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株式会社チャレナジー 代表取締役CEO 清水敦史 氏(全2記事)

「何気なく出した手」が、特許取得のブレイクスルーの鍵に 不利な状況下でも、「突破口」を開くために必要なこと

台風などの厳しい環境下でも安定した風力発電を実現する風力発電機を開発した株式会社チャレナジー。本記事では、幾多のトライ&エラーの末に風力発電の歴史を変える風車を発明した同社代表の清水敦史氏に、創業当初に直面した重大な技術的危機や、日本が世界有数の水素輸出国になる可能性などを伺いました。 ※このログはアマテラスのCEOインタビューの記事を転載したものに、ログミー編集部でタイトルなどを追加して作成しています。

創業当初にぶつかった「資金の壁」

アマテラス:2014年に創業され、さまざまなことに悩みながら今に至っていらっしゃると思います。ここからは清水さんが経営者としてどのようなことに葛藤し、どのように意思決定をしながら乗り越えてきたのかについて伺わせて下さい。

清水氏:起業当初に最も悩まされたのはやはり経営面、資金の壁です。テック・プラン・グランプリの副賞で得た500万円の投資でまずはしのぎましたが、試作もままなりません。

潮目が変わったのはNEDO((国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)が2014年夏に開始した「研究開発型ベンチャー支援事業」でした。将来のメガベンチャー創出を目的としたスタートアップイノベーター(SUI)に対して生活費を含めた総合的な事業化支援を行う画期的な事業で、この第一号に採択されたことで3,000万円の助成を得ることができました。

SUIに採択されていなければ、今の我々は存在していなかったと思います。テック・プラン・グランプリの時もそう思いましたが、まさに神がかり的なタイミングでした。

アマテラス:リアルテックファンドからも資金調達をされていますね。

清水氏:はい、リアルテックファンドからも調達しています。NEDOの資金で2016年に沖縄県南城市に1キロワット機を建てたのですが、このプロトタイプを作ったことでリアルテックファンドが資金を出してくれました。

また、テック・プラン・グランプリの審査員だった浜野製作所の浜野社長にも並々ならぬお世話になりました。チャレナジーは浜野製作所のガレージスミダというインキュベーションの入居第一号となり、ものづくりのご指導をいただきました。

テック・プラン・グランプリ第1号、NEDOのSUI第1号、浜野製作所のガレージスミダ第1号、そして、リアルテックファンドからの資金調達。こういったさまざまな支援をして下さる方がいて、それで大変な創業初期を何とか乗り越えて来ました。これを強運と一言で言ってしまうのは簡単ですが、それ以上に運命的なものを、感謝の思いと共に実感しています。

発電効率が予想の「200分の1」という技術的危機

アマテラス:資金のめどが立ち、開発に本腰が入れられるようになったのですね。

清水氏:実は技術面でも創業直後に危機がありました。最初の資金を使って垂直軸型マグナス風車の発電効率をシミュレーションしたのですが、その結果が恐ろしく低かったのです。一般的なプロペラ風車の発電効率が30~40パーセントと言われており、机上の計算では私の発電機も20パーセント台は出ると予想していたのですが、結果は「0.1パーセント」。

結論から言うと、円筒の圧力抵抗が原因でした。圧力抵抗の見積もりが甘かったことが、予測を大きく狂わせたのです。それまでずっと誤差の出にくい光学の世界で仕事をしていた私は、流体力学の世界においては素人同然だということがよく分かったできごとでした。

あまりの結果に、周囲からは「もう無理なのではないか」という意見も出ましたが、私自身は「これがスタートラインだ」と半ば自分に言い聞かせながら、マグナス力を高めるため試行錯誤を繰り返しました。結果、半年後に発電効率は2倍になりました。

アマテラス:2倍ということは0.2パーセント。

清水氏:300倍にしないといけないのに2倍です。喜んでいる場合ではありません。実は、NEDOの中間審査が目前に迫っており、それまでに結果を出さないと助成が打ち切りになってしまうという切羽詰まった事情もありました。

アマテラス:NEDOの中間審査までに状況を打開する必要があったのですね。

清水氏:さすがの私も焦りを覚えていましたが、そんな中で奇跡が起きました。実験装置の円筒を回してマグナス力を測定する風洞試験をしていたのですが、風の流れを感じてみようと何気なく手を近づけたところ、マグナス力の計測値が大きく下がったのです。それを見た瞬間、「円筒に物体を近づけるとマグナス力を制御できる」という新しいアイデアに気が付きました。

結果的には、これがブレイクスルーとなりました。私の手の代わりに板を取り付けることで、2本1組の円筒を1本に減らすことができ、圧力抵抗が大幅に下がった結果、シミュレーションの発電効率は一気に30パーセントに跳ね上がりました。今はこの技術で世界23カ国の特許を取得しています。

不利な状況下でも、「突破口」を開くために必要なこと

アマテラス:偶然の幸運もありましたが、清水さんが危機を乗り越えられた最大のファクターはどこにあると思われますか?

清水氏:頭だけに頼らず、自分で手を動かし続けたことではないでしょうか。例えば、マグナス効果については、流体力学の教科書に「流体中で物体を回転させると揚力が生じる」というような説明が書いてありますが、「物体の近傍の特定の位置に別の物体が存在する場合にはマグナス効果は生じない」とは書かれていません。

私自身、教科書を何度読み直したところで、新しいアイデアには辿り着かなかったと思います。円筒に手をかざすという偶然から、板1枚でマグナス力を制御できるという「清水効果」を発見したわけです。

同じように、偶然がきっかけとなった発明は、レントゲン、電子レンジ、付箋など枚挙にいとまがありません。ちなみに、X線に手をかざしてみたのが、世界初のレントゲン写真です。

ものづくりベンチャーにおいては、自分で手を動かし、手探りし、手作りし、たまには手をかざしてみることをお勧めします(笑)。

また、ここまで多くの失敗を繰り返して分かったのは、「絶対無理」と思うことにも必ず突破口があるということです。突破口を開くためには、とにかく考え続けること、そして試すことだと信念を持って取り組んでいます。他人から見れば、「幸運が重なっただけ」に見えるかもしれませんが、実態は執念で掴み取った偶然であり、私にとっては必然の結果なのです。

エジソンが電球を発明した時に口にした「失敗ではない、うまく行かない1万通りの方法を発見したのだ」という失敗論は大変有名ですよね。ダイソンも掃除機の試作機を5,000個作ったと言っています。

もう1つ、私が普段から社員に話しているのが、ホンダで有名な三現主義です。現場・現物・現実、が大事だという話ですが、私自身もそのとおりだと常々感じています。構造解析や流体解析など、開発におけるシミュレーション解析は有用ですが、現実と異なる条件でシミュレーションしてしまったり、シミュレーションを繰り返すよりも現物で試す方が早かったりすることがあります。

事業のユニークさが採用に与える影響

アマテラス:チャレナジーは清水さんがおひとりで創業されたのですか? 特に昨今、リスクテイカーの少ない日本ではどこのベンチャーも優秀なエンジニアの確保に苦労していますが、採用はどのように進められたのでしょうか。

清水氏:最初にリバネスにいた方が1人来てくれたので、2名で創業しました。当初は採用活動もままならなかったので、知り合いからの紹介など身近な方が中心でした。最近になってようやく広く集められる環境になり、アマテラスでも採用できるようになりました。

アマテラス:弊社からもエンジニアや事業開発、時短勤務等幅広く、複数の方をご採用いただき、ありがとうございます。最初の頃は資金もあまりない中で、どうやって人材を口説いたのでしょうか?

清水氏:これは創業当初からずっと変わらないのですが、我々のビジョンにちゃんと共感してもらえる人かどうか、という部分にフォーカスして採用活動をしています。ビジョンが合っていれば来てくれる確率も高くなりますから。

私は、チャレナジーは人を集めやすい会社だと感じています。やっていることがユニークで、日本国内には比較対象がほぼありませんから、風力発電に取り組みたいと考えている人から見るとうちは見付けやすい会社だと思いますし、応募して来る人は既に「風力発電で何とかしたい」というパッションを持っている人が多い。そういう意味では最初から話も合って、楽に採用できることが案外多いのです。

創業当初はこのユニークさが仲間集めの壁にもなっていたのですが、メディアなどに取り上げられるようになったことで応募も徐々に増えて来ました。そして、このユニークさが今は逆に健全な形で、テレビで見たから、有名だからというだけで応募はできない良い意味での敷居となってくれている気がします。

オーバースペックに設計する理由

アマテラス:今後の事業展開についても伺わせて下さい。短期的・中長期的なビジョン、そして清水さんが感じていらっしゃる経営課題などをお聞かせいただけますか?

清水氏:短期的な話をすると、現在は量産に向けてもがいている状況なので、何とか商業ベースに乗せたいと試行錯誤しています。ITベンチャーなどと比較すると、ものづくりの業界は「まずはβ版を出して様子を見る」とか「問題があればすぐに交換する」といったことが難しい。万一倒壊した時の被害などのリスクを想定すると、多少オーバースペックに設計するしかありません。

オーバースペックにする理由はもう1つあります。この世界では我々がフロントランナーであるため、規格はおろか、過去の蓄積から導かれる基準のようなものが皆無だからです。品質や安全対策などの蓄積データがないので、どうしてもコスト高は避けられません。

電気自動車のテスラは、創業期には高所得者向けのスポーツカーを販売することでコスト高をカバーしていました。しかし、風力発電機は販売先が自治体などになりますから、そういったブランドビジネスには向きません。超富裕者層向けにエコ意識の象徴として買ってもらえないかと考えたりもしていますが、基本的にはコストを下げて商業ベースに乗せることを最重要課題として取り組んでいます。

アマテラス:現段階のキロワット当たりの発電コストはどの程度まで下げられているのでしょうか。

清水氏:現状は大型風車に比べればまだまだですが、一般的に発電コストが高いと言われている離島のディーゼル発電となら勝負できるレベルまで改善しています。沖縄で実証実験をしているのも離島への展開戦略の一環です。台風に強いという我々の強みを生かしてBCPとしての導入など、単純に発電所として考えると高いけれど、それを上回る付加価値を提供できるビジネスモデルとして展開できればと考えています。

実は、日本だけでなくフィリピンでも我々の風力発電機を実証中です。コロナ禍の中で、何とか建設完了までこぎつけました。何千もの島で成り立っているフィリピンで、1つの島に1基ずつ設置するだけでも、ベンチャーにとっては大きなマーケットになります。輸送費を考えると当然高コストになってしまうので、一部の部品は現地生産しながら導入を進めていけたらと考えています。

日本が世界有数の水素輸出国になる可能性

清水:中長期的な話をすると、私たちの最終的なビジョンは「島を起点とした水素社会の実現」です。日本が化石燃料や原子力から脱却しカーボンニュートラルを実現するために、水素は不可欠な存在だと考えています。水素は使用過程でCO₂を排出しない上、低温液化すれば大量輸送が可能で、熱利用もできるなど、高いポテンシャルを持っており、クリーンエネルギー源として大きな期待を集めています。

一方で、水素の製造方法には課題があります。化石燃料を使っていたら意味がありません。再生可能エネルギーでつくった電気で、水を電気分解するのが唯一のサステイナブルな方法ですが、現状の日本ではまだ難しい。でも、風力発電にはその壁の突破口になる可能性があります。私は日本を水素輸出大国にするために、日本中の島を水素の供給基地にしたいと考えています。

アマテラス:島が水素の供給基地になるのですか?

清水氏:島には水素を大量製造するための条件が揃っていると思います。1つは常時吹いている島風、もう1つは豊富な海水です。我々の風力発電で発電した電気で、海水を電気分解することで、安定的に水素を製造できると思います。日本にはすでに、水素の利用技術も輸送技術もあります。海に囲まれた島国というこの環境を最大限に利用して離島でガンガン風車を回し続ければ、世界有数の水素輸出国になる可能性があると私は信じています。

日本の離島は農業と観光資源に収入の多くを頼っている現状があります。しかし、そこに水素の製造というポートフォリオが加わることで経済的な安定も手に入れることができます。島だからこそ作れる仕組みです。

これは脱炭素革命の中で日本がエネルギー大国に生まれ変わるチャンスですし、台風に負けないチャレナジーの風車は切り札になり得ます。台風のエネルギーの一部も、水素にして資源化できるかもしれません。水素の時代が到来した時には、我々は風力発電機のメーカーではなく、世界最大の水素製造カンパニーになっているかもしれませんね。

次に来るのは「脱炭素革命」

アマテラス:御社に参画したいと考えている人たちにとって今はどのような状況だとお考えですか?

清水氏:当社を取り巻く状況は非常に良いと思っています。国は「2050年までにカーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と宣言しており、業界にとって大きな追い風になっています。また、再生可能エネルギーはSDGsの目標の1つでもあり、世界的にもその流れは明らかです。10年前には考えられなかったようなテスラの躍進に象徴されるように、クリーンテックは間違いなく次世代の産業として期待されているマーケットです。

さらに、電力はインフラの中心です。コロナで落ち込んだ経済を立て直すためにエネルギーシフトへの投資は必ず行われると予測していますし、その際にはビルド・バック・ベター、つまりどうせやるのならより良いものを作ろうという流れになるはずです。

この業界はまさに今が立ち上げの時期で、個人的には自動車産業やインターネットの黎明期、IT革命期、あるいはモバイル革命期に非常に雰囲気が似ていると感じています。次に来るのは脱炭素革命です。こうなることを予測して始めた会社ですが、時代の波が一気に追い付いてきた感があります。チャレナジーに参画するのにこれ以上のタイミングはなかなかないかもしれません。

アマテラス:現在は、社員数は何名くらいですか?

清水氏:30名程です。そのうち3割が外国人で、6カ国くらいの混合チームになっています。職場は日本語と英語が飛び交っており、プチグローバルな世界観がそのままうちの社風になっています。

アマテラス:今チャレナジーが求める人材として、清水さんはどのような人物像をお考えでしょうか。

清水氏:良いも悪いも含めて様々な文化がぶつかり合うような環境で仕事をしていますから、何よりもビジョンが合致していることを最も重視しています。優秀な人材も必要ですが、そこは最重要ではありません。そして、やはり大変な時期であることは間違いないので、その覚悟を持って一緒に取り組んでいけるかどうかです。

チャレナジー社の魅力

アマテラス:最後の質問になりますが、清水さんがお考えになるチャレナジーの魅力とはどこにあると思われますか?

清水氏:話が少し横道に逸れますが、私の本棚には『エネルギー400年史』という本があります。それを読んでいると歴史は繰り返されていることがよく分かります。人類とエネルギーの関係は薪からスタートし、石炭、石油、原子力と移り変わって来ました。

しかし、その転換のきっかけになるのはいつも技術的イノベーションです。ワットが蒸気機関を発明したことで石炭による産業革命がおき、鉄が大量生産されるようになると鉄道やパイプラインが作れるようになり、石油の時代の礎になった。エネルギーは様々なイノベーションが絡み合いながら変わり続けているのです。

私たちはまさに今、脱炭素革命の入口に立っています。そういう意味で、我々は歴史を変える当事者として、ほとばしるような使命感を抱いています。例えば50年後に「日本は水素の輸出量世界一です。そのきっかけは、この垂直軸型マグナス式風力発電機でした」と言われるように、発明で世界を変えて行きたいと本気で考えています。

チャレナジーの面白さはこのユニークさであり、世界に今までなかったものを1から作ることができる、世界を変える技術があるということではないでしょうか。世界の脱炭素革命の一端を担った企業として、『エネルギー500年史』に載るような仕事をしているのだという自負を持って、これからも挑戦を続けて行くつもりです。

アマテラス:世界一の水素製造カンパニー実現に向けて、私たちも精一杯サポートさせていただけたらと思います。本日はどうもありがとうございました。

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