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「確率思考」で未来を見通す 事業を成功に導く意思決定 ~エビデンス・ベースド・マーケティング思考の調査分析で事業に有効な予測手法とは~(全5記事)

日本の大企業のマーケティング検証は「ざる」状態 成果と堅実な成長を実現するマーケティングとは?

ビジネス領域に特化した、コンサルタントと依頼者のマッチングサービスを提供する「ビザスク」。そのビザスク主催のセミナーに、『その決定に根拠はありますか? 確率思考でビジネスの成果を確実化するエビデンス・ベースド・マーケティング』の著者で、株式会社秤・代表の小川貴史氏が登壇。新規事業やスタートアップにおける売上予測の有効な手法や、時系列MMMの活用に必要なサンプル数の目安などを解説しました。

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新規事業やスタートアップにおける売上予測の有効な手法

司会者:これよりQ&Aの時間に移りたいと思います。今回も事前に多数のご質問をいただいておりますので、まずはこちらから小川さまにおうかがいしたいと思います。

まず1つ目のご質問です。「新規事業やスタートアップにおける売上予測の有効な手法について教えてほしい」という内容をいただいております。小川さま、いかがでしょうか?

小川貴史氏(以下、小川):今日お話しした内容とも関連しますが、詳細についてはぜひ資料をご覧いただければと思います。簡単にお伝えしますと、Forecastモデルの応用例としてテーマパークの事例を挙げましたが、これは主要なブランドを対象としています。

例えば、新規事業でテーマパーク市場に参入する場合、『確率思考の戦略論』で紹介されているガンマ・ポアソン・リーセンシー・モデルを活用することで、主要ブランドの市場浸透率やMを把握できます。さらに、消費者調査MMMを組み合わせることで、広告やマーケティング施策の効果を1年スパンという大まかな粒度で予測することが可能です。

ただし、1日単位の詳細な予測については、私のスコープではありません。そういった領域では、機械学習やブラックボックス的なモデルを使い、多様なデータを探索的に組み合わせた手法が適していると思います。

私が取り組んでいるのは、マーケティング計画をざっくりと立てるためのモデルです。具体的には、1年スパンでの予測を立て、そこから計画を調整していくというアプローチになります。本日お伝えした内容について、少し説明が不足していた部分もあったかもしれませんが、Forecastモデルの作り方に関する部分はぜひ参考にしていただければと思います。

時系列MMMの活用に必要なサンプル数の目安

司会者:続いて、消費者調査MMMについてのご質問をいただいております。「投資効果を検証する際、テレビCMなど1億円以上の投資が対象との話があったと思いますが、YouTube広告など数百万円レベルの投資効果を見るには、どのような手段がありますでしょうか」というご質問です。

小川:どこかで私が誤解を招くような表現をしてしまったかもしれません。消費者調査MMMが1億円以上の施策に限定されているわけではありません。ただ、1億円という数字に言及したのは、以前お話しした「月商を1年で1億円に伸ばしたブランド」の話でして、その際に消費者調査MMMを競合ブランドを対象に実施したという文脈で触れたものです。私の説明が不十分だった点、お詫び申し上げます。

話を戻しますが、消費者調査MMMには確かに一定のハードルがあります。調査を行う際、対象ブランドを購入したり、接触したりしているサンプルが十分に得られないと、精度の高い分析は難しいです。例えば、6万人規模の調査で世代別にデータを取得するなど、大規模なデータ収集が必要になります。

一方、YouTube広告のような数百万円規模の施策については、時系列MMMが適しています。例えば、町中華のような小規模事業でもMMMは可能です。日々の来客数が一定のばらつきを持っている場合、日別のチラシ配布枚数やYouTube広告の再生数を変数として加え、それが売上にどのように影響しているかを分析できます。日別のデータがあれば、規模の小さな投資でも時系列MMMを活用できるのです。

実際、私が過去に手掛けた事例として、地方の特定エリアで年間広告費1,000万円規模の企業の売上効果を推定したところ、予測精度が90パーセントを超えるモデルを構築できました。このように、金額の大小ではなく、利用可能なデータの質や量が重要です。

要は、消費者調査MMMは対象サンプルの確保がハードルとなる一方で、時系列MMMは日別データさえあれば、金額規模にかかわらず幅広く適用可能です。ただし、1日の取引数が極端に少ない場合は、統計的な有意性が確保できないこともありますので、ざっくり1日50件程度のデータが目安になります。

また、私自身、時系列MMMの活用を広めるためのプロジェクトに注力しています。コンサルティングとして受託するとコストが高額になるため、むしろ多くの方に学んでいただけるよう、書籍や無料の高機能ソフトを通じて情報を共有しています。

時系列MMMは非常に間口が広いので、みなさんもぜひ活用してみてください。詳細については書籍にも具体的な方法を記載していますので、ご参考いただければと思います。

ユーザー数が多いビジネスほど数理モデルが使いやすい

司会者:続いてのご質問です。BtoB領域での調査分析について、多くのご質問をいただいております。「BtoBとBtoCの調査分析の相違点や、それぞれで特に力を入れるべき部分はどこでしょうか」というご質問です。

小川:このテーマについてお答えする際、文系的な答えだとどうしても曖昧になりがちで、実践的な役に立つ回答にならない場合があります。そこで今回は理系的な観点からお話しさせていただきます。

まず、BtoBというカテゴリー自体が非常に広く曖昧です。例えば、平均契約単価が1億円で年間100台を販売して100億円のビジネスを展開している企業もあれば、1ユーザーあたり月額500円程度のサービスを提供しているようなBtoBビジネスもあります。こうした違いを前提に、分析のしやすさという観点では、利用ユーザー数が多い後者のビジネスのほうが圧倒的に有利です。

データの量が多ければ多いほど、その変化を数理モデルで捉えやすくなるため、数が分析の鍵を握ります。同じBtoBでも、利用ユーザー数が多いビジネスほど、時系列MMMや消費者調査MMMのような数理モデルの活用が容易いと言えます。

具体例を挙げますと、最近私が関わった業務用機器を扱う年商1,000億円超の企業のケースがあります。この企業では、業務用機器をマーケティングしたいというニーズがあり、対象となる消費者層が消費者調査でヒットするかどうか、ギリギリのラインにあるジャンルでした。

そうした状況では、まず簡単な模擬調査(PoC)を行い、その結果を基に「このレベルの分析であれば可能です」というかたちでフィードバックを行い、本格的な分析に進むことが可能です。

一方で、BtoBとBtoCの違いについて、質問者の方が想定されている具体的なビジネスやジャンルに基づいたご質問であれば、さらに深掘りした文系的な答えもお伝えできると思います。ただ、今回のご質問の範囲内では、理系的な答えとして「データの量と質が分析可能性を左右する」という点をお伝えしたいと思います。

以上が私の回答になります。必要に応じて、さらに具体的な事例についてお話しする機会があれば幸いです。

新規事業の分析に必要なデータ収集期間

司会者:それでは、本日いただいたご質問の中から、さらにご紹介させていただきます。「新しい製品カテゴリーで市場規模が小さい場合にMMMは適用できるのでしょうか?」というご質問をいただいております。こちらはいかがでしょうか?

小川:このご質問については、基本的に「可能です」とお答えします。まず、消費者調査MMMはまだ私がやり始めた比較的新しい手法なので、あまり一般的ではありません。一方、時系列MMMについては、ラーメン屋さんでも使えるくらいに汎用性が高いです。

ただし、いくつかの条件が関係してきます。特に重要なのは分析期間です。理想を言えば、2年分くらいのデータがあると精度が高まりますが、新規事業の場合、現実的には最低でも6ヶ月分のデータが必要です。例えば、日別データを収集できれば、6ヶ月で180日分のサンプルが得られます。これは1つの目安になります。

また、季節ごとの影響が大きい場合、それをモデルに組み込むためのデータも重要です。どのような施策が季節要因に影響するかを考慮する必要があります。

さらに、直接的な購買データが少ない場合でも、指名検索数のような間接的なKPIを活用することが可能です。事前に指名検索が重要な指標であると判明していれば、その指名検索を増やすための施策が何か、時系列MMMを使って検討することができます。

結論として、市場規模が小さくても、分析の対象となるデータが一定の条件を満たしていればMMMは十分適用可能です。ぜひ検討してみてください。

大企業の多くがマーケティング検証を行っていないという実態

司会者:続いてのご質問を読み上げさせていただきます。「ターゲットとカテゴリーエントリーポイントの構造が明らかになった後で、どこを伸ばすのかはどう決めていくのですか? 何を指標に方針を決めていますか?」とご質問いただいております。

小川:この質問は本当に重要ですよね。今、僕が関わったいくつかのプロジェクトが頭をよぎったんですけど、大まかに秤がこれまで手掛けてきた仕事を振り返ってみると、非常に大規模な新規事業のケースが多いです。

例えば、昨年取り組んだある新規事業では、最終的な承認が下りれば会社が複数設立される規模感でした。ただ、こうしたリアルな事例において、実行フェーズまで一貫して携わったことがまだ少ないのが現状です。これまでの経験で多いのは、やはりプロモーションフェーズに入った後の実績をもとに、成長を支援していくというパターンです。

その中で私が強調したいのは、「ニッチなお宝」を探すことに固執しないということです。多くの企業は、今までにないユニークなカテゴリーエントリーポイント(CEPs)を見つけようとしますが、現実的にはそんな「お宝」はほぼ存在しないと考えています。

むしろ、普遍的なCEPsの中でも、競合がその真の効果を正確に理解していない場合が多いんです。例えば、ある競合ブランドがROI 105パーセントの施策を「なんとなく効いている」と思い込んで実行している一方で、実際にはROIが200パーセントに達しているようなケースもあります。我々のブランドは、その効果を正確に把握し、それに集中することで勝つことが可能です。

正直なところ、日本の多くの大企業で、マーケティング効果の正確な検証がきちんと行われている例をほとんど見たことがありません。それができているだけで、差をつけることができます。

ですので、新規事業においても、無理に「新しい宝」を探すよりも、普遍的なCEPsやその応用施策を効果的に活用することをおすすめします。それだけで、例えば、月商500万円の事業を1億円に成長させることが可能です。この点については、私自身の実績に基づいた確信があります。

ということで、少し長くなりましたが、回答とさせていただきます。普遍的な施策を基にした成長戦略が、最も確実でおすすめです。よろしくお願いします。

成果と堅実な成長を実現するマーケティング

司会者:続いてのご質問を読み上げさせていただきます。「新規参入ではなくて、ある程度規模のある既存ブランド、2位・3位ブランドを伸ばすためにどのように活かすイメージでしょうか」とご質問いただいております。

小川:このようなご質問をいただけるのが非常にありがたいです。時間の関係で簡潔にお話ししますが、この質問については、実は先ほどお答えした内容とかなり近いものになります。

私が関わったブランドでも、2位・3位のポジションにいるブランドを対象にしたプロジェクトがいくつかあります。こういったブランドは、すでに一定の規模があるため、マーケティング施策の予算規模も大きいことが多いんです。

例えば年間10億円規模の予算を投下している企業でも、実際にはマーケティングの検証が十分に行われておらず、「ざる」と言えるような状態のケースが驚くほど多いのが現状です。

ここで活用するのが、数理モデルを徹底的に導入する方法です。例えばSNSマーケティングでも、プラットフォームやブランドカテゴリーによってROIの差が非常に大きく出ます。極端な例ですが、「このSNSはROIが低く、リソースを割く必要はない。一方で、別のSNSではテレビCMの3倍以上のROIが出ている。まだ成長の余地がある」といった結果が出ることもあります。

こういったデータをもとに、適切なプラットフォームや施策に集中するだけで、2位・3位ブランドでも成長が十分に見込めます。もちろん、これだけでトップシェアに追いつけるかは別問題ですが、少なくとも堅実な成長を遂げることは可能です。

私自身、この方法論を用いたプロジェクトで複数の成功事例を経験しています。特に、マーケティングの徹底的な検証を行うことで得られる成果には確信を持っています。

したがって、まずはプロモーション施策をしっかり検証し、最適化することから始めることを強くお勧めします。それだけでも、ブランドの成長には十分貢献できるはずです。

差をどう補正するかが分析の肝

司会者:では、最後のご質問をさせていただきます。「数理モデルを作った後に、実際の市場のブランド別売上と比較しますか? 比較した際に差が出たりしないのでしょうか?」。

小川:差は大きく出ます。そして、その差を補正する技術に命をかけていると言っても過言ではありません。むしろ、差が出ることを前提に、それをどう解消するかが分析の肝なんです。

分析に使用するアルゴリズムによって結果は大きく変わります。例えば、消費者調査MMMを用いると、テレビCMの効果が非常に大きく見える傾向があります。一方、時系列MMMでは、リスティング広告などの即効性のある施策が強く効いてくるといった傾向が明確に異なります。

これはアルゴリズムの特性によるものであり、「最適解」が一発で出る分析手法なんて存在しないと思っています。だからこそ、複数のアプローチを試し、それらの結果を突き合わせて「なぜ違うのか」を深掘りし、意思決定を行う必要があります。こうした考え方なしには、数理モデルを活用する意味が薄れてしまいます。

現実的には、時系列MMMをベースにすることで、大きなリスクを回避しやすくなりますが、認知系施策については消費者調査MMMをサブ的に活用することも効果的です。要するに、最適解は1つではなく、分析を進めながら仮説を補強していくプロセスが重要です。

少し厳しいことを言ったかもしれませんが、それがリアルな現場です。このようなチャレンジを繰り返すことで、大きな成功をつかめると思っています。

司会者:ありがとうございます。大変多くのご質問をいただいている中、恐縮ではございますが、時間の都合上、Q&Aは以上とさせていただきます。本当に多数のご質問をいただき、誠にありがとうございました。

小川:ありがとうございました。

司会者:それでは、小川さま、ご参加者のみなさまに最後に一言いただけますでしょうか。

小川:やはり、みなさんご自身で分析を実践されることを強くおすすめします。自分で手を動かしてみることで、得られる学びや成果は本当に大きいです。本日はありがとうございました。

司会者:ありがとうございました。それでは、以上をもちまして、本日のセミナーを終了とさせていただきます。最後までご視聴いただき、ありがとうございました。

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