日本最大のビジネススクール「グロービス経営大学院」が、ビジネスパーソンに向けて、予測不能な時代に活躍するチャンスを掴むヒントを配信するVoicyチャンネル『ちょっと差がつくビジネスサプリ』。今回は、読むだけで終わりにせず「資産」に変えるコツをお伝えします。
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こちら“読んで終わり”になってしまいがちな読書
本山裕輔氏:毎週火曜日はお薦めのビジネス書を紹介しているんですが、今回は「読書に対する向き合い方」についてご紹介いたします。今回は、「費用で終わる読書」と「資産に変わる読書」というテーマでお話ししていきます。
まず、「費用」と「資産」という言葉について、少し整理をしておきます。まず、「費用」は、すでに出ていったお金を意味しています。例えばパンを作るのに必要な材料みたいな感じで、1回使ったらおしまいのものが費用です。
一方の「資産」は、収益を上げるために継続的に使われるものを意味しています。例えば、工場のように収益の基となる商品を継続的に作ってくれる存在です。この話は、実はビジネススキルを学ぶという学び方の話にも当てはまります。
例えば、100万円を払ってプログラミングの教室に通ったとします。もし身に付けたプログラミングスキルを使って給料を継続的に稼げれば、そのプログラミングスキルは立派な資産だと言えます。
逆に、苦労して身に付けたスキルをまったく使うことがなければ、この100万円はただ出ていったお金、つまり費用となってしまいます。今回、この「費用」と「資産」という考え方を、読書にも当てはめてみたいと思います。
読書にかかる費用は「本の値段」だけではない
まず、「費用で終わる読書」についてです。例えば、毎年「読者が選ぶビジネス書グランプリ」が発表されています。このグランプリでは、毎年のように名著中の名著がノミネートされています。
2021年に、このグランプリで1位を飾ったのが、『シン・ニホン AI×データ時代における日本の再生と人材育成』という本です。恐らく「見たことあるよ」とか「読んだことあるよ」という人も、けっこういらっしゃるんじゃないかなと思います。私もその当時、何人かから、「いやー、『シン・ニホン』を読んだけど、めちゃくちゃいい本だったよ。絶対に読んだほうがいいよ」と言われました。
そこまで言われたので、私も気になって、「何がそんなにすごかったんですか?」と聞いてみると、「いやー、なんというか、とにかくロジックとファクトがすごかったんだよ」とか、「あの本は今後の日本の行く末が書かれていたんだけど、まあ読んでみればわかるよ」と、煙に巻かれることも少なくありませんでした。
本の内容を理解してすらすら話せるように血肉化していない人からは、けっこうこういう反応が返ってきがちです。私はこういう事象を「費用で終わる読書」と呼んでいます。
「費用で終わる読書」がどれくらい深刻なのかという話ですが、実は読書にかかる費用は本の値段だけではないんですね。どれくらいお金がかかっているかというと、本の値段に加えて、1時間当たりの機会費用×読むのにかかった時間がかかっている。それが読んだ冊数分積み上がっていく計算になります。
そして「機会費用」は、「本を読む時間を、別の時間に当てた時に得られたであろうお金」を指します。例えば、本を読むのに2時間かかったとします。その2時間を時給2,500円の副業に当てていれば、5,000円獲得できたはずです。
よく本の値段の1,500円とか2,000円とかに目が行きがちなんですが、実はこの機会費用にも注意しておく必要があります。例えば毎月5冊読んでいたとしたら、先ほどの機会費用が、1冊当たり5,000円ぐらいかかるとして、毎月2万5,000円がかかっていると。そうすると、年間でも30万円ぐらいの費用が発生していると言えます。
読書を「資産」に変える方法
ここでお伝えしたかったのは、本を読むという行為は、思っている以上にお金がかかっているということです。これだけコストを割いたにもかかわらず、読んだ本について、「いやー、すごい本だったよ」の一言の感想で終わってしまうのは、あまりにももったいない。ということで、自分への戒めを込めて、こういった読書は「費用で終わる読書」と呼んでいます。
では逆に、「資産になる読書」とはどういうことかというと、「本で手に入れた学びによって、何かを継続的に生んでいる状態」を指していると思います。例えば、先ほどの『シン・ニホン』という本を例に挙げると、本の中で「ビジネス力」×「データサイエンス力」×「データエンジニアリング力」という枠組みが登場します。
この枠組みがすごくいいなと共感をして、「ビジネス」×「データサイエンス」×「データエンジニアリング」の3つを学習してスキルアップを図ったとします。そうすると、『シン・ニホン』で学んだことが、スキルという無形資産へと変わったことになります。
そうすれば、そのスキルを使って転職をして年収を上げることもできれば、一方でそれをコンテンツ化して、ブログやセミナー、何らかの記事や動画で発信すると、収入を得ることも可能になるかもしれません。
ここで重要になるのは、「費用を資産化する」という考え方です。これは読書に限らず、恐らく誰もが、他の人よりも時間とかお金をかけているものがあるはずです。
例えば、「めちゃくちゃ激務で、残業時間がとんでもないプロジェクトを担当することになってしまった」とか。「子育てと仕事と学びが重なって、恐ろしく忙しい思いをした」。あとは、「毎月10万円とか20万円以上、洋服に使ってしまう」とか、「人以上に外食にお金を使ってしまう」とかですね。
費用を資産に変える考え方
こういった、他の人よりも時間やお金を割いているもの、人よりも苦労している経験。これをそのまま放置しておくと、ただの出ていってしまった費用として、また右から左へ流れていってしまいます。忙しい思いをしたあの日々を、「あの時って大変だったな」と思い出話だけに使うのは、あまりにもったいないんじゃないかなと思います。
一方で、「費用を資産化する」という考え方を持っている人は、次のような行動を取るかと思います。例えば、すごく忙しい思いをして働いて身に付いた生産性を上げるスキル。これを勉強会やセミナーで発信してみようとか。あるいは、子育てと仕事と大学院での学びを全部両立させる方法を、記事やブログなど、何らかのメディアで発信してみようかなとか。
あるいは、毎月数十万円ぐらい使ってしまっている洋服について、どんな視点でどんな洋服を選んで、その結果どうだったかというレビューをYouTubeで発信してみようかなとか。こういった意識を持っておくと、人以上にお金や時間を使った経験、苦労した思いを資産に変えることができると思います。
今回は、「費用を資産化する」という考え方をご紹介しました。もし共感いただいた方は、「この本の学びを、どうやって継続的に価値を生み出すような資産に変えられるか」。そんな意識で本と向き合ってみると、何か気づきがあるかもしれません。