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組織と個人の能力を最大化する「目標管理」の失敗と成功(全4記事)

数字の話を嫌う人が多いのは“詰められている感”があるから 目標設定の4象限から考える、組織と個の「共通認識」の重要性

スタートアップエコシステム協会が運営する、スタートアップの成長に必要なイノベーションを推進する人材・組織開発にフォーカスした研究プロジェクト「Startup Culture Lab.」。今回は「組織と個人の能力を最大化する『目標管理』の失敗と成功」と題し、組織開発に係る有識者をゲストに迎えたトークセッションを開催しました。本記事では、「数字」に苦手意識を持つ人が多い理由をひもときながら、目標設定をする際のポイントを解説します。

「数字」を悪者扱いしている会社は多い

広瀬好伸氏(以下、広瀬):OKRやMBOとかいろんな話ありましたが、設計をする上で、いずれにしても数字は使うと思うんですよね。「Objectives」ではどっちも数字が出てきます。

(今日の参加者は)経営者の方が多いと思うんですが、経営者の方が考える事業全体のKPIを含めたモデル・構造と、KPIの設計と、評価で使うものがその中のどれなのかという設計がうまくリンクしていなければ、うまくはまらないなと思うんですね。

どっちがどっちというわけではなくて、両方セットで設計・運用していくべきなんだと思うんです。「こっちだけ」というふうになってる会社が、ちょっと多いかなという気は若干していますね。

あとはさっきの4象限について、私がずっと数字を扱ってる人間なのでよく思うシーンとしては、確かに左上(ノルマ管理型)と右下(人間性偏重型)は多いなと思うんですね。その時に、数字を悪者にされてる会社が多いなと思うんです。

数字が嫌いな人って、ぶっちゃけ世の中に多いんですよ(笑)。みなさんはいいかもしれないですけど、みなさんの会社にいる人が全員(数字が)好きかと言われると、そうではないと思ってます。

なんでそうなるのかな? と思った時に、僕なりには「数字が悪いんじゃない」と思ってるんですね。

「数字の話」に苦手意識を持ちやすい理由

広瀬:例えば、僕らは日本語でしゃべっているんですけど、日本語みたいな「言語」が数字だと思っていて。その日本語に感情を乗っけて「お前なぁ」とか言うから、言葉の色が赤くなったりするわけですよね。なので、数字自体は真っ白だと思っていて、そこに感情を乗っけるやつが悪いと僕は思ってるんですね。

要は「ノルマ管理型」だと上長がすごく怒って詰めるとか、感情を乗っけるから数字を嫌いになる人が多い、みたいなシーンが多いと思っていて。

右下(人間性偏重型)は右下で、数字を下げている人はそういう気がちょっとある。なので数字を悪者にするのではなくて、運用のマネジメントでうまくできないのか。

各論になるんですけど、うちの会社で僕が数字の話をする時は、聞いてる人間に詰めていると思われると嫌なので、「あなたを詰めるわけでは決してない。ただ、ビジネスだから、ここの差分が何なのかはちゃんと事実を解明して改善していきたいから、ちょっと話をするね」と、断りを入れてからしゃべるようにはしてるんですね。

うわっとしゃべると「詰められてる、詰められてる」って絶対に思われると思うので、僕自身は注意してます。ちょっと各論なんですが、そんなことを思いながら聞いてました。

加藤史子氏(以下、加藤):ありがとうございます。

なぜ『ティール組織』はヒットしたのか

加藤:「優しい管理職はダメだ」みたいな雰囲気の4コマ漫画が出てくるので、それはこの右下を警告している……? 

坪谷邦生氏(以下、坪谷):識学さんは、「人間性にだけフォーカスしてしまって『人間性偏重型』になってはならない、『葛藤克服型』に行くべきだ」と言っていると私は解釈してます。

業績を求める「厳しさ」も大事だという話でもあり、「数字に負の感情を乗せるな」という意味では、広瀬さんと同じことを言ってるようにも感じます。

時期としては、日本でティール組織が流行したあたりで、識学さんの『リーダーの仮面』がヒットしたのですよ。ティール組織って、一見「人間偏重型」に見えると思いませんか?

加藤:ティール組織って「全員並列」みたいな。

坪谷:広瀬さんの話にも1個被せたいのですが、『ティール組織』は、組織にも「発達段階」があるという概念を持ち込んだ書籍です。ノルマ管理型はティールで言うオレンジ「達成型」組織に近いのです。

それで、オレンジ(達成型)の次にはグリーン(多元型)やティール(進化型)という違う組織の世界観があるっていうのが、フレデリック・ラルーの書いた『ティール組織』なんですね。

これは、「あなたたち、今はオレンジで苦しんでいますよね。でもその先には違うパラダイムの組織の型があるんだよ」という、”希望の書”だと私は捉えてるんですね。で、それが10万部を超えるベストセラーになったわけです。

業績や数字には“会社の使命”を乗せることが大切

坪谷:「すごいな、これがこんなに売れるんだ」って驚いていたのですが、その時に識学さんの『リーダーの仮面』がさらにその流れを追い抜いて行ったのですね。

本の中には「昨今、ティール組織やほらクラシー組織など、新しい組織の概念が流行しました。しかし、それらを今の会社組織のまま当てはめると危険です」」と書いてあります。

『リーダーの仮面』は「達成型(オレンジ)で本気で勝たなければその先はないから、リーダーは仮面をつけて本気でオレンジを追いかけろ」と言ってる本だと私は理解しています。ですので、そういう意味では「ノルマ管理型」を本気でやった上で、「葛藤克服型」に近づくことを主張しているように読めます。

パッと読んだ人には、ティールは人間性偏重(右下)の世界観に見えるんですが、本当はティールも葛藤克服型(右上)なんです。

広瀬さんの話に戻りたいんですけど、私は個と組織・主観と客観の4象限を統合することが大事だと思っています。さっき広瀬さんは、右下の「業績」、組織の客観に変な感情が混ざることでうまく伝わらないという話をされたと思います。

私の考えだと、うまく回らない時にはこの4象限に分断が走っていると思ってるんですね。(だから)「業績」と「使命」をつなぐ必要がある。

「業績・数字を上げることによって、うちの組織の主観、使命、ミッションが叶う。だからやるんだ」というところにつなげていかなきゃいけない。ですので、数字に「怒りの感情」を乗せるんじゃなくて、「使命と意義」を乗せることが必要なんじゃないかなと。

この図では「理念」と書いてるんですけど、理と念、ロジックと感情を合わせたものが「理念」です。理念によって使命を、数字・業績に込めるべきだというのが私の考え方です。被せました(笑)。

広瀬:そうだと思います。

坪谷:よかった(笑)。ありがとうございます。

KPIは各部署でバラバラに設定されがち

広瀬:組織としてのビジョンから、業績につなげる時のKPIの設計をうまくやればいいなと思ってるだけなんですけど、逆に使命と被せづらいなと思うシーンがあります。つなぐ時にありがちだなと思うのが、各部署でバラバラにKPIが設定されがちだと思っていて。

自分が組織全体の中のどこをやってるのか、設計されてるKPIの中で、今後は全体的にどういうビジョンに向かって数字が動いていくのかというロードマップが、いまいちわからんまま点だけ見せられてる状態だと、どうしても左側(主観)と右側(客観)がつなぎづらいと思うんですよね。

坪谷:おっしゃるとおりです。縦は「強み」とのつながりなんです。個の客観の「強み」ですね。ピンポイントで数字だけ追えと言われると、どうやって強みを発揮していいかわからないんですよね。ですので、ひょっとしたらそのやり方なら縦も切れている。

ビジネスモデルを分解して、バリューチェーンを担ってるそれぞれの人が集まって「さぁ、どこにどうフォーカスする」と話し合わなければ、良い組み立てができないので「強み」とも切れてしまう。そこに意義を込めなければ、「使命」とも切れてしまうと思います。

広瀬:そう思います。

坪谷:ありがとうございます。

会社全体で共通認識がないと、社員は“迷子”になる

広瀬:よく例えるんですけれど、車に乗ってドライバーをやってる人が社長だとして、助手席と後ろに2人座っていると。

例えば、僕が右後ろに座っているとするならば、自分が見えている景色は右後ろの窓からの光景だけなんですよね。なので、全体がどこに向かってるのか、今どこにいるのかはわからない。

ドライバーに見えてる景色をみんなが見えてないと、いまいち共通認識を持てない。要はカーナビが今後のロードマップを指し示してるわけですけど、そのロードマップをドライバーしか見てないとするならば、「今後、俺ってどこに進んでいくの?」「今、何やっていいのかもよくわからんな」みたいなことになりがちだなと思ってて。

なので共通認識を持つには、みんなが同じ景色を見るのが非常に大事かなとは思ってます。

坪谷:ありがとうございます。組織の客観、業績の全景をちゃんとみんなで見ようという話だと捉えました。

加藤:なるほど。酒井さん、いかがですか。

酒井哲也氏(以下、酒井):当然ですが、組織の規模やステージによって変わってくると思います。大きな組織になればなるほど階層ができて、先ほど広瀬さんがおっしゃっていたように、自分のやってることが何につながってるかわからないことがあります。

理念、物語、自由、貢献とか、それぞれの接続において……私は先ほどから「運用」と言ってますが、組織が大きくなるほど「何にこだわってやってくのか」がとても大事です。

自分の仕事と会社の使命を「つなげる」必要性

酒井:私たちは1,000人超える会社ではありますが、月に1回全員で朝会をやっています。

自分たちがやってることが、どう使命につながってるのかという自覚化や、認識をどのようににつなげるか。この接続をステージ、ステージによってどう考えるのかが、とても難しいなと思いながらやっていますね。

坪谷:ありがとうございます。まさに今のは、組織の主観の「使命」を個の主観の「夢」にどうつなげるかという話でした。ここでは「物語」と書いたんですが、物語を共有していくための1つとして、朝会をされてるのかなと思いました。共体験ですね。

加藤:リクルートに入社して人事評価をされる時に、「Will-Can-Mustシート」というのを書いたことがあって。

Willは私個人がやりたいことで、Canが私個人ができることで、Mustは「お前は給料をもらってるんだからこれをやれ」ということ(笑)。「3つの円の重なりを大きくしていきなさいよ」って新人の時に言われたんですよね。近いですか?

坪谷:それは「キャリア・アンカー」という、エドガー・シャインという心理学者の考え方なんですが、この図でいうとWillは「夢」ですね。Canは「強み」、Mustが「業績」。つまりWill-Can-Mustには組織の客観「使命」の視点が抜けているのかもしれません。

組織の主観について扱えてない。この部分を扱うことができたら、もっとうまく回るのではないかというのが、私の主張ですね。

加藤:なるほど、よくわかりました。ありがとうございます。

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