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すべての「伝わらない悩み」はひとつの方程式で解ける! 「伝わる」コミュニケーションの原則(全3記事)

“伝えたいのに伝わらない人”に欠けている1つの意識 編集のプロが教える、コミュニケーションの大原則

スタートアップカフェ大阪で開催されたイベントに、編集家の松永光弘氏が登壇。多岐にわたって「人、モノ、コトの編集」に取り組んでいる松永氏が、著書『伝え方』の内容をもとに、ビジネスの交渉時や上司・クライアントに対してなど、すべての「伝わらない悩み」の解消方法を紹介。本記事では、「伝える」という行為のメカニズムについて解説しています。

編集家・松永光弘氏が語るコミュニケーション術

財前英司氏(以下、財前):本日の華麗なるゲスト、松永光弘さんにご登壇いただきたいと思います。松永さん、どうぞ。みなさん拍手でお迎えください。

松永さんのプロフィールは、ここ(スライド)に書いているとおりですね。有名なデザイナーを含めて、松永さんは編集者として本当にいろんな出版物の企画をされていて、かつそれを形にされてきたんですよね。

どちらかというと(これまでの仕事は)裏方が多かったんですけど、本の編集に留まらず、今は「編集」という考え方をもって、企業の顧問編集家として活動されていたり、いろいろなプロジェクトにも関わって幅広く活躍されている方です。では、松永さん、よろしくお願いします。

松永光弘氏(以下、松永):どうぞよろしくお願いいたします。「華麗なる」とまで書かれて、ちょっとどうしようかなと思ったんですけど……みなさんそこは忘れて、我に返っていただいて。

さっそくお話を進めていきたいと思います。今日は「『伝わる』コミュニケーションの原則」というテーマでお話をさせていただきます。

あらためまして、編集家の松永と申します。どうぞよろしくお願いいたします。

「なにをもってかえろう?」という視点が大切

松永:今から講演をさせていただきますが、最初に1つお願いしたいことがあります。ここ(スライド)に書いていますが「なにをもってかえろう?」ですね。

僕の編集仕事の大先輩で、すごくアートが好きな方がいらっしゃるんですね。その方はいつもアート展……アート展って言わないか(笑)。よく展覧会に行かれているんです。

アートの見方は人によっても違いますし、僕自身も興味があるところなので、ある時、「どんな気持ちで(展覧会を)見に行かれているんですか?」と、その先輩にうかがったら、「展示されているアート作品のうち1つ持って帰れるとしたら、どれを持って帰ろうか? という目で見てる」という答えが返ってきたんです。

家に持って帰る、つまりは自分の家にそれを置くわけだから、そうすると自分に引きつけて見ることができるようになるとおっしゃるんですよ。今日は僕のお話を対象に、(参加者のみなさんには)それをやっていただけないかなと思っております。

別に、今日の話の筋のとおりの気づきでなくてもぜんぜんいいと思うんですね。例えば、「今日はスライドが青い字だったな。あれ、悪くないな」と思っていただいたら、それを持って帰っていただいても……「持って帰る」といっても、スライドを盗むって意味じゃないですけどね(笑)。

メモして「あれもいいね」と言っていただいてもかまいませんし、場合によっては「青はダメだね」でもいいですし、ちょっとした気づきで構いませんので、何かを持って帰ろうという視点で見ていただけたらなと思います。そうすると、気づきを得やすくなると思うんです。

逆に言えば、持って帰れなかったら「ちょっと負けたな」ぐらいの気持ちで見ていただけるといいかなと思います。これを意識していただけるとうれしいです。

「編集者」から「編集家」へ

松永:では、始めます。まずはわりとしっかりと自己紹介させていただきます。松永光弘、「編集家」と名乗っております。

1971年の大阪生まれです。ですから関西人ですね。今は関西弁でしゃべってませんけど、普通に関西の友だちから電話がかかってきたら「なんやねん」と出ますから、ちゃんとバイリンガルです。ですが今は、なんとなく公式な場なので我慢しております(笑)。

一言で言うと、「編集」という考え方を使っていろいろやっております。といっても、本を作るということではなくて、もっと普遍的な意味での「編集」です。

「編集」という考え方、思考法を使っていろんな企業活動を支援したり、地域活動に入っていったり。そこで、人やモノ、コトの編集をやっています。

具体的にどんなことをやっているのか。これから具体的に僕自身のお仕事の話をさせていただきますが、今日のテーマにつながる自己紹介になっていますので、面倒くさいと思わないで聞いていただけたらうれしいです。

先ほど、普遍的な意味での編集を活かしているとお話ししましたが、最初はいわゆる「編集者」という、本を作る書籍編集者から入っています。

書籍編集者として手がけてきた数々の作品

松永:例えばどんなものを作ってきたかというと、クリエイティブディレクターの水野学さんのブランディングデザインに関する本などはその1つです。『「売る」から、「売れる」へ。水野学のブランディングデザイン講義』ですね。

ほかには『新しい買い物』という、無印良品さんの思想の一端を示したような本を作ったり。

広告業界にはバイブルとして愛読してくださっている方が特に多いのですが、今は東京コピーライターズクラブの会長でもいらっしゃるコピーライター谷山雅計さんの『広告コピーってこう書くんだ! 読本』という、コピーの書き方の本を作らせていただいたり……。

ちょっと変わり種では、この本、『新約「ドラえもん」』。何年か前にドラえもんの3DCGの映画がありましたが、その原作本です。

あるいは、広告会社の博報堂のあるチームのブランディングとして、新書のレーベルをプロデュースしたりもしています。ん? ちょっと違うな。あ、出版社が出していた新書シリーズの中に博報堂さんのレーベルを新たに作った、ですね。

だいたい色使いの派手な本が多いのですが(笑)、いろいろ作ってます。なんとなく色使いが派手で、文字が多いのが僕の本の表紙の特徴ですね。別に狙ったわけじゃないんですけど、結果的にそうなっていました。

ジャンルとしては、広告とかデザイン、いわゆるクリエイティブ系と言われる本をたくさん作ってきました。そういう「本づくり」が、僕の仕事の側面の1つです。

「顧問編集者」として企業アドバイザーも務める

松永:ほかには教育事業。事業と言うとちょっと大げさですけど、教育に関する取り組みや活動にも携わっています。

社会人向けの企画学校をプロデュースしたり、あとは横尾忠則さんや富野由悠季さん、養老孟司さんといった人たちにおいでいただいて、仲間と組んで、美大と一緒に自分の個性を問うような講座を作って、ナビゲーターをやったり。

他にも、今日はその一味の方がいらしてますけど(笑)、富士通Japanさんと一緒に地域向けのコミュニケーションを学ぶ学校を作ったりもしています。

……仕事の話、だいぶ長くなってきましたね(笑)。すみません。でもこれ、あとにつながるのでもうちょっとだけ我慢してくださいね。

気を取り直して話を続けますが、先ほど財前さんからお話があったように「顧問編集者」として、企業のアドバイザーを務めたりもしています。

例えば、大阪大学発のThinkerというベンチャーがあるんですが、ロボットハンドのセンサーを作る企業です。こういう企業のブランディングや広報などの発信について、独立した立場で助言をしてもいます。

顧問編集者としては、もう8年くらい、複数の企業のアドバイザーをさせていただいてます。

形は違えど、すべての仕事の共通点は「伝える」こと

松永:で、ようやく最後の話ですが(笑)、何冊か自分の本も出させていただいてます。

たくさんのクリエイターと付き合って見えてきた発想のメカニズムを説明した『「アタマのやわらかさ」の原理』という本や、これは編著なんですが、クリエイターのみなさんに「どんなふうにアイデア考えてるんですか?」と聞いて、本にまとめた『ささるアイディア。』という本を出したりしました。

それから、これは今日はしっかりお見せしなきゃいけないんですけど(笑)、最近出させていただいたのが『伝え方 伝えたいことを、伝えてはいけない。』という本です。

あと、noteというブログみたいなものがありますが、そこで記事を書いたりもしています。ほかには講演や研修もやっておりまして、企業やいろんな大学で話したりもしています。

……みなさん、お疲れさまでした(笑)。これが自己紹介なんですが、本づくり、教育事業、ブランディング支援、広報、各種発信、講演・研修、出版・執筆と、もっとほかにもいろいろやってはいますが、主なところで言えば、ぼくはだいたいこんなことをやっています。

どうしてこれが、今日のお話にとって大事なのかというと、これは全部「伝える」仕事なんですね。しかも、形やスタイルはぜんぶ違っています。でも、やっていることが本当に違っているのかというとそうでもなくて、本質の部分は同じなんです。僕がやっている仕事は全部、「伝える」です。

実はそうやっていろんな「伝える」に関わってくる中で、「ああ、ここが共通しているな」と見えてきたこと、わかってきたことがあります。今日はそんな「伝えるコミュニケーションの原則」について、お話しさせていただきます。

作詞家・松本隆氏が語った「表現」の本質

松永:まずはここから始めます。伝える、伝えると言うけれど、そもそも「伝える」って何なのか。みなさんの「伝える」のイメージとしてあるのは、おそらく「こっちにある情報を、こっち側に受け渡していく」みたいなことなんじゃないかと思います。

例えば、(スライドの)この図のように、人やモノ、物事や状況、意見などがあったとして、それを受け手となる人に対して届けるのが、「伝える」の基本的なイメージですよね。でも、本当のところはちょっと違うんじゃないかなと僕は思っています。

『赤いスイートピー』などの作者として知られる、松本隆さんという作詞家がいらっしゃいますが、ある本の中でこんなことをおっしゃってます。「表現というのは現実の縮図です」。

ポイントは「縮図」の部分です。表現というのは現実そのものではないんですね。あくまで現実の縮図、つまりは小さくなってるんです。

松本さんは続けて、こうもおっしゃっています。「現実は曖昧模糊としているけど、それを全部は書かないで、一部に凝縮させる」。松本隆さんは、伝える時にこんなふうに考えていらっしゃる。

現実は曖昧模糊としている。もやもやしているけれども、それを全部書くわけじゃない。一部に凝縮させるんですよとおっしゃっている。偉大な松本さんに対して失礼な言い方ですが、これは本当に芯を食っている指摘だなと僕は思います。

伝えるとは「届ける」前に「解釈」がある

松永:何が言いたいのかというと、さっき「(伝えるというと)ある対象を相手に届けるというイメージを持つ人が多い」という話をしましたが、実際はそうではないということなんです。

人、モノ、物事、状況、意見など、対象はなんでもいいんですけど、伝える時にまずやるのは、それを「解釈」すること。受け手に届ける前にまず解釈して、意味や価値をつけているはずなんですよ。

例えば、今日ここにいらして僕の話を聞いていただくじゃないですか。それを誰かに伝える時に、1時間の話をまるっと全部、話したりはしませんよね。

「おもしろかったよ」「○○の話だった」とか、まずは自分なりの「縮図」を作るはずです。伝える時って、必ずそうやって解釈するところから始まるんですよ。

伝えようとする物事から、価値や意味を取り出して、それを届けるのが実際の「伝える」という行為なんです。

対象から価値や意味を取り出して、受け手に届けて受け入れてもらう。これが「伝える」の、一番基本の姿なのではないかなと僕は考えています。

2人のセールスパーソンで例えた「ビジネス寓話」

松永:もう少しかみ砕いてお話ししましょう。「南の島を訪れた2人のセールスパーソン」というお話をご存じでしょうか? (会場を見渡しながら)あ、意外と知られていないみたいですね。

話はこうです。ある時、靴の販売をしている2人のセールスパーソンが南洋の孤島を訪れます。ところが上陸してみると、島の人たちは全員裸足で歩いているんですね。

すると、その状況を見た1人目のセールスパーソンは、本社に次のように報告しました。「ダメです。靴は売れそうにありません。この島には靴をはく習慣がありませんから」。

そうですよね。裸足で歩いているということは、靴をはく習慣がないのですから、靴なんて欲しがりませんよね。1人目はまさにそう思って報告したわけです。

それに対して、もう1人のセールスパーソンはこう報告しました。「チャンスです。まだ誰も靴をはいていません。いくらでも売れます」。

これも確かにそうですよね。誰もまだ靴をはいていないのなら、市場として大きなポテンシャルがあるとも言えます。

話はこれだけです。このお話はビジネス寓話としてよく引用されるのですが、ほとんどの場合は「同じ状況でも、捉え方1つでポジティブにもネガティブにもなる」という教えの例として出てきます。

「伝える」コミュニケーションの基本形

松永:でも、僕はこのお話からは「伝え方」を学ぶこともできると思っています。それが、先ほどお話しした「まず解釈してから届ける」ということです。

セールスパーソンの2人は、「島の人は全員、裸足で歩いている」という「現実」に直面しているわけですよね。でも、「本社」に向けて、それをそのまま届けているわけではありません。

伝える時に、1人目は対象を自分なりに解釈して、つまりは「縮図」にして、「靴が売れない場所だ」という意味を与えてから、それを届けています。そしてもう1人は、「靴が売れる場所だ」と意味づけて、それを届けている。

こんなふうに、「伝える」時には、状況をそのまま伝える・届けるわけではなくて、いったん解釈が入るんです。「対象」から「価値や意味」を取り出して、「受け手」に届けて受け入れてもらう。これが「伝える」の基本の姿です。

伝わらないコミュニケーションに“足りていないもの”

松永:例えば、僕のやっている仕事の1つとして、最初に「本づくり」をあげましたが、それに当てはめるとどうなのかというと、「伝える対象」としているのは、「著者の知見や専門の領域の知」です。

だけど、それをそのまま届けるわけじゃなくて、そこから価値や意味を取り出して、特定の知見、特定の情報へと絞ってから届けます。僕の本(『伝え方』)でいうと……対象となっているのは僕、松永が持つ経験や知見です。

そんなに大した経験や知見があるかどうかわかりませんけど、それでもいくつかあります。その全部を届けるわけじゃないんですね。この場合は「伝え方論」に絞って、価値や意味を与えて、それを届けているのが、まさにこの本(『伝え方』)です。

(スライドにある)学校の場合ならどうかというと、対象は専門家が持つさまざまな知見や経験など、いろんなものがあります。

その中から講座に必要な、地域のコミュニケーションに関連する知見にしぼって届けているのが、この学校です。

こうしてみると、全部が「対象」から「価値や意味」を取り出して「受け手」に届けて受け入れてもらう、に当てはまりますよね。これが「伝える」の基本形です。

この基本形の中で大事なのは、なんといっても「解釈」の部分です。さっきの話のセールスパーソン2人で言えば、それ以降の届け方なんてほぼ同じなわけじゃないですか。解釈の部分が違うから伝わるものが違っているわけなので、ここが一番大事なんです。

でも残念ながら、何かを伝える時に、ここをしっかり意識する人はそう多くはありません。あまり意識しないでざっくりと対象を届けようとするから、うまくいかなくなる。

でも、自分で解釈した上で届けていくと、うまく伝えることができるんですね。ここ、めちゃくちゃ抜けがちなんですけど、「伝える」の一番の要の部分です。

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