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「確率思考」で未来を見通す 事業を成功に導く意思決定 ~エビデンス・ベースド・マーケティング思考の調査分析で事業に有効な予測手法とは~(全5記事)

約100万人の調査でわかった「信じられる」マーケティング理論 自社ブランドの「好意度」や「選ばれやすさ」を示す指標とは

ビジネス領域に特化した、コンサルタントと依頼者のマッチングサービスを提供する「ビザスク」。そのビザスク主催のセミナーに、『その決定に根拠はありますか? 確率思考でビジネスの成果を確実化するエビデンス・ベースド・マーケティング』の著者で、株式会社秤・代表の小川貴史氏が登壇。「使えてなんぼ」のデータ重視のマーケティング手法や、新規事業に役立つ、特定ジャンルの需要の確認方法などを解説しました。

テレビCMの売上貢献を数理モデルで明らかにする方法

小川貴史氏(以下、小川):株式会社秤の小川と申します。どうぞよろしくお願いいたします。さっそく講演を始めさせていただきます。

まず簡単に自己紹介をさせていただきます。



広告会社でのキャリアが約11年ありまして、その後半はインターネット代理店で営業兼アナリストのような仕事をしていました。当時は「マスからデジタルへ」という流れが注目されていて、いわゆるマス広告のコミュニケーションを一通り経験した後に、次はデジタル広告へと移行していきました。

広告分野での経験を積んだ後、IT系の会社でサービスデザインやデジタルマーケティングに携わり、ストラテジストやコンサルタントとして活動しました。支援会社側でのキャリアが長かったのですが、現在は独立してフリーのコンサルタント、もしくはアナリストとして活動しています。

主にマーケティングにおける重要な上流工程での意思決定をサポートする仕事をしています。業務委託というかたちで企業内部に入り込み、実務に携わるケースも多いです。

スライド右側の本は、MMM(マーケティングミックスモデリング)について取り上げています。時系列データを解析することで、例えばテレビCMが売上を10億円、12億円、15億円とどれだけ貢献したのかを数理モデルで定量化する手法を紹介しています。

この分野には11年以上取り組んでおり、最近では特許出願した「消費者調査MMM」という新しい手法も開発しました。簡単にご説明すると、この手法はインターネット調査だけでテレビCMの売上貢献効果を推定するものです。

例えば、「テレビCMによる売上貢献が125億円、そのうち店頭誘導効果による売上が65億円」といった具体的な数字を導き出すことができます。この推定ができるということは、将来的な予測も可能になるわけです。このような内容を詳しく解説した書籍を出版しました。

今日は新規事業というテーマでお話しさせていただきます。最近では、確率モデルなどを活用したエビデンス・ベースド・マーケティングの法則を使って、例えば地方創生や観光に関連する新規事業の初期需要予測を行う、といったプロジェクトに取り組んできました。その中でかなり鍛えられた部分もあります。

ただし、そのノウハウやデータをそのまま紹介することはできませんので、近しい事例をもとにお話しします。私はこれまでに約100万人規模の調査を実施しており、そのうち約40万人強が自社研究用の調査です。今日は、そうした経験から得られた内容をご紹介していきます。

「使えてなんぼ」のデータ重視のマーケティング手法

さて、今日のメインテーマである「エビデンス・ベースド・マーケティング」についてです。「エビデンス」という言葉は抽象的で、「根拠」という意味を含んでいます。ここでお話しするエビデンス・ベースド・マーケティングは、異なる状況下でも共通して確認できる消費者行動の規則性や、マーケティング介入が市場に与える変化を明らかにする法則を指します。



こうした法則を活用することで、意思決定をより確かなものにすることが可能になります。例えば、代表的な研究機関として挙げられるのがアレンバーグ・バス研究所です。日本ではまだ邦訳されていませんが、『ブランディングの科学』シリーズの4作目にあたる本も海外では出版されています。

また、「エビデンス・ベースド・マーケティング」と明確に書かれていないものの、ほぼ同じ考え方をベースにしているといえる書籍もあります。

例えば、P&G出身の著名なマーケターである森岡毅さんや今西聖貴さんが手掛けた『確率思考の戦略論』。さらに芹澤さんが執筆された『戦略ごっこ』などです。特に『戦略ごっこ』は、300本以上の論文をもとに、網羅的な知識をビジネスパーソン向けに翻訳した内容となっています。

私がやっていることはもう少し範囲が狭く、実際に活用可能な実装に落とし込むことに重きを置いています。つまり、使えてなんぼという思想です。私の書籍もそのような位置付けにあると考えています。

新規事業に役立つ、特定ジャンルの需要の確認方法

本日の講演では、いくつかのパートに分けてお話を進めていきます。まず、ビジネスマーケティングの基本となる部分についてです。とにもかくにも市場浸透率。これを増やすことがマーケティングの核になりますので、このテーマを少しかみ砕いて紹介します。



さらに、消費者向けマーケティングにおける市場浸透率を増やすためのキーファクターとして「カテゴリーエントリーポイント(CEPs)」が挙げられます。これが「具体的に何なのか?」という話や、先ほど少し触れた特許出願した技術についてもお話しします。

この技術ではインターネット調査を活用して、あるブランドのテレビCM効果が120億円を超えるといった結果を推計することが可能です。「あるブランド」としていますが、ここまで具体的な推計を行った文献は他に例がないため、ブランド名を伏せて紹介させていただいています。その点はご了承ください。

また、新規事業にも役立つ分析手法として、因果推論のデザインについても触れます。例えば、日本全体の市場規模が1.2億人である中で、特定のジャンルにおける需要を確認したい場合があります。

消費者調査では、特定ジャンルに強く関与している人が限られているため、そうした一部の回答者を対象に調査し、その結果をもとに市場全体のポテンシャルを推計する手法があります。このような手法は、新規事業にリアルに役立つものとして注目されています。

最後には、こうした実務に応用できる方法をいくつかご紹介します。また、今日の講演では質疑応答の時間も設けていますので、その中でさらに深掘りした話をすることも可能です。内容は盛りだくさんですが、まずはざっとお話ししていきたいと思います。

市場浸透率が低いと購入頻度も低いという「二重の苦しみ」

それでは、1番目のテーマである「エビデンス・ベースド・マーケティングの要諦」についてお話しします。まず、このテーマの代表的な書籍として、『ブランディングの科学』をご紹介します。



この書籍の要点は、それまでコトラー氏が提唱していた「ターゲットを絞り込む」といった考え方や、近年発達したデジタルマーケティングやCRM(顧客関係管理)ツールを使ってロイヤルティを高めるほうが、テレビCMのようなマス広告よりも投資効率が優れているという定説に対して、「それは必ずしも正しくない」というデータでの反証が示されている点です。

具体的には、「マーケターが都合よく思い込んでいることがある」として、データを用いて「ちゃんと検証し、エビデンスがある」という主張が展開されています。この骨格となるのが「ダブルジョパディ(Double Jeopardy)の法則」です。



ここで繰り返し語られるのは、「市場浸透率を上げないと購入頻度も上がらない」という点です。つまり、市場浸透率が低いと購入頻度まで低くなってしまう、いわば「二重の苦しみ」の法則です。

さらに、この書籍では、市場浸透率とロイヤルティは密接に連動しており、どちらか一方だけを増やすことはできないという主張がされています。ロイヤルティを高めたいのであれば、まず市場浸透率を上げる必要があるわけです。

自社ブランドの「好意度」や「選ばれやすさ」を示す指標とは

私自身も、このような著名な理論をすべて鵜呑みにするのではなく、これまでに行ってきた100万人近い規模の調査を通じて「信じられるもの」だけを私の書籍で紹介しています。この調査は私1人で行ってきたものです。

その中で発見した重要な関係が「市場浸透率が『M』を増やす」という点です。この「M」については、「みなさんご存じですか?」と聞いてみると、知らない方や「名前だけ聞いたことがある」という方が多いのではないかと想定しています。

この「M」についてですが、こちらの本(『確率思考の戦略論』)……、ご存じの方も多いと思います。USJの森岡毅さんが書かれた本です。この本そのものを知らなくても、森岡毅さんはテレビにも出演されているので、知っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。この本で重要だと語られているのが「M」です。

市場浸透率について、具体例を挙げて説明します。例えば、日本の市場が1.2億人として、ある一定期間、例えば1年間でそのブランドを利用した人が1,200万人だとします。この場合、市場浸透率は10パーセントとなります。

さらに、すべてのブランドに共通して観測される指標として「平均利用回数」があります。これは利用者が年間でそのブランドを何回利用したかを示すものですが、「M」という指標はそれとは異なります。

「M」は、延べ購買回数を総人口で割った値です。これは、利用しなかった人も含めた総人口で計算するため、結果的に市場全体の1人あたりの購買確率、正確にはその期待値を表します。この計算自体は非常にシンプルで、延べ購買回数を人数で割るだけです。



この「M」を伸ばすことが重要だと、多くの場面で繰り返し語られています。プレファレンス、つまりブランドの相対的な好意度や選好性を直接観測することは難しいですが、それを説明する指標として「M」は非常に有効です。「Mを伸ばそう」ということがこの書籍では何度も強調されています。

具体例として、東京ディズニーランドを挙げます。



東京ディズニーランドにおける1年間の浸透率と「M」を回帰分析に当てはめると、予測精度の指標であるR2が1に近い値を示します。これは、予測が非常に高い精度で行えることを意味します。

この傾向は外食チェーンやエナジードリンクの市場でも確認されており、実際のデータに基づいて「M」が適用可能であることがわかっています。



ただし、具体的な企業やブランドのリアルなデータはお見せできません。顧客数が何十万人、あるいは百万人規模といったケースでもこの法則が当てはまることを確認してきましたが、企業の利益に直接結びつくデータなので、公開は控えています。

そのため、今日は公開調査で利用可能な範囲で紹介していますが、詳細については資料をご覧いただければと思います。

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