さまざまな社会課題や未来予想に対して「イノベーション」をキーワードに経営学者・入山章栄氏が多様なジャンルのトップランナーとディスカッションする番組・文化放送
「浜松町Innovation Culture Cafe」。今回は株式会社Funleash CEO 兼 代表取締役の志水静香氏と、早稲田大学ビジネススクール教授の入山章栄氏がゲストに登場。本記事では、さんまさんと『アメトーーク!』蛍原さんのファシリテーションの違いについて語ります。
入山章栄氏が考える究極のファシリテーション
田ケ原恵美氏(以下、田ケ原):お二人が思う、うまいと思うファシリテーターにはどんな方がいらっしゃるのかなって、ぜひ聞いてみたいんですが。入山先生から、どうですか?
入山章栄氏(以下、入山):僕は、まず当然、志水先生はお上手だと思います。あとは僕が好きなファシリテーターは、「PIVOT」というメディアのトップをやっていて、NewsPicksの初代編集長の佐々木紀彦さん。
先週申し上げましたが、ファシリテーションの最大のポイントは、あんまりしゃべらないということなんですよ。やはりどうしてもファシリとか司会って、自分がコントロールして、「自分がなんとかがんばらなきゃ」と思ってしまうと、先週、志水さんがおっしゃっていましたけどね。
それが違うのであって、流れに任せちゃえばいい。本当にしゃべれて、いい感じでやれているなら、自分は一言もしゃべらない、存在を消すのが、究極のファシリテーションだと思うんですよ。僕もファシリテーションで一番気をつけているのは、「みんな、楽しかったね」とか「いい議論ができたね」となった時に、「これは入山さんのおかげだね」と言われないようにしたいんですよ。
田ケ原:なるほど。
入山:僕の存在感を消して、勝手にみんなが盛り上がって、たまに僕がその流れを「ちょっとこっちに調整しようかな」とかやるぐらい(が理想です)。
さんまさんと『アメトーーク!』蛍原さんのファシリテーションの違い
田ケ原:志水さんはいかがですか?
志水静香氏(以下、志水):ここにもしかしたら出られたかもしれないですけど、池上(彰)さんが「すごくお上手だなぁ」と思って、いつも感心して見ていますね。
やはり否定をしないで、心理的安全性の場を作られていることと、非常に冷静なんですよね。たぶんすごく知的な方なので、(相手が)「あれ? 間違っているぞ」という場面もけっこう多いと思うんですけども。
そこには介入せずに、逆にわかるように「これはそういうことですよね」と、きちんとそれを説明してあげる。でも、その人の気分を害さないように説明しているところがすばらしいなと思っていつも見ていますね。
田ケ原:やはり本当に場作りが重要ということですよね。
入山:あと、思いついた方がもう1人いて、実は『アメトーーク!』のホトちゃん(蛍原徹さん)なんですよ。
志水:わかります。
入山:僕はメディアでよくこれを言っていて、例えば『踊る!さんま御殿!!』という番組をやっているじゃないですか。とてもおもしろいし、すばらしい番組だと思うんですけど、(明石家)さんまさんって強くて、自分がしゃべりたいタイプでしょう?
だから、番組はめちゃめちゃおもしろいんですよ。ただ、来るゲストは、いかにさんまさんに拾ってもらうかになっちゃうので、さんまさんを中心にした放射線状の、1対1の関係をいっぱい作っているんですよ。
でも、そうすると横のつながりがないんですね。だから、あれは番組としてはめちゃめちゃおもしろいんだけど、ファシリテーター的に言うと心理的安全性がちょっと低い番組。
心理的安全性が高まる蛍原さんのファシリテーション
入山:それに対して『アメトーーク!』の蛍原さんは、ほとんどしゃべっていないんですよ。でも、例えばアンガールズの田中さんがなにかやったら、「あー、ケンコバ(ケンドーコバヤシ)、どう思う?」とやって、ケンコバがなにかやったら、「んー、ザキヤマ(山崎弘也)、どう?」ってやっているだけなんですよね。
田ケ原:確かに。
入山:でも、蛍原さんはしゃべらないから(みんなの)心理的安全性が上がる。そうすると横の関係がすごく作れるようになって、ひな壇芸人が勝手にアドリブをやり出して、むしろ今のほうが僕は『アメトーーク!』はおもしろいと思うんですよ。
志水:これを整理すると、たぶんさんまさんのやり方は、従来のファシリテーションなんですよ。自分がコントロールして、場を盛り上げて、お客さんに満足してもらうという。
入山:そうですね。エンタメとしては、悪いわけじゃないんですけどね。
志水:そうなんですね。だけど、今おっしゃった蛍原さんのやり方は、新しい時代のファシリテーションなんですよ。みんなに気持ち良く話してもらって、場の空気を作っていくことに徹しているという。これがやはりファシリテーションの変化なんですよね。
田ケ原:気づいているようで、気づいていないまま見ているような気がするので、すごく発見がありますね。
入山:本当にそのとおりですよね。だから、僕は経営学者として、これからの企業の管理職が全員目指すのは、先週申し上げたように「『なるほど』が言える」こと。ということで、「『なるほど』が豊かなホトちゃんを目指せ」と言っています。
田ケ原:(笑)。
ファシリテーションの技術を磨くには
入山:人間は論理ではなく感情の生き物じゃないですか。なので、これからの時代、組織の力を高める時には感情をうまく動かしていくのが重要だと思っています。
そのためにはやはり、ディスカッションの場では心理的安全性を高める。「ここは本当に何を言ってもいい開放的な場所なんだな」という感情みたいなものを、表情とかでうまく作ってあげるというのは、本当はあってもいいのかなと思っているんですけど、志水さんはどうですか?
志水:はっきり言うと、しゃべらないようにするってけっこう難しいんですよ。
田ケ原:難しいですよね。
志水:口で言うのは簡単。だって人間ってしゃべりたいから。だから逆に、しゃべらないようにするんじゃなくて、「聞く」ほうに意識を向ける。先週おっしゃっていましたけど、反復してあげるとか、その人がどういう気持ちでそれを言っているのかを想像して共感しながら、「そうだったんですね。なるほど」というふうに、そっちを意識すると、しゃべらなくなるのかなと今思いましたね。
田ケ原:確かにそうですね。今のお話にありました、例えばトレーニングの中で、「こうやったらうまくなるよ」みたいなコツは、なにかあるんですか?
志水:私はやはり、先ほどもおっしゃっていたような、うまいファシリテーターの動画を見たりして、「その人はなんでうまいんだろうな? 自分とどう違うんだろうな?」というのを自分でやっています。別にすごく高いお金を払って研修に行かなくても、今そういうものって動画で見られるので。
入山:そうですよね。
志水:「自分はなんでこの人をうまいと思うんだろう?」と、自分に問いかける訓練ですよね。
一番いいトレーニングの場所は「飲み会」
田ケ原:なるほど。ナチュラルボーンの入山先生はどうですか(笑)?
入山:はい、ナチュラルボーン・ファシリテーターでございますけど。今日のテーマは、「ビジネスの現場以外におけるファシリテーション」じゃないですか。一番いいトレーニングの場所は飲み会ですよ。
僕は飲み会も、比較的みんながしゃべるほうがいいなと思っているタイプなので、例えば偉い人がいると気後れしてしゃべれていない人がいると、ふっと「○○さん、どう?」と聞くとか。
僕もついついお酒の席でしゃべっちゃうんですけど、しゃべらないように我慢して、他の人の意見を「なるほど」と聞いて、最後は「この飲み会、楽しいな」と思ってもらえたらいいなみたいな。飲み会は本当にアルコールが入っている分、みんな素が出るので。
田ケ原:確かに。
入山:やはりしゃべる人はずっとしゃべっちゃうから、それはそれで飲み会の楽しいところなんですけど、しゃべれないでけっこうつらい思いをしている人もいるから。そういう人にちゃんとしゃべる機会を提供する。もしファシリテーションの練習をしたいなら、飲み会は一番いい場所じゃないかなと。
田ケ原:そこが場数を増やすチャンスだということですね(笑)。志水さんはどうですか?
志水:いや、今聞いていて、私は友だちですごくファシリテーションがうまい人がいるので、「なにかそういうのをやっているんですか?」と聞いたら、そのおうちがすごく変わっていて、日曜日に家族全員で今週あったことをシェアするらしいんですよ。
入山:本当(笑)? おもしろいね、それ。
志水:それに対して、「そういうことがあったんだね」と否定せずに言っていたのが自然に身についているみたいなんですよ。
入山:すごい。そっか。
志水:だから、家族でも友だちでも、例えば旅行を計画する場面があるじゃないですか。やはり2人以上いるとファシリテーションできるので、そうやって自分の話も言うんだけど、人の話を聞く、肯定してあげるみたいなのは、研修に行かなくてもできるかなと思いますね。
田ケ原:入山さん、志水さん、ありがとうございました。