2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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マーク・ロベルジュ氏(以下、ロベルジュ):こんにちは、マーク・ロベルジュです。Sansan Evolution Weekに参加できて大変光栄です。みなさんにとって実りある時間となればと思います。
僭越ながら、こちらのテーマについて話をしたいと思います。まさに私の専門であり、ずっと関わってきたこと、「デジタル時代で勝つ営業組織」です。
私はHubSpot社のチームを立ち上げる初期、組織運営者としてこの分野の経験を積みました。今はハーバード・ビジネス・スクールで教えています。これまで関わってきた企業は何百社にもなり、規模もさまざまで、地域も異なります。その経験をみなさんとシェアできる場があることを大変うれしく思っています。
この分野に関わり始めたのは20年前で、私が初めて営業組織のリーダーになった時です。学ぶことが私の生きがいなので、少なくとも毎週5パーセントを自己啓発に充てるように努めています。
当時は、さまざまな営業リーダーを昼食やお茶に誘っては「どのように営業組織を成長させるのか?」と聞いていました。正直に言うと、返ってきた答えには疑いを持っていました。多くの人が「簡単なことだ」「人を雇ってノルマを課すんだ」と言うだけでした。
疑いを持ったのは、私にエンジニアの経験があったからです。私はMIT(マサチューセッツ工科大学)でとても定量的なプログラムを受けていました。なので彼らのやり方はまったく予想外で、もっと科学的にすべきだと思ったのです。
そこで、数年かけて顧客獲得システムを策定しました。それをこれから紹介します。そしてこのシステムは、購買プロセスであるバイヤージャーニーと、買い手をそのジャーニーに導く営業活動に基づいています。
詳細を説明します。システムのインプットは2つ。私たちが創り出す需要と採用活動になります。システムは弾み車のように動きます。営業職の人々への指導と報酬がその軸となり、しっかり営業活動として出力されるのです。例えば、会議やデモや提案といったかたちです。
そこから予測が可能になり、さらに予測どおりの収益が生まれていきます。これこそが今日ひもといていきたい「仕組み」です。そして、みなさんの会社において、成果につながりやすい領域の特定や最適化ができる取り組みを通して、ぜひ2023年を飛躍の年にしてください。
この仕組み構築の基本テーマの1つとして、まず各要素を説明します。営業プロセスと需要創造戦略と雇用の方程式には、共通の回答はありません。私は、どういうタイプの人を営業として雇うべきかや、的確な方法論などは、断言できません。これらの要素は、企業の文脈に沿って最適化する必要があります。
文脈とは、誰に何を売るのかということや、企業が重要視していることなどです。また、日本・インド・オーストラリアのどの地域か、スタートアップか大企業か、などもです。考慮すべき側面は企業ごとに異なりますが、みなさんの状況に合わせて活用、最適化できる枠組みを紹介します。
もう1つのテーマは、この20年間の劇的な変化です。このイベントの主たるテーマは、私たちが体験している「データ革命」です。1980~1990年代で変わったデータの獲得方法やその扱い方を説明します。
買い手が力を持ち始める、という大きな変化も起こっています。営業担当者が大きな主導権を持っていた時代は、移り変わりつつあります。営業からしか購入できなかった時代から、買い手が主導権を握る時代に移行しています。営業を介さず購入できることが多くなったのは、インターネットによる大きな変化です。サブスクリプションやエコノミーモデルもあります。
さらに、ここ数ヶ月間で急に現れた4つ目の変化があります。それは、人工知能(AI)の影響です。その影響力を正確に予測するのは時期尚早でしょう。まさに私が研究に力を入れているところです。
ただ、確信を持って言えるのは、これから説明する仕組みのテクニックは、AIが使おうが人間が使おうが、その事実は変わりません。私たちが組織内でAIについて考える時、これらの要素を念頭に置きながら、従来のマーケティングや営業の方法とは異なる、「今日における最適な方法」に向けて挑戦する必要があります。
では、まず採用プロセスから見てみましょう。みなさんで少し考えてみてください。私がよく企業に話し合ってもらうことです。「営業採用において何を求めますか」。積極性、自尊心、説得力、反論への対応能力や説明力でしょうか?
ここで少し過去の話をさせてください。HubSpotで最初に数人を採用した時のことです。8人目だったと思いますが、大企業で最も成績の良かった営業担当者のスカウトに成功しました。800人の営業チーム内でトップの人でした。
当時、私たちはわずか20人規模の会社でした。その人が来てくれることが信じられず、実際に入社した時にはいろいろ学べる、と興奮しました。オールスターと仕事をする気分でした。
しかし驚いたことに、半年後のその人の成績は中程度でした。小さなチームなのに1位ではなかった。私は理由がわからず当惑しました。
そして、その人がいた会社の状況が、私たちとは大きく異なることに気づきました。この時は「企業のステージ」が違いました。その人がいた企業は創業30年の大企業で、価値提案や製品については非常によく知られていました。
その人が、ブランドも販売している製品カテゴリーもまったく無名の会社に入ったのです。想像できると思うのですが、この2社の営業課題を考えると、適切な採用方針が大きく違うのは当然です。
この経験から気づいたことは、ある企業に出向いて最適な採用方針を指摘するのは無理だということです。状況によってそれは異なります。売るものがジェット機にせよ、スーツにせよ、分析ソフトにせよ、的確な人物像は1つに絞れません。
状況に合わせる必要がありますが、最適解を出すにあたり、使えて、そして最適化できる公式があります。
私が関わった企業や営業職を採用する責任者の90パーセントが、採用面接をする直前に面接の準備をしています。応募者の履歴書を読むわけですが、その上で面接のほとんどの時間を履歴書や経歴書をたどることに費やしています。これではダメなのです。
それを正す簡単な方法があります。5~10の必要な属性を書き出すのです。企業の状況に合わせて、成功に相関する技術や知識をあげてください。時間をかけて作ってください。単に「コーチング力」というものではなく、それが何を意味するのか、2~3文で定義します。
また、各属性のスコアの意味も時間をかけて定義します。これを各属性に対して行います。すべてを見せられませんが、イベント主催者にスライドを提供するので後で見てください。何かヒントがあるかもしれません。
スコアカードができたら、面接後にそれに沿って点数をつけるルールを作ります。驚くかもしれませんが、1年に3~4人の営業職を雇うだけだとしても、この構造化された方法を使えば、平均的な採用責任者と差をつけられます。また、組織内で制度に関する知識を積み上げることができ、会社にとって理想的な営業職の“定量的公式”が完成します。
これにはチェックプロセスの実装が必要です。例えば6ヶ月前に営業担当者を4人雇用したとしましょう。今なら彼らの良し悪しがわかります。
6ヶ月後の現在、サラの営業成績がトップなら、その理由を考えます。どの資質が営業に貢献しているのか。その資質はスコアカードに表れていたでしょうか。なければ、その資質を追加します。
フレッドはいまいちです。なぜフレッドの成績は振るわないのでしょうか? 作ったスコアカードに表れていたでしょうか? なければ、表を更新します。初めから完璧なスコアカードを設定できる人はいません。
採用と結果の反映を、3~5四半期ほど繰り返すと、会社に最適な公式へと洗練されるでしょう。これは取るべき重要なプロセスです。
属性の仮説を立てるアイデアのヒントになるように、回帰分析の結果をお見せします。これは私が行った評価分析で、HubSpotの初期の2年間に採用した数十人の分析結果です。
右に伸びている青色の太線が、成功と強い相関がある資質です。左側の太線は成功と負の相関がありました。準備力や適応能力や知性が成功と強い相関があるのが興味深い点でした。
これらは優れたコンサルタントを表す典型的な能力で、必ずしも優れた営業担当のものとは限りません。反論への対応力や説得力や交渉力などは負の相関を示していますが、これらは営業担当を形容していると私は思います。
つまり、買い手、少なくともHubSpotは一般とは違う営業担当者を求めているのです。求められているのは、賢明で助言ができ、押しが強くない人です。この分析から、必要な営業担当者のタイプがとてもよくわかりました。
これは営業担当者を評価する団体OMGによる分析です。これは200万人の営業担当者の評価を分析したものです。126ヶ国の200業界にまたがり、調査年数は数十年以上に及びます。
ここには、評価した属性それぞれの平均点が示されています。開拓力の平均点は57です。成績上位10パーセントと下位10パーセントの平均点も示されていて、上位は緑色、下は赤色です。
ここでは緑と赤の差の大きさを見てください。開拓力のように緑と赤の差が大きい属性が、上位と下位の差を生み出しているのです。開拓力はそうですが、人脈は違います。接客販売力はそうですが、顧客に合わせたプレゼンは普通。緊急性を伝える力は絶対的です。繰り返しますが、これは手引きです。
そして、企業が最も犯しやすい過ちがあります。営業職の採用経験が浅い人は、特に「業界の経験」を重視しすぎてしまいます。製造業界であれば、製造畑の営業担当者を雇おうとします。これが期待ほど機能しないことは、多数の分析が証明しています。
経験は害ではありません。ただ、私たちはそれを重要視しすぎて、営業の基本的技術を過小評価してしまうのです。
これが起こる原因を深掘りする前に、HubSpotでの私の活動を評価の視点から説明しましょう。私が上位にあげた属性は、コーチング力、好奇心、知性、職業倫理、実績の5つです。
みなさんに贈るプレゼン資料に、私の評価方法を含めようと思います。質問内容やその質問をした理由がわかるでしょう。これは正解ではありません。ヒントです。着想を得て、ご自身で作ってください。
私が一番気に入っているのは、この最後の部分です。ロールプレイをしてもらい、自己評価をさせます。私は良い点と改善点を伝え、もう一度ロールプレイをさせます。これは営業担当者の評価プロセスで最も効果的だと思っています。この発表の後で確認して、プロセス作りの参考にしてください。
では次に、営業プロセス構築の話に移りましょう。私はよくいたずら心で、どちらが営業担当者に見えるか聞きます。左側のお金が大好きないい男か、右の親切な若い女性か。左の品のない葉巻男か、右の頭の切れるソートリーダーか。悪魔と医師ならどうでしょうか?
おもしろいことに、Google画像で営業担当者を検索すると、出たのはすべて左側の画像です。右側は出てきません。おかしいですよね。
私たちは「営業」という職種を生み出しました。そして、社外で社の代表として潜在顧客と接する担当者たちは、「金に飢えた下品な悪魔」と見られているのです。「親切で知性のある専門家」ではありません。
これは変わりつつあります。買い手は展示会に行き、営業担当と交渉したりしません。現代の買い手はインターネットを使って優れたベンダーを探し、レビューや評価を見たり、他社のユースケースやフィードバックを把握できます。ネット上で製品を試せる機会も多く、買えることもあります。
すると、こんな疑問がわきます。「営業担当者はもう不要では?」と。今のところまだ必要だと思いますが、古い気質の営業ではない、違った資質が必要です。
この分析を見てください。これはゴング社が作成した報告です。私は株主ではなく、興味深いソフトウェア企業だと思っているだけです。彼らはAIを使って営業電話を評価しました。700ものさまざまな企業の数十万件の営業電話に関する分析結果だったと記憶しています。
ここから、優秀な担当者は最初の営業電話で話す時間が短いことがわかります。半分以上の時間は顧客が話すのです。成績が悪い担当者は電話中に話してばかりいます。
これは営業のための標語です。「売ることは、すなわち買うことだ」。営業とは、優れたプレゼンで人を操ったり、説得したりすることではありません。営業とは、買い手の賢明な決断を助けることです。営業とは、買い手の視点を理解し、自分が助けになれるかを判断することです。
それが歩むべきプロセスです。マシンガントークの営業はやめましょう。それは“口が大きく耳が小さいワニ”の営業です。しっかりと聞き、優れた質問をするのです。そうすれば、この図の上位の人になれます。
私たちリーダーが起点になるプロセスもあります。マーケティング部門やセールスイネーブルメント部門、製品マーケティング部門から、営業担当者に売り方を教えます。
営業担当者に営業方法を教える場合、多くの人が左側のように内から外へのアプローチを取ります。製品の特長や機能は何か、利点や顧客価値は何か、その組み合わせ方や見せ方。これらを営業担当者に伝え、宣伝を頼みます。
これが、マシンガントークをするよう仕向けているのです。これが分析の下位の人の行動です。話す時間を少なくとも半分以下にするよう心がけてください。外から内のアプローチでは、「製品で何ができるか」ではなく、「買い手が持つ視点」に目を向けるのです。彼らの優先事項は何か。優先事項をどのように語っているか。3大課題は何か。3大機会は何か。
どう教育すれば、担当者はこれらに注意を向けるようになり、それらを理解し、その目的を自社の製品に結びつけられるでしょうか。それができれば、買い手は私たちが役に立つ存在であることを理解します。
検討すべき事項の1つに、トレーニングがあります。営業のトレーニングでどれほど製品やプレゼンについて教えていますか? 反対に、買い手の立場で彼らの仕事を理解するよう、トレーニングでどれほど教えていますか?
HubSpotの営業組織のトレーニングの大半が、マーケターの視点を持つ訓練でした。ブログ記事を書いたり、SNSのアカウントを開かせたりしました。ランディングページを設計させ、対象購買者の立場に立つことを教えました。共感力を磨くと、優秀な営業担当者になります。フレームワークをいくつかお見せします。これは後でご確認いただけます。
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