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「確率思考」で未来を見通す 事業を成功に導く意思決定 ~エビデンス・ベースド・マーケティング思考の調査分析で事業に有効な予測手法とは~(全5記事)

新規事業の「大きなポテンシャル」を見極める調査法 市場攻略のカギは“潜在需要の定量化”

ビジネス領域に特化した、コンサルタントと依頼者のマッチングサービスを提供する「ビザスク」。そのビザスク主催のセミナーに、『その決定に根拠はありますか? 確率思考でビジネスの成果を確実化するエビデンス・ベースド・マーケティング』の著者で、株式会社秤・代表の小川貴史氏が登壇。新サービスの利用意向がある人を抽出する方法や、Forecastを活用した施策効果の最大化などを解説しました。

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小川氏が実際に使用する分析法

小川貴史氏:ここからは、森岡毅さんらが教えてくれた数式を活用して市場を構造的に把握する基本的なアプローチをさらに一歩進め、実際に私が使用している方法をご紹介します。この方法では、主要ブランドなどのテレビCM施策の効果を具体的な数値、例えば「何億円」といったかたちで構造的に把握します。

ブランド名については、諸般の配慮から具体的には明かしていません。ただし、先ほど列挙した6つのエナジードリンクブランドに該当するものです。

次に、この分析のダッシュボードについてご説明します。これは、メジャーなエナジードリンクブランドの6つを対象としたダッシュボードで、私がよく利用している「Power BI」を活用しています。このダッシュボードの中で最もシンプルによく使われるのがこの画面です。



「スライサー」と呼ばれるPower BIの機能を使うことで、例えばチェックボックスをコントロールキーを押しながら選択すると、ターゲットを絞った分析が可能になります。



このダッシュボードはWeb上で公開されており、みなさんにも触っていただけるようにしています。

例えば、ターゲットを女性(F10~F60)に絞り込むと、その層に特化した分析結果を見ることができます。また、施策についても「テレビCM」や「テレビ番組」を選択し、コントロールキーを押しながら複数の施策を組み合わせることが可能です。このようにして、「テレビCM」と「テレビ番組」の合算効果も確認できます。

業界による広告効果の違い

ここでは、まず「テレビCM」の分析結果をシンプルに見てみましょう。テレビCMの接触率は合算されたF10~F60(女性全体)で41.47パーセントとなっています。この接触率の中で「要因リフト率」という指標があり、青い棒グラフで示されています。

このリフト率は、それぞれの販路における接触人数のうち、どれだけ効果があったかを推計したものです。具体的には、「コンビニで見た」「スーパーマーケットで見た」「ドラッグストアで見た」「その他の食品または飲料を販売している店舗で見た」などに分けて、それぞれの割合を推計しています。

具体的な数値を見てみましょう。例えば、「コンビニでブランドを見た」と答えた人が、女性全体(69歳まで)で395万人います。水色の部分ですね。このうち、1年間で実際に購入に至った割合は9.48パーセントです。つまり、395万人の9.48パーセントがリフト人数として推計されます。

人数がわかれば、市場浸透率とMの関係から購買回数を導き出すことができます。この計算にはNBDモデルや因果推論の傾向スコアなどの分析技術を用いています。

また、現在特許出願中の技術では、重複リーチを考慮した効果の按分処理を行っています。



例えば、テレビCMがターゲット全体の70パーセント、ネット広告が40パーセント、アプリが30パーセントのリーチ率を持つ場合、単純にこれらを合算すると140パーセントになります。このような過大な推計を避けるため、ユニークユーザーリーチ(実際にリーチした人の割合)を算出します。

例えば、延べリーチが140パーセントでも、ユニークユーザーリーチは80パーセントにとどまる場合があります。このリーチを基に、各施策の効果を適切に按分して重み付けを行います。テレビCMの場合、リーチが大きいことが多いので、その効果を正確に評価するためのアルゴリズムを用いて計算します。

新規事業での活用事例としては、例えば、月商500万円を1年で1億円に成長させたブランドでは、自社ブランドを調査対象にせず、年商400億円規模のような業界上位のブランドのコミュニケーション効果を徹底的に把握しました。



この分析により、意外なことに、テレビCMが店頭誘因に寄与しておらず、Webアクセスへの効果のほうが大きいことがわかりました。これとは対照的に、マクドナルドのようなブランドでは、テレビCMが店頭誘導に大きく寄与しています。

カテゴリーによって広告効果の効き方は驚くほど異なりますが、同じカテゴリー内ではほとんど変わらないという傾向があります。このような知見は、私の書籍や本セミナーで使用している資料にも記載されています。テーマパーク、外食チェーン、エナジードリンクといった事例だけでなく、アパレルや化粧品、その他のBtoC商材についても確認されています。

Forecastを活用した施策効果の最大化

最後にご紹介するのが、「Forecastへの応用」です。Forecastという言葉は英語で「予測」という意味で、要は未来の動向を見通すためのモデルです。これを確立するための応用についてお話しします。



このモデルでは、東京ディズニーランドやUSJなどの日本国内のテーマパーク8ブランドを対象にしています。ただし、テレビCMの効果を推計している部分については配慮のためマスクしています。

具体的には、テーマパーク8ブランドの1年間における年代・性別ごとのMと市場浸透率を集計し、さらに利用意向に関する調査結果を5段階「非常に利用したい・利用したい・やや利用したい・どちらとも言えない・利用したくない」で評価しています。この中で「非常に利用したい」という明確な意向を示した割合をトップワンとして計上しています。

また、要因UR(ユニークユーザーリーチ)や施策URといった指標を使って、どの施策がどの程度の効果をもたらしたかを評価しています。これらは非常にスモールデータで、基本的にはExcelの表として扱われています。

実際のプロジェクトでは、3か月で20万人規模の調査を行い、18本の調査をスクリーニング3本、本調査を3本に分けるなど、非常に緻密な設計で進めました。このプロジェクトでは、NBDモデルを使って観光や地方創生に関わる需要を推定しました。ただし、このデータをそのまま公開することはできないため、テーマパークの調査など、類似した事例を基に説明しています。

これまでご紹介したデータやテーブルも、一見すると簡単に見えますが、実際にはNBDモデルを駆使して算出したものです。このような分析を通じて、例えば、Forecastにおいて最も重要な施策や要因が何かを特定することができます。



テーマパークブランドの場合、Mに対して最も有効だったのは「ユニークユーザーリーチ」でした。具体的には、「ブランドのアプリを利用した」「友人や知人、家族から話を聞いた」といった要因です。

これらの要因がアクションとしてどれだけ行われたかの割合を非線形回帰分析で分析しました。このプロセスによって、Mを予測する上で最も重要な変数を探索的に特定することが可能になります。

ユニークユーザーリーチをどこまで拡大できるかを見極める

ここまでのプロセスには多くの手間がかかりますが、予測精度を高めるための基盤として非常に重要です。その後は、分析上の問題点を回避するために機械学習モデルを用いて分析を進めることもできます。



今回は簡略化してChatGPTを活用していますが、実際には統計ソフトのRなどを使ってモデリングを行います。

リアルな場面では、テーマパークの1日単位での来場者予測など、さらに複雑なPDCAサイクルが必要になるケースもあります。例えば、森岡毅さんの「刀」という会社では、こうした予測に関する特許も取得されています。ただし、今回のテーマは新規事業開発に焦点を当てているため、そうした詳細なPDCAプロセスとは異なるレベルでのお話になります。

みなさんが新規事業開発に関わっているという前提で、このような期待値の予測手法を参考にしていただければと思います。



まず新市場を攻める際には、新しく設計したプロダクトのコンセプト調査を実施します。この調査では、サービス受容性や広告などの影響を受けない純粋なサービス自体の魅力を測ることが重要です。例えば、コンセプトボードを使って魅力度を評価したり、プロトタイプ動画を見せて「利用したいか」を聞くといった手法があります。

ここで、赤いテキストボックスで示されるMA(メンタルアベイラビリティ)は、広告などの施策によってどれだけユニークユーザーリーチを増やせるかを示します。

一方、PA(フィジカルアベイラビリティ)は、テーマパークなどの周辺人口などが関連します。テーマパークの事例では、周辺人口が少なくても行楽シーズンに多くの人が訪れるケースもありますが、USJや東京ディズニーランドのように近隣に多数の人口を抱える場合もあります。

これらの変数を組み合わせてユニークユーザーリーチをどこまで拡大できるかを見極めることができれば、Mの予測が可能になります。例えば、新規事業にかける投資額を20億円にすべきか、5億円に抑えるべきか、そして初年度のMをどの程度見込むべきかを具体的に評価するプロセスが求められます。このような評価を何度も繰り返し、その事業に固有のForecastモデルを構築していくことが重要です。

新サービスの利用意向がある人を抽出する方法

最後にご紹介するのが、消費者調査MMM(マーケティング・ミックス・モデリング)でも活用している因果推論の傾向スコアです。この手法では、調査対象全体ではなく、特定の条件を持つサブグループに注目します。



例えば、観光とVR、またはVision ProのようなMR(ミックスドリアリティ)を組み合わせた新しいサービスの受容性を調べる際、VRやMRにまったく関与したことがない人を対象にしても有益な回答は得られません。そこで、VRやMRへの関与度が高い人を対象に、「観光でこのようなサービスを利用したいか」を尋ねます。

この調査では、「強く利用したい」と回答した人が15パーセントという結果が得られました。このように、適切な対象を選定することで、サービス受容性の正確な評価を行うことが可能になります。

みなさんが知りたいのはこれですよね。新サービスの利用意向がある人が母集団全体の中で9パーセント。これが青い部分で、本調査から傾向スコアを用いることで明らかになります。

傾向スコアは少し難しい概念ですが、平易に説明するとこうなります。



例えば、調査対象が1万人いる場合、ユーザーの属性データやカテゴリー関与度などの特性を用いて、テレビCMを見る確率を推定します。これには、テレビの視聴時間といった特性データも含まれます。テレビ視聴時間が長い人ほど、テレビCMに接触する確率が高くなります。

この確率(傾向スコア)を調査対象者一人ひとりに付与します。テレビCMを「見た」と答えた人は傾向スコアが高い集団に、見なかった人は低い集団に分類されます。その後、傾向スコアが低い人の回答をより大きく扱い、逆に高い人の回答を軽く扱います。このように重み付けを行うことで、回答データの偏りを補正するのです。



調査用語で「ウェイトバック」と呼ばれる人口分布を基にした重み付けと似た考え方です。本調査に回答する確率が低い人の意見は貴重であるため、それを重視して扱うことで、より正確な結果が得られます。

例えば、VRや特にミックスドリアリティ(MR)の分野では、Apple Vision Proの話題が30代や40代のビジネス層には非常に注目されていますが、60代男性ではどうか。本調査では「よく知っている」と答えた60代男性(M60)は6.22パーセントでした。しかし、この結果に補正を加えると、実際の市場全体では1パーセント程度が妥当であることがわかります。

新たな市場を攻略するための「潜在需要」の見極め方

また、調査に基づいたアイデアの検討についても触れたいと思います。元東京ディズニーランドのリサーチャーである山本(寛)さんと共同で本を書き、数多くの視察旅行を通じてアイデアを考案しました。その中で生まれたアイデアを基に、実際の調査を行いました。

調査の結果、利用意向が非常に高い人、つまり「必ず体験したい」または「非常に体験したい」と答えた人の割合がそのまま得られました。



また、これを補正した市場全体の回答率も計算され、精度の高い結果が得られています。



これを見比べると、市場全体の回答率を想定した結果のほうが値が低くなるのが一般的ですが、低くならない場合もあります。このような結果を見ると、「これは大きなポテンシャルがあるのではないか」と気づけます。この気づきを基に、さらにサンプルサイズを増やした調査を行うことで、結果を検証し、より正確な結論を導き出すことができます。

つまり、本来であれば関与度が低い人たちに調査を行っても有効な回答が得られないようなテーマであっても、市場全体でどれくらいの受容性があるのかを定量化することが可能です。この手法は、新たな市場における潜在的な需要を見極める際にも役立ちます。

市場浸透率を伸ばすとロイヤリティが向上する

今日の話をざっと振り返らせていただきます。



まず、エビデンス・ベースド・マーケティングの要点として、ダブルジョパディの法則をご紹介しました。この法則の要旨は、「市場浸透率を伸ばすことでロイヤリティが向上する」という点です。

私が実際に確認した鉄板の指標として特に重要だったのは、「M」という指標です。この指標は、『確率思考の戦略論』で紹介されたもので、市場浸透率との関係が非常に強いことが特徴です。

そして、Mを増やすための両輪として、フィジカルアベイラビリティ(買いやすさ)とメンタルアベイラビリティ(想起されやすさ)が挙げられます。これらの要素がそろうことで、浸透率と購買回数が連動して増加します。

具体的には、市場構造を徹底的に把握することが重要です。そのために有効なのが、GPRM(ガンマ・ポアソン・リーセンシー・モデル)や消費者調査MMMです。これらを適切に活用することで、市場の構造を高い解像度で把握できます。

新規事業や新しい市場への参入では、これらの分析手法が特に役立ちます。私が支援したプロジェクトでは、競合ブランド以上に市場を深く理解するために、消費者調査MMMやGPRMを徹底的に活用しました。その結果、競合が把握しきれていない市場の詳細を明らかにし、新規サービスの成功に大きく貢献しました。

これらの手法は、新規事業に限らず、既存市場での新たなサービス展開にも十分活用できるものです。

予測を完璧に行う前に推定から始めることの重要性

需要予測の第一歩として重要なのは、数理モデルを活用して重要な数値を定量化することです。新サービスの受容性を見極める際、一部の人にしか質問できない状況でも、その回答を基に、スクリーニング調査などで得られた母集団を活用し、市場全体でのサービス受容性を定量化することが可能です。このような手法は非常に実用的で、広範囲で応用できます。

ただし、今日お伝えしたいのは、需要予測自体は非常に難しいという点です。数理モデルで構造化し数式化しても、すべてを予測することはできません。例えば、コロナのような予測困難な変数や天候の影響など、想定外の要因が入ると大きくぶれることがあります。特に来店予測では、雨の影響が非常に大きいという現実があります。

未来予測が簡単ではないことは、みなさんも共通認識としてお持ちだと思います。そのため、いきなり予測を完璧に行うのではなく、まずは推定から着手することが重要です。重要な数値を数理モデルで定量化し、構造化することが予測の第一歩です。これは間違いないアプローチだと考えています。

これらの分析は、Excelでも対応可能です。私もコンテンツを通じてその手法を発信しています。宣伝のようで恐縮ですが、最近出版した近著『その決定に根拠はありますか?』を参考にしていただければと思います。この書籍は、今回のセミナーのきっかけにもなりました。

書籍には累計7時間にも及ぶ動画講義を付属しており、実装までを詳しく解説しています。ただ、動画講義を前面に押し出すと重たい印象を与えてしまうかもしれませんので、本として読んでいただくだけでも十分です。一部興味を持たれる領域があれば、動画講義でさらに深く学べるようになっています。

また、関連する内容は「日経クロストレンド」の記事にも掲載していますので、ぜひそちらもご覧ください。時間が少しオーバーしてしまいましたが、以上で私の話を終わらせていただきます。本日はありがとうございました。

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