「どうしてもあなたから買いたい」と言われる営業は、時代を超えて普遍的に必要とされる存在です。では、どうやったらそんな営業になれるのでしょうか? 本イベントは、『無敗営業』『無敗営業チーム戦略』などの著者である高橋浩一氏が登壇し、営業担当者が差別化を図るための具体的なアプローチを紹介しました。本記事では、提案でも説得でもない“共創型”の営業提案のやり方について解説します。
前回の記事は
こちら ディスカッション戦略は「共創」がポイント
高橋浩一氏:「ディスカッション営業」というのは、ソリューションの詳細ではなくて、その手前段階の情報をぶつけていく。お客さまが判断する・されるというモードになるんじゃなくて、共に考えるモードになるということです。これは、提案でも説得でもない「共創」。
共創というのは、共に創るディスカッションということですね。いわゆる提案は、ヒアリングして、プレゼンして、クロージングする。これだと会話のキャッチボールが少なく、認識のずれが起こりやすいです。説得というのは、説明して不明点を確認して決断を迫る。相手にモヤモヤが残って決断を保留されやすい。
「共に創るディスカッション」は、ちょっと違ったアプローチなんですね。歩み寄る、お互いに発見する、寄り添い動かしていく。これはキャッチボールを通じてモヤモヤを解消するので、合意に至りやすいところがあります。
さて、このディスカッション戦略を効果的に進めるためには、どういうふうにしたらよいのでしょうか。
双方向な場作り、イントロでの投げ込み、問いかけと傾聴による深掘り。そして推進を止めないフォローということでお話をしていきます。
あえて相手に介入させる「つっこまれビリティ」とは
まずは双方向な場作りについてなんですが、商談での会話のリズムとして、一方的に説明して「さぁ、ご判断ください」とか「ご質問ありませんか?」だと、お客さまのほうも温まらないですよね。「何かあればご連絡します」という答えが返ってくるのが関の山だったりします。
活発な商談というのは、むしろ少し説明したところで「もう少し詳しくうかがえますか?」「それでしたらちょうどこのページになります」と、お客さんにボールを投げるわけですね。
この会話のリズムの特徴は、こっちが用意してきたとおりに進まないことなんです。予定調和でないということですね。こっちが意図したとおりに進まないことになるが、それをむしろ良しとする。
あえて相手に介入させる「つっこまれビリティ」というふうに私は呼んでいますが、つっこまれるぐらいでちょうどいいということです。「この提案、いかがでしょうか?」「特に違和感はないです」というと、なんかポジティブなイメージがあるかもしれません。
別に悪くはないと思いますよ。でも、意見が活発に出てこなかったらディスカッションにはならないですよね。適度にお客さまから意見が出てくるほうが、やはり双方向になりやすいです。ディスカッション戦略は、まだ本格的に案件化する前の段階で活発化させることが、非常に大きなポイントになっていきます。
となると、どうやってこの双方向性を上げていくかということですよね。双方向な場を作るポイントについて少し考えてみたいと思います。横軸が時間軸だとして、縦軸が相手の発言量だとすると、下にポコッと膨らんでいるほど相手から意見が出ていることを表しています。
ここで難しいのは、どのタイミングで相手にどんなふうにボールを出すか。要するに、いきなり「お客さま、お考えをお聞かせください」でしゃべってくれるお客さまもいますが、ちょっと材料を投げ込んだほうがいいわけですよね。
ただ、どこまで深掘りをして相手に寄り添うかは難しいバランスと問題ですし、あまりにもお客さんにボールを預けっぱなしだと、意に沿わぬ方向に進んでしまうこともあります。
お客さまへの提案は「W字型」で場を仕切る
そこで場の進行パターンについて考えてみたいと思います。相手に発言のボールを十分に渡して、最後はしっかりとたたむ。最初はこっちが話しているわけなんですが、お客さまに話して、だいぶお客さまの発言量が増えてくる。最後はしっかりと締めくくる。理想的な感じがします。
Bの進め方は、とにかく相手にしゃべらせない。Cは、とってつけたように途中でお客さまの話を聞く。Dは、お客さまに発言のボールを渡したままグダグダになる。Eは、最後のほうにお客さまからちょっと出た発言で、消化不良感が出てしまう。
なんとなく理想的な展開はAのような気がしますが、ちょっときれいすぎる気がしますよね。こんなに理想どおりいくんでしょうか? こんな心配をお持ちの方にぜひおすすめしたいのが、山というか谷のように見えるかもしれませんが、これを2つ作りましょう。Wの字を描くように場を仕切りましょうということです。
要するに、前半で1回思いっきりお客さまにボールを預けてしまうわけなんですが、中間段階で1回仕切り直すんですね。早めの段階で相手にボールを渡して、十分にお客さまの発言に耳を傾ける。いっぱいしゃべっていただく。中間段階で簡単にまとめて、ポイントを絞ったところでもう1回相手にボールを投げる。最後はしっかりとたたむということです。
ここでのポイントは、前半にかなりお客さまにボールを預けることによって、お客さまのほうでは気持ち良く話せることです。
さっきみなさんに「どんな人だったら相談したいですか?」ということを聞きましたが、「否定から入らない」「相談しやすい」「最後まで穏やかに話を聞いてくれる」「受け止めた上でディレクションをくれる」「聞いてくれる」とかありました。それは、まさしくこのW字型に答えがあるんじゃないかということです。
ミーティングの長さ別、進行の時間配分の例
このような進行をしていく上では、時間の段取りが非常に重要です。ミーティング時間が15分、30分、60分、90分というバージョンで、簡単にどんな感じなのかを書いてみました。ざっくり申し上げると、前半、後半は同じぐらいの時間で分ける。
前半は最低限のイントロダクションの投げ込みがあって、主に深掘りするほうに時間を投入します。そして、同じように1回まとめて個別の議論をやった後に、最後はネクストステップを確認するということです。
このような展開に持っていくためには、イントロダクションで効果的な投げ込みをする必要があります。さて、どんなふうに投げ込んだらいいのかということなんですが、イントロダクションで提示する資料の例をいくつか示したいと思います。
スライドの目的として、「お客さまと一緒に何かを探そうよ」なのか、お客さまに何かを伝達するのか。そこでお客さまが初めて見る情報が多いのか、少ないのか。こんな感じで情報を整理してみます。
そうすると、お客さまにとって初見の情報が少ないということは、裏を返すとすでにお客さまの知っている情報が多い。こういう情報を投げ込んでもぜんぜんかまわないわけなんですが、これをお客さまに認識の整理としてスライドにして提示する。
「お客さまは、確かこういうことをおっしゃっていましたよね?」というやり方もありますし、あるいは「何を議論したいのか?」というふうに、もう少し論点というかたちで(資料を提示)することもありますね。
そして、事実や示唆。お客さまがあんまり見たことがない情報をあえてぶつけるやり方もありますし、情報を構造化して投げ込んでみるやり方もあります。
苦戦しているチーム・順調なチームの差
1枚ずつサンプルで出していきたいと思います。「論点の集約」というのは、よく聞く課題の一覧みたいなものです。例えば、これは当社TORiX株式会社のメンバーがお客さまとのディスカッションで使っているスライドなんですが、よく営業で「困っている」という相談を受けるわけですよね。
「お客さま、お困りごとをお聞かせいただきありがとうございます」と。ただ、お客さまが何に困っているかを聞き出せない場合はやはりあります。そこで、ここに営業の方がよく行き詰まる課題を一覧で示しているわけです。
これが見えている状態だと、お客さんはけっこう意見が言いやすいわけですよね。これを最初に投げ込むことによって、お客さまから話を引き出すこともあります。
あるいは「認識の整理」。これは私が「要件整理」と呼んでいるものですが、お客さまがおっしゃった課題や悩み、やりたいことをキーワードにして、それに優先順位をつけて、具体的な内容に対してどういうふうに対応するかを記したものです。これがあることによって、お客さまはその後の議論に入っていきやすいです。
さらに「構造化」というのは、うまくいっていない悪循環とうまくいっている好循環を対比で示すこともあります。左側が苦戦しているチーム、右側が順調に活動しているチーム。
概念でうまく整理をすると、メンバーの営業プロセスについて抽象的なコミュニケーションをしているチームは、メンバーが具体的にどうすればいいかわからないまま各々がんばる。そうすると、やってみた結果の検証ができないので、改善やPDCAが回りづらい。そうすると受注の数字が上がらないので、やるべきことが増えてくることになります。
順調に活動しているチームは具体的なコミュニケーションがあるので、具体的な行動を理解して実践することができる。やってみた結果が検証しやすいので、改善やPDCAが回りやすい。そうすると徐々に数字が上がり、やるべきことが絞れてくることがあるわけですね。
こういうことを示すことによって、「うちのチームはどっちかっていうと左ですね」という議論が起こりやすくなります。これは構造化ですね。
発言のボールを相手に渡す「問いかけ」に使える枕詞
そして「事実や示唆」というところで、データの提示というものがあります。例えばこれは私がよく本や講演などで、「お客さまは価格が安いことよりも費用対効果が大事なんですよ、この事実をご覧ください」と、このように提示したりするわけです。
ちょうど倍近くスコアが離れているわけですよね。こんなふうにお客さまに事実を提示することによって、その後の議論に展開することもあります。
投げ込みの種類を4種類ほど提示をしてみました。投げ込みがうまくいくとどんな展開になるのかというと、お客さまからいろいろ意見が出てきたり、発言が出てくるわけですね。そうしたら問いかけと傾聴によって深掘りをする。お客さまにもっともっと話していただこうということです。
特に問いかけに使える枕詞ということで、お客さまに対して発言のボールを渡す。要するに、こっちから深掘りモードに入っていく時にいきなり質問していくとちょっと突然感が出てくる場合に、一言添えてお客さまに聞いていったりするわけですね。
そして、深掘りをする際の枕詞から入っていくわけなんですが、問いかけをする時の観点があります。ちょっとこれは説明しておきたいと思いますが、お客さまに質問していく時に大事なのは、お客さまが安心して発言ができるように、まずは心理的安全性(を確保すること)。
そして、具体的な観点。何について発言すればよいかをちゃんと明確にする。文脈の接続というのは、「なんでこういうことを聞かれるのか?」ということが、お客さまにとってちゃんと納得感があるような聞き方で聞くということですよね。
最初の投げ込みで出した資料から自然な流れでつながっていると、もちろん望ましいですし、ちゃんとアジェンダとして予定されている内容に沿った質問であれば、お客さまとしては答えやすいということになります。
営業の場面における、3つの「きく」の違い
お客さまに対して問いかけをしていく中で、お客さまから出てきた話があるわけなんです。話を聞いていく上で、さっきみなさんにチャットでも書いていただきましたが、上下関係がなくこちらの話にしっかり答えてくれるとか、知識なり意見を受け入れてくれる、否定しない、話を汲み取る、そういう話がありました。
やはり聞くスキルって大事なんですよね。特に営業という局面において、この「きく」という言葉に当てはまる漢字が3つあるなと思っています。
なんとなく「聞く」というのもあります。英語で言うと「Hear」ですね。こちらから質問をせずとも、入ってくる相手の発言をなんとなくキャッチする。
そして、この「聴く」は、丁寧に耳を傾けるとか、相手に意識を集中して聴く。これは「Listen to」という感じですね。相手に対して、きちんと聞きたいことにフォーカスを当てて質問する。これで発言のボールを相手に渡す。
そして、不明点を尋ねるとか、具体的なポイントを特定するための「Ask」タイプの質問もありますね。「これが問題だということで合っていますか?」「AとBとではどちらに近いですか?」と、どちらかというとしっかりと特定したいような質問です。
こういった「きく」をやる上での注意点があります。やはり上の空で聞いてはいけないですね。特に営業はお客さまからいい結論が欲しいですから、お客さんの発言を適当に聞き流して、結局自分が持っている結論に誘導しようとすると、これは相手にも伝わってしまいます。
注意しなくてはいけないのが、そういうふうに誘導しようと思っていなくとも、事前にシナリオをすごく考えている場合、特に事前準備をがっちりしていると、ついつい思い込みで誘導してしまったりしがちなので、これは注意が必要です。
準備をすればするほど、不足の事態にテンパってしまうことも
あと、相手のことを無意識に否定している場合。例えば「お客さまがぜんぜんできていないじゃないか。わかっていないじゃないか」となると、つい上の空で聞きがちなので注意が必要です。
そして、お客さまに即座に反論してしまってもいけないですね。想定されていた「壁」を表す台詞が出てきた場合に、カウンターで反論のトークを被せて、論破や説得をしようとしてしまう。
お客さまがおっしゃる定番の断り文句とか、本当によく出てくる典型的な言葉があると、それに対する応酬を訓練している。特に最近だと、オブジェクションハンドリングや応酬話法をしっかりとトレーニングしている人が意外と陥りやすい落とし穴です。
さらに、予想外の発言にテンパってしまうこともあります。こちらの質問に予想もしていなかった発言が来た時にどう切り返すかが浮かばず、頭の中が真っ白になってしまうこともあります。
責任感から「きちんと答えなければならない」と思いすぎてしまう場合もありますし、事前に入念な準備をしている時も、ちゃんと準備をすればするほど予想外の発言が来た時にテンパってしまうこともあるということです。こんな時は注意しなくてはなりません。