2024.10.10
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第859回 仕事に効くパワーワード『与えるときは、ただ与える』(全1記事)
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中村直太氏(以下、中村):今回の言葉は「与えるときは、ただ与える」です。みなさんはこの言葉、どのように受け取られたでしょうか?
先日、電車の中でこんなシーンを目にしました。おそらく20代と思われる男性が電車で座っている時に、重い荷物を抱えたご高齢者に気づき、席を譲ろうとしていました。その男性は「よかったらどうぞ」と声をかけ席を立ちましたが、相手のご高齢者は無言で目線も合わせず、譲ってもらうのがさも当たり前かのように、ドシンと席に座りました。その後は目をつむり、黙って座っておられました。
周りの乗客のみなさんもその出来事が気になったのか、釘付けになっていました。私も同じく注意を引かれ、じっと眺めていました。席を譲った20代の男性にふと目を向けると、何事もなかったかのように笑顔でその場を離れていきました。この時にメモした言葉が、今回の言葉「与えるときは、ただ与える」です。
もし自分が席を譲った側の立場だったら、心の小さな自分は「ああ、譲らなければよかったかな」と残念な気持ちになっていたかもしれません。でもその20代の男性はそこに囚われることなく、笑顔でその場を離れていったのがとても印象的でした。
私にはその男性の心の内はわからないんですけれども、想像するに、「与える」、つまり「席を譲る」という行為で、その男性の行為はすでに完結していたのではないかと思いました。何かを期待するわけではなく、自分がただしたかったことをしただけで、それができたから満足だったのではないかと思います。そう思えた時に、「ああ、『ただ与える』ということでもいいんだ」と学ばされました。
裏を返すと、「与える」という行為にはどこか見返りを求める心が潜んでいると気づかされました。それは、この社会を支配する原理の1つに「等価交換」という概念が深く根付いていることから来ているのかもしれません。
端から見ていた私は、「笑顔やお礼の一言でも返せばいいのに」と、見返りを前提にその場面を捉えていたわけですけれども、与えたご本人からすると、おそらく自分が席を譲ったことでその行為は終わっていたのでしょう。「自分に何かが返ってきてほしい」「相手に感謝を表現してほしい」という見返りは、求めていなかったのだと思います。
とても小さな話かもしれませんが、例えばこちらが元気良くあいさつをしたら、相手からも元気の良いあいさつが返ってきてほしいとか、こちらがエレベーターのドアを開けておいてあげたら、会釈の1つくらいはしてほしいとか。私たちは無意識ながらも、見返りを前提に「与える」という行為をすることがあるように思います。恥ずかしながら、少なくとも私は思い当たります。
そこであらためて、「与えるときは、ただ与える」という言葉を思い浮かべてみます。自分が与えられる側に立った時には感謝を気持ち良く伝えたいと思いますが、自分が与える側に立った時は、何の見返りも求めないほうが、結果的に気持ち良く与えられるように思います。やること自体は変わらないんですけれども、幸せな気持ちになれる可能性が高まるように思いました。
相手からの見返りを求めないことは、幸せな気分になるかどうかのコントロール権を、相手に委ねないということかもしれません。「自分が席を譲りたくて譲ることができたから、それでオッケー」と自己完結させることができる電車内の男性の姿勢に、私は人としての強さを感じたのだと思います。
ビジネスや仕事の場面においては、「等価交換の原理」がより一層強く働くように思います。だからこそ、時に「等価交換の原理」を越えた行動が、思わず人の心を動かす結果になることがあるように思います。
例えば業界を問わず、伝説と言われる営業の本を読むと、ただ与えた結果として大きな成果を手にしている話が多いように思います。また、社内を見渡しても、時にただ与える姿勢で仕事ができる人は、結果的に周囲からの信頼を得て活躍されているのではないでしょうか。
「ただ与えることがすべてではないように、等価交換がすべてでもない」という認識を持って、時にただ与える姿勢で取り組んでみる仕事があってもよいのかもしれません。そんなことに気づかされました。
まとめます。あらためて、今日の言葉は「与えるときは、ただ与える」でした。日常生活でも仕事においても、必ずしも見返りを前提とせず、与える行為でその行為を完結させると、より幸せに生きられるのではないかという気づきでした。
こんなことも考えられるかもしれません。「ただ与える」という考え方を自分の仕事に落とし込んでみた時に、どのように役立てられそうでしょうか? ピンと来ることがあれば、ぜひ考えてみてください。
今回も最後まで聴いていただき、ありがとうございました。今日もすばらしい一日をお過ごしください。
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