2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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中村昌雄氏(以下、中村):今日は法人営業に特化した営業のセミナーをやらせてもらいます。みなさんは今回、たぶん「法人営業」という言葉に目を引かれて参加されたと思いますので、今日は個人向けの営業とは違うところに焦点を当てて、お話しさせてもらいたいと思います。
法人営業と言うと、なかなか世の中にノウハウが出ていないと思うんですよね。難しい、難しいと言うんですけど、なるほど難しさがあります。けれども、甘く見ているから受注ができなくて、厳しいポイントを今日はいくつかお伝えするので、それがわかったら「やり方があるんだな」とわかっていただけると思います。
これは去年の末に発表された、日本政策金融公庫さんが出されている「2022年の中小企業の景況見通し」です。
経営基盤の強化に向けて注力する分野で、「営業・販売力の強化」が栄えある3年連続1位ということで、どこの会社さんもここは重要視されるんやなというところですね。2番目が「人材の確保・育成」なので、人を育てながら営業を強化して、売上を上げていくとかかなと思います。
「商品説明しても売れない」とか、「新規のお客さんとか、新規の商談を採用してもらいたいんですけど、採用してもらえない」とか、「営業がよう売ってこない」とか。こんな問題があります。
「商品説明しても売れない」は、営業を商品説明だと思っているというのが原因としてあるんですよね。僕も前の会社で営業を31年やってきましたけど、営業は商品説明をするものやと思っていましたからね。
「こういう商品を売っておいで」と言って商品のカタログとかデモ機を持たされたら、お客さんのところへ行ってそれを一生懸命説明するのが営業だと思っていました。けど、実は営業は商品説明ではないですよ、というところですね。
「興味がありますか? こんな商品を持ってきました。聞いてください」と説明しまくって、「さあどうですか」と言って買ってもらえるものでもないけど、「うちの商品は、こんなにいいのにお客さんはわかってくれない」という話が実際に起こっているんですね。
中村:「新規の商談とか新規のお客さんに採用してもらえない」。なんでかと言うと、今、既存のお客さん、お得意さんの売上が落ちてきている。今までは1つのお得意さんを大切にして、そこでのリピートを増やすとか購入量を増やすのが大切だったんです。
でも今は、お客さんの購買力が落ちてきていたりするので、どうしても「新規の事業に乗り出しています」とか「新規のお客さんを開拓しようとしています」みたいなところが多いですね。けれども、今までやったことがないし、難しいので、なかなか採用されません。
あとは、個人向けに事業を展開していたけれども、法人向けのほうが金額も大きいし、長く続いて安定するので、法人向けに力を入れたいというお客さんも多いですね。
あと、「営業が売れない」。社長さんが営業をされていて、「自分しか営業ができない、任せられない」とかね。あとはできる営業マンが、部門長とかリーダーになった場合。「営業は売れる人と売れない人がいるものだ」と決めている人もいるんですよね。「営業は、売れる営業マンが売るんでしょ? 売れない営業マンはダメじゃないですか」と言うんです。
一方で、「売れる営業マンを雇いたい」と言うけど、いないんですよ。そんなに売れる営業マンはめったにいないですし、もしいたとしても金額はめちゃくちゃ高いし、辞められますしね。だから大切なのは、採用も難しい中で、今いらっしゃる営業マンさんが売れるようにしなければいけない。そんなことが今起こっていますね。
中村:お客さんに商品の説明をしても売れないのは、商品が目的ではないからです。あとは誰かがノーと言っているから。誰かがノーと言っているというのは、お客さんが1人で決めるわけではなくて複数人で決めるので、そのうちの誰かがノーと言っているんです。
あとは営業が属人化しているから、売れる営業マンと売れない営業マンが出てきて、大概の営業マンはなかなか売れにくいですよ、みたいになってきているのが現実ですね。
お客さんは「商品が目的でない」と言いましたが、商品自体にはあんまり興味がない。商品を認めると、「じゃあ買ってください」と言われて買わなければいけないから、「別に要りません」と商品の良さを認めない。お客さんにとって、商品は手段でしかない。私たちはこういう認識もしっかり持つべきですね。
「誰かがノーと言っている」のは、個人が買うのではなく会社が取引をするからですね。金額は大きく、1回買うと長いこと使って、そんなにおいそれと変えられないので、失敗した時のダメージが大きいんですね。だから慎重になります。
自分は、そんな失敗をするような判断をしたと思われたくない。だから採用を決定するとか採用のプロセスにいる人は、自分の責任になりたくないから、非常にリスクに敏感になっています。だから、ノーと言う人が1人でもいれば、採用されない圧力が働いたりします。
「営業が属人化しているから」というのは、これも先ほど申し上げましたが、営業マンを、「行っておいで」と走らせている。営業マンを走らせても、例えばできる営業マンは、個人向けの営業だったら取ってくるでしょうけれども、それなりの金額の商談をしようと思うと、相手さんの決裁者が経営に近い人だったり、そうでなくても部長さん、課長さんに会わなければいけない。
(法人相手でも)できる営業マンだったら、自分の上司を使ってでもやっていきますが、そうでなければ担当者同士でちまちましてぜんぜん売れないかたちにもなります。そこは、ちゃんと売る力を組織力として持つ必要があります。ここらへんが課題感ですね。
中村:私は去年の3月にオムロンという会社を辞めました。そこで新卒からずっと営業をやってきました。オムロンは体温計とか、血圧計とかが有名ですけど、実は6割方は製造業向けの会社なんですよ。
FA(ファクトリーオートメーション)と言われる分野です。だから工場とか機械とかロボットとかの中には必ずオムロンが使われています。お客さんが設備投資されたりとか機械を1台作られた時に、けっこう採用されるのです。
だから小さい商品は何百円という商品もあるんですけれども。私がやっていたのは、どちらかと言うとオムロンの中でもちょっと新しい、コントローラとかネットワークとか競合の激しいシステム系の営業で、何千万円とか何億円という商談をやっていました。それも、私の気性もあって、リピートをもらう商談よりも、競合を切り替えにいくことばっかりやっていました。
若い頃からそういう何千万円とか何億円という切り替え実績があるもので、その後マネージャーになりました。その何千万円とか何億円の切り替えをする部隊の、部門長をずっとやっていました。
そういうこともやっていたので、M&Aした子会社の立て直しに入って、営業組織や戦略の立て直しをやったり。あとは、また違うエンジニアリング子会社へ行って、事業の戦略や営業戦略の立て直しをやったりとか、メンバーの強化をやったりとか。そんなこともいろいろやってきました。
だから、ちょっとした会社さんの営業部門を強くして、そこの会社に組織としての営業力をつけて、売上を上げていくお手伝いができるんです。
一方で、こうやって今セミナーをやらせてもらっているのは、そこまで大げさでなくても、個人の方でもさっきみたいな法人営業にちょっと力を入れたいとか、営業の勉強をしたことがないという人が多いと思うんですけどね。なので一回ひととおり聞いてみたいという人に、「教えたるで」と言ってお教えしていたんですよ。
それで「教えてちょうだい」という人が集まるたびに、「じゃあやりましょうか」と何人かずつ集めて、1ヶ月に1回とか2回とかセミナーをやっていたんですけれども、1回やめてたんですね。でも、今回せっかくなので、まとめて4日間で8回というやり方をしましたので、参考にしていただければなと思います。
中村:では、ここからは本題に入っていきますね。法人営業の特徴みたいなものがあって、いくつかはみなさんも思い浮かぶと思うんですけど、何か気づくことってあります? サイトウさんはどうですか? 「法人営業ってこういう特徴があるよね」と認識していることは何かありますか?
サイトウ:自分が向かい合っている人と話しているのもあるんですけど、「会社の何々さん」というフィルターがある感じがしますね。
中村:そうですね。個人に対して、「申し込んでください」「決めますか?」と言うのではなく、何人もの人が検討して決めるというのが1つありますよね。ナクイさんは、個人向けも法人向けもやっていらっしゃいますが、「法人向けってこんな特徴があるよね」みたいなのはあります?
ナクイ:そうですね。例えば保険の営業でいくと、どの人が意思決定をされているかとか。あとはさっきもおっしゃっていましたけど、例えば1人の人が「ちょっと難しい」という話になってしまうと、そっちに流される傾向もあるので。どの人がキーマンか、どの人をうまくつかめれば成果につながっていくかとか。そういうところをつかむのが法人だとなかなか難しく、まず見極めが必要かなと思います。
中村:そうですね。非常に重要なところだと思いますね。イトウさんは何か感じることはありますか?
イトウ:最初に中村さんが言われていたように、みんな意思決定のリスクを避けるから。
中村:そうですね。
イトウ:一般的にどうかとか、論理的な裏付けだとか、個人とはまたちょっと違う面倒くささというか。要は相手が意思決定できるように、裏付け情報とかもいろいろ提供してあげないと、思うようには意思決定してくれないということでしょうかね。
中村:さすが、難しさをよくご存じですね(笑)。モリイさんは、製造業向けの法人営業をやってこられたと思うんですけど、そこでの難しさってありますか。
モリイ:そうですね。個人にもつながってしまうのかもしれないですけど、やっぱり担当が替わっていくので(笑)。
中村:それもありますね。
モリイ:これだと思っていたら、その人が他の部署に移ってしまうとかね(笑)。そうすると、今までやってきたことが、流れていってしまうとか。
中村:そうですね。
モリイ:そういうのも含めると、「どれが本当のニーズなんだろう?」とか……けっこう悩むところですね。
中村:どんな情報を取っていくかとか、実は細部にノウハウがあるんですよね。たぶんモリイさんは組織戦で、私がやってきたこととけっこう合致するんですけど、今日はその細かいところまではいけません。そこがもし必要でしたら、私はなんぼでもお手伝いさせてもらいます。
モリイ:ありがとうございます。
中村:特徴的なところは(スライドの)こんな感じです。
「売り込み先は企業さん」。法人は何人もの人が集まって1つの人格と認められていますね。複数人が関わって1つの意思決定をしている。
そしてさっきも言いましたように、目の前で決めてくれないんですよね。あの人たちは、私たちのいない会議室で合議で決める。合議制です。購入する人と使用する人が必ずしも一致しないということと、取引金額が大きくなって採用までのリードタイムがけっこう長くなります。一度採用されると長く採用される。
裏腹に、先ほど申し上げましたように失敗した時のリスクやダメージが大きいので、リスクには敏感です。そして、お客さんにはいっぱい課題があるんですけど、使うお金の金額も限られているので、課題の大きい順番に予算が振り分けられる。だから法人向けに営業しようと思うと、大きな課題でないとなかなか売れない。
ちっちゃな課題、例えば担当者が「これいいな。欲しいな」と言っても、会社にとっての課題感が大きくなければ、それが課長さん、部長さんへ行った時に「そんなん要らんやろ」と、なってしまって買ってもらえない。会社としての課題の大きさにどれだけつなげていくかは、今日の本筋の話になります。会社のためにお金を使う。当たり前の話ですね。
今日の内容は3つあって、「お客さまの欲しがっている未来の姿を売りましょう」が1つと、「複数人の意思決定プロセスを徹底的に追いましょう」と、あとは「誰が見ても『これは採用せざるを得ないな』という提案を作りましょう」です。
全部難しいんですけれども、でもやり方があると言うか、ここをしっかり見ていくと採用の芽が出ることになります。
中村:(今日のトピックの)1つ目は「お客さまの欲しがっている未来の姿を売る」ですね。お客さんは何を買うのか。一番最初に言いましたように、営業は商品の説明をすることだという思い込みが、私もずっと長いことありました。そう思っている人もまだまだたくさんいると思うんです。
例えばこの梨が商品だとすると、「お客さんはなぜ梨を買うんですか?」という話ですね。梨に憧れて買うのかというと、たぶんそうではないと思うんですよ。
今と未来の間にあったのが梨だから買うんですね。問題を解決したいとか、やりたくてやりたくてしょうがないもの。その間に商品があると買うんです。今と未来の間に商品とか世界観があったら、それを買うんですね。
例えば、ダイエット市場は今めちゃくちゃ大きな市場なんですけれども、RIZAPがよくCMでやっているじゃないですか。太って情けない写真と、その人が痩せて活き活きした写真があって、その間にRIZAPがあるから、RIZAPが買われるんですよ。
例えばヨガでもいいし、ファスティングでもいいと思うんです。そういうところがちゃんとそういうコマーシャルを打てば、FromとToの間、素晴らしい未来の間にある商品と世界観が買われていくことになります。
だから、商品の説明ではなく、「こうなりますよ」「お客さんはこれが手に入りますよ」「お客さんはこうなりますよ」と見せるのが営業の仕事です。「じゃあそれって何なの?」というのは、後ほど(トピック)3つ目「提案の作り方」のところで触れていきます。
現状と未来のギャップに心が動いて、行動に移すんですね。行動とはそれを手に入れる、買うことですが、このギャップが大きければ大きいほど、人の心は動きます。だから、お客さんが手にすることのできる、もっといい、素晴らしい未来を示してあげたら、「ええ? それが手に入るんか!」ということで、商品や世界観が買われることになります。
第1部のまとめは「お客さまの欲しがっている未来の姿を売るのが営業です」ということです。
お客さんのお悩みを解決したり、お客さんが手にしたいものやことを手にさせてあげるのが営業の仕事ですね。お客さんは素晴らしい未来を手に入れたい。未来との間にある商品と世界観を買います。手に入れる未来は、大きいほうが心が動くということです。簡単な話ですが、ここが一番重要なところです。
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