2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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鹿毛康司氏(以下、鹿毛):今の話を聞いて、藤本さんなんか、Bリーグの「宇都宮ブレックス」をゼロから作り上げたわけじゃないですか。最初から、まずは丁稚奉公しながらね。
藤本光正氏(以下、藤本):そうですね。
鹿毛:それで今、社長になっているんでしょう? そこをどうやって作り上げたんですか? 作る時にはやっぱり相当な反対が起きたと思うんだけど、どうやってファンベースを、味方を作っていったんだろうか。
藤本:当初は、初代社長で今は静岡のラグビーチームの代表をされている山谷さんと私で、一緒に栃木県に移り住んでチーム名を決めるところから、そういう意味でいうと、ファンも1人もいないゼロの状態から作り上げました。
なので、「どういうふうにやっていこうかな? 」と思った時に、「栃木県なんて本当に保守的だから、絶対にプロスポーツなんかやめておいたほうがいいよ」と、地元のバスケットボールの関係者が、僕らに釘を刺してきちゃうくらいでした。
「常識を外れたようなことをやるんだよ、君たちは」というような、かなりのプレッシャーというか認識の中でスタートしましたので、本当に「自分たちで正解を作っていくしかない」という状況からのスタートだったんですよね。
その中で......先ほどの話に戻るんですけど、「ファンベース」でいうと、プロスポーツの価値は、「試合自体の勝った、負けた」「選手のパフォーマンス」もそうですけど、そうじゃない部分をいかに作り上げていって、究極は、負けても楽しかったと思っていただけるかどうかです。そういうことを、一番重視してやってきましたね。
鹿毛:例えばスターがいて、アーティストがいて、そのアーティストにファンがいる。スポーツ選手がいて、ファンがいるというのは、当たり前の構図じゃないですか。この方は、いわゆるその球団の選手だとか、そのもののファンだけじゃなくて、組織に含めて、同じ立場で関係値を作っていこうというのを、ずっとやられていたんですよね。
藤本:そうですね。売り手と買い手の関係性だけではなくて、一緒に楽しい空間を作っていただく、「仲間」と言ったらおこがましいんですけど、「ファンの方の存在自体が、新しいファンを呼び込む」ということは、今まで見てきている中で、紛れもない事象なのかなと思っていますね。
鹿毛:ファンベースマーケティングと言いながら、今「仲間」という言葉を使われましたけど、仲間なんですね。
藤本:「共創している」ということだと思います。試合のことって、しばらく時間が経つと、正直覚えていなかったりするんですけど、それ以上に記憶に残るのって、やっぱり「空間の楽しさ」というんですかね。ファンの人が一体となって応援している雰囲気、空気だったり。
先ほどダンスの話がありましたが、タイムアウトにいろいろイベントをするんですけど、(ファンの人が)積極的に自発的に参加していることによって、場が盛り上がっている。そこのほうが、意外と記憶に残ったりします。
NBAの場合は、チケットにすごい高いお金を払って見るんですけど、周りのことから得られる価値が、試合以上に意外と印象に残るというか、そういう原体験がありました。なので、それを日本でもやっていきたいなというのが、最初の思いです。
鹿毛:アメリカのNBAって、すごいんですよね。僕は30年前くらいに見て、びっくりしました。スクリーンに、みんなが知っている大スターがポーンと出てきたと思ったら、次に客席にカメラが(来て)ギューッと誰かをフォーカスして、そのスターのそっくりさんが出てきたり。それでみんなで笑っていたり。これ、まったく肖像権がないね(笑)。
藤本:確かに(笑)。
鹿毛:そんなことをやっていった。このエンターテイメントを、これでもか、これでもかと作り上げて、ファンと一緒にやっているアメリカのものを体験したと。
藤本:はい。
鹿毛:このセッションをするまで、僕は(Bリーグのことを)よくわかっていなくて、Bリーグのホームページをずーっと見ていたんだけど、あれって作り方が一緒だね。Bリーグさんがやっているんだね。
藤本:今はリーグ自体がフォーマットを統一して、それを利用していますね。
鹿毛:フォーマットを統一しているんだよ。フォーマットは統一されているんだけど、特色がめちゃくちゃあるんですよ。お客さまのことを考えているところと、考えていないところがある。これ、ぜひ確認してみてください。フォーマットは一緒なんだけど、ぜんぜん視点が違う。
ここがおかしいのが......あれは何だっけ? 「初めて来たらどうのこうの」というヤツ(です)。
藤本:「はじめての観戦ガイド」ですかね。
鹿毛:「はじめての観戦ガイド」のサイトの話、ちょっとしてもらってもいいですか?
藤本:本当に単純な話なんですけど、さっき言ったように、いかに参加していただくかなんですよね。「見てください」じゃなくて、「参加してください」というメッセージをお伝えしたいなと思っています。
初めて観戦に来る人は、試合を見に来ます。まずは、「観賞する立場じゃないよ」ということを伝えなくちゃいけないんですよ。なので、「こういうイベントをタイムアウト中にやるので、ぜひ一緒に盛り上げてくださいね。参加してくださいね」というのを、わかりやすく解説したページを1つ(用意しています)。
鹿毛:それがすごく良くて、近くまで来て隣で言ってくれている感じがあって。「一人観戦でも楽しめる」ってあって、「あ、一人でも行っていいんだ」とかね。そんな気持ちにさせられる、すばらしいものがあります。
鹿毛:そんなことを言いつつ、今、河合さんに振ろうとしているけれども、鈴木さんに振ったらどうする?
河合辰信氏(以下、河合):「どうぞ」ってなります(笑)。
(会場笑)
鹿毛:うそ、うそ(笑)。さて、河合さんは「ブラックサンダー」でいろいろなことをやっている。そのいろんなことをやった事例を、ちょっと教えてもらえますか? 「ファンと一緒にやっていく」という事例(です)。
河合:ファンと一緒にやっていく事例......。一番わかりやすいのは、さっきお話しした話なんですけど、基本的には「常にお客さまをどうにかして巻き込む」ということは、すごく意識はしています。
事例になるのかわからないですけど......去年のバレンタインですね。今年のバレンタインも似ているんですけど、コロナ禍のバレンタインというのもあるし、みなさんもご理解いただけると思うんですけど、ここ数年、ものすごく、特に義理チョコへのアゲインストな風がピューピュー吹いていて。「『義理チョコ』と言おうものなら、にらまれる」くらいの感じになってきたんです。
でも、我々は10年くらい「義理チョコ、義理チョコ」と言い続けて、「さぁ、どうしようか?」みたいなところはあったんですけど......。背景はさておき、いろいろ考えた結果、「下駄箱を売ろう」という話になったんですね……はい。......飛ばしすぎましたかね?
鹿毛:(みんな)意味がわかった? 本物の下駄箱を、通販かなんかで売ったの?
河合:そうです。ECで、「下駄箱付きブラックサンダー」を売ったんです。
(会場笑)
鹿毛:「『ブラックサンダー付き』下駄箱」でしょ?
河合:いやいやいや、違います、違います。「『下駄箱付きの』ブラックサンダー」を売ったんです。
鹿毛:なんで下駄箱か、ちょっと解説するね。昔、バレンタインで、「下駄箱にチョコレートが入っていたら、うれしいよな」という(のがあった)。あの男心(笑)......それで下駄箱を売ったという、とんでもない会社なんです。
河合:(笑)。そうなんです。バレンタインの義理チョコが、ものすごくネガティブなイメージで、バレンタイン自体もなんとなくネガティブな印象だった。
でもバレンタインって、子ども時代、絶対に誰もがワクワクソワソワ、もらえようがもらえまいが、あげようがあげまいが、なんとなく楽しかったイベントのはずです。なのに、大人になったらつまらなくなる。
だったら、子ども時代の楽しかったイメージを思い出してほしいということで、学生時代の象徴である下駄箱を、「ブラックサンダー」に付けて売って、「買う人いないだろうなぁ」と思っていたら、サイトがオープンして1時間くらいで売れるということが起きたんです(笑)。
鹿毛:それ、いくらするの?
河合:当時、1万5,000円......とかですかね。
鹿毛:下駄箱はどれくらいの大きさ?
河合:本当に小学校とかにある、めちゃくちゃデカい(ヤツ)です。
(会場笑)
鹿毛:それを売ったの(笑)?
河合:売れましたね。
鹿毛:何個売ったの?
河合:1個売れたので、追加したらもう1個売れました。
鹿毛:2個売れたんだ。
河合:はい。
鹿毛:それは「お客さまを巻き込む」というより、あなた方が巻き込まれているんじゃないの?
河合:かもしれないですね。「どこまで行けるかな?」みたいなのをやってみたら「ここまで行けちゃった」。みたいな感じで、我々がそっちにどんどん引っ張られている感じはあります。
鹿毛:引っ張られている感じでしょ? だからお客さまの方が、運動を作るのがけっこう強いよね。
河合:強いですね。
鹿毛:そういう部分では、鈴木さんって、お客さまにどんどん引っ張られて、コトが起きたことはありますか?
鈴木賢治氏(以下、鈴木):お客さまに引っ張られたというと......長野県の宿の話なんですけど、「BYAKU Narai」という宿を今やっています。
そこは、「百の体験で地域とまっすぐにつながる」をコンセプトにしている宿なんですけど、お客さまが、我々の想定外にいろんなものに興味があるというところですね。
例えば、うちはオーベルジュなので、フルコースを出すんですね。そのフルコースに、木曽漆器の産地なので、すべて漆器を使うんです。漆器を使ったことがない人が多いんですけれども、実際に使った人が、「なかなか漆器に触れる機会がない」ということで、想像以上に感動してくれるんですよね。
お客さまで「これを買いに来たい」と言ってくれる人が本当に多くて、我々が紹介すると、次の日に行って、ものすごい量の漆器を買ってくれる現象が起きています。それが1件や2件じゃなくて、何十件も起きているかたちなんですよね。
もちろん我々は、「お客さまが何を求めているのか」を考えながらやっているつもりなんですけれども、それ以上に興味を惹いて、欲しいと思ってもらえることがあるんだなというのを、今実際に体感しているところです。
鹿毛:我々よりも、意外とお客さまのほうがよく知っているもんね。企業側が全部知っているんじゃなくて、「お客さまのほうが知っている」というね。これは不思議な話でございます。
鹿毛:Bリーグをやっていて、「お客さまのほうが、知っているよね」ということはあります?
藤本:ぜんぜんありますね。私たちは(宇都宮)ブレックスというチームを15年やっているんですけど、自分たちのアイデンティティみたいなところ......チームスタイルとかを、特に自分たちで明確に言語化してきていなかったんです。
だけど、お客さまがSNS上や会場で直接声をかけていただいている中で、「ブレックスって、こういうところがいいよね」という表現の方法を、いろんなかたちでしていただけるわけなんですよね。
例えば、「ブレックスって他のチームと比べて、ダンクとか派手なプレーはないけど、ルーズボールに飛び込むとか、ディフェンスをがんばるとか、そういう泥臭い部分が魅力だよね」とか。そういうかたちで、自分たちの良さを逆に表現していただくことが多くて。
私たちは、逆にそこを後付けで、「あ、そうです。それが私たちの強みなんです」と、吸い上げるようなかたちで自分たちのブランドに変えさせていただいているところがあります。
それをやって以来、言語化できたので、「ブレックスといえば〇〇」というのが、かなり統一化されてきた部分がありますね。
鹿毛:なるほどね。
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