2024.12.24
「経営陣が見たい数字」が見えない状況からの脱却法 経営課題を解決に導く、オファリングサービスの特長
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暦本純一氏(以下、暦本):みなさまこんにちは。それでは、アイデア創出についてお話をさせていただいた後、質疑に答えたいと思います。私は研究者として、いろいろ新しいことをすることなど、ある意味アイデア創出そのものが仕事です。あるいは、アイデアを創出して、それを具現化するところまでが仕事です。
私の仕事の経験から得たことは、たぶん研究者だけでなく、新しい事業計画を立てたり、ビジネスの企画提案にも活用できると思いますので、ご紹介させていただきたいと思います。
最近いくつか本を書いていて、右は今回の講演にも関連する『妄想する頭 思考する手』という本です。
今日はこの本の内容を踏まえて、もう少し実践的なところまでお話しできたらと思っています。
最初に1個だけ、どんな発明をしたかを紹介させていただくと、これ(スライドの写真)は「マルチタッチ」の源流みたいなことを、2000年あたりからやっていました。
今のスマホで使われている、複数の指を使った操作の、原理試作をしているところです。こういうことを、どうやって思いつくかなどもお話ししたいと思います。
例えばこういう(画面の上に置いた手を動かした通りに画面の表示が動く映像)のは、まるで今のiPadとかスマートフォンみたいですけれども。
当時は、タッチパネルはありましたが、当然スマートフォンはまだ影も形もなく、複数の指で操作するタッチパネルは存在しませんでした。このように人間の指を使って画面を操作する研究をしていました。
ものすごく奇抜なことを思いつくというより、「これってなんで今までなかったんだろう。むしろある方が自然だ」、あるいは、「今までこれがなかった世界のほうが不自然だ」と思われるものが、私にとっての理想の発明です。
発明とかアイデアというと、本当にそれが欲しいのかとか、それがなくても別に困らないとか、単に珍しいだけとか、新規性の「規」が奇抜の「奇」みたいな場合があります。それだと、アイデアとしては成立するかもしれませんが、本当に世の中に根付くことにはならないかもしれないと思います。
これ(映像)はYouTubeから取ってきました。
この赤ちゃんは、たぶん生まれた時からiPadを触っているので、ピンチアウトしても広がらない紙のほうが、むしろ不自然だと思っているんですね。
なので、今、スマホで写真をピンチアウト以外の方法で拡大しようとはあんまり思わないと思うんです。こういう「SmartSkin」とかマルチタッチができた後の世界は、もうそれがないと不自然に感じる。そのように、「できた」ら自然になって、今までがむしろ不自然になるのが、理想かなと思っています。
あとこういう感じですね。
マルチタッチまでは、マウスという装置がありました。私がユーザーインターフェースの研究を始めるにあたって、初めてグラフィカル・ユーザー・インターフェース(アイコンなどの画像を画面に使用し、マウスで操作する方式)を使った、ゼロックス・パロアルト研究所の「Alto」というコンピュータを見たりしていました。
それまでのコンピュータは、今のLinuxのコンソールみたいに、コマンドしか入れられませんでした。あるいはバッチ式と言って、パンチカードで打ち込んだものをコンピュータに流し込むような、インタラクティブがまったくない世界だった。そこから、一気にマウスで画面操作するものが出た時に、「あっ、これはものすごいことだな」と思いました。
「こういうのを自分の一生の仕事にしたい」と思って、大学もそういうところに進学しました。そういう意味ではマウスはすごいんですけど、リアルワールドはマルチタッチなわけですね。1本指だけで操作するのは不自然です。
なので、グラフィカルインターフェースやマウスはすごい革命ですが、リアルからするとまだ不自然だと。さらにリアルに近づけ、自然になったのが、このマルチタッチだったのかなと思っています。
IoA(Internet of Abilities:能力のインターネット)や、Human Augmetation(人間拡張)という言葉がありますが、人間の能力が拡張したり、人間とAIがどう融合したらより良い関係が得られるか。我々の能力をリアルタイムにAIがサポートしながらもっと拡張したり、いろいろ便利になることを研究しています。
人間拡張の領域の広がりについては、前回ビザスクさんでも講演させていただいたので、たぶんアーカイブにアクセスできると思います。また、我々が東京大学でやっている、人間拡張(ヒューマンオーグメンテーション)社会連携講座のサイトで今3冊ぐらいデータを公開しています。
PDFのかなり分厚いブックレットで、いろんな講演とか、対談とか研究事例の紹介も入っています。もしご興味があったら読んでみてください。学術的なものではなくて、例えば、芥川賞作家の上田岳弘さんとの対談もあったり、かなり学際的にいろいろ書いてありますので、ぜひお読みになっていただければと思います。
ということで、いよいよ本題です。最初に申し上げます。アイデア創出法は、今までもいろんな本が書かれていて、だいたい正しいことを言っている人はみんな同じことを言っている感じがします(笑)。
今回は「インプット」と「言語化」と「Pivot」の3種類についてお話ししたいと思います。
(スライドは)どちらかというと研究開発や論文を書くトーンになっていますが、ビジネスの分野でも十分展開可能だと思っています。
ちょっと順番が前後しますが、真ん中の「言語化」から始めたいと思います。何か新しい発明や研究、事例が出てきた時、「それ、俺も前に考えた」とか、「俺は早すぎたんだ」という方は多いと思うんです。実際に、私自身もそう思うことが多くあります。
考えたけど、やらなかったり、実現しなかったり。技術者だったら少なくとも特許に書いておくぐらいまでやればいいのに、それもしなかったということが多いと思います。
「私も前に考えていた」というのは、本当に考えていたかどうかは、若干あやしくて。99.9パーセントぐらいは、思いついただけでは具現化しない。思いついただけで忘れてしまうことが多い。たぶん頭の中で思いついたと思っているのは、半分ぐらいはイリュージョンで、思いついた気分だけが残っていることもあります。
というのは、具体的にどんな良いアイデアかは、頭の中でフワッと思っているだけでは実は自分でもあんまりよくわかっていない。なので、それを外部化しない限り、それが本当にアイデアかどうかわからないのが、これを言葉として書き起こしてみましょうということです。
研究業界や特許では、請求事項をClaimと言います。クレーマーのClaimと同じです。研究開発のメインとなる部分をClaim、主張したいところ、として簡単に言語化していくことです。工学的には、たぶん課題と解決がペアになっています。それを使って論文を書くということです。
アイデアはほとんどの場合、既存の概念の新規の組み合わせであるので、引き出しが少ないとアイデアも出ないとは、まあ言えると思います。これは後でインプットのところで言いたいと思います。
で、このClaimという言葉はあまり見慣れないと思いますが、科学技術論文では、正しいか間違っているかを客観的に判定できるような言明のことで、ほとんどの場合、極めて短いです。研究に関して言うと、「新しい価値のあるClaimを提示して、それを実現したり立証したりする」ことがClaimになります。立証とは、筋道を立てて理解すれば、それが正しいと納得できるように議論を構成することです。
Claimの中には、本当に追求する価値がないものもあります。ただ、これはClaimを書き出してみて初めて「あんまりおもしろくないな」とか、「これが仮に技術でできたとしても、誰が使うんだろう」とか、「そんなに今までと差が出ないだろうな」と言えたりする。これも、Claimの価値ですね。なので、進めていくに値するかどうかを判定するという意味でも、言語化は大事です。
Claimが伝わるように書くのが、研究論文ですが、Claimのあまり明確でない論文もあります。書いてあるんだけど何を言っているかがよくわからないので、誰にも参照してもらえないことがある。
企画書とかでもそうで、「この企画書、結局何がやりたいんだろう」というClaimがあんまり見えていない。文章とか図でそれなりにプレゼンしても、「この人が本当は何をやりたいのかがぜんぜんわからなかった」みたいなことになると思います。
Claimの実例をあげます。
例えば自然科学ですと、(ジェームズ・デューイ・)ワトソンと(フランシス・ハリー・コンプトン・)クリックが、DNA(人間の遺伝子)は分子のアミノ酸の二重螺旋の立体構造を持つことを発見しました。
自然科学では最も有名な論文の1つで、これを1950年代に『Nature』で発表してノーベル賞を獲ったんですね。それまでDNAが二重螺旋だということは誰も突き止めていなかったので、この一言がほぼノーベル賞に値するような発見であり、これはものすごく明確なClaimだったわけです。
ワトソン・クリックの有名な論文なので、もしこの中に研究者の方とか学生さんがいらっしゃったら、ぜひ読んでみることをおすすめします。たぶん『Nature』の中の2ページか3ページの極めて短い論文なので。英語としてもすばらしいし、論文はこんなに簡潔に書けるんだとわかるお手本にもなるので。エンジニアリングの方でも読むことをすごくおすすめします。
残念ながら未だに立証できていないClaimに「STAP細胞」というものがあります。これも一世を風靡したのは、Claimが明確であり、非常にアピーリングだったからですね。「細胞に酸でストレスを与えると、それが万能細胞化する」と言われたら、たぶん専門家でも驚くし、「もしこれができたらどんなにすごいことだろう」とみんなが期待したので、すごい話になったんですけれども、できていなかったわけです。
これはうちの研究室でやった研究で、「上腕筋肉に電気刺激を与えると指が動く」もClaimだったり。あるいは、ちょっとわかりにくいかもしれませんが、「笑顔を形成すると精神が向上する」もClaimです。
その分野の専門家であれば、Claimを見てどうやって検証しようかの想像がつくとか、あるいは論文を読んで、「ああなるほど、最初に言われたこのClaimが成立したんだ」とわかったら、良い論文なわけです。
Claimを出すほうからすると、例えば、「DNAは二重螺旋の立体構造持つ」と言ったからには、X線解析とかそういう技術を使って証明します。そういう実験手法やデータを合わせて、「ほら、これ二重螺旋になったでしょ」と説得することができるように書くわけですね。
なので、Claimは宣言であるとともに、それが本当か嘘かを立証できる実験手法も、あとに伴っていくと思います。研究者としては、アイデア的に思いついた場合、「これはどうやったら本当に実現できるか」とか「立証できるんだろう」と考えることが、研究計画になるわけです。
今度は、逆にClaimでない例を紹介します。
例えば、「視線情報を用いたライフログの研究をする」とか、「膨大なオープンデータを効率的に検索する」みたいなもの。基本的には、視線情報を用いたライフログだと、視線情報はこの業界ではよく使われる技術で、ライフログはある研究領域だったりします。
研究領域とよく使われるテクニックを並べて言っているだけで、この2つを組み合わせて使った時に、何か新しいことがあったのかまでは言っていません。なので、研究領域を言っているだけにすぎない。
あとは、「膨大なオープンデータを効率的に検索する」みたいなものも、「膨大な」とか「効率的」という形容詞はよく使われますが、「効率的」とか「自然に」とか「直感的に」「人に優しい」は、私の業界では思考停止用語と言います。もちろん、これがあったらすばらしいわけですけれども、これはアイデアではないんですね。
「直感的なインターフェースを作ります」は、アイデアを言っているわけではなくて、何かのアイデアに基づいて作られたインターフェースが、結果的に直感的になったりするわけです。「直感的になるための何か」がアイデアなわけで、こういう形容詞だけで飾ってもClaimにならないわけです。
よく企画書や、残念ながら国の政策でもありますけど、「次世代の」とか「人に優しい」とか「効果的な」という形容詞、思考停止用語が並べてられています。アイデアという観点から突き詰めて言うと、ここには特に情報はないわけですね。
例えば、研究だったら新しいことをするのは当然なので、やっていることは当然次世代なことに決まっています。ことさら言わなくても次世代であるし、新しいわけです。ということで、こういう形容詞を全部取り除いて、かつ、新しいものが何かを言うのがClaimだと思います。例えば、「表情を持つテレプレゼンスシステムを作った」だと、「作った」だけではClaimにならないですね。
これはエンジニアリングの研究でよくあるんですけれども。何かを作った時に、その作った結果解決されるもの、作った結果もたらされる効果が、価値があるかどうかがClaimです。
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