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「確率思考」で未来を見通す 事業を成功に導く意思決定 ~エビデンス・ベースド・マーケティング思考の調査分析で事業に有効な予測手法とは~(全5記事)

認知十分の東京ディズニーランドがテレビCMを続けるワケ マーケティングを強化する「消費者行動」の3つの法則

ビジネス領域に特化した、コンサルタントと依頼者のマッチングサービスを提供する「ビザスク」。そのビザスク主催のセミナーに、『その決定に根拠はありますか? 確率思考でビジネスの成果を確実化するエビデンス・ベースド・マーケティング』の著者で、株式会社秤・代表の小川貴史氏が登壇。「購買重複の法則」が示す、ニッチブランドの意外な現実や、「無難な選択」をしたいというライトバイヤーの心理などを解説しました。

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「購買重複の法則」が示す、ニッチブランドの意外な現実

小川貴史氏:「浸透率を増やせばMが増える」というのは、数値だけを見せられて、納得するのは難しいかもしれません。そこで、よりわかりやすく、この関係を説明するために『ブランディングの科学』で紹介されている法則をひもときながら、消費者行動の実態を紹介していきたいと思います。

関連する法則の1つ目は、「購買重複の法則」です。この法則では、市場浸透率が小さいブランドのユーザーも、市場全体と同じように、他のブランドを利用する傾向があることを示しています。



例えば、外食チェーンを例に挙げると、マクドナルドやケンタッキーといったブランドがあります。具体的なブランド名は伏せていますが、テレビCMを積極的に展開しているブランドで、みなさんも名前を聞けばご存じだと思います。

例えば、20代女性を対象とした1年間の市場浸透率データで、市場浸透率が最も低い「food1」というブランドを見てみます。このブランドのユーザーが「food1」だけを利用しているかというと、そうではありません。むしろ市場全体と同じように、マクドナルドのような浸透率の高いブランドも等しく利用されています。

つまり、「ニッチなブランドは、そのブランドのファンだけで構成されているのではないか」という一般的な思い込みは、実際には当てはまりません。私自身も以前はそう考えていましたが、調査を重ねる中で、ニッチなブランドのユーザーも他のメガブランドを利用していることがわかりました。

その理由は、すべてのブランドが共通の顧客基盤、いわゆる「カテゴリーバイヤー」をシェアしているからです。このカテゴリーバイヤーとは、小売のバイヤーではなく、特定のカテゴリーにおける購買を行う消費者を指します。

具体例としてヘアケア市場を挙げます。以前、私も高価格帯のヘアケア商品を年間数万円使ってほしいという目標で取り組んでいたことがあります。例えば、1年間で3,000円以上をシャンプーを含むヘアケア全般に費やす消費者をカテゴリーバイヤーとします。

このハードルは非常に低いように思えますが、実際には、20代から60代の女性では約7割が該当する一方で、男性では同じ年齢層でたった4割前後にとどまります。つまり、カテゴリーバイヤーという顧客基盤は、意外にも限られたパイであり、その中で各ブランドがその基盤を共有している状態にあります。この点が、「購買重複の法則」が示す重要なポイントです。

ヘビーバイヤーほどさまざまなブランドを利用する

次は、「リテンションダブルジョパディ」についてです。例えばカテゴリーバイヤーを考える際に、カテゴリーヘビーバイヤーとカテゴリーライトバイヤーという分類があります。ヘアケアやコスメのような商材でインタビューを行うと、カテゴリーヘビーバイヤーほど多くのブランドを利用する傾向があります。



一方で、カテゴリーに対してあまりこだわりがないカテゴリーライトバイヤーは、「ブランドはこの1つだけです。ドラッグストアで買ったこれだけです」といったかたちで、商品写真を提示することが多いです。

当たり前ですが、ヘビーバイヤーほどさまざまなブランドを利用します。さらに、例えばコスメの場合、有料のサービスで毎月お試し商品が届くような仕組みや、新商品に対しても積極的に試してみるなど、非常に貪欲に研究を続ける層もいます。このようなヘビーバイヤーは、ブランドスイッチにも積極的です。

しかし、こうした層の離反をブランド側で食い止めることは難しいです。彼らは常に複数のブランドを行き来しているため、お客さまが少ないブランドほど、その離反が与える影響は大きくなります。これが「リテンションダブルジョパディ」の重要なポイントです。

「無難な選択」をしたいというライトバイヤーの心理

続いて3つ目、最後の法則は「自然独占の法則」です。例えば、マクドナルド、ケンタッキー……、その他の5ブランド。



これら7ブランドは、いずれも認知度が高く、ブランド名を挙げれば9割以上が知っていると答えるようなメジャーブランドです。

この7ブランドのうち、1か月間に1つのブランドしか利用していない人を「100パーセントロイヤルユーザー」と定義します。我々マーケターも、みなさんもそうだと思いますが、自社の顧客が「100パーセントロイヤルユーザー」になってほしいと考えますよね。自社ブランドだけを利用してもらえれば、それが理想です。

しかし、シンプルに言えば、「100パーセントロイヤルユーザー」はほぼ超ライトバイヤーに該当します。カテゴリーライトバイヤーであり、こうした層ほどメジャーブランドに集中する傾向があります。その理由は単純で、「無難な選択をしたい」からです。冒険を避け、安心感を求める傾向が強いのです。

これは外食チェーンのような低額商材でも見られますが、より高額な商材ではさらに顕著になります。つまり、金額が比較的安い業種であっても、このようにマクドナルドのようなメジャーブランドに顧客が集中する現象が確認されています。

つまり、マーケターの通説をまとめると、次のようなこと(スライドの「100パーセントロイヤルユーザーを増やしたい」)が言えるのではないかと思います。



もちろん、100パーセントロイヤルユーザーを増やしたいと考えるのは自然なことです。ただし現実には、100パーセントロイヤルユーザーの多くは超ライトバイヤーであり、メガブランドに集中しています。したがって、新興ブランドが100パーセントロイヤルユーザーだけでブランド成長を遂げることは、「あり得ない」と断言できます。

認知十分の東京ディズニーランドがテレビCMを打つ理由

新興ブランドを利用するのは、挑戦的な選択をするカテゴリーヘビーバイヤーが中心です。新興ブランドは各ブランド共通の顧客基盤からわずかなシェアを得ているにすぎません。そして、ブランドスイッチに積極的な顧客を完全にコントロールすることは、マーケターにとって非常に難しいのです。そのため、浸透率を増やすことが特に重要です。

一方で、小さいブランドほど「CRM(顧客関係管理)に特化するのが安全だ」という考え方がありますが、これは逆にリスクが高いと言えます。浸透率が大きいブランドほどCRMの効果が発揮されやすいのです。

例えば、僕がよく例に挙げるのが東京ディズニーランドです。人生の中で約20年というスパンで見ると、多くの人が訪れていると思います。関東圏に住む方なら特にそうでしょう。東京ディズニーランドがテレビCMを打つのは、僕の見方ではCRMの一環です。あれは新規顧客のためではなく、既存顧客をターゲットにした施策だと思っています(笑)。

極端な話かもしれませんが、実際にアプリの利用効果についても、マクドナルドや東京ディズニーランドのような大ブランドでは驚くほど大きな金額を生み出しています。これも実データをもとに推計していますが、具体的な名前を出すことは控えています。

ここで誤解してほしくないのは、「浸透率が高いブランドだけの話をしているのではない」ということです。重要なのは、浸透率が低いブランドをいかに大きくするか、新興ブランドをどのように成長させるかです。

僕の仕事の例で言うと、独立してからベンチャー企業とも仕事をするようになりました。例えば月商500万円の通販事業を1年で1億円に成長させたケースがあります。その際、自社ブランドの調査にはほとんど注力しませんでした。

なぜなら、限られたデータでは得られる情報が少ないからです。その代わり、上位ブランドの構造や広告効果を徹底的に分析し、それをもとに戦略を立てるアプローチを取りました。この後ご紹介する「消費者調査MMM」を活用し、上位ブランドの広告効率や構造を解明することで成長を実現しました。

ここで言いたいのは、市場浸透率が大きいブランドが偉いというわけではありません。重要なのは、市場浸透率を適切に理解し、それを増やすための確かな方法を実行することです。



この点について、より具体的なお話をしていきたいと思います。

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