営業担当者にとって大切な、お客さまを理解する「質問力」。本セッションでは、質問力やヒアリングスキルにを引き上げるか具体的な方法について、営業のプロ・高橋浩一氏が語ります。本記事では、マネージャーがメンバーを育成するための具体的な施策について解説しました。
メンバーに自ら考えさせるロープレのやり方
高橋浩一氏:営業の質問の型をいくつかご紹介をしてまいりました。じゃあ、これをマネージャーはどう指導するのかということなんですが、守・破・離でいうと、みなさん守は教えられるんだけれども、破と離がなかなか難しい。
そこで「もしもシリーズ」というのは、非常におすすめな5分ロープレにつながるものです。
商談前に、よくマネージャーがメンバーに「今日のゴールは何だっけ?」と聞きますよね。「今日のゴールは何だっけ?」と、聞くこと自体が悪だとは言いませんが、だいたい同じような返事で返ってきませんか? だったら、もう起こってほしくないことをパッとケースみたいに出して、「この場で少し練習しようか」とやるわけです。
これによって、お客さまが言ってきそうなちょっと厳しめな状況をイメージして練習してもらうということが、だいぶやりやすい。その場でのロープレは非常に重要です。あとは、悪いほうのシナリオを想定する準備をするということですね。
商談が終わったあとも、「今日はどうだった?」という会話はよくありますよね。聞いていただいてもいいんですよ。ただ、ちゃんと考えさせないといけないですね。何が想定どおりで、何が想定どおりじゃなかったのか。
「じゃあ、あの場面を再現するからもう1回やってみようか」というふうに、ちゃんと振り返りと5分ロープレを組み合わせていくと、メンバーの力を上げていきやすくなります。
こういう指導をしていく上で、「僕、できてますよ」「私、できてますよ」という人がいるわけですよ。「商談どうだった?」「けっこういい感じだったと思います」みたいな感じで返ってくる。でも、本当に大丈夫だったら苦労はないですよね。
「商談管理」と「ヒアリング力」は表裏一体
そこで私がおすすめするのは、質問力を組織で鍛えていく時に意外と手が打たれない商談管理のやり方なんですね。商談管理のやり方をアバウトにやっていると、お客さまに対してヒアリングをした質問が、ちゃんと商談のステータスを表しているか・いないかについて目が向かないじゃないですか。
なんですが、この商談フェーズがきちんと機能すると、しっかりヒアリングをすればフェーズが進むことになりますし、このフェーズが今どこにあるのかを判断するのに、営業がヒアリングした情報を基に判断しやすいわけです。
一見すると遠いように思えるかもしれませんが、本当はかなり近い話だと思っています。ヒアリング力を鍛えることと、商談管理をステージで行うことは、コインの裏表なんですよね。ちゃんとヒアリングをしないと、具体的な商談管理はできない。ちゃんとヒアリングをするからこそ、具体的な商談管理ができるということです。
「今日の商談どうだった?」といった曖昧な会話をするんじゃなくて、「今、この商談ってどのフェーズだっけ?」という具体的な会話をしましょう。「実際のお客さまのコメントは何というセリフだったの?」と、具体的なセリフで聞いてください。そうすると会話が事実ベースになっていきます。
単純に営業を追い詰めるみたいな話ではなくて、特にスキルがまだ充分ではないメンバーに対しては教育効果が非常に高いんですね。
能力を引き上げるには「練習とテスト」が必要
例えば、メンバーがお客さまの担当者と会話をしているとします。提案をしたところ、お客さまから「個人的にはいいと思ったので、上司に話してみます」と(言われた時に)「これはフェーズでいうと、いくつなんだろう?」という発想をしてもらうわけですね。そうすると、次にやることが見えてきますね。
フェーズのどこにいるかが見えれば、当然次のフェーズに進めるじゃないですか。そうすると、営業活動のやるべきことが非常にスムーズに出てくるわけです。このように、その場でロープレをしたり、商談のフェーズで会話をするというのは、終了後の指導としては非常におすすめであります。
具体的な言い回しについてお話をしてまいりました。考えさせるその場のロープレの指導。ただ単純に「今日のゴールは何だっけ?」「今日どうだった?」というのはアバウト過ぎるので、考えさせる質問をしましょう。それで、事実をもとにした会話をしましょう、裏にある質問を伝えていきましょうということです。
最後に、どうやって鍛えていったらいいかという話をしたいと思います。スキルを上げていくためには、ちゃんと段階でレベル定義をしたり、練習やテストが必要なんですね。
やっぱりスポーツも同じなんですが、野球でもノックをやりますよね。シートノックで守備位置ごとに打っていく。試合の場面だけだと、ボールが飛んでくる回数がそんなに多くないポジションってあるじゃないですか。なんですが、その場面を切り取ってとにかくサードゴロだけを徹底的に練習するのだったら、サードの人は練習できるわけですよ。
こういうふうに、重要な場面を切り取って練習をする。そこに動画サンプルやチェックポイントとかを用意して、反復練習に引き上げて、実戦練習で確認する。ただ単純にアドバイスや批評だけで終わらせないで、とにかくできるように改善の指導をしていくということですね。
おすすめはスキルマップの作成
これをやっていく上で、私はスキルマップを作ることをぜひおすすめしたいと思います。スキルマップというのは、身につけたいスキルの前に、「お客さまに対してどうしても型にはまったトークだけをやってしまって、お客さまが考えて話すモードにいかないんだ。どうやっていったらいいか?」という課題(を設定します)。
まずはできてほしいスキルを定義します。「商談の序盤で、一方的なテンプレートの会社紹介にならず、お客さまが自分から悩みや課題を話してくださるように場を展開できる」と、先ほど話した核心質問、深堀り、枕詞を使っていくわけですね。その時に、レベルが1から5とありますが、レベル5というのはその理想的な状態です。
見る目が厳しく、かつ忙しいお客さまからプレッシャーをかけられても、ちゃんと聞けたら本物ですよね。レベル1は本当に優しいお客さま。それで(レベル)2から4を考えます。これはそんなに厳密に考える必要はなく、適当と言うとちょっと語弊がありますが、そんなに考え過ぎずでかまいません。
それで、練習・テストをどうやるかを考えていきます。特に、そのスキルレベルがまだ充分に高くない人に対して、全部マネージャーが事細かく指導をすると、いくら時間があっても足りません。そこで、ある程度のレベルに達するまでは先輩が見てあげるという、組織ぐるみの育成をぜひやっていきましょう。
そのために教材やツールを整えていきます。それをもとに、スキルレベルに応じてチェックポイントを用意するんですが、『無敗営業』の本にフォーマットを書いておりますので、このスキルを強化したいなという方は、これが書いてあるページをもう一度チェックしていただけるといいかなと思います。
メンバー同士の「15分ロープレ」とは?
これをロールプレイでやっていくわけなんですが、当然ながら、この想定シーンのイメージが湧くかどうか。そしてプロセスの区切りがわかりやすいかどうか。Good/Badがわかりやすく示されているかどうかというあたりは、チェックポイントの時にはご注意をいただけたらと思います。
このチェックポイントがあれば、あとはロールプレイで鍛えていくという話になります。この15分ロープレのやり方については、赤い表紙の『チーム戦略』という本に書いておりますが、ポイントの確認をして、4分間ロープレの前半をして、中間コメントをして、後半のロープレを4分間、最後に振り返り3分という感じで進めていくわけですね。
これは、お客さま役、営業役、オブザーバーというふうに役割をそれぞれ置いていきます。この練習とテストをやる時の注意点なんですが、やっぱり相手がやらされ感を感じてしまうと良くないですよね。ですから、それがなぜ必要なのか、このロープレはどこのレベルに到達できたらいいのかというのを、メンバーと会話していくことが大事です。
練習とかテスト自体が目的化しないようにする。そして、練習やテストの直後に営業活動で成果を認識させるということですね。ちょうど今週、当社のご支援先で、数年がかりで伴走支援している企業さまの事業部長の方とお話しをしたんですが、非常にいい感じでロープレが文化として根付き、業績も好調であると。
「市場としてはかなり逆風なんだけれども、うちの業績は好調です」と、非常にありがたいお言葉をいただきました。実はやっていただいたことがありまして、この行動分析の流れを作ることを、とにかく事業部長の方に徹底していただいたんですね。
相手の“地雷”を踏まないために大切なこと
とにかく大事なことは、手段を目的化させないことです。どういうことかというと、例えば商談でお客さまから難しめの反応が出てきた時に、「あぁ、これはロープレ練習をしたな」と。がんばってみてうまくいったら、「この練習はすごく意味があるな、もっとがんばろう」となるわけじゃないですか。
ということは、きっかけ、行動、報酬がきれいにつながるように、その事業トップから働きかけるといいますか。ただロープレをやるだけではなくて、取り組んでうまくいった人をピックアップして、みんなの前で褒めるとか。
あるいはきっかけについては、「どういう時にこの練習の成果を発揮してほしいのか」ということをセットで伝える。こういうふうに、行動分析がしっかり回るようなトップからの働きかけが必要なんです。これがなくて、ただ単純に「本を読め」「ロープレをやれ」と言うだけだと、残念ながら(成果は)上がらないんですよね。これは本当にシビアな現実です。
行動分析がつながらない限りは、なかなか成果が出ません。ということで3つ目のポイントとしては、上達曲線と行動分析を踏まえて練習とテストを設計しましょうということです。