営業担当者にとって大切な、お客さまを理解する「質問力」。本セッションでは、質問力やヒアリングスキルにを引き上げるか具体的な方法について、営業のプロ・高橋浩一氏が語ります。本記事では、若手営業パーソンを育成する際のポイントについて解説しました。
自分とは違う意見をぶつけられた時の考え方
高橋浩一氏:若手のメンバーの立場からして、自分が考えてることと違う意見を上司からぶつけられて、自分を正当化しようとしたら、「時代が違う」とか「お客さまが違う」というふうになりますよね。だって、「上司が正しい」としたら、自分が否定されてしまうわけじゃないですか。
ですから、自分を正当化しようと思ったら、相手が間違ってると思ったほうが早いわけですよ。認知的不協和の性質を捉えると、こういう結論になりやすいという話なんです。
さて、ここで自分の意見とは異なる上司の意見が来たらどうでしょうか。ここに「実際のお客さまの声はこうですよ」「営業活動の記録としてこうですよ」という事実があったら、「ちょっと自分の考えを変えてみようかな」となりますよね。
これは何かというと、あくまでも主観の入らない客観的な事実ということです。だったら、ちょっと自分の考え方を変えてみようかなと思うわけです。これは新しい情報が追加されることによる効果ですよね。「これに向き合って、自分を変えていったほうが良いんじゃないか」というふうに思えるだけの根拠をぶつけてあげるということです。
「元エースの管理職」が陥りがちな罠
ということで、若手がぶつかりがちな壁は「思い込み」であるということなんですが、じゃあ、この思い込みに対してマネージャーはどう支援するかという話です。
ちょっと難しいのは、こんな思い込みの罠にハマらないような「できる営業」だった上司の方がいらっしゃるわけです。圧倒的成果を出して昇進していくような人というのは、「なんでこんな簡単なことができないんだ」というふうに、やっぱりメンバーに思うわけですね。
「そうかそうか、これをやればいいじゃないか」と思ってたくさん指示を出します。でも、当然メンバーとはスキルのギャップがありますから、なかなか消化できない、遂行できないというふうになります。元エースの管理職の方が陥る落とし穴は、自分と同じような前提を相手に当てはめてしまうことです。
左右を比較して図で説明したいと思いますが、このマトリックスは、同じ縦軸・横軸を左右に並べています。横軸はメンバーのスキルの高い・低い、縦軸はメンバーの意欲の高い・低いです。
苦戦してるチームのマネージャーはどんな感じかというと、当然、元ハイパフォーマーだった人は意欲も高いしスキルも高いわけですよ。でも、こんな人は多くはありません。
となると、意欲が高くてもスキルが低いメンバーを見ると、「なんでこんな簡単なことができないんだ?」と思うわけですし、あるいはスキルが高くてもやる気が低い人を見ると、「なんでやる気を出さないんだ?」って思うわけですよ。左下の人(意欲もスキルも低い人)を見ると、「もう諦めるか」となってしまうわけです。自分と同じ前提をメンバーに当てはめようとする限り、前には進めないですよね。
じゃあ、上手くいっているチームは何が違うのかというと、純粋にメンバーを見て、「ここにいる人にはここに合った指導をしよう」「やる気はあるけどスキルが低かったら、ちゃんと具体的に教えてあげたらいいじゃないか」と、マネージャーは自分を完全に切り離してるんです。
順調なチームの管理職がやっていること
でも、マネージャー本人は具体的に教えてもらっていないこともよくあるわけですよ。自分と同じ前提を当てはめないというのは、「自分がプレイヤーの時はいちいち具体的に教わらなかったけれども、今は時代が変わっているから、具体的な指導が必要な人にはちゃんと教えてあげたほうがいいんだ」と、割り切ってしっかり教えてあげるということです。
やる気もスキルも低い場合、諦める前に押し付けはしない。押し付けるとやる気を失っちゃう場合がありますからね。成果を上げるために、まずは最低限必要なことをやってもらおうと。上司だったら指示が出せるわけですからね。
そして、右下のスキルは高いけどやる気が低い場合は、やり方は任せる。でも、モチベーションや意欲を考えたら、その気にさせるコミュニケーションが必要ですよね。そして右上の人(意欲もスキルも高い人)は、下手に介入するよりは助けてもらおうというわけです。
このように、上手くいっているチームの管理職の方は、自分と同じ前提をメンバーに当てはめないということが上手くできているわけです。今は「元エースの管理職」という前提でご説明しましたが、元エースでない管理職が順風満帆かというと、もちろんそうではないわけです。
苦戦しているチームにおいては、元エースでないということははっきりと具体的なことが言えないので、なんとなく「たくさん行動しよう」とか「お客さま視点だ」と言うわけです。
「たくさん行動しよう」とか「お客さま視点だ」と言うだけだと、ちょっと抽象的ですよね。そうすると、みんなよくわからないまま各々がんばる。当然、成果は出ません。改善やPDCAは回りづらいということになります。数字が上がらなければ、やっぱり不毛な忙しさが出てきますよね。
マネージャーがぶつかりがちな壁
一方で、順調に活動しているチームはどうかというと、具体的なコミュニケーションがなされる。例えば「たくさん行動せよ」というのは、具体的には何件の商談が必要だとか、「お客さま視点」というのは、具体的にお客さまにこういうふうに言われたら、こういうふうに返しなさいという、具体的なコミュニケーション。
そうすると何が起こるかというと、メンバーは具体的な行動を理解して実践する。そして、それによって改善やPDCAが回りやすいということです。具体的な行動が定まっていれば、どう改善していくかは見えやすいですよね。成果が上がってくればだんだん楽になっていきます。
さて、ここでのポイントは「マネージャーがぶつかりがちな壁」なんですが、自分と前提が異なるメンバーに具体的な指導をできるかどうかということです。自分と前提が異なるメンバーに具体的な指導をできるかどうか。自分と同じような前提を当てはめたら、やっぱり上手くいかないわけです。
初めの1歩としましては、メンバーのぶつかる壁は思い込みの壁であるということをお話ししましたが、思い込みの壁にぶつかりがちな若手に対してマネージャーが具体的な指導をできるかどうかが重要ですよというのが、まず最初のポイントであります。質問力というスキルに入る前に、成長の壁にぶつかり続けないようにちゃんと見てあげる必要があるわけです。
商談で起きがちな、テンプレトークVSテンプレ対応
じゃあ次は、「具体的な指導って何をやってあげたらいいんだ?」という話じゃないですか。具体的な指導として、質問フレーズをお話ししていきたいと思います。
ここに「メンバー」と「マネージャー」を置きました。メンバーは商談の序盤・中盤・終盤、そしてマネージャーは商談前の指導と商談後の指導というふうに、ちょっと要素を分けて解説をしていきたいと思います。
具体的な指導と言うからには、メンバーがぶつかりがちな場面を考えていく必要があります。商談の序盤に起こりがちなことは「テンプレトークVSテンプレ対応」です。例えば若手の営業の方は、新規で初回訪問のお客さまに対してこんなことをよく言います。
「本日はお時間いただきまして、ありがとうございます。まずは簡単に当社の紹介をさせていただきます。こちらは会社紹介の資料です。まずは弊社の概要ですが……」。どうでしょう。悪くない感じはしますよね。ただ、そんなに悪くはないんですが、どの営業も同じようにやってくるじゃないですか。
そうなるとお客さまとしては「はいはい、また来た」という感じで、とりあえず品定めに入るわけですよね。「すみません。簡潔にポイントを絞ってお願いしてもよいですか? 今日はとりあえずまだ情報収集なだけなので」。これは何を意味しているかと申しますと、ありきたりな質問だと序盤がうまく進まないんです。
メンバーからしたら、当然知らないことを知るための質問を投げるんですが、やっぱり「それって事前に調べていないの?」みたいに言われたら嫌だなとか、どこまで聞けばきちんと知ったことになるのかキリがないので、腰が引けて基本的なことが聞けない。
そうすると、今日の冒頭にお見せしたグラフのように、お客さまからすれば「ぜんぜん聞いてくれないじゃないか」と、なるわけですね。
お客さまから冷たい反応をされる理由
あるいは見積もりや提案を作成するための質問もあります。以前、ある人材紹介会社をご支援した時に、ハイパフォーマーの方とローパフォーマーの方のお仕事を見せていただいたんです。
ローパフォーマーの方のお仕事は、求人の場面で「どんな人をお探しなんですか?」「どんなスキルをお持ちの方をお探しなんですか?」「どんな経験をお持ちの方がいいですか?」「労働条件はどうなっていますか?」みたいな感じで、一問一答なわけですよ。他社と似たようなお定まり(の質問)もあります。当然、お客さまの温度感は上がらないですね。
ここでの難しさは、そんなに間違ったことをやっているわけじゃなくても、質問のレベルが高くないと先に進めない。これを私は『営業の科学』という本の中で、「購買者の仮面」というキーワードで説明しました。
お客さまの冷たくてドライな反応というのは、この人が冷たくてドライな人間だから営業を嫌ってこういう行動をしてくるわけじゃなくて、とりあえず自分の身を守らないことには仕事が進まない。
自分の身を守るとは、具体的にどういうことか。あんまり出来が良くなさそうな営業だったら、ムダに時間を使わないでしょう。そうでないと自分の仕事時間が確保できないじゃないですか。じゃあ、どうやって「あ、なんかこの営業はひと味違うな」と思っていただくかという話に移っていきたいと思います。
“変化球”をぶつけることもポイント
質問力のレベルはやっぱり段階がありますから、まずは入口のところでしっかりやりましょう、ということを教わるわけなんです。ただ、先ほどの例でご説明しましたが、本当に当たり前の基本だけをやっていても突破できないわけですよね。
ですから、私は今日のこのセミナーで「もうちょっと先の部分をちゃんと指導してあげたらいいんじゃないでしょうか?」ということを推奨したいと思います。なぜかというと、お客さまからすれば、もうこんな質問を受けまくって食傷気味なんですよね。
「御社のニーズは何ですか?」「御社の課題を教えてください」という感じで話すわけですよ。だから、他の営業が聞いてきそうな質問と同じ言い回しだと、こちらの営業に対して、どうしてもお客さまがしっかり向き合ってくださらない。
そこで私は、多少の変化球を投げませんか? ということをおすすめしたいと思います。どういうふうに投げるか。変化球といっても、別に奇抜なことをやれという話じゃないんです。お互いの発見をしていくような深い理解を作っていきましょう。