2024.10.10
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パフォーマンス向上のカギは、仕事中の「サボり」にあり(全1記事)
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ーー仕事中に意識的に「サボる」時間を設けるなど、適度に休憩時間を取り入れるほうがパフォーマンスが上がると言われています。とはいえ、上手に休憩を取れない人や、ついがんばりすぎてしまう人は少なくないのではないでしょうか。
「サボること」に後ろめたさを感じてしまったり、苦手意識を持ってしまう人の特徴はありますか?
西多昌規氏(以下、西多):とにかく仕事や作業はまじめに長時間やらなきゃいけない、休憩は罪悪だ、という固定観念がある人が1つ目ですね。
2つ目は、周囲に気を遣いすぎる人でしょうね。「サボってるところを見られたくない」というのは、周りの目を気にしているというか。休憩に厳しい上司がいたら、なかなかそういう雰囲気にもならないですし、当然職場の文化や雰囲気も関わってきますよね。
個人の心理じゃなくて、組織、部、課の集団の心理としては、「休憩があってもいいんじゃないの?」と思ってる人は、意外と多いかもしれません。ただ、なんとなくそれが共有できていない。「サボるとディスられるんじゃないか」とかね。わかりやすいのは昼寝の許容度で、昼寝してもいい職場は、わりと休憩に寛容だと思うんですよね。
ーー昼寝を休憩制度として入れていらっしゃる会社もけっこうありますよね。
西多:会社として導入していても、そこの担当部署の人があんまり理解がないとか、当人に罪悪感があったり、いろいろなパターンがあります。(サボることが苦手な人の特徴は)「休憩がダメだ」という自分の強迫観念があること、周囲を気にしすぎることだと思います。
ーー「周りの人がぜんぜん休んでないから、自分も休んではいけない」と思ってしまうパターンも多い気がします。
西多:それもあるかもしれませんし、自分の行動規範が「周囲」になっている場合もありますね。「周りからディスられないために」「褒められるためにやっている」というのが自分の行動のパターンになってしまっている人は、サボるのが苦手。
「サボる」というのは「サボタージュ」ですが、かなり後ろめたいけれども、その反面自主性がある。だってサボるっていうのは、人から強制されてやるもんじゃないですからね。自発的にやるものだから、人の言うことを聞いて育ってきたとか、自分がない人はサボるのが一番苦手ですね。
プラス、人間は何か新しいことをしようと思っても(習慣を)変えるのが苦手という性質があります。例えば、現状維持バイアスと言いますよね。面倒くさいから同じことをするとか、変化を嫌うんです。
私は睡眠を専門にしてるんですが、人間には「睡眠慣性」という、惰性で眠りを続けようとする性質があるんです。たっぷり寝たほうがかえって眠いこともあると思うんですけど、人間は(物事を)惰性で続けちゃう傾向があるので、自分でも気づかない疲労がけっこうあると思うんですよね。
西多:自分は「そんなに(睡眠時間は)悪くない」と思っていても、軽い睡眠不足は自覚できないんです。脳の機能やパフォーマンスとか、注意力、集中力、思考力が少し落ちてることもあるから、そこは気をつけなきゃいけない。
なのでやっぱり、どこかで休憩入れないと持ちませんが、この現代社会の座り仕事は(肉体労働と違って)けっこうずっとできちゃうんですよね。それに、その人のコンディションや能力と作業の内容によって疲労度が変わるので、どれぐらいで休憩をしたらいいのかは決められない。
ただ、人間には「作業興奮」という現象があって、最初は気が乗らないけど(作業を)やると乗ってくる。このままずっと右肩上がりにいくかといったらそうでもなくて、どこかで雑になっていくんですよね。これには個人差があります。
芸術関係のことであれば、1,000本ノックだったら1,000本目が大事だというプロダクトもあるかもしれない。ただ、普通は仕事って好きだけど嫌な部分もあったり、わりとアンビバレントというか、好き嫌いの合わさったものですから、どこかで休憩をしたほうが雑になるのを防げる。
最近の研究では、ある程度の感覚でインターバルを置いたほうが、脳の集中力や思考力に関わる神経伝達物質のはたらきによって、1日を通してパフォーマンスを維持しやすいという結果があります。
ーー作業効率を上げるためにインターバルが大事ということですが、つい仕事が“24時間営業”になってしまう人も多いんじゃないかと思います。
西多:そうそう。座りっぱなしで休憩といっても、動かないでネットを見ていたりとか。昔の肉体労働時代は、つらいことから逃げてちょっと一服吸ってるとかあったけど、このオンラインの仕事でも意外とみんなサボってると思うんですよね。
学生だって、そんなにずっと私の講義を聞いてるはずもなくて、黙ってYouTubeとかを見ていることはもう間違いないと思います。オフィスでも、誰も見てなきゃ違うサイトを見てることもあるでしょうから、そこそこサボってると思うんです。
ただ、仕事合間の気分転換スマホやネットサーフィンが、果たしていいサボりなのかどうか? という問題があるんですよね。
ーー仕事のパフォーマンスを上げるためのサボりが、いわゆる「いいサボり」だと思うんですが、それこそネットサーフィンとか、休んだ気になっているだけの「悪いサボり」との違いはどこにあるのでしょうか?
西多:ちょっとした移動はあるにしろ、ログミーさんの読者はおそらくデスクワークの人が多いと思います。さっき言ったように、座りっぱなしでスマホを見て、Yahoo!ニュースでも見て楽しむのは気分転換にはなるんですが、インターバル全部でそれをやっていると、結局全部座りっぱなしですよね。
座りっぱなしだと腰に負担がかかったり、姿勢が悪くなる、寿命が短くなる、認知症になりやすい、生活習慣病になりやすいとか、これに関する論文はたくさんあるんです。「座りっぱなし」でGoogle検索すると、いかなる健康被害がいっぱい出てくると。ちゃんと学術論文になっているということは、勝手な解釈じゃないわけですよね。
西多:例えば1日に数回インターバルがあるとして、歩くのはトイレだけとか、コンビニでご飯を買ってきて座って食べるほうが楽だし、本人は気分転換してるように思えるからいかにも休憩っぽく思えますが、座りっぱなしはよくないです。
人間、やっぱり歩かないと健康にもよくないですが、集中力にもよくないんですよ。1日ずっと座っていて、能率が上がるとは思えないですね。今のは座りっぱなしの仕事の極論ですが、打ち合わせで移動していたりすれば、それはそれでよいと思うんです。
だから、私の中での「悪いサボり」は、ずっと座りっぱなしでネットをやっていることです。「いいサボり」は、多少外を歩いたり、コンビニへ行ったり、ちょっと移動してコーヒー飲みに行ったりとかね。
ーーなるほど。座りっぱなしでスマホを見たりしているだけだと、気分転換になってる「つもり」なんですね。
西多:そういうことです。体に負担がないですから、自分自身は気分転換してるつもりになる。肉体労働だったら座ってゆっくりするのはいいと思うんですが、デスクワーク、オフィスワークの人はちょっと気をつけなきゃいけないですね。
ーー意識的な「サボり」は大切だということですが、特にリモートワークでは周りの姿が見えないため、自分が休憩を取ることに罪悪感を感じてしまう人もいるのではないでしょうか。罪悪感を抱いてしまう原因と、意識的にサボる時間を取り入れるためのポイントを教えていただきたいです。
西多:いくらリモートワークが普及してきたとはいえ、「平日の昼から家にいていいの?」という思いがあるわけですよね。やっぱり、その意識はまだ取れないと思いますよ。
独身の一人暮らしはいいけど、家庭だと「なんでお父さんはこんなに昼からずっと家にいるの?」とかね。コロナ禍になって3年経つから慣れてきたのかもしれませんが、在宅の後ろめたさはありますよね。「会社に行くことからすれば、家にいること自体が全部休息みたいもんだろう」みたいなね。
会社としても勤務状況が把握できないから、「リモートワークで本当はサボってんじゃないの?」とか、よく言われてましたよね。
労働時間の管理方法はまだ確立されたものはないですが、家にいるという背徳感をうっすらベースで保ってるというか。通勤は“合法的に”サボってるわけですから、ある意味(在宅は)メリハリがつけにくいですよね。
ーー「ほかの人は本当に休んでるのかな?」と思ってしまうところはありますね。あとは、チャットツールやメールが常に動いているから休みづらい、というところもあるのかなと思います。
西多:そこは「認知的不協和」というか、家にいてサボっていて休日と変わらない状況だとは思いつつも、結局はメールやSlackなどは休日より多いわけで、なんだかんだ仕事はオンラインじゃないですか。
家にいて、部屋の環境はオフラインだけど仕事はオンラインという、このギャップにまだ我々は慣れていないし、永遠に慣れられるのかな? という気はしますね。だいたい、仕事や学校は外に出掛けてやっていたものですから。
西多:これは考えを変えるというよりは、場所を変えるのが一番いいと思いますよ。隣の部屋に行くとか、狭い部屋だったらちょっと違う場所、トイレに行くとか、そんなんでもいいと思います。(仕事と私生活の)境目がないから、休憩は自分の作業場から離れたほうがいいと思います。
基本的に休憩って、スマホでYouTubeを見るとかじゃなくて、場所を変える「トランジション」、移動が大事だと思うんです。私もそうしていますが、家に数部屋ある人はイスから離れて違う部屋に行ってストレッチしたりとかね。
困ったのは、ワンルームに住んでる学生さんとか。特に家で朝からずっと暗い部屋でオンラインで講義を受けている、そんなのメンタルにいいはずがありません。
気分が沈んでくると、なかなか「面倒くさい」となってくるんですが、雨の日はしかたないですけど、とにかく座りっぱなしにならないことです。天気のいい日は「次の仕事はちょっと外でやってみるか」とか、そういう感じでやるのはいいかなと思いますね。
ーー先ほどお話にもあったように、仕事と私生活のグラデーションがなくなってしまうと切り替えが難しいなと思うんですが、オンオフを上手に切り替えるコツはありますか?
西多:オンラインとオフラインをきっぱり区別するのは難しいな、という結論に達したんです。ある時はオンラインゼロ、メールも見ないという人もいるかもしれないですが、現実的には、メール、チャット、ビジネスチャットから一日離れただけでもすごく溜まってしまって大変だと。
土日とか正月はやってもいいかもしれないですが、平日にいきなりデジタルデトックスをやっても、休み明けに死ぬようなもんだからね。だからデジタルデトックスは、暇な人は別にやってもいいけど、忙しい人はけっこうやばいと思うんです。
西多:なので私は最近、オフラインとオンラインをはっきり分けないようにしていて。休憩の時はオンライン2割、ぼーっとするの8割とかね。なんたって、テレビを見てる時でもスマホを見てる時代なので。ご飯を食べてる間もスマホでインスタに投稿してるぐらいだから、人間がオンラインから完全に離れるのはもう無理なのかなと思います。
だから、せいぜいオンラインの比率を下げる時間を作るぐらい。オンラインに染まってる頭や手をちょっと薄めるぐらいなんじゃないですかね。比率を下げるためには、オンラインに代わる行動を導入するのは一番です。何もしないと、やっぱりスマホになっちゃうので。
私の場合はストレッチとコーヒーを淹れるぐらいしか思い浮かばないですが、多少スマホが邪魔になるような、リラックス行動を取るのはありかもしれません。
疲れてくると、人間は疲れながらも自覚せずにダラダラやってしまったり、あるいは逆に、体は疲れてるけどやりがいで脳を自分をだましてがんばろうとする。ただ、この脳の疲れをだます気力も失ってきたらごまかしようもないですから、よく言われるのは「飽きてきたら休憩のサイン」なんですよね。
ただ、気をつけなきゃいけないのが、このスマホ時代は人間はすぐ飽きるんです。テレビがおもしろくないとすぐに飽きてスマホを見るとか、この「飽きる」というのを指標にすると、あっという間に終わってしまう。
2分、3分で休憩しなきゃいけないのか? という話になると、ここは難しくて。昔は「飽きたら休憩サインですよ」が当てはまってたんですが、今はすぐ飽きるのが当たり前で、スマホはしょうがないという考えを受け入れなきゃいけない。
となると、「こうなったらサボる」というよりは、サボりをルーティン化して定期的にサボっていくほうがいいのかもしれません。
ーーあらかじめスケジュールに「サボる時間」を組み込んでおくほうがいいんですね。
西多:「こうなったらサボったほうがいい」というサイン自体に気づかなかったり、脳がごまかしたりするから、そのサインには気づきようがないというか。このネットの時代は、定式化して「10時と13時に休む」とか、そんなほうがいいのかもしれません。
病気って、初期症状の判断がすごく難しいんですよ。医者は「具合が悪いなら早く来い」と言うけど、「具合が悪いって、どこまでが具合が悪くてどこまでが我慢していいの?」とか、初期症状の判断は素人には非常に困難なんです。
なので、学校の休み時間ほどきっちりはしなくていいけれども、自分なりに午前午後の休憩ポイントを定めるのがいいんじゃないですかね。
ちょっとサボったぐらいじゃ復活しないなら、バランスよく休憩を取りましょう。ただ、定式化して休むことができればいいですが、予定が入ったりとか、大抵世の中の働いてる人はそれは難しいですよね。
いろいろとありますから、なかなかそれはできない。ということは、あんまり考えすぎずに「くたびれた時に休憩する」でもいいかもしれません。
ーー西多さんのお話をうかがって、がんばりすぎずに適度にサボることが、いかに心身の健康のためには大切かをあらためて痛感しました。西多さん、本日はありがとうございました。
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