さまざまな社会課題や未来予想に対して「イノベーション」をキーワードに経営学者・入山章栄氏が多様なジャンルのトップランナーとディスカッションする番組・文化放送
浜松町Innovation Culture Cafe。今回は株式会社Funleash CEO 兼 代表取締役の志水静香氏と、早稲田大学ビジネススクール教授の入山章栄氏がゲストに登場。本記事では、ファシリテーションがうまい人の3つの条件を語ります。
早稲田大学ビジネススクール教授の入山章栄氏が登壇
田ケ原恵美氏(以下、田ケ原):入山さんのプロフィールです。大学院修了後、三菱総合研究所に入社された入山さんは、研究員・コンサルタントを経て、アメリカ・ピッツバーグ大学大学院に留学されます。その後、アメリカ・ニューヨーク州立大学バッファロー校で助教授を務め、2013年に日本に帰国。現在は早稲田大学ビジネススクール教授として活動されています。
教鞭を執る一方で、2019年に刊行した『世界標準の経営理論』は15万部超えのベストセラーになるほか、京都市の戦略アドバイザーやイベントにおけるファシリテーターとしても活躍。いでたちは、当番組『浜カフェ(浜松町Innovation Culture Cafe)』のマスターに極めて似ていますが別人です。どうぞよろしくお願いします。
入山章栄氏(以下、入山):どうも、入山です。よろしくお願いします。
田ケ原:あらためてなんですけれども、入山先生の現在のお仕事や活動内容をうかがってもよいですか?
入山:現在は早稲田大学の教授をやっているんですけど、ありがたいことにいろんなメディアに呼んでいただくのでそれに出たりとか。あと、いろんな会社の社外取締役やアドバイザーをやっています。そういう中で実際に経営にも関わりながら経営学の研究をして、それを人に伝えるのがメインの仕事になります。
経済学から経営学の道へ進んだわけ
田ケ原:ありがとうございます。なぜ経営学の道に進まれたのかを、あらためてうかがいたいんですが。
入山:ありがとうございます。メディアでよく建前上言っているのは、もともと僕は経済学という学問をやっていたんですけど、それは会社というより経済全体の学問なんですよね。だけど、見ていると、同じ業界なのに(全然経営スタイルが違うこともある)。僕は両方とも仕事でお付き合いがあったんですけど、例えばホンダとトヨタはぜんぜん違う経営スタイルの会社なんですよ。
特にホンダさんがおもしろかったんですが、「なんでこの会社って、こんなに業績が出るんだろうか?」ということに興味が出てきて、経営学の道に入った。というのが一応建前の理由なんですけど、本当はそうじゃなくて。
実は最初は僕、三菱総研に入って2年目の時に、海外に憧れがあって住んでみたかったんですね。でも当時の部署だと無理だし、三菱総研はそんなに部署の異動はないので、「どうしよう」と思った時に、「アメリカの大学で博士号を取りたい」という建前を作って留学しちゃえば住めるじゃんと思って。
それで実は、三菱総研へ入って3年目の時に、経済学でアメリカの大学院の博士課程を受けました。ありがたいことに受かったんですよ。2、3個合格をいただいたんですけど、「僕がやりたいことって、経済学なのかな」「ちょっと違うな」と思ったので、そこで経営学に転向しました。
田ケ原:なるほど。
入山:転向して、「よし。じゃあ翌年、経営学の博士課程で、もう1回アメリカの大学院を受け直そう」と思って受けたら、全部落ちたんですよ。
田ケ原:ええ!?
入山:皇居のお濠を1人で泣きながらぐるぐる回ったみたいな時期があるんですけど。でももう1年がんばって、実際は2浪したみたいな感じですが、幸い今度は合格をいただいたので、ピッツバーグ大学の経営学の博士課程に行ったという感じです。
田ケ原:入山さん、今日はよろしくお願いします。
入山:はい、よろしくお願いします。
株式会社Funleash CEOの志水静香氏
田ケ原:続いて、志水さんのプロフィールです。大学卒業後に日系IT企業に入社し、アメリカに赴任。外資系IT・自動車メーカーなどを経てギャップジャパンに転職され、人事本部長として人事制度基盤を設立されました。
その他にも、総合人材サービス会社、ランスタッドの取締役・最高人材開発責任者をはじめ、複数の企業で人事制度の構築、理念・ビジョン浸透、組織変革などを牽引し、先進的な施策の導入実績を持ちます。
2018年には、株式会社Funleash(ファンリーシュ)を設立され、スタートアップ、大企業、自治体、教育機関など、さまざまな組織に対して人材育成や組織の成長を支援されています。志水さん、よろしくお願いします。
志水静香氏(以下、志水):よろしくお願いします。
田ケ原:先ほどもお話されていましたが、志水さんは入山先生と面識があるんですよね。
志水:そうですね。けっこう長いかな。ギャップジャパンの時に入山先生に来ていただいて、イノベーションやダイバーシティというテーマでお話をしていただいたのがきっかけになります。
経営者のパートナーになれる人材を育成
田ケ原:なるほど、ありがとうございます。ということですので、まずはこれまでのお仕事とか、現在のお仕事の活動内容などを教えていただけますか。
志水:事業会社で働いている時は人事部門のリーダーとして、組織のパフォーマンスを上げていく、いろんな制度とか仕組みを整えていく仕事をメインでやってきました。
Funleashという会社を立ち上げてからは、これ、おもしろいんですけど、(取引先が)100パーセント日本企業のお客さまで。非常にちっちゃい組織から何兆円という大企業さんまで、今まさにトランスフォーメーション、変革というテーマで、外部から支援をさせていただいています。
外部から支援というと、「コンサルですか?」と言われるんですけど、私は「コンサルじゃないんです。コンサルは嫌いなんです」と言っているんですよ。だから、中に入って、そこにいらっしゃる方と手を動かして、汗をかいて一緒にやるみたいな。けっこうどっぷり浸かってやっています。
田ケ原:へぇ、なるほど。ありがとうございます。実は私の友人が、Funleashのアカデミアに通っていて。研修を実施されているんですよね。
志水:本当ですか!? うれしい! ありがとうございます。ちょっと話が脱線しちゃうんですけど、それこそ今、人事ってどうしても労務とか管理とか事務屋さんみたいな見方があるんですよね。「戦略人事」という言葉が日本に入ってきてけっこう経つんですけど、まだフワフワしているんですよ。
やはり経営者って孤独だし、いろんな重圧がある中で、きちんと株主に対して責任を果たしていかなきゃいけない。そういう人たちのパートナーになれるようなリーダーを10ヶ月かけて育成していくという。ちょっとすみません、宣伝っぽいんですけど、自分がそういう場がなくて困ったので、やはりそういう場を作りたいなと思って、今やっています。
ファシリテーションは何をもたらすのか?
田ケ原:ここからは、「ファシリテーションは何をもたらすのか?」というテーマでお話ししていきたいと思います。まず、「ファシリテーション」というと、一般的には「会議などをスムーズに進める技法のこと」と言われています。
例えば、参加者の発言を促したり、さまざまな意見を理解してまとめたりということがあると言われていますが、志水さんとしては、「ファシリテーション」はどういったものだとお考えになっていますか?
志水:そうですね。これはアップデートされているかなと思っています。やはり新しい時代のファシリテーションというのは、いろんな意見を持っている人たちがそこにいらっしゃって、その方たちが、自分とそこにいる周りの人のことを深く理解して、最終的にその場が最高の場になるように、ちゃんと手助けをしてあげて、いい選択、決断ができるように導いていく。
私たちは専門用語で「場をホールドする」という言い方をけっこうするんですけど、その場を引き出していくという。あんまり制御しないんですよ。だから、プロセスはあんまりコントロールしないんですけど、最終的にそこにいらっしゃった方たちに、「いい選択をしたね」と思ってもらえるような場を作っていくというのが、ファシリテーションかなと思っています。
田ケ原:ありがとうございます。それはやはり、会議体のイメージが一番先行されますか?
志水:私がいつも言っているのは、人が2人以上いると意見が違ってくるので、2人以上の場にいる人が思っていることもちゃんと意見を言えて、最終的に「いい結果になったね」と言えるような。だから、やはり会議が多いんですけど、ビジネスだけじゃないと思っています。
ファシリテーターに求められる3つの力
田ケ原:限定しないということなんですね。入山先生は、ファシリテーションをどんなふうにご覧になっていますか?
入山:僕は経営学者なんですが、なんでここに呼ばれているかというと、たぶん経営学者としてはかなりファシリテーションがうまいほうだと(自負しています)。
田ケ原:そうですね。
入山:たぶん、いろんなところでご評価いただいているからだと思うんですよね。先ほど志水さんが別の打ち合わせでおっしゃってくださっていましたが、だいぶ付き合いが長いですけど、うまい?
志水:はい。これは本当にヨイショじゃなくて、入山先生は非常に優れたファシリテーターだと思っています。これは私の意見なんですけど、ファシリテーションに求められるスキルの1つはやはり「共感力」。そこにいらっしゃる方が、「今どういう感情を持っているのかな?」と、読み取りながら共感していく。
2つ目は、「質問力」ですね。問いかける。引き出していく。その方の気持ちとか、その人が「きっとこういうふうに思っているんじゃないかな?」というのを予測しながら引き出していく質問力。
3つ目が、「傾聴力」。ちゃんとその方の立場に立って聞いてあげる。私が一番心がけているのが、「Being」と言うんですけど、在り方。自分がどういう在り方であるのかがすごく大事で、入山先生は今言ったすべてを持っています。そういう意味でも、本当に優れたファシリテーターということで、今日も招かれているという。
これからの時代に“ファシリテーション力”が必須なわけ
田ケ原:教授としては、どんなふうにお考えですか?
入山:本当に志水さんと同じで、特にこれからは、これがすごく重要なんですよ。なんでかというと変化の時代で、イノベーションの時代だから。僕は経営学者なのでよく言うんですけど、イノベーションというのは、とにかく知と知の組み合わせなんですよね。
ということは、いろんな離れた知見が組み合わさることで、新しいアイデアや考えが出てくるのは間違いない。だから一番重要なのは多様性なんですよ。多様な人たちが議論をする。
でも、多様な人たちが議論をするということは、いろんな意見が出るわけだから、当然意見が対立することもいっぱいあるし、ある人の意見を別の人が否定しなきゃいけないことも出てくる。ということは、それでもそれを議論して、みんなでなにか解決法を見つけていこうという時は、やはり圧倒的に重要なのが心理的安全性。
そして、誰もが参加できる。「参加できる」というのは、イコール「しゃべれる」ということですよね。誰か1人だけがずっとしゃべるんじゃなくて、みんなが心の底から言いたいことを言い合って、お互いの意見を積み重ねられる場がこれからますます求められてくる。それを中心になって支える仕事がファシリテーションだというのが僕の理解なんですけど、志水さんはいかがですか?
志水:そのとおりです。合っています。と経営学者に(言うなんて)。
入山:(笑)。
「管理職を全員ファシリテーターにした」
志水:なので、私は入山先生と6~7年前に会った時に、これから管理職の方やリーダーの人にはファシリテーション能力が絶対必要で、先ほどお話しした「共感」「質問」「傾聴」は、まさにリーダーシップに必要なものなんです。だから、「こういうことをきちんと学んでいただく必要があるんですよね」ということをお話ししたんですよ。
入山:それが僕はいたく印象に残っています。たぶん初めてお会いした時に、志水さんはもともとギャップ(ジャパン)という会社の、日本の人事のトップをされていたんですけど。その時に、「うちの会社は、管理職を全員ファシリテーターにしたんです」とおっしゃったんですよ。
「したい」じゃなくて「した」。「え? それはすごいな」とずっと思っていたので、今日はこうやって共演させていただくのがとてもうれしいです。