2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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角勝氏(以下、角):続いて、「大企業の新規事業に必要な人材の能力と職場文化」について。こちらは、(村上)臣さんにおうかがいしたいと思います。臣さん、よろしくお願いします。
いくつか質問を考えてきました。臣さんも過去に、いろんな新規事業の創出や取り組みを、マネジメントの立場でも進められたことがあると思いますが、その際に難しかったことを教えていただきたいと思います。できれば、人材の問題と環境の問題の二軸があるとうれしいんですが。
村上臣氏(以下、村上):ありがとうございます。たぶん環境のほうが話がわかりやすいのでそちらから話します。僕は2000年の8月に企業買収というかたちでヤフーに入って、10人ぐらいしかいないモバイル事業をやっていました。
その部署自体が「PCのヤフー」の中ではむちゃくちゃ小さいベットだったわけですよ。社内で誰もモバイルインターネットが成功すると思っていないんですよね(笑)。
角:なるほど。
村上:「なんで買ったんだ?」と言いたくなるんですけれども、「何かあるかもしれないし、いつ跳ねるかもわからないけど、とりあえず張っとこう」と言って始めたものですよね。
「iモードとか盛り上がってきているし」「でも、うちらは携帯会社じゃないよね」とか、いろいろあるんですけれども。会社の中は半信半疑で、「うまくいかないだろう」と思っている人のほうが多いんですよね。そうなると、やっている本人としては、まずその環境がきつい(笑)。
角:(笑)。
村上:具体的な話で言うと、例えば、Yahoo!検索のモバイル版を作りましょうと。同じデータを見て、表示最適化をするじゃないですか。今で言うと、「このサービスをアプリ化しましょう」みたいな話に近いと思います。
そうすると、本体のプラットフォームにアクセスしないといけないけど、協力が得られないみたいな。
情報を取りにいこうとして、「こういうのをやろうと思っているので、ちょっとコードを見せてください」とか言うと、「いや、ちょっとお前らには任せられない」みたいなことが容易に起きるわけですよね(笑)。
角:なるほど。辛そうだ。
村上:時間がかかるし、そこは現場では解決できないわけですよね。なので、基本的にはトップが、「お前、ちょっと協力してやれ」と道を作ってあげるとか、「ちょっとお前ら、週に一度は相談を聞けよ」みたいなマネージャーがいるとか。
そういう環境設定がない限り、やっている人はかなりきついわけですね。
村上:そもそも、「あいつら何やってんだ?」という目で見られていて、「携帯でインターネットなんてしないだろう」みたいな感じですからね。
角:(笑)。
村上:本業がめちゃめちゃ大きいわけですから。「うちらはPCで一番で、めっちゃ儲かっている」「モバイル? あるかもしんないけどね」みたいな空気なわけですね。
角:なるほど。
村上:でも、こっちはやらないといけないから、「いやいや、モバイルの時代が来るんですよ、来るんですよ」と言い続けている。なので、さっき蛯原さんがシナジーの話をされましたけど、そういう環境設定が大事です。
同じ会社の中でやろうとすると、どうしても既存の重力が強すぎるので、そこをトップレベルでどううまく道を作ってあげるかが、まず1つのキーポイントです。具体的には、まずトップのコミットメントと、あとはスポンサーの役員みたいな人が必要です。
角:ああ、なるほど。
村上:ハイレベルの執行役員とか常務とかそういうレベルの人が、「これは今は超ちっちゃく見えるかもしれないけど、長期的に見ると大事だから」と、常にメンターかつスポンサーみたいな感じで言ってくれる人がまず必要です。ミドルマネジメントにもチェーンとしてつながっていないと、実際には事が起きないです。
角:なるほどねえ。
村上:こんな環境の中で人材の話をすると、めちゃめちゃきついんですよ(笑)。
角:(笑)。
村上:社内の中では、花形の反対側にいるわけですよ。
角:なるほど。
村上:オープンイノベーションとか新規事業担当って、外から見るとちょっと花形っぽく見えるんですけど、社内で見ると結局のところ、利益をまったく生み出してない有象無象の集団にしか過ぎなくて、社内の会話が正直きついんですよね。
だから、角さんとかに相談に来る新規事業担当の方は、たぶんそういう辛さを引きずって、助けを求めている気がします。
村上:そうなると、そこに適した人材は、セットされたビジョンなり未来を信じる人。つまり、ある種の楽天家が必要です。会社のやっていることと紐づけて考えられて、楽天家である人が必要ですね。
例えば「うちの会社はこんないいことをやっているけど、このビジョンを将来にわたって続けるためには、今こういう新しいことをやらないとダメだ」と信じられるような人。これはスタートアップのマインドセットに近いと思うんですけどね。
なので、ちょっと先の未来を信じ抜けるような楽天家を、どう社内で見いだして育成するかに尽きると思います。
角:自分がやっていることを、「会社の中」というレベルではなくて、もっと俯瞰的に見れる人でないとダメですよね。
村上:そうですね。なので、ちょっと目線が高いというか広いというか。たぶん向き不向きで言うと、オペレーションエクセレンスみたいなかたちで、現場の枠の中で最適化して利益を出すのが得意な方より、そういうのは苦手だけど、ちょっと先の未来を信じ抜けるようなタイプのほうが向いていると思いますね。
角:またそういう人だと、企業に入らずに自分で起業しちゃう気もしますね。
村上:でも、意外と社内にいるんですよね。そういう人って器用なタイプが多くて、そういうのを内に秘めているんだけど、言うと目立ってしまうから言わないという賢さを持っている人が、意外と大企業に多いんですよ。
角:だから、そういう人を見つけて火を点けるといいみたいなことですか?
村上:そういうことですね。
角:なるほど。
村上:そういう意味だと、ビジネスプランコンテストはそのポテンシャルがある人を見いだすいい機会になります。意外な人が毎回企画書を出したりしているんですよね(笑)。
角:(笑)。はいはい、なるほど。
村上:何回か続けるのが大事です。そうすると、そういうのに興味がある人は、とりあえずエントリーするんですよね。企画の内容は、まあまあ大外ししてそうなものとか、「何だろう」と思うものも多いんですけれども、「こいつ、毎回エントリーしてるよね」という人がいるんですよ(笑)。
角:なるほどなるほど(笑)。
村上:そういう人を見つけたら、とりあえず1on1で話を聞いて、「いつもエントリーしているよね」「実際のところ、どういう感じなの?」とか、「何かやりたいことあるの?」みたいに聞いてやると、「実は今こういうことをやっているんですけど」「こういうことに興味があって」みたいのが出てくる。そこが大事です。
村上:企画の内容は、会社である程度テーマを設定したり、それこそこれからフィラメントでやろうとしているような、プログラムを使ってある程度デザインシンキングをインストールしたりとか。ここは育成が可能です。
ビジネスプランコンテストで企画の良し悪しを論じるのはあまり良くなくて、そこのマインドセットを持っている人をどうあぶり出すかが、たぶん大企業のビジコンの肝だと思います。
角:なるほどね。僕らがやろうとしていることで言うと、最初にマインドセットを整えたり、その人が何に興味を持っているかとか、どういう視点を持っているかとか、そういう「人の理解」をして「人を育てる」部分があります。そして、育てる延長にビジコンを持ってきたいんですよね。
例えば上期で人を育てるプログラムをわーっと走らせて、そこですごく育った人に、下期ではより優先的にビジコンに入ってもらうような。そういうブリッジを作っていくみたいなことを考えています。人のマインドを見極めて育てていく部分と、そのあとのフェーズですね。
新規事業を作る中で顧客インタビューのフェーズがありますけど、その顧客インタビューとか、デザインシンキングとかを知る機会を作って、実際にやってもらって「顧客のことを理解するってこういうことか」と、腹落ちしてもらう。そういうところをやりつつ事業を作っていく、次につなげていくことができればなと思っています。
村上:そういう意味だと、さっきのヨーロッパの大企業が参考になるという話で言うと、たぶんSAPなんかは参考になる事例です。シリコンバレーに開発拠点と、あとd.schoolというデザインシンキングのビジネススクールをIDEOと一緒に作っていますよね。
あれは当時のCEOだった人が「こういうのをやらなくちゃダメだ」と言って、個人のお金を40億円ぐらい、学校に寄付した(笑)。コースを作ってもらって、そこに自分の社員も送り込んで、かつ開発拠点も一緒にシリコンバレーに作った。
このパターンはいくつかやり方があるんですけど、SAPの場合はやはり重厚長大すぎて、「それは技術的に難しい」とか「コストがかかりすぎて無理だ」という既存事業の引力が強すぎた。
そのため、本体から遠ざけて新しいものを作ろうとして生まれたのが「SAP HANA」という今主力の商品ですよね。そこでできたものを持ってきてスケールさせました。
ただこれは良し悪しがあって、本体から離すと元のリソースが使えないのでコストもかかるし、うまくいかない可能性も高くなる。いろいろあると思うんですけども、1つのやり方としてはすごく参考になる事例だと思いますよね。
角:なるほどねぇ。日本企業でそこまで振り切ることができる会社が出てくると、すごくおもしろいかもしれないですね。ありがとうございます。
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