2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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業界業務の経験豊富な「その道のプロ」に、1時間からピンポイントに相談できる日本最大級のスポットコンサル「ビザスク」。そのビザスク主催のセミナーに、『武器としての戦略フレームワーク』の著者で、國學院大学 経済学部 経営学科教授の手塚貞治氏が登壇。「アイデア創出 実践論」をテーマに、マトリックスの4つの用途や、円環化思考のポイントを解説しました。
手塚貞治氏(以下、手塚):次に、二次元化思考について見ていきましょう。
30年前、私が駆け出しの頃は、こうした二次元のマトリックスを描くと「おお、コンサルっぽいね」と言われましたが、今では誰でも書くようになり、珍しいものではなくなりました。
二軸のマトリックスを作り、そこの平面上で整理する方法です。
例えば、有名なフレームワークとして、製品が既存か新規か、市場が既存か新規かで成長の方向性を考える成長ベクトル(成長マトリックス)があります。これは提唱者の名前をとってアンゾフマトリックスとも呼ばれます。
また、SWOT分析も同様です。内部と外部、プラスとマイナスで構成される2×2のマトリックスです。このように、二次元化によって成り立っているフレームワークです。3Cや4Pとは成り立ちが異なるのです。これが二次元化の代表例です。
いろいろな用途がありますが、例えば以下の4つがあります。
1つは関係性を探索することです。これはデータ分析の基本ともいえるものです。2軸でデータをプロットして、どんな関係性が見えるのか、相関関係があるのかどうかを分析します。これはフレームワークというより、データ分析の初歩、第一歩といった感じです。
例えば、ある会社の営業パーソンについて考えます。縦軸にパフォーマンス、横軸に1件あたりの投入工数をプロットします。どんなことが言えるでしょうか。
一定のところまではどうやら相関関係があるようです。しかし、そこから先は頭打ちになります。これで何か対策が打てますね。右側の人はあまり効率の良い仕事をしていないことがわかります。
もう1つは外れ値についてです。1件あたりの投入工数が少ないのにやたらパフォーマンスが良い人がいます。この外れ値の人が他の人とどう違うのかをベンチマーキングしてみると良いでしょう。
2つめはトレードオフを考えることです。ペイオフマトリックスという言い方をします。例えば、いろんな対策を考える時に、効果が大きいか小さいか(縦軸)、実現が簡単か難しいか(横軸)をプロットします。
効果が小さくて実現が簡単なものは右下に、効果が大きくて実現が難しいものは左上に位置します。では、効果が大きくて実現が簡単なもの(右上)はどうでしょう。これが見つかれば、ブレイクスルーを目指してみんなで考えることができます。
例えば、コスト削減策を考えましょう。経費の削減として「消灯しましょう」とか「紙の再利用をしましょう」というのは、すぐにできるけど効果は大きくない、右下に位置します。
一方、業務プロセスの再設計や不採算部門の売却などは、実現すれば大きな効果が期待できますが、それなりにハードルが高いでしょう。「どういう優先順位で進めますか?」とか「ここを整理して、本当に右上に該当するものはないのか、みんなで知恵を絞ろう」といった具合に使えます。いろんな施策や対策はトレードオフになります。これを考える時に必要なマトリックスです。
次に、ポジショニングを考える場合についてです。これはよくマーケティングの分析で使われます。
例えばフィットネスクラブの例です。
フィットネスクラブにはマシンとスタジオという大きな2つの要素があります。スタジオの利用回数を横軸、マシンの利用回数を縦軸にして、どういうカテゴリーができるかを考えます。4つのカテゴリーができたとしましょう。それぞれの層がどういう属性の人たちなのかを分析し、各層に対してどんな施策が有効なのかを考えます。このように使います。
4つめは、ポートフォリオを考えることです。ポートフォリオという考え方も一般的になりました。複数の事業をどう最適に組み合わせるかを考えるために、ポートフォリオを作って整理することがよく行われます。
ボストンコンサルティンググループが開発したプロダクト・ポートフォリオ・マネジメントは1970年代に登場したものです。それぞれの事業が属する市場の成長率が高いか低いかを縦軸に、その事業の相対市場シェアがトップに対してどうかを横軸にしてプロットします。
相対市場シェアが高いとは業界トップであることを指し、低いとは2位以下を指します。このようにして各事業をプロットして整理することができます。
それぞれの事業をどう活用するかを検討します。“金のなる木”から生んだキャッシュを“問題児”にどう使っていくか、といった戦略を立てることが重要です。
ただ、「実際に使うと意外と使いにくい」という声も聞きます。その理由の1つは、業界が流動的であることです。例えば、自動車業界のように非常にかっちりした業界であれば、公式のデータがしっかりしていて市場シェアもすべてわかります。
しかし、大手企業だけでなく、ニッチな業界や中堅企業などでは、そういったデータがないことも多いです。「そういうデータがない」という会社もたくさんあるでしょう。
もう1つよく言われるのが、「先生、うちの会社右半分しかないんだけど」という問題です。業界トップシェアの事業がなければ、自動的に右半分にしかプロットされないため、“問題児”か“負け犬”しかないということになります。これでは、もともとの開発思想とは異なり、使いにくいと感じることがあります。
最近では、実務的には自社のデータを使ってポートフォリオを作成する方法がよく使われます。
例えば、その事業の営業利益率と売上高増加率で収益性と成長性を見ます。これなら、自社の管理会計データを使用するので、正確なデータが得られます。
さらに、事業の規模を丸の大きさで表現すれば、収益性と成長性に加えて、3つめの次元を表すことができます。このようにしてポートフォリオを作成することで、より実用的な分析が可能になります。
二次元化思考のポイントは、軸の設定に注意を払うことです。例えば、住居を選ぶ条件として、横軸に利便性、縦軸に駅からの距離を設定すると、同じような情報を示しているだけで、結局1列になってしまいます。せっかく二軸なのに情報が1つしかないため、あまり意味のない二次元化になります。
これは悪い例として挙げているので、「こんなの作るわけない」と思われるかもしれませんが、実務でこういった例を見ることもあります。客観的に見て、適切な軸を設定しましょう。
もう1つの例として、横軸に利便性、縦軸に眺望を設定すると、これは独立した軸になります。しかし、利便性とは具体的に何を指すのでしょうか。駅から近いこと、買い物しやすいことなどがあります。眺望が良い・悪いとは、前に緑があること、遠くまで見えることなど、人によって異なり、恣意性が入りやすいのです。
シンキングツールとして自分1人でアイデアを考える時にはこうした設定でも問題ありません。しかし、コミュニケーションツールとして他の人とディスカッションする時には、定量化された軸で考える必要があります。みなさんが納得できる軸で考えることが重要です。
4番目の時系列化思考についてはさらっといきます。これは時間の流れをプロセスで考え、モジュールごとに整理して考えるフレームワークです。そうすることで、見えてくる世界があります。
有名なところで言うと、バリューチェーンがそうです。
例えば、メーカーが開発、仕入れ、製造、物流、販売、アフターサービスといったモジュールに分けて、どんなことが言えるかを考えます。
最後は、「円環化思考」です。
先ほどの「時系列化」は、時間の流れを直線的に捉える一般的な時間の捉え方でした。それを循環するサイクルとして整理すると、新たなものの見え方ができるのではないかという考え方です。
代表例を3つ挙げます。
1つ目は短期サイクル、2つ目は長期サイクル、3つ目は相互作用するシステムです。3つ目は少し複雑なので後で詳しくお話しします。
1つ目の短期サイクルとして有名なのは「PDCA」です。Plan(計画)、Do(実行)、Check(確認)、Act(改善)を繰り返して改善を続けるサイクルです。重要なのは「PDCAサイクル」という言葉です。Plan、Do、Check、Actを繰り返し、ぐるぐる回しながら少しずつ改善して成功に導く考え方です。
「PDCAは古い」として、アンチテーゼとして出てきたのが「OODAループ」です。まずObserve(観察)し、Orient(状況判断)、Decide(意思決定)、Act(行動)します。これも「OODAループ」と呼ばれます。Actして終わりではなく、再び観察し、状況判断、意思決定、行動を繰り返します。現場で絶えずこれを繰り返すことで成功に近づく考え方です。
つまり、PDCAに対するアンチテーゼとしてOODAループが紹介されましたが、思考パターンとしては同じ発想です。「サイクルで回す」「ループで回す」ということが重要です。1回やって終わりではないというメッセージがあります。
スタートアップでよく言われる「リーンスタートアップ」もこの考え方に基づいています。
アイデアを持ち、まずは実用最小限の簡単な試作品や絵コンテを作成します。それをお客さまのもとに持って行き、意見を聴き、データを取ります。「ここは良かった」「ここは駄目だった」と学習し、アイデアを練り直して再度構築します。
このサイクルをぐるぐる回すことで、スタートアップが成功に近づくのです。まさしく円環化思考によって成り立っている考え方です。
次に長期サイクルについてです。もっと長いレンジでものを見てみましょう。哲学者のヘーゲルは「歴史はスパイラルに進化する」と述べています。これが弁証法です。
哲学を使わなくても、ビジネスモデルの変遷にも同じことが言えます。例えば、イノベーションの進化のスパイラル。破壊的イノベーションなのか、持続的イノベーションなのかという点です。
破壊的イノベーションはすっかり有名になりました。持続的イノベーションは、現在のお客さまに寄り添い、高付加価値化を進めることです。一方、破壊的イノベーションは、簡便でまったく異なる新しい価値を提供します。
これは1回で終わるものではありません。例えば小売業で考えると、百貨店は高付加価値化を極めました。それに対して、低コスト化を目指したのがGMS(量販店)です。しかし、GMSもお客さまの声を拾い、高付加価値化を進めていきました。
次に、1990年代になるとカテゴリーキラーという低コスト化の新たな業態が登場します。カテゴリーキラーもお客様に寄り添いながら徐々に高付加価値化し、その後EC、ネット販売が登場しました。こうして100年のサイクルで見ていくと、業態が行ったり来たりしていることがわかります。
つまり、このような見方をすると、長期サイクルの構造を大局観で捉えることができます。「今のビジネスモデルはどの段階にあるのか? これは過去の繰り返しではないか?」と考えることができます。
このようにして、今後の未来予測も可能になるかもしれません。「現在のビジネスモデルはこれだが、どんどん高付加価値化が進むと、次の低コスト化が見えてくるのではないか?」といった予測が立てられます。
短期サイクルではなく、長期サイクルで何十年、100年という単位で物を見ることが、新たな新規事業開発にも重要です。
最後は、相互作用するシステムについてです。これはピーター・センゲの『学習する組織』で提唱された「システムシンキング」の考え方です。「あらゆる事象は、すべてが相互に複雑に作用し合うシステムである。要素間の相互作用をループ図として捉えることができる」というものです。
「システム思考」だけで膨大なセミナーができる内容なので、今日は思考パターンの1つとしてご紹介にとどめます。
例えば、ジェフ・ベゾスが創業時に紙ナプキンに描いたビジネスモデルの説明があります。
品揃えが増えると、顧客体験が豊富になり、トラフィックが増えます。販売する人が増えると、さらに品揃えが増え、グッドサイクルが回ります。
一方、低コストの構造ができると低価格で提供でき、顧客体験がさらに豊富になり、またグッドサイクルが回ります。ベゾスは「システム思考」という言葉を知らなかったかもしれませんが、直感的にこうした考えを実践していたのです。
しかし、現実は単純に良いサイクルだけが回るわけではありません。例えば、飲食店で販促活動を増やすと来店客が増え、売上が増え、利益が増えます。利益が増えるとさらに販促活動に投資できます。良いサイクルが回るように見えますが、実際には複雑です。
来店客が増えると混雑し、待ち時間が増え、不満が増加します。不満が増えると「もう行かない」という人が増え、来店客は減ります。このように、さまざまなループが相互に絡み合っているのです。
システム思考は、こうした複雑なループを考慮して解決策を見出すアプローチです。環境問題や少子高齢化などの難しい問題も、こうした複雑なループの中で捉えることが重要です。このようにループ図を使って問題を分析し、解決策を考えるシステム思考は、私が提唱している円環化思考の1つの事例です。
最後は円環化思考のポイントです。時間の流れを循環サイクルと捉えることで、世界の見え方が変わり、行動も変わります。
例えば、システム開発のスタイルです。昔は要件定義をして、設計し、開発し、テストし、リリースする「ウォーターフォール型」が一般的でした。これは直線的な時間感覚で行われるもので、時系列化思考によって成り立っています。
「これではうまくいかないのでは?」ということで、ぐるぐる回しながら開発を進める「アジャイル」が登場しました。これはまさしく円環化思考によって成り立っているのです。思考パターンを変えると行動や戦略も変わるのです。
さて、最後に本日のまとめです。フレームワークとは、人間が認識し発想するために必要不可欠な前提です。フレームワークに当てはめれば答えが出るわけではありませんが、何もないと人間は認識や発想ができません。
数多くのフレームワークは、5つの本質的な思考パターンに集約されます。この本質的な思考パターンを理解することで、応用が効くようになります。フレームワークを多面的に活用できるようになると、発想が広がり、行動が変わります。本日お伝えしたかったことは以上です。ご清聴ありがとうございました。
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