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新規事業開発に向かない組織の条件(全4記事)

「アイデアが出ない」と嘆く上司、「どうせできない」と諦める部下 新規事業開発の障壁を乗り越える、仕組み作りのポイント

「新規事業に挑戦する皆さまに“本当に”有益な情報を提供する」をテーマに、業界トップクラスの企業担当者をゲストに迎えて開催されるSpreadyの主催イベント。今回は「新規事業開発に向かない組織の条件」と題して、累計3,000社以上の新規事業プロジェクトの支援実績を持つ株式会社Relicの松永正樹氏と一江健一郎氏が登壇。Spready社の代表・佐古雅亮氏のモデレートのもと、新規事業開発における経営者の重要性や、新規事業を進める際の「正攻法」と「泥臭い実行」の2つのルートなどが語られました。

新規事業開発における経営者の重要性

佐古雅亮氏(以下、佐古):チャットでリアルなコメントをいただきましたのでご紹介させてください。「出島を作りましたが、評価、稟議、予算、組織構造が既存の事業の手続きと変わりません。稟議の前の事前確認に2ヶ月かかることもあります」という(笑)。

松永正樹氏(以下、松永):今日お話したイメージよりも、さらにハードモードですね(笑)。

佐古:わかります。コメントでもいただきましたが、そうなると現場でがんばっている私たちは「『新規事業の開発に向かない組織の条件』というのは、実は『新規事業開発に向かない経営者の条件』なんじゃないか」と思うわけですよ(笑)。

松永:そういう一面はあると思います。さっきチャットでもいただいたように、現場から出したものを実際にやるまでに2ヶ月かかる。なぜかというと、部長会議などで承認しなきゃいけないからですよね。

もちろん上限はあると思いますが、もし「何千万までの決裁については、この部長がイエスと言えばそれで進めてかまわない」とか「この担当役員がイエスと言えばオッケー」ならば即日できますよね。ただその場合、その担当役員の方が責任を取らなきゃいけないんですよね。

逆に言うと、「全体で会議をして、みんなで決めたことでないとできない」みたいに、責任を社内で持ち回りする仕組みが前提になっているとスピードは出せない。そしてそれは今佐古さんがおっしゃったように、やっぱり経営者のところに跳ね返ってくるのかなと思いました。

佐古:そうですよね。「組織を作っていくこと」は、ある種「経営陣のみなさんに対して働きかけていくこと」に近いのかなと思いながらうかがっていました。たぶん僕みたいな人だと「だったらもう自分でやるわい」って外に出ちゃうんですよね。そういう人もいると思いますけど(笑)。

でも組織に残ってイノベーションに挑戦している方って、会社のミッション、ビジョン、バリューに共感されているんですよね。「この会社でやりたい」と思って挑戦されていると思うんです。だからやっぱり、どうやってアプローチしていくのかですよね。

松永:そこ、もったいないですよね。

新しいことをやる時の“戦い方”

一江健一郎氏(以下、一江):あと私の経験上、新規事業とか新しいことをやる時に、既存の経営会議のような意思決定のプロセスに乗せていくのがそもそも無理筋だろうと思っていて。カチッとした経営会議で、ズラズラーっと役員陣が並ぶ中でプレゼンしても、そこには新しいことが生まれる空気が1ミリもないから。

私も以前出向していた時に、会社が目指すDX構想として「地域にインフラを持つリアル企業として、それを活用して地域限定のプラットフォーマーになろう」みたいな話をしたんですけど、「よくわからない」と言われました。これは経営会議の場でいくら話してもダメだと思ったので、会議後当時プロジェクトオーナーだった役員に頼んで、社長と副社長と専務のアポを個別に取ったんですね。それで、個別説得、個別撃破。

やっぱり個別に話すと、経営会議の固い空気と違って経営者の方ともいろいろ話せるんです。ある程度深い話もできるし、納得いただけるんですね。それで次の経営会議では無事にスッと通って。私は、このようにちょっとしたゲリラ戦をやりました。

というのも経営会議とか既存の意思決定の仕組みの中で、既存事業の報告がいろいろあるなか新規事業のアイデアを話されても、たぶん経営側も判断するのが難しいと思うんですね。

佐古:ゲリラ戦でやっていくとか、どうアプローチしていくかですよね。

一江:そうですね。あとはさっき言った「経営層と新規事業開発チームの目線合わせ」ですね。それに関して弊社の執行役員の小森(拓郎)がnoteの記事を書いているのでご紹介させてください。

これを読めばすぐに経営層と現場の意思が合うわけではないんですけど、経営側が「投資家に説明する」といった目線で考えた時に、どういった思考回路であるのかを見るにはいい記事だと思います。ぜひご参考までにご一読いただければ幸いです。これでいきなりページビューがすごい伸びたら小森がびっくりするかもしれないけど(笑)。

松永:喜ぶかもしれない(笑)。

一江:そうそう、「なんでこの記事、一気に伸びたんだ」みたいな(笑)。

佐古:ぜひみなさん、ここのハートを押してください。

一江:ぜひ「スキ」を押していただければ助かります(笑)。

松永:助かるんだ(笑)。

新規事業開発で進む「正攻法」と「泥臭い実行」の2つのルート

松永:まあでも、やっぱりあの手この手ですよね。その意味では「責任を取らない」と言うと聞こえが悪いですが、他責が前に出てくると新規事業はうまくいかない。やや精神論めいてきましたけど。

経営陣とか上の人は上の人で、「下の主体性がない。なかなかアイデアを出さない」と。今日の最後にお話ししますが、そう言うのであれば「あなたが経営している組織って、新しいことをやるとちゃんとトクする仕組みになっていますっけ?」と。このあたりは自分でちゃんとブーメランを受け取らないといけないんです。

現場は現場で、「上がわかってくれない」「制度がこのままじゃどうせできない」と言っているだけだと、当然ながらいつまでも何もできません。さっき一江がお話ししたように、正規ルートで経営会議に出て、あれこれイチャモンつけられて心折れるのではなくて、「わかった」と言ってダイレクトにアポを取って個別撃破する。そして「この人が『うん』と言えば、あそこの空気が変わるはず」みたいに見定めてやる。こういうことはやっぱり必要ですよね。

佐古:たぶんこのテーマ、お酒飲みながら5時間ぐらい話せると思います(笑)。ご質問で「中間管理職の方が障壁になっているパターン」みたいなのをいただきました。松永さんのお話の後に、こちらについて進めていきます。

松永:ありがとうございます(笑)。本当に、ここは話し出すと止まらなくなります。「中間管理職はその上の人を見る」というのは、さっきの小森のnoteとも通底するものがありますね。

こういったことを踏まえて、(スライドには)さっきと似た図を表示しました。

全体としては新規事業開発に適した組織だけでももちろんダメだし、そういった組織を作るためには大元の戦略が大事で。

「なぜうちで新規事業が必要なのか」とか「会社全体の経営計画の中で、新規事業はどういう位置づけなんだ」ということを明確にすることも当然必要です。それをしないで「とにかくやりたいんです!」と言っても、それはうまくいかない。

それらと連動して「仕組み・制度を作る」のが正攻法なんだけど、これは正規ルートでいわゆる経営会議にいくパターンなんですよね。それだけではなく、「泥臭い実行」ということで、とにかく現場でまずは結果を出すことに注力する。とにかく「売っちゃいました。やらないとヤバいです」というかたちを作ったり、個別アポで説得したり。そういうことも必要です。

経営者が「社員からアイデアが出ない」と嘆くのは日米共通

松永:それらを実行可能にするために、不可欠な要素はさっきお話ししたように組織の在り方を変えていくこと。スライドに表示したのは学術的な研究です。

アメリカも、実はまったく同じ状況なんですね。経営者の方が「うちの社員からアイデアが出ない」とよく言うのは、日本やアメリカだけでなく、おそらく世界中で同じなんです。

でもよくよく調べてみると、社員がアイデアを持っていないかというと、そんなことはない。「『言ってもダメだ』と思っている人」「前に言って沈没した人」「『左遷された人』を知っている人」。みんな秘めているんですね。

逆に、秘めたものがあるんだったら出せるし、なんなら出したほうがトクをする組織にしていけば、新規事業が立ち上がるのは時間の問題になる。具体的には、アイデアを出してちょっと良ければ次の期からは工数が変更されるとか。その人は業務時間の、例えば30パーセントとか50パーセントを自分のアイデアに使えると。さらに進めば、それに専念してもいいとかですね。

要は、自分のやりたい仕事がかなりスムーズにできると。そうなると、他の人は「なんで俺はやりたくない仕事、指示された仕事ばかりやっているのに、あいつは好きなことばかりやっているんだ」となりますよね。

その時に、会社は「君の言うこともわかるよ」じゃなくて、「だったら君もアイデア出せばいいじゃん。出さないから指示された仕事をやっているんでしょ。何かやりたい仕事があるなら言えば?」みたいな。これができると一気に空気が変わります。

もちろん今、既存事業がベースでやっている組織でいきなりこれをやると「じゃあその人たちが持っていた仕事はどうするの?」となります。だから、新しいことを提案した人が、その仕事に専念できるように組織の在り方を再定義するんですね。

そうすると、採用も含めた話になると思います。いきなりでないにしろ、こういうことを話し始めないことには、いつまで経っても現状のままなんですね。こういった研究からもそれが見えているのでご紹介しています。

「経営層」と「現場レベル」での必要な取り組み

松永:では、まとめに入りますね。今日の話はたぶん2レイヤーありまして。1つは上層部ですね。

当然、経営会議をする人たちのレイヤーなので、「新規事業って、そもそもなんで必要なんだっけ」という大きなところから始める。

そして自社の戦略において、全社計画の中にしっかり新規事業を位置づける。それはプラスアルファではなくて、その中の核の1つとして位置づけて、「そのために組織、仕組み・制度がどうあるべきか」をちゃんと話さなきゃいけない。これが1つですね。

もう1つのレイヤーの現場レベルでは、ただアイデアをこねくり回しているだけじゃなくて、何か考えついたらやれる範囲でとにかくやる。動かしていって、動かした結果として「こんなものが見えてきたので、やってもいいですか?」と。

なんなら、もうやっちゃって「売れることがわかったので、これはやらないとヤバいですよ」というかたちを作っていく。成果を作ることで組織を変える。これは、逆に現場レベルの矜持として持っておく必要があると思っています。

この2つが、今日のお話の最終的に行き着くところですね。長々と話しましたが、どうもありがとうございました。

佐古:ありがとうございました。

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