「どうしてもあなたから買いたい」と言われる営業は、時代を超えて普遍的に必要とされる存在です。では、どうやったらそんな営業になれるのでしょうか? 本イベントは、『無敗営業』『無敗営業チーム戦略』などの著者である高橋浩一氏が登壇し、営業担当者が差別化を図るための具体的なアプローチを紹介しました。本記事では、失敗確率が高い営業・低い営業の違いの違いを元に、効果的な営業活動を行うためのポイントを解説します。
営業のプロ・高橋浩一氏が講演
高橋浩一氏:それでは、時間になりましたのでセミナーを開始させていただきたいと思います。あらためまして、みなさんこんにちは。TORiX株式会社の高橋浩一と申します。本日はお忙しいところ、ご参加いただきまして誠にありがとうございます。
今日は「『どうしてもあなたから買いたい』と言われる営業は何が違うのか? ~AI時代に『営業担当者で差別化』する具体的な方法~」というテーマでお話をしてまいります。
最初に簡単に自己紹介をさせていただきます。営業の研修やコンサルティングを提供しているTORiX株式会社の代表を務めております、高橋浩一と申します。
私は外資系のコンサルティング会社で2年半ほど働いてから、2003年にアルー株式会社という人材教育のベンチャー企業(を立ち上げました)。こちらは3人で始めた会社なんですが、そのうちの1人、いわゆる会社のNo.2の立場で創業から6年間役員を務めておりました。6年経った頃には社員数が70人ほどになりました。
その中で、特に営業の育成。社内で営業人材を採用したり育成しながら、どうやってみんなが売れる営業組織にしていくか。これが一番取り組んでいたことの中心です。その中で、営業を体系化するというのは非常にパワフルだなと感じ、そして今はありがたいことにいろんなところで講演したり、本を書いたりという機会をいただいております。
さて、今日のテーマをお話ししていくにあたりまして、冒頭でこちらの問いを画面に映させていただきます。「仕事において、いつ、いかなる時も気軽に相談できるような頼りになる人はいますか?」。こちらは「Yes or No」みたいな感じでかまいませんので、簡単にチャットにコメントいただけたらと思います。
(参加者コメントを見ながら)今回はYesという方がけっこう多いですね。ありがとうございます。何といいますか、世間的には非常にめぐまれた環境にいらっしゃる方が多いのかもしれません。「相談できる人がいないです」という声も、けっこう聞いたりするものなんですが。
“いつでも気軽に相談できる人”ってどんな人?
じゃあ、Yesと答えていただいた方は特にイメージが湧きやすいと思います。「いつ、いかなる時も気軽に相談できる人って、どんな人でしょうか?」ということですね。よろしければ、こちらも一言、どんな人なのか。みなさんのお考えをチャットに書いてみていただけたらと思います。
(参加者コメントを見ながら)ありがとうございます。「レスが早い」。そうですね、レスポンスが早いと相談したくなりますね。
「心に余裕がある人」「否定から入らない」「俯瞰した視点を持っていて企画のアドバイスがもらえる」「知識量がある」「自分がやりたいことを応援してくれる」「裏表がない」「穏やかに話を聞いてくれる」「受け止めた上でディレクションをくれる」「聞いてくれる」「考えを否定しない」「気配り上手」「笑顔の人」「杓子定規ではない」「一度意見を受け入れてくれる」「話を汲み取る」「否定しない」「信頼できる」。
けっこういろんな方向からコメントが寄せられました。仕事において「いつ、いかなる時も気軽に相談できるような頼りになる人」というポジションをお客さまから認知されることにより、「どうしてもあなたから買いたい」と言われる営業になるにはどうしたらいいかということが、本日のテーマでございます。
その中で、今日は「ディスカッション戦略」というものについて掘り下げていきます。まず、そもそもディスカッション戦略って何の話? というところがあると思います。
これは私が毎週……隔週の時もありますが、セミナーを実施している中で、以前の回で「お客さまの購買プロセスに合わせて考えましょう」ということを別の場でお話させていただきました。今日、初めて私のお話をお聞きになられる方もいらっしゃるかと思いますので、ちょっとここは丁寧に補足させていただきます。
顧客の購入プロセスから考える、効果的なアプローチ
お客さまが営業から物を買う時には、こんなプロセスをたどるんじゃないかと思います。まず最初は、営業のことをそもそも知らない状態。営業から見ると、お客さまアプローチリスト上にあるが未接触。これは当然お互いに接触していないわけです。ただ、接触して連絡先がわかった状態になっていると、お客さまも営業のことを知っている状態になります。
そして興味というのは、営業が提示する情報に興味を持っている状態。営業からすれば、お客さまから拒絶されず、継続的に接触しているということになります。
その次が情報収集ですね。お客さまが購買に向けて本気度が上がってくれば、だんだんいろんな会社から情報を集め出すということです。営業からすれば、このあたりでお客さまからニーズ詳細を聞いてサービスを紹介していたりしますよね。
そして本格的に比較検討する段になったら、お客さまは各社から見積もりをもらう。逆に営業からすれば、お客さまに見積もりを出しているということになります。そして最後は意思決定ということで、発注先が決まるわけですね。
さて、お客さまが価格を目にするのはこのあたりなんですが、私が今回お題に持ってきたいのは「なるべく上流段階でお客さんに決めていただくと、たとえ提示する価格が高くとも買っていただける率が上がるんじゃないか?」という仮説です。
その中で、お客さまに興味を持っていただいたぐらいの段階でしっかり訴求するという、「ディスカッション戦略」が本日の焦点になります。
高い価格でも売れる「ディスカッション戦略」とは
「ディスカッション戦略とは何ぞや?」というところなんですが、高い価格でも売れる戦略の1つがディスカッション戦略であるということです。
お客さまからすれば、いつでも相談できる頼りになる人と共に創り上げてきたプロセスがあれば、「もうこの人と一緒に積み上げてきたことをムダにしたくないな」と思う。だったら、多少は高い価格だとしても喜んで買う。こういうのが、ディスカッション戦略の意図するところです。
どういうことかというと、ゆるい検討段階からでもディスカッションパートナーとして相談を受け、議論をしてきたということでもありますし、購買タイミングが到来する前のお客さまに対する継続フォローが実るということでもあります。
無理に売り込まず、長期目線での啓蒙活動。そして1社に時間を投入しつつも、他社へも展開する仕組みがあるからこそ、これができるということです。
これをやっていこうとすると、営業として求められるのは商品の話だけではなく、それ以前の話ができる必要がありますよね。そして継続的なフォローに時間投入をする。会社が提供するコンテンツを若干いじれる。ちゃんとしたコンテンツに整えられる。そして、将来買っていただけそうなお客さまの見極めがないと、当然ながらこの戦略は機能しません。
会社としてこの戦略を支援するなら、ディスカッション資料の元ネタを供給することが必要ですし、お客さまの課題解決について社内で議論する機会があると非常にいいトレーニングになります。そして、今すぐ買っていただけるわけではないので、「そのうち」のお客さまに対するフォローが必要になるということです。
失敗確率が高い営業・低い営業の違い
ディスカッション戦略は売り込まないことが特徴の1つでもあります。「どういうことか?」なんですが、ここに失敗確率が高い営業と、失敗確率が低い営業を並べています。
高くても買ってくれるか不明なお客さまとの商談において、とりあえず提案すると、玉砕するか保留されるかになりますね。そのうちリストが枯れてしまいます。
ただし、いきなり売り込まず、「まずはディスカッションしませんか?」というのがポイントですね。ディスカッションして温度感が上がったら提案する。見込みが不明ならディスカッションを継続する。そのうち温度感が上がってきたら提案する。
もし温度感が低いんだったら、有益な情報をヒアリングして有用なフィードバックを社内にするということです。非常にローリスクなわけですよね。
ローリスクなだけではありません。売り込みではないのでアポイントが取りやすい。そして、いざ提案をする段階になった時に、ちゃんと理解した段階で提案を作ることができる。ディスカッションというプロセスがあれば、お客さまも社内承認を上げやすいです。そしてディスカッションを重ねることによって、会社側にもノウハウが蓄積できます。
案件化前にリソースをかけることがポイント
非常にいいことがたくさんあるように思えますが、これは案件化の前にリソースをかけることですので、裏を返すと実らない案件も多いわけなんですね。どういうことか? ここに3社を並べて、ディスカッション戦略と通常の提案で比較をしてみます。
お客さまが個人的に興味を持っているが、案件化する前の段階。会社の予算がついて案件化し、各社へ提案を依頼する段階。各社からの提案や見積もりを吟味して発注先を選定する段階ということで、さっきの購買プロセスの中で3つほど切り出してみました。
ディスカッション戦略というのは、この段階(お客さまが個人的に興味を持っているが、案件化する前の段階)にけっこうエネルギーをかけるわけですよ。
要するに、会社として予算がつく前の段階でディスカッションに持ち込むことによって、いざ案件化した時は非常に有利な状態で戦う。かつ、この段階になったらエネルギーをかけずとも有利に進みやすいということになります。
なぜ有利に進みやすいかというと、上流段階の活動が有効になってくるからですよね。通常の提案は、この段階(お客さまが個人的に興味を持っているが、案件化する前の段階)からがんばるわけじゃなくて、案件化してからがんばりますよね。当然ながら、案件化していないところに対してはそんなにエネルギーを使わないことになります。
ディスカッション戦略というのはざっくり言うと、この段階でそんなにリソースをかけずとも、上流段階でエネルギーをかけることによって受注確度を上げるということです。ただし、いいことばかりではありません。ここに時間を使うということは、当然ながら無駄撃ちも増えます。
ディスカッションの3パターン
ディスカッション戦略は、先手を取れるタイミングでの接触が鍵になります。あんまりにも早すぎるとムダが多くなる。ムダって言っちゃいけないですが、結果として実らないディスカッションが多くなってしまうということです。
予算、意思決定者、ニーズ、時期、競合状況とか、いわゆるBANTC情報がここにあったとします。この時に、お客さまがあんまりイメージすらしていないような早すぎる段階だと、ディスカッションしてもそんなにいいことはないわけですね。
「ちょっと早いぐらいじゃないかな?」ぐらいで接触すると、ちょうどぴったりのタイミング。ただ、本格的に案件化してからディスカッションだと遅いよということです。
ディスカッションの3パターンがあります。「課題と解決策、どっちにウェイトを置いてディスカッションしますか?」ということです。こっち(1番上)は課題寄りですよね。何が真の課題なのか? 課題の原因はどういう構造になっているのか?
こちら(真ん中)のディスカッションは、課題はもうけっこう見えています。どんな打ち手を取れば効果的に課題解決できるようになるのかなと(検討する)。
もちろん、バランス良くディスカッションするという選択肢もあります。ディスカッションといっても、一口にはくくれないということです。
あからさまな営業ではなくディスカッションを重視
さて、ここまで簡単にまとめてみたいと思います。お客さまと共創するディスカッション戦略とは、本格的に案件化する前の段階でリスクを抑えてディスカッションに持ち込むこと。リスクを抑えてディスカッションに持ち込む。
当然ながら実らないディスカッションもあります。ただ、タイミングをしっかり気をつけてディスカッションに持ち込むことができれば、受注確率も上がる。価格競争にもなりにくいということですね。
さて、具体的にこれはどうやって進めていったらいいんでしょうか? まず、ディスカッション戦略の大まかな流れのイメージをここに示したいと思います。
ディスカッション戦略は、そんなにあからさまな営業をするというよりも、ディスカッションに重きを置きます。ですから、サービス紹介や料金プラン(の提案)にいかず、ちょっと課題意識の部分をぶつけてみる。
「当然、御社もこういうのにいろいろ取り組まれていますよね?」「いやいや、うちなんかそんなことないですよ」となったら、「もう少し詳しくうかがえますか?」と。ここでディスカッションになっていくわけですね。
例えば「その課題が解決されたら、御社の企業でも導入される現実感はありますか?」と、ちょっと温度感が高まっていったら次に進みやすくなります。
「でも、こういった領域は他社さんに頼まれているんじゃないですか?」「お願いしている会社さんがあります」「もう少し詳しくうかがえますか? その会社さんへの満足度は100点満点中120点みたいな感じですか?」と。もし120点だったら、もうつけ入る隙はありません。でも「80点ぐらいですよ」だったら、提案をする余地がありそうです。
そして、当社のアプローチをお話ししたところで、「これをさらに具体化していきたいんですが、○○さんならどんなふうにしますか?」と。ディスカッション戦略は、やはりディスカッションに重きを置きますので、お客さまからけっこう聞くわけですね。
要するに、「当社はこういうふうに考えます。ご判断ください」ではなくて、「一緒に考えましょう」というのをずっとキープしていくわけです。それでお客さまが乗っかってくれば、徐々に資料をブラッシュアップして、またディスカッションの機会をいただく。
もし前向きに進まなければ、「ちょっとこの際、踏み込んだことをおうかがいしたいんですが」ということで、なぜ響かないのかについて率直な意見をうかがうということですね。