何なのかが明確ではありません。

一方、右側の文面では、同じ情報が整理され、シンプルかつ明確なメッセージにまとめられています。「ロンドン出張は火曜の朝のフライトで対応してください。その日程で会議に問題なく出席でき、ホテルも確保済みです。また、前日の月曜日は結婚記念日とのことですので、素敵な時間をお過ごしください。」と、簡潔で伝えたいポイントが一目でわかります。

このように、明確でないメッセージは、受け手に余計な負担をかける一方、明確なメッセージはストレートに伝わり、効率的です。明確なメッセージを作り上げる手段として活用されるのが、このピラミッドストラクチャーです。

実戦でのピラミッドストラクチャーの使い方

それでは、このフレームワークをどのように使って整理するかについて説明します。

例えば、先ほどのロンドン出張に関する例で考えてみます。もし、右側のように明確なメッセージをすぐに出せるのであれば、ピラミッドストラクチャーを意識して考える必要はありません。

ただし、頭の中を整理するエクササイズとしてこの方法を取り入れると、より論理的でわかりやすいメッセージが作りやすくなります。今回の例では、「ロンドン出張に向けて火曜の朝のフライトで飛んでください」というのが一番伝えたいメッセージです。

その下支えとして、具体的な根拠をいくつか挙げていきます。「火曜の朝のフライトであれば会議には間に合います」「その日程中のホテルも確保済みです」、そして「前日の月曜日は結婚記念日なので、その後ご家族との時間を過ごしつつフライトに備えられます」といった内容です。

このように、まず伝えたいメッセージを頂点に置き、それを支える根拠を順に組み立てていきます。上司への報告時には、「ロンドン出張ですが火曜の朝のフライトで飛んでください」と結論から伝えた後、根拠として「その日程であれば会議に間に合う」「ホテルも押さえられている」「結婚記念日も考慮されている」ことを順に補足していくことで、わかりやすく構造的な説明が可能になります。

この方法を使うと、どんなメッセージでも論理的に整理できます。頭の中のエクササイズとして、このピラミッドストラクチャーを取り入れることで、より明確な文章や話し方を実現できます。

ピラミッドストラクチャーを身につけるための意識的な訓練

私も新卒でマッキンゼーに入社した当時、どんなコミュニケーションでもこのフレームワークを意識していました。図に書き起こす必要はありませんが、例えば横書きのメモに「ロンドン出張ですが火曜の朝のフライトで飛んでください」と結論を書き、その下にサブポイントを箇条書きで分解していく、といったかたちで整理していました。

書き方は自由ですが、フレームワークを意識して組み立てることが重要です。これは意識的に使わないと、なかなか自然には身につかないものです。

よほどの天才でもない限り、いきなりピラミッドストラクチャーを完璧に使いこなして話すのは難しいです。特に、これまでボトムアップ型のコミュニケーションを続けてきた方が、20年、30年の習慣を変えようとすると、相当な違和感を覚えるかもしれません。それくらい、意識的に大きくスタイルを変える必要があります。

先ほども触れましたが、私自身もプレゼンやディスカッションの際には手元にメモを用意し、この階層構造に基づいて話を進めるようにしていました。現在のようなオンライン会議では、WordやSlackのメモ機能を活用して、この構造に整理した内容を準備し、そこから話を進めることもあります。

もちろん、ある程度慣れてくると、準備しなくても自然とこのスタイルで話せるようになります。ただし、気を抜くと、以前のようにボトムアップで話してしまうことがあります。私自身、学生時代や普段のカジュアルな会話ではピラミッドストラクチャーを意識することはありませんでした。そのため、意識しないと元に戻りやすく、意図的に自分に「コルセット」をはめるような感覚で訓練していました。

このピラミッドストラクチャーを使う目的は、先ほども述べたように「明確にメッセージを伝えること」です。なぜ明確なメッセージが必要なのかをあらためて考えると、大きく2つの理由が挙げられます。

1つ目は、コミュニケーションを円滑にすることです。チームで動く際、相手をイライラさせないように、スムーズに物事を伝えるためには、明確なメッセージが欠かせません。2つ目は、自分自身の考えが整理され、スタンスが明確になることです。この構造で話すと、自分が何を伝えたいのかを自然と考えるようになり、思考がクリアになります。

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