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第1029回 仕事に効くパワーワード『逃げて逃げて逃げまくったらここにいた』(全1記事)

「やりたい」は浮かばないのに「やりたくない」はたくさん出る… キャリア相談で気づいた、人間の“嫌いセンサー”の確度の高さ

日本最大のビジネススクール「グロービス経営大学院」が、ビジネスパーソンに向けて、予測不能な時代に活躍するチャンスを掴むヒントを配信するVoicyチャンネル「ちょっと差がつくビジネスサプリ」。本記事では、「徹底的に逃げてゴールに向かう」という考え方が語られました。 ■音声コンテンツはこちら

表現や言い回しの大切さ

中村直太氏(以下、中村):グロービス経営大学院の中村です。このコーナーでは、心に響いた言葉をシェアしながら、仕事やキャリアに役立つヒントをひも解いていきます。

今回の言葉は、「逃げて逃げて逃げまくったらここにいた」です。みなさんはこの言葉、どのように受け取られたでしょうか?

「仕事に効くパワーワード」というタイトルで、しばらく話をさせていただいていますが、パワーワードは、一度聞いたら耳から離れないような言葉とか、事あるごとに頭に浮かぶ言葉として使っています。

ですから、どのような言葉がパワーワードになるかは人それぞれですし、同じ人でも人生で置かれている状況やタイミングによって、心に響く言葉は変わってくるはずです。

いつもみなさんにお届けさせていただいているのは、私がそのタイミングでパワーワードだと感じた言葉にすぎません。そんなことをわかりつつ、いつもお付き合いくださり本当にありがとうございます。

しばらくやってきて思うのは、私にとっては整いすぎたストレートな言葉よりも、手触り感のあるやや雑な言葉のほうがパワーワードになりやすいということです。

例えば、人の幸せのために行動できる人間に近づきたいと思い、「利他」という言葉を大切にしたいんですが、利他的であろうと思って「利他」という言葉を思い出しても、なかなか思うようにいかないわけですね。

そして、こんな言葉に出会いました。「自分だけ腹いっぱい食べて幸せか?」。私にとっては、この言葉のほうがよっぽど強く利他的な心を呼び起こしてくれます。

他にも、腹いっぱい食べないほうがいいとわかっていながらも食べてしまう時に思い出すのは、「お腹が空かなくなったら食べるのをやめる」という言葉です。沖縄の方に教えていただいた言葉ですが、「そうか、そういう考えもあるのか」と感心させられました。

私にとっては「腹八分目」という言葉よりも「お腹が空かなくなったら食べるのをやめる」という言葉のほうが、食べ過ぎを予防する効果があるように思います。

徹底的に逃げてゴールに向かうという考え方

少し遠回りとなりましたが、今回の言葉も手触り感のある、やや雑な言葉であることが、私にとってのパワーワードである理由ではないかと思います。あらためて、今日の言葉は「逃げて逃げて逃げまくったらここにいた」です。

どなたの言葉かわかりませんが、例によってメモが残っていて、あらためて見返し、感じ入るものがありました。おそらくこの言葉からは生き方のリアルが感じられたのだと思います。

一般的には理想のゴールを掲げて、そこに向かって近づいていくような生き方をよしと考えがちですが、実際に人生を生きてみると、そんなものではないということがよくわかります。

そもそも、そこまで計画的に行動しているわけではないですし、やってみたら想定と違うこともたくさんあります。「これは嫌だな」と思ってしまうこともありますし、結果として、逃げたいと思うこともあるわけです。

ただ、逃げるという行為はあまりよしとされていないので、周りからは「逃げないほうがいい」と言われたり、自分も「逃げないほうがいいのかな」と思ってしまいます。でも本当にそうなのでしょうか?

「逃げて逃げて逃げまくったらここにいた」。そんなゴールへの向かい方もあるのだと気づかせてくれます。

例えば、私の話で恐縮ですが、大学は理系分野に進学したものの、周囲の9割以上がエンジニア就職をする中で、どうしても自分がエンジニアの道を進むイメージを持つことができず、文系就職で人材系の企業にお世話になることにしました。

その選択は逃げだったとも言えるかもしれませんが、結果として今、教育やキャリアリーダーシップ開発、コーチングなどに携わり、人の可能性を信じて引き出すお手伝いをするお仕事にたどり着くことができました。私の場合、文系就職をしたことが、キャリアの最初の分岐点になったと思っています。

主観にすぎませんが、私は今の生き方をとてもラッキーで幸せだと思っています。「逃げて逃げて逃げまくったらここにいた」という感覚に、私はうっすらと共感できるんだと思います。

キャリア相談で気づいた、人間の“嫌いセンサー”の確度の高さ

また、コーチングやキャリア相談などで対話をする中でも、本来、人のセンサーは、好きより嫌いのほうが正確ではないかと実感することがよくあります。対話の中で、やりたいことを1つも挙げられない方でも、「これはやりたくない」ということがたくさん挙がることは珍しくありません。

「好き」はイメージで表層的に考えることが多いんですが、「嫌い」は体の感覚にひもづく深層的な反応だと聞いたことがあります。「生理的に嫌い」という言葉があることからも、そうなんだと思います。

そう考えてみると、もしかしたら「逃げる」というセンサーのほうがあてにできるのでは? とも思えてきます。

「逃げる」の感覚に基づく消去法的な選択は消極的だと捉えられがちだと思いますが、徹底的に逃げることに徹していけば、「残された場所が自分の場所である」「たどり着いた仕事が天職だと思える仕事である」、そんな生き方もあるんじゃないかなと、この言葉は思わせてくれます。

この先、思考停止で逃げちゃダメだと思い込むことがあった時には、「逃げて逃げて逃げまくったらここにいた」という言葉を思い出して、冷静に判断していければと思っています。

まとめます。あらためて、今日の言葉は「逃げて逃げて逃げまくったらここにいた」でした。

手触り感のあるやや雑な言葉ほど、パワーワードになりやすいという導入から入って、逃げて逃げて逃げまくるからこそ、たどり着ける場所があり、そういう生き方もアリなんじゃないかという仮説を考えてみました。

こんなことも考えられるかもしれません。これまでの人生の中で、逃げた結果、うまくいったことはありますか? 逃げることをどのように人生で役立てられそうですか? ピンとくることがあれば、ぜひ考えてみてください。

今回も、最後まで聞いていただき、ありがとうございました。

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