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マッキンゼー流問題解決の技術 「仮説」と「打ち手」の作り方(全3記事)

プロジェクトをスムーズに進めるマネージャーの「課題ツリー」活用術 マッキンゼー流、理論と実践のギャップを埋める3つのポイント

次世代の変革をリードする20~30代のハイクラス向けキャリアアップ支援サービス「MELIUS(メリウス)」のマネジメントセミナーに、元マッキンゼーで現在はMELIUS事業責任者を務める田中直道氏が登壇。理論と実践のギャップを埋める3つのポイントを解説しました。

前回の記事はこちら

理論と実践のギャップを埋める3つのポイント

田中直道氏:ここまでは座学的な部分で、課題のインパクトやフィージビリティを簡単に計算でき、自分の感覚で評価しやすい内容でした。これは、みなさん自身が「自分がどう貯金するか?」という身近なテーマだったため、実現性を想像しやすかったからです。しかし、先ほども触れたように、ビジネスの場面でも同様のアプローチを取ります。

ただし、理論と実践にはいくつかの違いがあり、それを認識しておくことが重要です。この違いを理解しておけば、実際に取り組む際に混乱することなく対応できると思いますので、このタイミングで少しお話しします。

ここで挙げたいのが、大きく3つのポイントです。

まず1つ目は、「課題ツリーの分解を途中で止める」という点です。ビジネスの現場では、課題を最後まで細かく分解することはあまりありません。

2つ目のポイントは、「インパクトとフィージビリティを切り分けて考える」ことです。理論的にはこれを分けて進めることが理想とされていますが、実際には頭の中で行ったり来たりしながら考えることが多いです。

例えば、インパクトを考える際には「Maxを意識しましょう」と言いましたが、現実的には「さすがにこれはないよね」といった要素を排除しながら計算することになります。つまり、最初からフィージビリティをある程度考慮したインパクト計算が行われているのが実情です。

3つ目のポイントは、「期待値順で優先順位を決めるだけでは不十分」という点です。先ほどは期待値順に並べた課題を上から順に取り組む例を示しましたが、これは「高いインパクトで高いフィージビリティを持つ課題」が自然と上位に来るという前提に基づいています。しかし、現実ではこれだけでは最適な判断とは限りません。

例えば、「高いインパクトを持ちながら、現時点ではフィージビリティが低い課題」について考えてみましょう。このような課題は一見すると優先度が低く見えますが、プロジェクトを進める中でフィージビリティを高めることができれば、優先順位が大きく変わる可能性があります。例えば、フィージビリティが2倍になれば期待値も2倍になる、というケースです。

このように、期待値順だけにとらわれず、フィージビリティを上げられる可能性がある課題にも目を向けて進めていくことが重要です。この視点を持ちながらプロジェクトを進めることで、より柔軟かつ効果的な課題解決が可能になります。

課題ツリーの作成にかかる時間の目安

ここから、それぞれのポイントについて詳しく説明していきますが、現時点で少し補足しておきます。

1つ目の「課題ツリーの分解を途中で止める」という点についてです。スライドでは「やめる」と表記されていますが、これは課題ツリーやイシューツリーを作成する際、あまり時間をかけすぎないことが大切だというメッセージです。目安としては、最初の段階で2、3日程度で書き上げるのが理想です。

実務では、コンサルティングワークに慣れてくると、プロジェクトのキックオフミーティングの段階で、ある程度完成されたツリーが用意できるのが理想的な状態です。慣れれば半日や数時間程度でざっくりとしたツリーが書けるようになりますが、初日の段階でツリーが完成し、さらに優先順位づけもざっくりと済んでいる状況がベストです。

この状態で、「この課題は〇〇さんが検証してください」「この課題は〇〇さんが担当してください」といった具合に、具体的な検証作業を各メンバーに割り振ることができれば、非常にスムーズなマネジメントになります。

もしツリーの作成ができていない場合は、インパクトとフィージビリティをざっくり算出しながら、メンバーとディスカッションしつつツリーを仕上げていくのが良いでしょう。この優先順位づけまで含めてマネージャーが「えいや」で進められると、プロジェクトをロケットスタートさせることができます。

ツリーを作成しながら優先順位をざっくりとつけていく

では、1つ目の「課題ツリーの分解」について、もう少し詳しく説明します。課題ツリーは途中で分解を止めることが多いですが、理論的には網羅的に考えることが重要です。スライドにある点線で囲まれた部分なども含め、最初の段階では可能な限り網羅的に洗い出してみることをおすすめします。

実際に課題ツリーを書いている途中で、「これはないだろう」と判断できる項目が出てくることがあります。例えば、「転職して給料を上げることができないか?」という課題ですが、そもそも転職を全く考えていないという前提がある場合は、最初から除外することになります。

また、「その他の突発的な収入を得られないか」という項目も、「現実的にありえない」とわかっている場合はスパッと切り捨てます。さらに、「購入するものの単価を下げられないか」についても、「個人のポリシーとしてそれは避けたい」と考える場合は除外する、という具合です。

このように、ツリーを作成しながら優先順位をざっくりとつけていくのが実際のプロジェクトでの進め方です。

例えば、クライアントの都合で絶対に実行できない項目がある場合も同様です。技術的な制約や、利益相反の問題、職業倫理など、プロジェクトにはさまざまなルールがあります。そうした理由で「これは実現不可能だ」と判断できるものは、初期段階でバッサリ切り捨てます。

実現性は低いが得られる効果が高い課題に注目する

次に、「実現可能性(フィージビリティ)を最初からある程度考慮する」という視点について説明します。例えば、「既存の会社以外で働けないか?」という課題を考えた場合、Maxを意識すると「平日に3~4時間バイトが可能で、1ヶ月で時給1,000円×20日で8万円程度稼げる」という計算ができます。

しかし、実際には現在の仕事の都合上、週1回程度しか働けないなどの制約があるかもしれません。この場合、最初のインパクト計算時にフィージビリティもある程度考慮する必要があります。

ただし、フィージビリティを意識しすぎると「本当にそれは実現不可能なのか?」という視点が抜け落ちるリスクがあります。一方で、Maxを馬鹿正直に意識してインパクト計算をすると、後になって「やっぱり実現性が低いから確率を半分にしよう」といった調整が必要になり、期待値や優先順位が変動してしまう問題もあります。

そのため、確度高くフィージビリティが見込める場合は、初期段階でこれを織り込んで計算していくのが実務的な進め方です。

最後の3つ目のポイントについてお話しします。基本的には「高いインパクトで高いフィージビリティのもの」を優先的に考えるべきですが、先ほども触れたように「高いインパクトでフィージビリティが低いもの」にも注目し、そのフィージビリティを高める余地がないか検討することが重要です。

今回のケースでは、課題を「フィージビリティが高いもの」「インパクトが高いもの」にマッピングしました。その結果、「宝くじに当たらないのか」や「転職して給料を上げることができないか?」といった項目は非常に大きなインパクトを持つことがわかりました。

例えば「宝くじに当たらないのか」は、現実的にはフィージビリティを高めるのが難しいですが、「転職して給料を上げることができないか?」については長期的に可能性があると考えられる場合があります。その場合、転職のタイミングを前倒しするなど、フィージビリティを高める工夫をすることで優先順位を上げることができるかもしれません。

このように、フィージビリティが低いからといって除外するのではなく、インパクトが高いものについては「どうすれば実現できるか」を考える姿勢が重要です。

理論を実務で活用するために必要な違いを理解する

本日のセミナーでは、主に2つのポイントについてお伝えしました。

1つ目は「課題の優先順位づけをしっかり行うこと」です。打ち手を考える前に、まずは課題のインパクトとフィージビリティの2つの基準に基づいて優先順位を決めることが必要です。

インパクトは課題を解決した際に得られる効果の大きさを意味し、フィージビリティはその課題が実現可能かどうかの判断基準となります。この2つの基準を基に課題を整理し、優先順位を明確にすることで効率的にプロジェクトを進めることができます。

2つ目のポイントは「理論と実践の違いを理解すること」です。この違いにはいくつかの重要な要素があります。例えば、イシューツリーの分解について、理論上は網羅的に行うことが推奨されますが、実際には明らかに実現が難しい項目は分解せず省略することが一般的です。

また、計算の初期段階でフィージビリティを織り込むことも、実践の場では重要です。これにより、後々の調整を減らし、スムーズな優先順位づけが可能になります。

さらに、インパクトが高いもののフィージビリティが低い項目についても検討を続けることで、期待値を上げる余地を見出すことができます。このようなアプローチが、理論と実践のギャップを埋める鍵となります。

後半は少し駆け足になりましたが、本日のセミナーでお伝えした内容を、ぜひ日々の業務やプロジェクトの中で活かしていただければと思います。ありがとうございました。

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