2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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神田昌典氏(以下、神田):こんにちは、はじめまして。よろしくお願いいたします。
坪谷邦生氏(以下、坪谷):よろしくお願いいたします。貴重な機会をありがとうございます。この機会が本当に夢のようで、すごくどきどきしております。実は、神田さんの『非常識な成功法則』を20年前に拝読しまして。
「書けば叶う」というひと言に、すごくショックを受けました。「本当かなぁ?」と思いながら、「40歳で自分の本を出す」と書いたんですよ。それが現実になって、やっぱり本に書いてあったことは本当だと、今でも思ってるんですね。たぶん日本中にそういう方がたくさんいらっしゃって、私もそのうちの1人だと思っています。
神田:ありがとうございます。本当におかげさまでなんですけど……。褒めていただきまして、豚も木に登ります。
坪谷:そんな(笑)。
神田:あの本は若気の至りというか、僕は書ける立場ではなかったんですが、がんばって書いちゃえと。(本のタイトルは『非常識な成功法則』ですが)正直なところ、僕は常識的な人間だと思っているんです。
先日、ユーグレナの出雲社長とインタビューさせていただいた時も、そんな話をしました。そうしたら、出雲さんから「あの本のおかげで今のユーグレナも立ち上がった」と褒めていただいて。坪谷さんにもそんなふうに言っていただいて、うれしい限りです。
神田:坪谷さんの『図解 組織開発入門』もそうですが、今回の目標管理(MBO)の企画書もすごいですよね。全部自分でやられてたんですか。
坪谷:はい。自分で作っています。もともとプログラマーだったので、構造や言葉の定義などにこだわっている部分はあるかもしれないです。
神田:プログラマーを目指されたきっかけは何だったんですか?
坪谷:数学がすごく得意だったんです。社会や英語は赤点に近いけど、算数・数学だけはトップを取れた。母が公文の先生で、公文式をやったらすごく楽しくて、仕事においても論理構造で価値を出す分野に進みたいと考えたのです。
神田:なるほど。壺中天の社名はどういう由来なんですか?
坪谷:もともと中国に「壺中有天(壺中天あり)」という故事成語があるんです。仙人のような老人が壺の中にすっと吸い込まれていくのを見かけた青年が、後をついて行って壺の中に入ると、天が広がっていて楽園のような世界があったという話です。
私は組織や企業をそれに見立てて、組織の中に1つの世界、天が広がっているような状況にしていきたいなぁと思って、壺中天という名前にしています。
神田:ああ、その企業の世界観が宿るようにですね。
坪谷:おっしゃるとおりです。
神田:はぁ~。おもしろいですねぇ。今はどこに一番力を入れてるんですか?
坪谷:今一番力を入れてるのは、目標管理(MBO)です。いろいろなクライアントの人事顧問をしている中で、特にコロナ禍以降、企業では目標をしっかり持って「方向づけ」ていくことができていないので苦しんでいると感じています。そこに向けてできることを考えていますね。
神田:これまでの著書も書くのが大変だったでしょうし、すごいですね。私も素晴らしい良書を見て、盛り上がりました。
坪谷:ありがとうございます。私は、もともとリクルート社でコンサルタントをしていたんですが、「目標を設定すること」が肝なんじゃないかなと思っています。
当時のリクルートでは、「お前はどうしたい?」という言葉でマネジメントがされていました。自分の意志を持って前に進んでいく、目標を自分で置いて必達することが当たり前の風土があったと思います。
今、いろいろな企業の方々とお話をしていると、目標管理シートというものがあって、「やりたいことは何か」を聞かれるので書か「ねばならない」。就活生も学生時代に力を入れたこと(ガクチカ)を言わ「ねばならない」という、“WillのMust化”が起こっていると感じています。
自分がやりたいことの旗を掲げて全力で進むという、シンプルでおもしろいことを多くの人は味わえてない気がしています。それで、どうすればみんながわくわくするような目標を置けるのかを考えた時に、『非常識な成功法則』に書いてあったことを思い出したんです。
シンプルに「紙に書けば叶っちゃうよ」と書いてあって、本当かなと思いつつも「それで済むなら書いちゃえ」と思って壁にも貼りましたし、クリアファイルに入れてニヤニヤしたりもしたんですけど。みんな、こんなシンプルなことをなんでしないんだろうとも思っています。
ちょっと大きいワードですが、神田さんは今の「働いてる人」をどうご覧になっているかをうかがってみたいです。
神田:坪谷さんがおっしゃったとおり、みんなが目標を持って夢中になれるような体験を欲していながらも、残念ながら会社では、そこにたどり着く方法が提示されないまま管理に行ってしまっていると思います。間(あいだ)が抜けているところが大きな問題かなと思いますね。
小学校では自分のやりたいことが本当に素直にできるんですよね。だけど、中学生くらいになると大人の意向を忖度し始め、会社に入ると自分を殺してしまう状況が続いているのではないかと思います。
目標管理というのは、どの視点から掘り下げていくかによって、ぜんぜん違うと思います。『非常識な成功法則』は、僕が37歳くらいの時に書いた本なので、もう20年前なんですよ。
なぜみんながこんな簡単なことをやらないのかというと、実は自分で目標を持って生きられるような自己成長モデルの人にとってはシンプルなんです。
僕らの年代は「やりたいこと」というと、年収を掲げるとか幸せな家庭を持つとか、子どもは何人といった表層的な目標が当たり前だったんですよね。今はベンチャーを立ち上げて数十億円の資金調達をし、シリアルアントレプレナーになったり、さらに社会貢献をしたりするなどもありますが、それらも表層的な願望なんです。
本当に自分が求めていることかというとそうではなくて、流行りだからなんですよね。それは、内発的な動機を見出すプロセスがまだ社会に実装されていないということだと思うんです。
神田:なので、自己成長モデルの人には『非常識な成功法則』がはまるんです。世の中の制約はいったん置いておいて、自分の本当にやりたいことは何なのか、やりたくないことは何かを考える。本に書いたように、自分が没頭できることだけにエネルギーを使うと、やっぱり成功するんですよね。
アンジェラ・ダックワースさん(米国教育界で重視されている「グリット」(やり抜く力)研究の第一人者で、ペンシルベニア大学教授)が言っているように、世の中で偉業を達成する人の特徴は「やり抜く力」です。才能の有無よりも、長期的な目標に情熱を持ち続けられるかどうかがポイントだと思っています。
だから、紙に書いた目標をファイリングするのも、フォーカスすべき時にフォーカスして、情熱を持ち続けられるかどうかということなんです。世の中の自己成長モデルの人は25パーセントくらいだと考えると、残りの75パーセントにどう対応するかは世界的な課題です。企業で働く人は安定性を求めているので、現状維持バイアスが比較的強い。管理されたほうが楽なわけですよね。
坪谷:確かに。
神田:管理されるままでもOKでしたが、今は人生100年時代と言われていて、会社が社員の人生を保証できなくなったので、学校教育でも内発的な動機が重視され始めているんです。
内発的な動機を発見しようというのは、すごく良いことなんですけどね。学習にもキャリアにも内発的な動機を持って取り組むほうが良いと言われている一方で、それを見出すためのプロセスは、まだ明確には普及していないわけですよ。
坪谷:そうですよね。
神田:内発的な動機が生まれる一番のきっかけは、死にそうな思いをした時なんです。病気になったりリストラされたり、配偶者を亡くした時に、「自分がなぜ生きているのか、何のために生まれてきたのか」という思いに直面するわけです。東日本大震災やコロナ禍は苦しいけれども、一人ひとりが自分の生き方を見直すことにもつながる。
自分らしい生き方を模索する中で、「ウェルビーイング」という言葉が流行りはじめていますが、収入と両立できるのかなどいろいろありますよね。ある意味では、こうしたことの解決は、人事に課せられた課題ではないでしょうか。
坪谷:そうですね。お話を聞いていて、3つ思ったことがあります。1つ目は、子どもの頃は誰もが持っていた内発的動機が、忖度を繰り返す中で失われていくという話で、ピーター・センゲ『学習する組織』の序文です。
センゲは、日本にQC(品質管理)を持ってきたW・エドワーズ・デミングに影響を受けています。デミングは、今の企業のマネジメントスタイルが人間の内発的動機を殺していて、それはもう小学校の教育から始まっていると。
ピーター・センゲは、のちに『学習する学校』という本も書いているんですが、デミングと同じ問題意識をもって、子どもたちの教育に向かっている感じがします。内発的動機に問題意識を持つ人たちの一部が教育を変えにいっていることと、今のお話はすごくつながっているなと思いました。
それから、2つ目は『図解 組織開発入門』にも書かせていただいたんですけど、ティール組織が流行したことで、意識の発達段階の話が広まったのは、日本にとってすごく良かったなと思っています。
神田さんがおっしゃられた「現状維持バイアスの強い人」、つまり言われたことをしっかりやる、アンバー(順応型)と呼ばれる段階の人たちが、常に40パーセントぐらい存在する。その人たちに「やりたいことは何?」と言うのは苦行でしかない。
『ティール組織』を書いたフレデリック・ラルーが参考にしていたのは、インテグラル理論(人間・組織・社会・世界を統合的にとらえるための新しいフレームワーク)のケン・ウィルバーです。
ケン・ウィルバーは、アンバー(順応型)の人をオレンジ(達成型)にするとか、オレンジがグリーン(多元型)になるとか、グリーンがティール(進化型)になることよりも、各ステージの中で豊かになることのほうが何倍も大事だと言い切ってるんですね。
私は、そこにヒントがあると思っています。アンバーの人が、アンバーの状態で健全で豊かであるにはどうしたらいいのかを考えたほうが良いのではないかと。
坪谷:3つ目は、死にそうな思いをした時にこそ内発的な動機が出てくるというのは、まさにその通りですね。突き抜けて活躍している人たちのお話を聞くと、どこかで必ず人生のどん底というような状態に落ちています。
また、企業の経営者とお話をしていると、「どうやったらビジョンが持てるんだ」「パーパスをどうやって持ったらいいか、わからん」といった声をよく聞きます。
思い起こすと、パナソニックの創始者松下幸之助さんも、戦後の焼け野原になった日本を見て、これはまずいということで、商品を大量に生産・供給して価格を下げ、人々が水道水のように容易に商品を手に入れられる社会を目指す「水道哲学」を考えられた。
やっぱり、本当にヒリヒリするものを持たないと、ビジョンなんて出てこないんじゃないかと感じるのです。そう思うと、やりたいことがない人は実は幸せなんじゃないかとも思うんです。「壮大なビジョンを掲げていないのは、目の前が焼け野原になっていないということで、幸福な状態ということかもしれない」と。
神田:ありがとうございます。より公平な言い方をすると、「どこのコミュニティで何を目指すのか」という、選択自体ができるわけです。現状維持を自分の幸せとして選択することもできる。しかし、僕の考えだと、やっぱり人間には「あれ?」というタイミングがあります。
例えば、会社に勤めるというのは、フォロワーシップですよね。世の中の価値とか、そこでしか学べないものを学ぶ。ところが、魂と言ってもいいし、精神や意識と言ってもいいですが、フォロワーシップから脱却するタイミングが来るんですよね。その時に、変容できる選択肢を提供する必要があると思います。
「四十にして惑わず」という言葉もありますね。どういうライフワークを目指すかは、40代までに考えられるといいわけです。でも、何の疑問も感じないまま、60歳までこの会社に勤めなさいと言っていると、自分でキャリアを考える力が衰えてしまって、元に戻れないんですよ。
坪谷:そうですね。
神田:今までは会社に滅私奉公し、自分の考えを持たなくてもやってこれたわけです。戦後貧乏なところから豊かな国になっていく過程では良かったのですが、人生100年時代はキャリアを自分で考えないとならない。変容できるような働きかけ、もしくは社会環境が必要だと思います。
僕は、ロバート・キーガン博士の(成人発達理論にある)、環境順応型知性と自己主導型知性、自己変容型知性の3つの段階がすごく物語っていると思います。
社会は自己変容型の知性を求めている。50歳60歳になって、もう1回キャリアをやり直さなくてはいけない時に、自己主導型だけでは限界があります。自己変容型知性を養成できるような場があるに越したことはないですね。
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