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ビジネス書グランプリ2022 特別セミナー「超ファシリテーション力」(全5記事)

一番使えるキラーワードは「おっしゃる通りですね」 現役アナウンサーが教える、会議を有意義にする「ファシリテーション」の技

ビジネスに役立つ「いま読むべき本」を選出、表彰することを目的に開催するアワード「読者が選ぶビジネス書グランプリ2022」。今回はビジネス実務部門賞を受賞した『超ファシリテーション力』著者・平石直之氏の特別講演の模様をお届けします。「みんなでしゃべるとニュースはおもしろい」をキャッチコピーに掲げ、多様な視点から議論を繰り広げる生放送のニュース番組『ABEMA Prime』にて、進行を務める平石氏。最終回の本記事では、一番使えるキラーワードや、ボルテージが上がりすぎたときの対処法、ズレた話を本題に戻すコツなど、平石氏が実践するファシリテーションスキルが語られました。

「ファシリテーション」は3人以上

中村直太氏(以下、中村):続いて、「1対1の対談形式だと、ファシリテーションのコツはありますか?」

平石直之氏(以下、平石):なるほど。これは言ってしまえばインタビューのノウハウですね。私の定義としては「ファシリテーション」は3人以上だと思っています(笑)。

中村:3人以上ですね。

平石:ええ。そのファシリテーションの中に、1対1(になる場面)もありますよね。そこでさっき言ったみたいに、まずゲストから掘り下げる時には、最初は「その人の意見を評価しない」ことがすごく大事です。批判とか評価してしまうと、評価された側は、その後しゃべりにくくなるので、とにかく最初はしゃべりやすくしてあげて、「私があなたを守ります」というその人の心理的安全性を確保して、そこから引き出していくんです。

評価しないかたちだったら他の人が入ってきても全く構わないですね。いろんなかたちで、とにかくフラットに聞いていくことをすごく意識しています。

入り口で全部引き出して、だいたいいけるところまで、深いところまではいけたと。この人から聞けることは聞けたと思ったところから、議論が始まるんですよね。そこから評価していくというか、「でも、こういう考え方もありますよね」と。

まず思っていることを言わせて、「なぜそう思うんですか?」「いつそう思うようになったんですか?」「何がきっかけでそうなったんですか?」というところを、とにかく引っ張りだすことをすごく意識する。最初は「掘る」ことです。

中村:とにかく最初は聞くことを意識して、深く深く行ったところでスタートするというお話ですね。

ファシリテーターは、自分の意見を出して良いのか?

続いて、「自分の専門分野だと特にそうですが、ついついファシリテートしながら議論に加わってしまいます。議論に加わって内容の修正もしたいのですが、控えたほうがいいのでしょうか?」。

平石:なるほど。これは確かにそういう場面もありますね。加わってはいけないということはないと思いますが、やっぱり全体として引き出すところも大事なので。自分の意見というより、「こういう考え方もありますので、これについてはどうでしょうか?」と足していくことは意識しています。

「私はこう思います」と、バーンッ! とファシリテーターが意見をぶつけると、そこで終わってしまうところもあるので。「こういう意見もありますけど、これはどうですか?」と、またさらに深めていく。それが場合によっては自分の専門分野だったりもしますから。そこはすごく私の中でも意識してますね。

私にも「タグ」がいくつかあります。会社員だとか、アナウンサーだとか、メディアの人間だとか、ファシリテーターだとか。こういう自分の「タグ」に関わってくるテーマについては、やはり意見を聞きたい人もいるだろうということは意識しています。

(ファシリテーターは)自分の意見を言ってはいけないとも私は思っていなくて、必要に応じて参加していくのも大事かなと思っています。

中村:ありがとうございます。

討論番組の醍醐味は「仮説」が変わる瞬間

中村:本の中で、「ファシリテーターも自分の仮説を持っておくのが大事だ」という話があったと思うんですけど。そのあたりとの関連性はどうですか?

平石:大事だと思います。準備の中で、そのテーマについて調べて「この議論については、今こういうところまで来ているんだな」と。その上で「こういう意見が出ているんだな」「ここが一番、今の議論の最前線にあることなんだな」と思って、そういった仮説を持ちながらスタートしていくんですね。

それについて意見を聞いているうちに自分の仮説が覆されたりと、考えていたことが変わる瞬間があるんです。それこそが、今この場で議論した意味になるので、「テーマ」について言えばそれが一番うれしいですね。

中村:なるほど。ただ自分が意見を言うよりも、(仮説を持っていることで)ご自身の意見も深まっていくわけですよね。

平石:そうですね。「こう思っていたけど、どうやらそうでもないらしい」とか、「こういう考え方もあるらしい」とか。そこに気付きがあって、流れが変わる瞬間が、番組としての醍醐味だと思ってます。けっこうあるんですよ。番組が存在する意味もそういうことなんだろうなと思っています。

ファシリテーターとプレゼンターを兼ねる時は「モードの切り替え」

中村:ありがとうございます。「ファシリテーターとプレゼンターが同じ場合の心得を教えてください」。ちょっと似てますね。

平石:そうですね。

中村:意見を言いながら会を回す、この両方をやる時に何に気をつければいいのか。

平石:なるほど。これは「モードを切り替える」ことですね。私も場面説明をしたり、起こっていることを説明したりするプレゼンターのモードもあります。だから(ファシリテーターとプレゼンターの)スイッチを切り替えていますね。

あとは、放送中にニュースが入ってくると、そこはもう(「聞く側」から)「伝える側」になりますよね。そこでまた切り替えて、終わったら元に戻して。(ファシリテーターのモードでは)自分の意見とかニュースとか、お伝えしなきゃいけないことをぽんと置いて、参加者たちから意見を求める。モードを切り替える意識をもつことですね。

今ぽんと置いたから、プレゼンした内容について自由に言っていいよという雰囲気を作る意味で、そこからは気持ちもファシリテーターに切り替えて、周りの人にも「自由に言ってもらっていい」と知らせる。「私が気分を害したりしないからどんどん言ってくださいね」というかたちで、プレゼンするところと切り替えるのが大事かもしれませんね。

中村:先ほどの「意見が出ない時に、まず最初に第三者の意見を置く」とをおっしゃっていたんですけど、ある意味ご自身がプレゼンしたものを「第三者的の意見」として置いちゃって、その後はもう自由にしてくださいという、そんなイメージでしょうか。

平石:そうですね。そういう場面もありますよね。

ビジネスの会議でも​​「盛り上がり」は大事な要素

中村:ありがとうございます。これは平石さんならではの質問なのかなと思うんですけど、「アベプラのようなトーク番組と実際のビジネス会議におけるファシリテーションで、求められるスキルや気を付けるべき点に違う部分はありますか?」と。平石さんは両方ともご存じなので、ならではかなと思います。

平石:ビジネスの会議の中でも濃淡はあると思うんですね。意見出しをしている場なのか、意思決定をしようとしている場なのかによるので、本当に目的によりますよね。

だけども、目的達成の中でも、雰囲気が悪い中での目的達成よりも、「自分も決定にコミットしたよね」という雰囲気を出す方法があると思うんです。番組の場合は、盛り上がりとか。

中村:盛り上がり。

平石:すごく意識しています。あえて極論を投入することで議論の幅が広がることがあるので、「興味深さ」を意識しています。

あと、切れ目なく、心地よく聞いてられるというか。ガンガンガンガン話している時や、じっくり聞いている時など、その瞬間瞬間の「心地よさ」をすごく意識しますね。

そこはビジネスの会議と違うかもしれませんが、やっぱり目的達成の意味で言うと、単に「決められたから良かった」だけではないと思うんですね。

決めた過程にみんなが意見して、納得するかたちで、「こういうかたちで決めたんだったら、その決定に対して、自分も一生懸命成功させる方法を考えよう」と。「自分の意見は採用されなかったけれども、この決定にコミットしたわけだから自分もがんばっていこう」と。「この場が好きだな」って思えるかはあるので。ビジネス用の会議におけるファシリテーションでも「盛り上がり」の濃淡は要素として大事だと思いますね。

中村:やはり常に目的に向けてファシリテーションをしていくということなんですね。

平石:そうですね。それにプラスして、その場を好きになるか、嫌になるかがとても大事だと思います。

ボルテージが上がりすぎた時の対処法

中村:ありがとうございます。先ほどとちょっと似ている質問ですが、「ボルテージが上がり過ぎてしまった場合、怒りや対立などをコントロールするには、どのようにファシリテーションすればいいでしょうか?」。

平石:これはありますね。全員がボルテージが上がることはないので(笑)、2人ないしは3人でぶつかるんですね。1人だけのボルテージが上がっている場合は一回引き取ればいい。2人の場合も、やはりその2人から一回引き剥がすのがすごく大事ですね。

中村:引き剥がす。

平石:「何々さんがこういうふうにおっしゃっていますよね。一方、何々さんもこういうふうにおっしゃっていて、どちらも言い分としてはあり得ますよね。いったん引き取らせていただきますね」と言って入って、別の人に話を振ることで、2人を引き剥がす。一回自分が引き取るのはすごく大事だと思います。

中村:ボルテージが上がってない方にも意見を聞いて。

平石:そうですね。ボルテージが上がっている同士でもまだ議論できる場合でも、例えば「そんなのあり得ない。バカじゃないか」というような言葉がでることもあり得るわけですよ。

「そんな意見、バカみたいな話じゃないか」となったら私が間に入って、「何々さんがおっしゃるには、確かにこの考え方でいくと、こういう点で賢明ではない部分もあるかもしれません。それについてはどう思われますでしょうか?」と、マイルドな言葉を変えて、もう一回その人に当て返す。

ぶつけようとしている人に対して、言い換えるんです。「バカ」に対して「賢明ではない」という、反対語の否定形にするだけでもだいぶ印象が変わるというのはありますね(笑)。

中村:なるほど(笑)。ぜんぜん変わりますものね。

平石:そうですね。聞きたいことを、マイルドな形で聞き直すということは意識していますね。

一番使えるキラーフレーズは「おっしゃる通りですね」

中村:ありがとうございます。残り1、2問かなと思います。「平石さんが一番気に入っているキラーフレーズがぜひ聞きたいです」。

平石:なるほど。

中村:ファシリテーションで使えるフレーズですかね。本の後ろにも、フレーズ集が出てましたね。

平石:けっこう今も番組で使ってますけど、「おっしゃる通りですね」が一番使えます。

中村:おっしゃる通りですね(笑)。

平石:「おっしゃる通り」は、しゃべっている人を心地よくさせる魔法の言葉だと思いますね。これは全面的にまとめて「おっしゃる通りですね」と。どんな時でも思ったら使えるんですけども、できれば「人」がしゃべっていることに対して、キーワードを拾って反復してあげるだけでもいいですね。

中村:キーワードを拾う。

平石:「今おっしゃっている通りで、まさに今社会が抱えている『社会の分断』に当てはまりますよね」とか、キーワードを拾って言い換える。あるいは話を聞いて、要約してパチっと言ってあげると、話している人がよりアクセルを踏んでしゃべってくれる、心地よくなってしゃべってくれる魔法の言葉だと思いますね。

話を引き出すにあたって、肯定的な言葉で引き出していくのはすごく大事かなと思いますね。

中村:プラスのパワーはエネルギーになりますからね。

平石:そうなんですよね。

ずれた話をテーマに戻す、軌道修正のテクニック

中村:ありがとうございます。最後の質問でおうかがいできればと思いますが、「話がどんどんテーマからずれていってしまう場合、どのように軌道修正をされていますか?」。これはよくある、多くの方の悩みだと思います。

平石:これは先ほども言いましたが、本題につながりそうなキーワードを拾って、「『社会の分断』という言葉がありました。あらためてうかがいますけれども」と言って、本題に戻すんですね。

中村:なるほど。

平石:誰かが話していることを否定しない、「その話はやめましょう」とは言わない。「いいことをおっしゃってますね」という雰囲気を出しながらなんとなく引き取り、元のテーマに戻していくと。

ずれ過ぎている場合は、「いや、今おっしゃっている話も非常に大事で、今度またあらためてテーマを設定してやらなきゃいけないなと今思ったんですけれども。あらためてですが……」と言ってまた戻しちゃう。

中村:おお、なるほど。

平石:「すごく大事な話を今してますよね」という雰囲気を出すことをとても意識しています。そう言いながら戻す(笑)。

中村:シミュレーションしていただいた時に、「あ、本物だ」と思って見ちゃいました(笑)。「よく見るな」と。

平石:(笑)。よくやってますね。(話がずれることに、)意味がないわけではないんですよね。意味がないこともありますが、今日やりたいこととテーマが違うだけで、意味のあることもけっこうありますから。今日の目的ではないので、「重要なテーマですね」「また後日やりましょう」と(笑)。

中村:うーん、なるほど。それなら引き下がれそうですね。

平石:とにかく否定しないのが大事です。心地よくしゃべってもらって、わかってもらうことも大事ですね。「今日はそれじゃないよ」「後日やりますよ」「今やらなくてもいい」と(笑)。

実際に後日やるかどうかよりも、そう言うことが大事です。「大事なことをおっしゃっていますね」という肯定的なリアクションをして、受け止めてあげることが大事かなと思っています。

ファシリテーターは、みんながハッピーになる場を作る役割

中村:ありがとうございます。チャットに「平石さん、すごい」「準備してない質問に対してこれだけ答えられるんだ」と、驚きの声が上がってますけど。

平石:いやいや、ちゃんと答えになっているのかはわかりませんけどね。ありがとうございます。

中村:平石さん、聞けなかった質問がいっぱいあるんですけど、その中でQ&Aでも出なかったことで、ただ冒頭の話で少し出たかなと思うんですが、今回ファシリテーターとしてのスキルにかなりフォーカスして書かれていたと思います。

本を読んでいる中で、マインドのような部分をすごく感じましたたし、今日対談させていただいていても、平石さんが「どういうファシリテーターであるべきなのか」という哲学というか、そんな信念をすごく感じたんですよね。

「ファシリテーター」はどんな存在であるべきだと、平石さんは考えていらっしゃるのですか?

平石:まずは何より「みんながハッピーに」ということですよね。この場をもう一回持ちたいと、このメンバーでまた集まりたいと思えるようにする。このメンバーだったら新しい発見があり、気付きがあり、そして充実感があり。人と人が集まる場をいかに有意義なものにするかという、その思いですよね。そのために準備も一生懸命するわけです。

意見が違うからこそ新しい発見があるので、同質な人同士が集まっても同じ話しかしないみたいになってしまうので、やっぱりそこが難しいわけですが、そこを乗り越えていきたいっていう思いが私の中にもありますね。

平石氏自身の声で「キラーフレーズ集」を収録

平石:番組のテーマとして「社会の分断」がよくあります。インクルーシブな社会を目指すために、お互いに相いれない中でどう共通点を見いだしていくかとか、そこはすごく意識しているところです。

中村:「ハッピーに」という、平石さんが作りたい場がすごくイメージできます。

平石:ありがとうございます。

中村:そろそろ時間なので、最後にメッセージをみなさんにいただければと思っています。もしよろしければ、本のAudible版が5月20日に発売予定と聞いていますので、そんな話とか、あるいはこの後の21時からのアベマプライムの放送の話も交えながら、お話しいただければと思います。お願いします。

『超ファシリテーション力』(アスコム)

平石:そうですね。ありがとうございます。Audibleのお話をいただきましたので。本の中にキラーフレーズ集というかたちで、私が実際に番組でよく使っている言葉をたくさん列記しているんですけど。これもやっぱり音で聞いたほうが(笑)、私の声で聞いたほうがいいだろうということで。

中村:平石さんの声なんですね。

平石:私自身がすべてAudibleの録音をしました。

中村:うわあ、すごいですね。

平石:完成間近です。「おっしゃる通りですね」とか言ってますので(笑)。「へえ」とか「ほお」とか、これ録音する意味あるのかな? とか思いながらやりましたけど。

中村:それは価値がありますね。

平石:思いを込めてありますので(笑)、ぜひ本でも、Kindleみたいな電子書籍も、あるいはAudibleというかたちの音声もお試しいただけるといいなと思います。

中村:聞きたいですね。

平石:聞き流していると、また違ってくるかなと思います。

人が集まる場には、「ファシリテーション」の意識を

中村:最後にメッセージを。

平石:ファシリテーターとして場を回しながら、「思い」が乗っていけばだいぶ変わると思います。意識するところから変わるのかなと。最初にも申し上げましたけど、私としては(ファシリテーションという)概念を意識するというか、人が集まる場にファシリテーションが存在すると結果が違うと意識することが大事だと思うので。

やはり、教育の分野に(本を届けたい)というのはすごくありますね。学校とか、あるいは社会人になりたて(の研修の場)とか、そういう場でも広がって、貢献できるといいなと思っています。

なによりこの後、番組がありますので。今日はひろゆきさんも出演されますし、月曜から金曜まで21時から2時間の生放送で、私自身がファシリテーターを担当していますので、ぜひそちらを見ていただけるとありがたいな思います。

中村:ありがとうございます。我々は番組を見て勉強できますね。

平石:ありがとうございます。最後に、番組の窓を開けるかたちで、Twitterにいただいたご意見を番組にも反映させていますので、Twitterも見ていただけるとありがたいです。そこにたくさんコメントをいただいていますので、何かありましたらそこにメッセージをいただけるとありがたいなと思います。

中村:うれしいですね。なこれをご縁にまたね、平石さんとつながっていけるとすごくうれしいですね。

平石:ありがたいですね。

中村:素晴らしいメッセージをありがとうございました。じゃあちょっと時間になりましたので、ここで終了したいと思います。今日は平石さん、本当に貴重なお時間の中、ご参加いただきましてありがとうございました。

平石:いえいえ、ありがとうございました。中村さん、お世話になりました。

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