2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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財前英司氏(以下、財前):遅く考える「遅考術」という言い方をしていますが、具体的に遅く考えるための3ステップがあります。
まず1番目が「まずはいったん否定する」。「Aではないのではないか?」と自問するということですが、これはどういうことでしょうか。
植原亮氏(以下、植原):我々は、やはり最初に浮かんだ答えにこだわりがちです。いったん答えが浮かんでしまうと、他のものが見えなくなってしまうことがしばしばある。せっかくのアイデアですから捨てたくもない。それに囚われてしまうというところがあります。
ここはちょっと努力がいるところですが、あえて「違うのではないのか」と考えるトレーニングが必要だと考えています。「否定する」というのが私が強調したいところで、たぶん人間らしい思考の1つの在り方にもなっていると思うんですね。
動物も、何かを思考することはやっているとは思いますが、「否定する」というのはやっていないのではないかと考えられます。「これはAではないのではないか」の「ではない」という、まさに否定のための言語的な部分を持っていないと難しい思考です。
目の前にないものを考えていく、言い換えると「現実では成り立っていないことは何か?」と考えるステップが必要になるわけですね。
実は否定というのは、「Aではない」さまざまな状況を考えるという点ではイマジネーションの働きとも関わっているため、人間の人間らしい思考に密接に関わっているので、深く考える、遅く考えるための契機としても非常に役立つのではないかと考えています。
財前:まずは、自分が思いついたことに対して「ほんまにそうなんか?」と、ワンクッション入れるような感じですよね。
植原:まさにそうですね。
財前:これは起業のアイデアを思いついた時も同じことが言えるんです。いわゆるバイアスという話が本にも書いてありますけれども、自分が「いいな」と思いついたアイデアを、どうしても補完したくなるというか。都合のいい情報だけを集めたくなる。
基本的には(自分の考えを)否定したくないですよね。それでも、あえて否定する、疑ってみることから入るのがポイントですね。
植原:これは慣れていないと本当にエネルギーがいると思うんですが、「こうやって否定するんだ」「否定してみよう」というふうに、(自分自身で)モチベートしていく部分でもありますね。本書の特徴の1つですが、否定を強調しているものはなかなかないかなと思っています。
財前:今って、基本的には「それでいいんだよ」という否定しない流れが多いですからね。あえて自らの考えを否定するというところが、思考の第1ポイントですね。
2つ目は「条件を何度も確認して、見落としがあったり別の仮説を思いついたりする可能性がある」ということですけれども。
植原:本書は問題形式になっているんですけれども、最初に一読した時は自分に都合の良い情報を拾って、あるいはそればかりに注目して、何らかの考えが浮かびやすい。
しかし1回否定して、さっきまで見ていた情報とは違う情報・条件に注意を向けていくことで、実は別の考え方もできるかもしれない。そういうきっかけになるということですね。繰り返し条件に立ち戻って、何が書かれているかを確認することで、その時に自らの思い込みに気づくこともあります。
財前:そうですね。さっき「100万回死んだねこ」のお話をしましたが、まずは我々が勝手に思い込んでいることを否定するところから入って、その時に条件をしっかり見ることが大事ですよね。けっこう感覚的に、思い込みだけでやってしまいがちですよね。
植原:そうなんですよ。ごく一部の情報しか見なかったり、あるいは勝手に自分で思い込んで、書いていないような条件を補って、都合のいいストーリーを組み立てたりするというのはありがちですので、そこに注意を払いたいですね。
財前:ありがとうございます。
財前:(ステップの)3つ目として、「もっともだと思える仮説にたどり着くまで、あれこれ粘り強く考える。想像力を働かせたり、文献を参照したり、他の人に相談することも有効」とあります。
植原:これは、いろんなやり方を取るしかないところですね。仮説を検討していく。
(ステップの)2番ですでにいろんな仮説を思いつく可能性があるんですが、その中でももっともな、つまり「これはおそらく正解に近いであろう」という仮説を思い浮かべたいわけですよね。
その絞り込みをやる過程が3番目のステップなのですが、「果たしてこの仮説が妥当だろうか?」という時に想像力を働かせて、「実際にこれが現実的に成り立つことなんだろうか?」と、自分なりに検討することでもあります。
単純にそれに関わるような知識を補うと、妥当な仮説がさらに出てくるかもしれない。という点では、もちろん適切な情報ソースである必要がありますけれども、文献などを参照する。
あとは「こんなふうに考えているんだけれども」と他の人に相談してみると、「ここはちょっと甘いんじゃないの?」というように、他の人の視点という別の角度からの検討が入りますので、有効なチェックとして働く。こういったことを組み合わせていくことで、正解に非常に近づくのではないかと考えていますね。
財前:遅考の3つのステップで言うと、振り返りというか、まずは思いついたことをいったん疑ってみるということですよね。そして、その周辺の条件やその後の条件を確認した上で、仮説ができたとしたら、いろんな方に聞いたり文献を調べたりして、しっかり検証していく。これが遅考の基本3ステップということですね。
財前:(スライドの)「二重プロセス理論」というのが遅考術における最初の前提で、これを理解しているかどうかが非常に大きいかなと思います。「直観」と「熟慮」、「システム1」と「システム2」と書いていますが、これについてご説明いただけますか。
植原:これはいろんなところで出てくる、ある意味広く受け入れられている人間の思考・認知のモデルです。「心」と言ってもいいんですが、この理論によると、人間の頭の働き方は大きく2つの仕組みに分けられます。
「モード」と言ったほうがわかりやすいかもしれないですね。「オートモード」と「マニュアルモード」。乗り物の運転などを想像していただくとわかりやすいんですが、どちらかというと(スライドの)左が日常的な場面での私たちの思考の働き方になります。オートで自動操縦ということですね。
自分では苦労して操縦していないんですけれども、それなりにうまくやってくれる、というようなイメージでいてください。九九の問題に答えるような時はオートモードのほうの働きです。「2×3が」と言われたら。
財前:6。
植原:「6」と、別に我々は何の努力もせずに、オートモードが自動的に働いて答えてくれる。なぜ「2×3=6」なのか、いちいち意識的に考える必要もなく、ただちに思い浮かんでくれる。
直ちに見て取って答えがわかるのが、直観という意味です。私たちはふだんオートモードでやっているんですが、時折マニュアルモードに切り替える必要があるというようなイメージでいてください。これが「熟慮」という言葉で表されるほうですね。
こちらは自動的に働いてはくれません。自分で意識して努力しないと、起き上がって働き始めてくれない。すぐに怠けます。働かせるのに時間がかかって、しかもすぐに消耗してしまう。典型的には複数の段階があって、順序立てた思考をするような時が、こっちの頭の働きになりますね。
植原:「出張の準備をしないといけない」という時を考えてもらうとわかりやすい。予算がいくらで、どういう経路で辿って、いつまでにこの場所に着いていないといけない。そういった条件を十分に満たす計画を立てるんですが、たぶん直観的にはうまくいかないわけですね。
順序立てて考えていくわけですけれども、出張だとまだ楽しいですかね。楽しくない順序立てた思考をやっていると、5分とか10分ですぐにやる気がなくなるんですが、その意味では非常に“怠け者”ですね。こっちばかりやっているとヘトヘトになってしまうわけですが、この思考が大事です。
それはなぜかというと、直観が間違うからです。さっきも言いましたが、オートモードなのでルーティン的な課題をこなしている時は、そこそこうまくやってくれます。しかし、新しい課題であったり、これまでにあまりないような課題、あるいは典型的に人間が間違いやすい状況であったりすると間違ってしまう。
「ここでは自分は間違うかもしれない」「ここは慎重に考えるべきだ」となった時に、マニュアルに切り替えてじっくり検討を始める。こんなイメージで、この「二重プロセス理論」については理解していただけるかなと思います。
財前:この「二重プロセス理論」が遅考のベースになっていますから、これをベースにいろいろお話ししていきたいんですが、そもそも本能的な話で言うと、まずは「直観」ですよね。
昔なら熊に襲われる危険性だとか、これを食べたら死ぬんじゃないかとか、「これが危険だ」ということをもともと直観でやっていますから、本能的にはこっちですね。
植原:そうですね、人間の祖先ということです。初期の哺乳類とかあるいは魚類くらいから、こういった働きがあると考えていいと思いますね。
財前:そうですよね。
財前:危険な動物が出てきた時には、「この動物、本当は危険じゃないかもしれないな」という否定から入っちゃうと、その瞬間に襲われて死ぬ可能性はあったわけです。そこは直観で逃げていたとは思うんですが、これは使い分けしているのですかね?
植原:そうです。私たちの祖先の環境は、だいだいオートモードで足りるわけですが、そうした時代は遥か過去に過ぎ去って、現代人はそんな環境では暮らしていない。
そうなると、祖先とは違う課題、つまり人類にとっても新しい課題が出てきているわけで、個人でも新しい思考モードを使って取り組む必要が出てきます。
財前:みなさんが思っていることかもしれないですが、頭のいい人ってなんとなく天才的に、つまり直観ですぐ返すというか、何かを聞かれてもすぐにパッと思いついて答えているイメージがありますよね。
そういう人たちは、どっちかというとオートモードなのか、もしくは実は頭の中ではマニュアルモードが働いているのか、また別の要素が関与しているのかでいうと、どうなんですかね。
植原:両方、ということになりますね。素早く考えられている人も、繰り返しこっち側(マニュアルモード)をトレーニングするような機会があって、それが徐々にオートモードでもできるようになっていく。
植原:先ほど乗り物の例を挙げましたが、マニュアルは最初は意識的に操縦しないとうまく運転できないんですけれども、自分にとってのオートモードみたいなかたちで、徐々に運転がうまくなっていきますよね。それと似たことが起こっているんだろう、ということですね。
財前:なるほど。例えば、お笑い芸人が『IPPONグランプリ』なんかの番組で、短い時間で一発でボケて返すみたいなことも、実は最初は熟考したりマニュアルモードですごく練習していたんだけど、繰り返しているうちにオートモードになって、いつでも発動できるようになっているという、そんなイメージなんですかね?
植原:たぶん熟練者になると、オートモードで導き出される答えがいくつも同時に浮かんできて、それを比較的素早くマニュアルモードで検討できるようになっている。
財前:その切り替えというか、行ったり来たりがめっちゃ速くなっているという感じなんですかね。そういう意味でも、現代においてはマニュアルモードというか、熟慮するところから入って鍛錬していくことがまずは大事だということですかね。
ただ、日常生活において、熟慮する機会ってなかなかないというか。仕事上も速く答えを求められたりするので難しいんですが、実際にはどういう進め方をしていけばいいんですかね?
植原:そうですね。繰り返しの部分はあるんですが、日常でルーティンワークで困っていないのであれば、それはまさにオートモードが洗練されて鍛えられているということでもありますから、それはいいんですね。
ただ私たちは、仕事であれ学業であれ、時折不安を抱いたり、「このやり方でいいのかな?」といった懸念を抱く状況があると思うんです。たまにはその感情の呼びかけに従っていただいて、いったん引いてみて、熟慮をスタートしてみる。それがきっかけになるかなと考えます。ということで、お答えになりますかね(笑)。
財前:これって、まさに(スライドに)書いてある「動き出せない」ですよね。面倒くさいというか、そこをどうやって発動させるのか。人間って基本的には変わりたくないし、さっき言ったようにすぐに答えがほしい。
財前:自分で考えるための技が、まさに遅考術だと思うんですが、なかなか我慢できないというか、耐えられない。興味関心のあることであれば進んで考えていけるんですが、扱う対象がつまらなかったり、もしくはもともと怠け者だったりする場合、どうやっていけばいいですかね。
植原:実はそれは教育全般に関わるとんでもなく難しい問題で、学ぶ人にいかにモチベーションを与えるかというところなんですね。これは古代から言われていて、モチベーションのない人に学んでもらうことが、いかに可能なのか? というところですね。
『遅考術』という本の中ではできる工夫はやっていて、読者に課題に取り組んでいただくんですが、その時にすぐに答えを見ないような書き方の工夫をしています。
具体的には先ほども出てきたんですが、対話方式で登場人物たちの対話を辿ると、徐々にヒントなり考え方の別の視点が与えられるなどして、粘り強く考えられる。少なくとも、そういう動機付けを与える試みを、書き方としては工夫しているところでありますね。
書き手によって書き方はいろいろあると思うんですが、他に私がやっている工夫としては、先ほども『ある明治人の記録』で出てきましたけど、歴史的な引用などで、私なりに読者の関心を引くと思われる事例を随所に散りばめていることですね。
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