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中小企業発の看板ヒット商品を生み出し続ける仕掛け人の「建築思考」とは?(全5記事)

新しいビジネスは「一点突破」か「一網打尽」 「変数」からアイデアを生む、ビジネスデザイナーの考え方

ローンディール主催の連続起業家との対談イベントより、ビジネスデザイナーの今井裕平氏をゲストに迎えた回をお届けします。大ヒットを記録したウェアラブルメモ「wemo」など、会社の強みを活用して看板商品やサービスを生み出し続けている同氏。「建築思考」をテーマに、新しいビジネスを生み出す思考法について解説されました。

新規ビジネスは「一点突破」か「一網打尽」

細野真悟氏(以下、細野):質問がきていますね。

村上静香氏(以下、村上):質問ありがとうございます。今井さんへの質問です。「一定の試行錯誤によって経験値を積まないと、最後のチューニングはできないと思うのですが、コンサルとしてはどこまで手がけられていますか? そこは顧客の自走ですか」。

今井裕平氏(以下、今井):いえ、顧客の自走にすることはほぼないです。もう一蓮托生でやります。

細野:最後まで。

今井:はい。なので「向こうがこんなことやったらこれぐらいのコストがかかるかな」とか、特に物を作るとか金型を修正するとか、そういうことも全部わかった上で「それでもやりましょう」とお伝えしたりする感じですかね。ひょっとしたらちょっとしっかり答えられていないかもしれないんですけど。

細野:ありがとうございます。

村上:ありがとうございます。みなさん、質問もぜひこんな感じで投げていただければと思います。

細野:もう、Q&Aを待たずしてどんどんぶち込んでいただいて大丈夫なので、みなさん。

村上:よければQ&Aというほうのツールを使っていただけるとうれしいかなと思います。よろしくお願いします。

今井:お願いします。

細野:そうそう、もう1個聞いてみたかったのは、今井さん。さっきのスライドで、僕、一網打尽、一点突破の4文字熟語2つがもう好きすぎてたまらないんですけども。

今井:いや、わかります。

細野:逆に言うと、それ以外うまくいかないんじゃないかって思っているぐらいで。要は1個1個の課題とかをなにか1個の打ち手で解こうとすると、費用対効果が合わなかったり、その打ち手のせいで次の課題がまた出てきちゃったりとか、モグラ叩きになるケースがけっこう多くて。

良い新規ビジネスとか、「いいね!」というものって、もう一点突破か一網打尽か、もしくは両方。一点突破によって一網打尽するか。今あらためて漢字で見て、これ以外狙っていないんじゃないかぐらい思ったんですけども、そうでもなかったりしますか? 今井さん。

今井:振り返ると、結果的にそうなっているというほうが近いかなと思っているんです。狙いに狙って一点突破で、とかというのは実はやっていなくてですね、それぞれの課題で考えながら、「いや、これは良いアイデアかも」って思ったやつが、結果的に解けているというほうが多いかもしれないですね。なので、どっちかというと判断軸に使っているかもしれないですね。

1個の課題だけでなく、「複数の変数」を頭に乗せておく

細野:そうですね、確かに。さっきの、もともと「おもしろいかどうかから考えていく」って、僕らは概念的にああいうこと言っていますけど、たぶんさっきのお茶のやつも、「2,000円のなんて」って言われて「レンタルにすればええやんけ!」と思った瞬間に、ユニークネスがパキッとハマったみたいな感じかなって思ったんですよね、結果的に。それまで「ちょっと、いけると思うんだけどいまいち足りないな」ってたぶん今井さんは思っていて。

今井:そうですね。

細野:それで積み重ねて、「いや、ペットボトルに対抗するのはこういうやつだよ」「2,000円だよ」「高いですって」と言われて、「じゃあレンタルすりゃいいじゃん」と言って初めてユニークネスが完成したみたいな、最初から狙ったわけじゃないというのはそういう感覚でおっしゃっているのかなと今思いましたね。

今井:そうですね。あとは、デザインをやっているんで、実はここのカウンターとかも中途半端なスペースやったんです。ここをどう使おうかとか、ここに刺すと通行者は全員目止められるじゃないですか。

細野:うん。しかも斜めなのがこれまたいいですよね。

今井:そうなんです。だから、1個のことだけ考えていたというよりも、店頭をどうしようかとか通行する人をどうしようかって、これは別で考えていたりとかしているんですね。だから複数の課題をそれぞれで考えていて、それで「このボトルはこっちにも使えるやん」とかというのもあったりとかですね。

細野:なるほど。

今井:なかなか言葉にするのは難しいですね。

細野:いやでも、その感覚って実はすごい大事だなと思っていまして、これだけの課題を、これはまだ書いていない課題がいっぱいあると思うんですけども、それを一網打尽、ある程度、もちろん取りこぼすのもあるんですけど、7割方ぐらいは一網打尽にできるアイデアの時に「いける」とたぶん感じられると思うんですけど。

その複数の要素を、なんだろうな、考え続けるというか、メモリに乗せ続けるのですが、いわゆる「初めて新規事業をやります」みたいな方とか、「初めてプロダクトを考えます」みたいな方って1個のことを解こうとしている気がするんですよね。

その差って実は僕らが無意識にやっている部分でいうと、複数の変数をずっと頭に乗っけたまま、「どうやればこの串で縦に通せるのか」みたいなことを考えるというのが1つポイントになりそうだなというのは今日あらためて思いました。

“毒になるインタビュー”の経験

細野:いっぱい質問がきていますね、村上さん。

村上:はい。今のところで今井さんに質問ですね。「ユーザーインタビューはほとんど実施されないということでしたが、実施するとデメリットがあるということでしょうか? 企画初期で実施するとユニークさがなくなってしまうのかなと思うのですが、企画後半では確度を上げるために必要なプロセスかと思っていました」、匿名の方、ありがとうございます。

今井:確かに(笑)。

(一同笑)

今井:デメリットというのは総合的な判断として、特に前提として僕はもの作りのほうが多くて、中小企業でという中でいくとあまりメリットがないというのが正確なお答えですね。今度確度を上げるために必要か、確度が上げられるならもう絶対やったほうがいいというのは、これは間違いないです。なので、細野さんが書籍で書かれているような、もうクイックに予算10万円でしたっけ? 10万円以内でやるみたいなのができるんだったら僕もやると思います。

それが例えば店舗デザイン、さっきの店舗デザインみたいなもので、ヒアリングが、インタビューが、効果的なインタビューができるのかとか、あと今はもうIoTの、デジタルプロダクトみたいなのをやっているんですけど、実物がない中でどれだけ聞いても買ってくれるかどうかはわからへんよなみたいなとか、その葛藤も踏まえ、なかなかこの後半でも難しいなと思っています。

細野:なるほど。いや、これでもあれですよ、変な聞き方して「ユーザーはこう言ったのに売れなかった」みたいな経験を僕とかたぶん今井さんはいくつかしていて、だから「こんなインタビューだったらするだけ毒だ」みたいな。

今井:そうですね、まさに。

細野:そこなんですよ。みなさん顧客に聞くことがとにかく良いことだという1本筋しか考えていないんですけど、あのね、聞いた結果の声を信じて失敗したという経験があると、「あの聞き方じゃ意味ないんだな」みたいなのが蓄積されたりしているのかなという気がします。

今井:まさにそうですね。

細野:そうなんですよ。だから聞くべきか聞かないべきか、みたいな二元論じゃなくて、うまく意味がある聞き方できるんだったら聞くし、できないなら無理やりやっても儀式になっちゃうだけで、お金とコストが、お金と時間がかかるだけなのでやらないという今井さんのお話しだったのかなと思いますね。

広報が企画の初期段階から関わる時の注意点

今井:そうですね。なので細野さんの書籍とか、プレトタイピングって本当に初めて知って。

細野:めちゃくちゃ推してくれるじゃないですか。みなさん、この書籍なんでよろしくお願いします。

『リーンマネジメントの教科書(日経BP)』

今井:リアルな具体例を挙げられていたので、とても腑に落ちました。素直に自分も「やってみよう」と思いました。

細野:ありがとうございます。どんな内容なのかは本を読んでいただければと(笑)。

今井:(笑)。

村上:時間があったら、後でもうちょっと細野さんに解説してもらいましょうか。すごいおもしろい質問、ありがとうございました。そしてウスダさん、私に質問ありがとうございます。

「企画の初期段階から関わることを広報の立場から見てどう思いますか? 企業の広報部のポジションを変える発想だと思います。ウェルカムですか? やりたいですか」ということで、これはちょっと、えっとですね、広報の方の誰に相談するかのタイプをちゃんと見極めることがけっこう大事かなと思いました。

私の場合、私だったら例えば、これは自分の会社の大事なプロジェクトだから、もう一緒にぜひ盛り上げたいという気持ちを基本的に持っている、そういう広報の人だったりすると、けっこうやわやわな状態で持っていっても、すごく前向きな意見とかディスカッションができて有意義じゃないかなと思います。

でも一方で、たぶん大企業だと事業部があっていろんな広報の相談が持ち込まれる中だと、そのやわやわから入るのはちょっと負担すぎるみたいな場合もぜんぜんありうると思うので、そういう場合はさっき今井さんおっしゃっていたみたいに、1回リリースというかたちに起こして持っていって、「このワードいいね」「これちょっと響かなそうだよ」みたいな添削をしてもらうという、そういうレベル感だったらけっこう相談に乗ってもらいやすいかなと思いました。

大丈夫でしょうか?

細野:これはでもあれですね、大企業の広報の人って基本的にはリスク回避のミッションを相当強く負っている方が多いので、例えばNDAを結んで、社外のそういうポジティブな広報の方をプロジェクトに初期に入れてやるというほうが僕は良い気がします。大企業で言うと相談した瞬間負けな気がします。

ユニークネスに振りすぎたアイデアと社会の“調整役”になれる

今井:いやでも、僕もそう思いますね。別の大手さんとやっているやつも、結果的にフリーのプランナーの方に入ってもらっていますからね。

細野:そうですよね。

今井:でもそれは別に広報の方も良しとしていて、自分たちができるところとできないところがあるからみたいな、わりとポジティブでしたね。あと持って行き方で言うと、村上さんとかはね、リリースに慣れていると思うんですけど、あれは慣れていない人はけっこうハードルが高そうに見えるんですよ、実は高くないんですけど。

それでいくと、その具体的なアイデアと、あとはこの領域分野、例えば女性活躍のところで、このアイデアでPRしようと思うんやけど、ポテンシャルはある? ない? とか。そういうのでも、そういうのというか、僕はそんなふうにいつもコミュニケーションを取っています。

村上:ありがとうございます。確かにそうですね、そういう感じでもきっと良いアドバイスがもらえると思います。新鮮でした。私に質問、ありがとうございます。

細野:いやいやでもね、村上さんとよく僕が作ったプロダクトに関してのPRの相談とかするんですけど、作った本人って思い入れがあったりとか詳しすぎるんで、うまく世の中と接点取れないところを、村上さんが「それだとちょっと伝わらないのでこういうふうにやりませんか」とか言ってくれるんで、「あー、確かに」みたいな。

ちょっとユニークネスに振りすぎて誰にも伝わらなくなっていたなみたいなところの、これをちゃんと調整できるのが、言っていただけるのはすごいありがたいなと感じますね。

今井:そうですね。

レゴやリカちゃんハウスのような「空間」が好きで、建築の世界に

細野:ありがとうございます。ちょっとこのままずっとしゃべっちゃうんですけど、ちょっと話題を変えて、せっかくなので今井さんはですね、どのように今のような今井さんになったのか。どういう訓練・鍛錬・数を経てとか、どういう経験を経てビジネスデザイナーという仕事ができるようになったかあたりを聞いていけたらなと思っております。

ちょっと最初の自己紹介の建築からいきなりコンサルに行ったというところ、まだ情報処理がみなさんされていないと思うんで、そこから。

今井:そうですよね、思いっきり端折りましたよね。

細野:もうあそこで聞いちゃおうかなと思ったぐらい。

今井:そうですね、ちょっとお待ちください。

細野:「すごい奴らがいるからこの道では勝てない」と思ってコンサルに行ったという、そこのところをお聞きできたらなと。

今井:これは厳密には、建築学科の大学院までいっているんですけど、この安井建築設計事務所ってM1の時の後半、最後に就職、内定出るじゃないですか。M2の夏にコンサルのインターンを受けに行っているんですね、採用バリバリの。

そこで最終面接まで行って、「いけるかも」って変な自信を持ってしまい、というのが経緯なんですけど、この大学時代の6年間真剣にやっている中でいくと、どうやら構想するとか、コンセプトを作るとか、ワーディングするとかはそこそこうまいみたいだと、自分の中で。

ただし圧倒的に弱いのは、僕は絵がうまくなくて、美術とか本当成績がすごい悪かったりとか、あと手先が器用じゃなかったりとか、もっと言うとそんな作るの好きちゃうんすよ、自分で。

細野:よくそれで建築に行きましたね。それは何でなんですか? それでも建築に行こうとしたのは。

今井:いやでも、レゴとか好きやし、建物(が好きで)。僕ちっちゃい時からリカちゃんハウスが欲しかったんですよ。

細野:急にすごい話(笑)。

今井:親がちょっと心配したんですけど、「そっちが好きな子なん?」って本気で心配したらしいんですよ。

細野:建築としての?

今井:そうです。だからリカちゃんハウスとかシルバニア。

細野:あぁ、組み立てながらこう……。

今井:ああいう空間のやつが欲しかったんですよ。ちっちゃい時ってそんな説明できへんやんないすか、自分が。

細野:言えない(笑)。シルバニアとリカちゃんハウスが欲しいと言ったらちょっと親は心配なりますね。

今井:そうです。レゴとかが好きで、だからそういう作るのは好きやけど、自分でそのクラフトでやるとかは駄目やったんです。そう考えると、このルールでどんなにがんばったってこれは勝てないと。そうなると、もうボクシングのルールじゃなくて、総合格闘技に行きたいなと思ったんです。

細野:掛け合わせで。

今井:そうです。

セオリーがある仕事がおもしろくなかった

今井:そうなると、建物を発注しているのは誰やとなると経営者なんで、そっちの人と話せるようになったら、また建築に戻ろうと思っていたんですよ。「もっとおもろい建築作れるかも」と思って、あとはたまたま教えてもらったというのもあるんですけど、コンサルという仕事を。それがきっかけですね。

細野:なるほど。コンサルに行かれてどうだったんですか? ぜんぜん畑違いというか、コンサルという業界自体が今井さんにとって。

今井:期待どおりのところとそうじゃないところはもちろんあって、そうじゃないところでいくと、コストカットとか組織変えるとかの仕事が多かったんですね。

それをやっていて、「これ、自分がやんなくてもいいわ」と思ったのは、クリエイティブなことをやりたいし、ほかの人と違うことをやらなあかんのですけど、コストカットとかってほかの人と違うことせんでいいんですよ。

細野:セオリーがあるからね。

今井:ベストプラクティスを入れ込んだらいいとかというので、ぜんぜんおもしろくないなと思ったんです。でも一方で、そのコンサルタントとして経営者とどう向き合うかとか、そのへんの仕事のやり方とかはすごい勉強になって、そんなこんなしているうちに電通がコンサルティング会社を作ったんです。

細野:「おっ、これは」と。

今井:そうです。それでこれはコピーがかっこよくて、「妄想を構想に」というコピーを入れているんですよ。

細野:かっこいい(笑)。

今井:かっこいいですよね。なので、そういう仕事いいなというのと、あと電通なのでコストカットの案件はまずないなと思いました。基本的には既存事業を伸ばすか、新しい事業をつくるかなので、そこでいろいろやらせてもらったというところですかね。

コンサル時代に身についた「ビジネスのフィールド」の視座

細野:なるほど。コンサルで身についた力とか視座みたいなものって、今振り返るとどんなものがあったと思われますか?

今井:なるほど、あまり振り返って……。ちょっと思いついた順番でいくと、まずはいろんな業界のプロジェクトをやらせてもらったので、業界だけじゃなくジャンルも含めて。なので、なにがきても、初めてだとしても、どうやったらそれをやれるかみたいなのはめちゃめちゃ……。

細野:それすごいですよね。さらっと言っていますけど、それ。

今井:それは間違いなくあります。あともう自分が「これはやらんほうがいいな」というのも明確にありますね。

細野:それは自分が得意ではないという意味でですか?

今井:得意とかよりも、今kenmaでそのクリエイティブとかビジネスを作るとかというレベルではもうやれない。例えば新しい金融サービスをいきなり考えてくれと言われても、もうそれってそこだけの力じゃなかったりするじゃないですか、相当な投資が必要だったりとか。

だからそういう線引きというか、明確じゃないですけど、やらないほうがいいなというのもわかりましたし。

あとは、いわゆるロジカルシンキングとか構造化するとか、巷で言われているようなことも、あれも結局は実戦で使わないと身に付かないので、僕の場合はそれをひたすら使える環境にいたので試したいことも試せたし、「こうやったほうがもっといいんじゃないか」とかというスキル面ですね。

あと3つ目に経営者じゃないですかね。

細野:と言うと?

今井:経営者の人はこういう視点でこんな判断をするとか、立ち振る舞いとかも含めて「あっ、そういう感じね」みたいなのは、ずっと見ていましたね。

細野:なるほど。先ほどの今井さんの資料って構造化されていてめちゃくちゃわかりやすいんですよ。あの力は建築の頃に身についたのか、コンサルの時に身についたのか、どのぐらいの比重でああいうことができるようになったんですかね?

今井:でも建築は大きいでしょうね。

細野:そうなんだ。

今井:自分が作ったアウトプットを最後にプレゼンテーションしなきゃいけないので、まずそこがベースですね。そこにあとはそれを、いわゆるそのビジネスのフィールドだとどんなふうに表現したらいいかというのも、これもいろいろ実験しながら、あと電通コンサルではドキュメンテーションの講師とかもやっていたんで。

細野:そうなんですね。

今井:はい。なんで僕の、まず一番はじめには色は一切使うなみたいな、もうグレースケールでやるぞみたいなところから始めてとかですね。

細野:色に逃げるな、みたいなそういう感じですね。

今井:そうです。

細野:なるほど。

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