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第254回『極意はがんばらない「ファシリテーションは何をもたらすのか?」』(全2記事)

ファシリテーターは「しゃべらないほうがいい」理由 入山章栄氏が語る、心理的安全性の高い場を作るポイント

さまざまな社会課題や未来予想に対して「イノベーション」をキーワードに経営学者・入山章栄氏が多様なジャンルのトップランナーとディスカッションする番組・文化放送浜松町Innovation Culture Cafe。今回は株式会社Funleash CEO 兼 代表取締役の志水静香氏と、早稲田大学ビジネススクール教授の入山章栄氏がゲストに登場。本記事では、入山章栄氏があえてファシリテーションの準備をしない理由を語ります。

ファシリテーターは“参加者同士の関係性”をシミュレーションしておく

田ケ原恵美氏(以下、田ケ原):まさに今、ファシリテーションはただ進行するだけじゃなくて、「共感」「質問」「傾聴」というワードも出てきましたけれども、深めていくというのがすごく大事なわけですよね。

入山先生の話にもありましたけど、じゃあその会議をより良くするために、進行役は参加する人に、どういう役割というか問いを投げて参加してもらうのが大事なんですかね。

志水静香氏(以下、志水):やはり私が気をつけているのは、中立であるということと、実はファシリテーションは準備が大事なんですよ。「この人とこの人の関係性はどうなんだろう?」というのを、あらかじめちょっとシミュレーションしておくんですよね。

入山章栄氏(以下、入山):へぇ!

場をコントロールしてはいけない

志水:「きっとこういう質問を投げかけたら……」とシミュレーションをした上で、ある程度問いも考えていくんです。ただ、先ほど言ったように場をコントロールしてはいけないんですよね。だから、成り行きに任せながら、間合いを見ながら質問を引き出していく。

この時に、自分の癖とか特徴を理解しておかないといけないんですよ。例えば私だったら、けっこう沈黙が耐えられなくて、せっかちなんですよ。例えば、「これ、9時までに終わらなきゃいけない」とかいうのが自分の中にあると、そこを自分で抑えながら、それを感じさせないように、みんなが「ここ、志水さんがいるから信頼して話せるよな」という空気を作っていかなきゃいけないから、けっこう難しい。

「ファシリテーターはしゃべらない」入山氏が最も大事にしていること

田ケ原:今のお話を聞かれて、先生はどうですか?

入山:僕は逆に、まったく準備をしないんですね。一番のポイントは、ふだんから僕がたまに「ファシリテーションってこれが大事ですよ」と申し上げるのは、「ファシリテーターはしゃべらない」。これが一番重要です。

田ケ原:引き出すのに徹しなければいけない。

入山:そう。どうしても司会をやる人はがんばりたがっちゃうので、しゃべってどうにかしようと思うんですよ。逆で、「いかにしゃべらないか」が、僕はほぼすべてだと思っています。

志水:そうですね。

入山:先ほどの「質問力」で、どういう問いを投げかけるかという話もあったんですけど、僕は実は、正直そんなに大したことはしていなくて、相手が例えば「~ですよね」「~だと思うんですよね」と言ったら、それを反復して言うだけなんです。

田ケ原:なるほど。受け止めるというか。

入山:そう。例えば田ケ原さんが「うちの会社、私の仕事が今これで、こういうことで悩んでいるんですよね」と言ったら、「へぇ、そういうことで悩んでいるんですね」と言うだけなんですよ。

僕はあまりマニュアル本は読まないんですけど、僕が昔、子どもを育てていた時に読んでいた本があって。「子育てハッピーナントカ」というようなタイトルで、子どもには心理的安全性と自己肯定感がいかに大事かという(ことが書かれている)本です。

じゃあ子どもの自己肯定感を上げる時にはどうすればいいかというと、「これで困っているんだよ!」と言われたら、「そうか。それで困っているのかぁ」と言うだけでいいんですよ。

そうすると本人は、自分が認められていると思うから、どんどんしゃべってくれるんですね。だから、「~なんですね」と同じことを言っているだけで、相手はどんどんしゃべってくれるんですよ。しゃべってくれたところで、「あ、おもしろいな」と思ったら、隣の人に「~さん、いかがですか?」って言っているだけなんです。

「メタ認知力」が重要なわけ

田ケ原:今の話をうかがって、どうですか? 

志水:もう、「本当にすごいな」と思って聞いていましたね。誰でもできる手法ですよね。

入山:あと、先ほどから話をうかがっていると、志水さんが「自分はこういう癖があるから、そういうのは我慢する」みたいなことをおっしゃったじゃないですか。それは僕も重要だと思っていて、けっこう「メタ認知力」が大事なんです。

志水:そうなんです。

入山:つまり、「自分はこういう人間で、どうしてもしゃべりすぎちゃう癖があるから我慢する」とか、「この人はすごくいいことを言っているんだけど、ガンガン言いすぎてみんなが引いているから、ちょっとここで一度ストップしてもらって」とか。たぶん、いい意味で上から俯瞰して見ているイメージがあるんですよ。

志水:「メタ認知力」というのはすごく大事。自分の癖とかバイアスを、ちゃんと把握することが大事かなと思いますね。

入山:それを僕はナチュラルにやっちゃっているんですが、志水さんはいろんな方にトレーニングをされているじゃないですか。メタ認知力とか、流れに任せるとか、ゴールはあるんだけどうまくその流れで持っていくとか、それはどうやって教えられているんですか?

志水:いろんな「場数」と私は言っているんですけど、そういう機会を自分でやってみるということ。やった時に周りの方に、「今日はどんな感情ですか? どういうふうに感じていらっしゃいますか?」と聞くのが大事かなと。そうすると、周りの方が自分とは違う見方を教えてくださるので、やはり自分とのギャップがわかってくるんですよね。

イノベーションにつながるアイデアを引き出す

田ケ原:ありがとうございます。あと私がうかがいたいのは、企業においてのファシリテーションはすごく大事だという話がありますよね。ファシリテーションはどんなメリットがあるとご覧になっていますか?

志水:先ほど私は「変革」と言ったんですけど。まさに入山先生がおっしゃったように、日本は同質性が高いと言われますが、今世代も変わってきて、若い方たちってものすごく価値観が違うじゃないですか。

まず、そういう組織の中にはいろんな人がいるんだということを、そろそろ私たちは自覚しなきゃいけないんですけど、やはりそこを引き出していくというメリットはありますよね。埋もれているような、すごいイノベーションにつながるようなアイデアがあるのに言えないのは会社にとってものすごく損なので、それを引き出していくのが企業にとっては大きいかなと思います。

あとは、人間は今の場所にいたいので絶対変わりたくないんですよ。これは自分の反省でもあるんですけど、変革をしていく時に、主流な人たちは「変わりたい」と言っているんだけども、やはりそうじゃない人たちがいらっしゃる。その声にならないような声みたいなものを、いかに引き出していくかが大事かなと思います。

入山:なるほど。

田ケ原:でも、多様性って頭ではわかっているけど、実践できていないところも多いと思うので、おっしゃっていることはまさに見直さなきゃいけないところですよね。これはまさにおっしゃっていた「管理職こそファシリテーションを」というところにつながってくるということですね。どんなふうにご覧になっていますか?

志水:やはりそういうことを管理職の方が意識してやってくれると、今入山さんがおっしゃったように、メンバーの方が自分のあまり見せていない面みたいなところも見せるようになりますし、「あ、このアイデアって、絶対クレイジーって思われるかもしれないけど、言ってもいいかも」という関係性ができてきますよね。そういうのを引き出していくという意味でも大事かなと思います。

参加者の発言の意味がわからなくても「なるほど」と言っておく

入山:あと、田ケ原さんがさらっと言った中に、僕がふだん講演で言っていることがあって。とにかく大事なのは心理的安全性です。そのためのファシリテーターの最大の要件は、僕は「しゃべらないこと」。

その時に、僕はよく「日本語でいい言葉があるから、これを使っているといいよ」と言う言葉があって、それが先ほど図らずも田ケ原さんがおっしゃった「なるほど」なんですよ。僕もマスターと知り合いなので、たまにこの番組を聴いているんですよ、『浜松町Innovation Culture Cafe』。

あのマスター、ぜんぜんわかってないけど、ずっと「なるほど」と言っているんですよ。特にひろゆきが出た回を聴いてください。「なるほど」しか言っていません、あの人。

田ケ原:(笑)。聴き直してみます。

入山:あの時マスターは恐らく、「この人たちは何を言っているんだろう?」と思っているんですよ。だけど、そこで「何ですか、それ?」とか言うと心理的安全性が下がるから、「なるほどねぇ」と言って、ひろゆきさんの言っていることがよくわからないから、「石山(洸)さん、どうですか?」と聞いているっていう(笑)。

田ケ原:(笑)。なるほどねぇ。入山さん、志水さん、ありがとうございました。

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