2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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「AIとビジネス」をテーマに、業種業態、部署の垣根を超え、産業を活性化するヒントを得るためのビジネスカンファレンス「Gen AI EXPO」(主催:弁護士ドットコム株式会社)。今回は、生成AIのエヴァンジェリストとして活躍し、「深津式プロンプト」を編み出し世に広めた深津貴之氏が登壇した特別セッション「ChatGPT活用術」の模様をお伝えします。プロンプトエンジニアリングで稼げない2つの理由や、人間の脳と同レベルのAIが誕生するタイミングなどが語られました。
田上嘉一氏(以下、田上):どんどん変わっていくので、僕なんかは追いつけないんですけども。AIが進化して自分の壁打ち相手から分身まで至った時に、今後、我々人間はどういったことが必要なのか、どういったスキルを身につけていくのがいいんでしょうかね。
深津貴之氏(以下、深津):まあ、暇な時間を楽しく遊んだりするスキルが重要な気がしますけどね。
田上:(笑)。
深津:やることがなくて耐えられないことが苦痛にならないスキルは、すごく重要かもしんない。
田上:なるほど、遊ぶスキル。
深津:「私やっとくんで、あんた遊んでて」と言われた時に寂しくならないのは、けっこう重要なスキルな気がしますね。
田上:なるほど。とはいえ、やはりAIが出てくると、ステレオタイプのように「仕事を奪う」って話が出てくるじゃないですか。どれぐらいが失業するとか。そういうことを考える時に、我々凡人は「じゃあ何しよう」って思っちゃうんですけど。生き延びるサバイバルスキルとしてこういうのやっとくといいよってあります?
深津:仕事が「なくなる」というか仕事が「変わる」のが大半で。雇用がなくなるんじゃなくて、雇用Aがなくなった分、余った人を異動させて雇用Bが発生するというのが基本だとは思うので、そんなに心配しなくてもいいんじゃないかと思います。
逆に備えなきゃいけないという意味だと、自分の雇用がなくなった時に、別の雇用に速やかに定着したり慣れたり、マスターする能力、流動性が高い人材になることはけっこう重要度が高いかな。
田上:そういうことですよね。マクロで見れば、確かに「雇用Aがなくなって雇用Bが生まれるから、全体としては仕事あるよね」なんですけど。
深津:そうそう。ミクロで言うとね。
田上:Aにいる誰かが、すぐBに行けますかと言うと難しい。
深津:あるいは業界Aの中で神だった人が、いきなりAの仕事がなくなって。業界Bに行ったら普通の人になった……こんな時に耐えられるかというのはあったりしますね。
田上:確かにね。序列が変わっちゃう。本当、ある意味で革命が起きるという感じですよね。
深津:革命が起きるような。
田上:その流動性というか、滑らかに動くためにやっておくべきことって何なんですかね。
深津:僕個人の哲学で言うならば、スキルセットを普遍化することですかね。要は、その業界ドメインに特化しすぎた知識、特に肉体的な修練が大きすぎるスキルの割合を減らして、業界Aから業界Bに異動しても使えるスキルに振るのが重要度が高いと思います。
田上:我々弁護士はちょっと特化し過ぎているから、意外と衰退も早いんですかね。
深津:弁護士さんで具体的な例を言うと、事例とか法律を暗記することの価値は極めて小さくなると思います。一方で、説得力のあるトークを堂々として、周りの人を動かすスキルというのは、たぶん営業に異動してもCEOに異動しても、YouTuberに異動しても役に立つんで、そっち側を高めるほうがいいのではないかなと。
田上:それが普遍ということなんですね。ちょっと説得力、コミュニケーション力を高める練習をします。
ちなみにChatGPTが出てきた時に、それこそ深津式プロンプトというかたちで、これからはプロンプトエンジニアリングが稼げる仕事だってなったじゃないですか。
深津:いや、僕は稼げない仕事だって言っているんですけど、世間的には稼げる仕事だってなっていましたね。
田上:あれってどう思います?
深津:いや、ないと思いますよ。
田上:それはなんでですか? 自由に魔法を使える呪文使いというふうに取り上げられているじゃないですか。
深津:2つありまして、1つは知識として覚えりゃ済む話で、単純にプロンプトを暗記するというのはすぐ普遍化してしまう。前例のない部分で高度なプロンプトを構築できる能力は価値があると思うんですけど、それも一度構築して入力したら、もう普遍化して価値がなくなってしまうので。
田上:うーん、難しい。
深津:要はすぐ溶けて消えちゃうナレッジやスキルのフィールドだと思うんですね。
田上:ああ。陳腐化が早いということですね。
深津:陳腐化が早い。1年や2年しないうちに、ダメなプロンプトをChatGPTが自分でいいプロンプトに直してから実行することとかが起きると思うので。
田上:人の呪文どおりに動かないと。
深津:そうそう。例えば原発でロボットコントロールするプロンプトを開発するような、すごく高度な専門職だったらスキルセットとしては残ると思うんですけども。
田上:そうですよね。
深津:普通のチャットボットを作るためのプロンプト程度では、1年もたないと思うので、僕は「お父さん、今日から仕事辞めてプロンプトエンジニアになっちゃうぞ」というのはやめたほうがいいと思いますね。
田上:深津式プロンプトはあれだけ流行りましたけど、今はちょっと過去形。深津式プロンプトの文章自体は、コピーして入れていけば誰でも使えるもので、だからこそ大流行したっていうのもありますけど。それを編み出す上流工程がやはり重要なんだろうなと思って。
深津:あれは一度編み出したら、ちょっと変えて「なんとか式」とか誰でも作れちゃうんで、そんなお金にはならないですよね。
田上:プログラミング自体はどうなっていくんですか? エンジニアの人たちは。
深津:中長期で見たらば、ChatGPTとかCopilotと一緒にやっていくことになるので、やはり上流工程の指示出しとかテクノロジー基盤の採択の責任を持つところは人間のままではあるけれども。
大きな流れとしては、3年後か5年後かわかんないですけど、スターバックスとかマクドナルドの注文みたいに、ChatGPTのほうから「キャラメルマキアートのホイップをなんとかにしますか?」「中身をソイミルクに変えますか?」という提案がくるようなノリになっていくと思うんで。
田上:今まではソイとか人が選んで作っていたのが、ChatGPTの提案を受けて「じゃあそれで」って。
深津:そうそう。店員さんが「ソイおいしいですよ」って言ったら「じゃあソイで」という感じになっちゃうと思います。
田上:意思決定自体もそんなに考えがいらなくなっちゃうかもしれない。
深津:そう。その時にプログラマーに必要なのって、「グランデって何だっけ? とかを知っているかな」ぐらいの能力とか、あるいは「ソイって何だっけ?」という、コードそのものを知っているかどうかぐらいで済んじゃうかもしんないですよね。
田上:そしたら誰でもできる感じになっちゃうんですかね。
深津:うん。ある程度までは。
田上:ある程度は。
深津:そういう意味だと、すべての人間のポジションは、「お金持ちが専門家を呼んできて、作業してもらう」に近い程度の内容になってくると思います。
田上:そうか。
深津:僕、よくテクノロジーの革命の話で、10年前にお金持ちがやっていたことが最終的に庶民に落ちてくるって言うんですけど。じゃあChatGPTが何かと言うと、前澤友作さんとかイーロン・マスクぐらいお金を持っている人が、すごいエンジニア連れてきて「俺、こういうコンピュータが欲しいんだけど作ってよ」って1億円ボーンと渡して作ってもらうということが、月額2,500円でできるようになるという世界。
田上:めちゃくちゃ民主的じゃないですか。
深津:お金の価値や意味が減りますよね。
田上:あと、話を聞いていて思ったのは、人間の能力って一定差があるじゃないですか。すごいコードを書く人もいれば、そうじゃない人もいる。生成AIの発展によって、知的な生産において、持って生まれた能力や訓練して身につけたスキルの差があまり生まれにくくなるんですか?
深津:だんだん大きく減ってくると思います。
ただ、根本的な能力として前に進むことができる人とできない人、0を1にできる人とできない人っていうんですかね。いわゆるイーロン・マスクや前澤友作さんみたいに「やりてぇことあったらやるぜ!」って推進できる人なのか。
新潟の奥地の山を100個ぐらい持ってるほどお金持ちなんだけど、寝っ転がってYouTubeしか見てない人もいるよねという。お金を持っていてもお金を有効に使えるかどうか。
田上:そうですよね。前に駆動させるフロンティアスピリットがある人は、そういう力を借りてどんどん進む。
深津:それがあるかないかだけの世界になってきそうな気はしますね。
田上:最後はマインドなんですね。
深津:そうですね。駆動力と、駆動に対するリスクヘッジ力というか。リスクヘッジもAIに聞きゃなんとかなると思うんで。
田上:そういう意味では、持って生まれた差とか貧富の差というスタートはわりとフラットになって、一歩踏み出せる力のある人がガーンと抜けちゃう。
深津:と思いますが、ぜんぜん違うシナリオもあり得るかもしれないです。僕はそっちがわりとあり得るとは思うんですけれども、1個だけそれを阻むものがありまして。電力問題とGPUの大きさの問題です。すべての人がフラットにAIにアクセスできるんだったら、今言ったみたいな世界になると思うんですね。
田上:なるほど。
深津:けど、実際はGPU、AIを動かすチップの数が限られていたり、この世で供給できる電力の量が限られてますよね。そうすると、チップと電力にアクセスできる人が強くなるということになると、やはりお金持ちが強くなっちゃうんですよ。
つまり、僕は月額2,500円のGPT-4で生産性が100倍になりました。前澤さんは5億円かけて“GPT-45”をブン回して、生産性が1兆倍になっています、という。
田上:めちゃくちゃエネルギー使って。
深津:「課金 is 知性」という感じになる可能性もありますね。
田上:じゃあ、エネルギーの時代から情報の時代とかデータの時代って言っているけど、なんだかんだエネルギーの時代がまだ続くのかもしれない。
深津:エネルギーの時代は続きそうな気がします。
深津:サム・アルトマンやマイクロソフトが「核融合やろうぜ」「原発やろうぜ」とかやっているのは、AIのエネルギー問題を見越して次の種まきをしてるんじゃないかな。
田上:だから、めちゃくちゃ価値が安くなって、誰もが無尽蔵にエネルギーを使えるようになったら。
深津:みんなにイコールで届く。
田上:じゃあ、やはりうちらも核融合やったほうがいいっすね。
深津:核融合やったほうがいいっすね。
田上:(笑)。
深津:みんな核分裂と核融合の区別がついていないから、「核融合は怖いもんだ」と思ってますけど、核分裂と核融合は違いますからね。
田上:水しか出てこないですもんね。確かに、まだ人間はそこまでやってないけど、太陽は核融合で動いているから。
深津:そうそう。サム・アルトマンはたぶん、GPT-4でGPT-5を作るんだけど、GPT-5に核融合の研究をさせたり、GPT-5でGPT-6を作ってGPT-6に核融合の計算をさせたり、そういうことをやってくると思いますね。
田上:それ、いわゆるシンギュラリティ(自律的な人工知能が自己フィードバックで改良を繰り返すことで、人間を上回る知性が誕生するという仮説)じゃないですか。それって深津さん的にいつ来るとか予測できます?
深津:もうこんなの運の話だからわかんないですよね。偶然と運が重なるとして、10年あれば足りるんじゃないですか。
田上:じゃあ、やはり2035年って言った人はけっこう近いという。
お話は尽きないんですけど、お時間がきたということで。先ほどマインドの話とかありましたけども、最後にご覧の方々に向けて一言メッセージをいただければと思います。
深津:AI系の話の時には常に言っているんですけど、触らないとわからないものですし、それこそiPhone発明以上の、100年に1度のビッグウェーブなので、もはや触ってなきゃ損だとは思います。今一番楽しいのは飛び込むことだと思うんで、とりあえず飛び込んでみるといいんじゃないでしょうか。
田上:飛び込んでみる。道頓堀みたいな感じですね。
深津:道頓堀みたいという感じで。
田上:深津さん、今日はありがとうございました。
深津:ありがとうございました。
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