2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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荒木博行氏(以下、荒木):(まずは書き手の視点に立つという)メッセージはすごく難しいなと思いながら語っているの。なんでかというと、これを言い過ぎると解釈の幅を狭めるし、何も言えなくなっちゃうじゃないですか。
深井龍之介氏(以下、深井):そうだと思う。哲学書とかは背景を理解して読んだ方がいいと思うんだけど、小説とかはしなくていいんじゃないかなと思っているんだよね。
荒木:僕は、哲学書ですら(本当は)「しなくていい」と言いたいんだよね。僕がさんざんこの本で書いたことそのものも、見る人が見たらちゃんちゃらおかしい話だと思うし、そこを否定するつもりもぜんぜんなくて。まさに先日の(「超相対性理論」で議論した)領空侵犯じゃないけど、火傷したりもするじゃない。
そういうことを通じて学んでいけばいいんじゃないか、という気もしなくもない。だから「何をしちゃいけない」ということを過度に言う弊害のほうが大きいという視点だよね。
深井:確かにね。
渡邉康太郎氏(以下、渡邉):どちらかというと「必ずこう読まなければいけない」ではなくて。自戒として、何かを引用する時に、孫引き的に「この人がこう引いていたから、同じように引いてみよう」とすると、それこそ火傷しやすいと思うんですよ。
最終的には、自分で原典にあたって確かめてみないと、本当にそう言えるかはわからない。けっこう途方もない作業があるよね。
荒木:本当にそう。僕もたまにやっちゃうんだけど、孫引きとか又聞きレベルで「この前、こういう話があってさ」と、あたかも「聞きました」という感じで(話しちゃうの)。だから本が増えるんですよね。
渡邉:わかります。
荒木:原典にあたらなきゃ、ということ。「これを語るには、まず原典を持っていないと語る資格がないな」と。
渡邉:そうなんだよね。(イギリスのロマン主義の詩人の)ジョン・キーツがネガティブ・ケイパビリティ(不確実なものや未解決のものを受容する能力)を説いたのは弟たちに宛てた手紙であると言われてるけど、それ、どこかで読めるんだっけ?(笑)。
荒木:そうそう(笑)。どこに出てくるの?
渡邉:気になってる(笑)。
荒木:細かいところで言うと、いろいろとそういう「べからず集」が出てきちゃう。
深井:出てくるし、原典は本当に苦痛。
荒木:苦痛だね。
深井:読むのが本当にしんどい。デカルトの『省察』はだいぶライトだもんね。
荒木:めっちゃライトだと思う。
深井:ライトなほうだと思うけど、それでもきつい。スピノザとか本当にひどいもん。ライプニッツとかスピノザも読んだけど、ひどいなと思って。
荒木:でも、ひどい本の読み方も語ってみたいんだけど。(北海道旅行で)馬のところに行って帰ってきてから、『重力と恩寵』というシモーヌ・ヴェイユの本を読んだの。これはフランス哲学の本なんだけど、さっぱりわからないのね。
しかもメモ書きなんだ。だから、1とか2とか書いているんだけど、その前後の文脈とかがまったくないの。何を言っているのかぜんぜんわからないんだけど、「そういう読書って良くない?」という話をしてみたい(笑)。
深井:それはだいぶ忍耐力があるんだと思う。この前、Netflixでベネディクト・カンバーバッチが出ている馬の映画を観たんだ。『パワー・オブ・ザ・ドッグ』だったかな。
渡邉:「ドッグ」なのに馬が出てくるの?
深井:そうそう。ドッグはほぼ出てこなくて。
渡邉:ホースが出てくるの?
深井:全部意味がわからなかった。基本的に、ずっと意味がわからない。
荒木:映画で?
深井:映画で。(博さんが言ってることと)まったく同じ感覚があって。なんか良いんだけど、マジでずっと意味がわからないし、何が言いたいかもわからないし、何を表現しているかもわからない。断片的に捉えて「これはこうだろうな」と理解することはできそうな感覚があるんだけど、全体としてずっとわからないという、捉えどころのない感覚がある映画だったんだよね。
最終的に、なんでタイトルが『パワー・オブ・ザ・ドッグ』なのかが結局わからない(笑)。「馬じゃないの?」みたいな。「最悪、馬にしとけ」みたいな映画だった。それでさえ意味がわからない。あれの(体験は)本でもあるなと思った。
荒木:あるよね。
深井:たまにね。あまりないけど。
荒木:どう? 康太郎さんは、そういうのけっこう読んでいるでしょう?
渡邉:ありますね。めっちゃある。今ふと思い出した。昔、ミニシアターにレオナール・フジタの映画を観に行ったんです。オダギリジョーがフジタを演じていて。半分くらいはすごく伝記的な描き方をしていて、ストーリーものとして見られるんだけど、途中から精神世界に入っちゃった。なんか暗い森で迷っているみたいな、意味を結ばない映像ばかりになっちゃって、映画館から出た時「はあ?」みたいな。
深井:康太郎さんでもそうなるんだ(笑)。
渡邉:一緒に行った友達とムカッとしていたんだけど、シアターの壁に批評の記事がいくつか貼りだされていて、そのうちの1つに「この映像詩は何々である」と書いてあったのね。それで「あっ、詩なのか!」というフレームを与えてもらった瞬間、突然スッキリして「詩ならいいか」って、気分が上がってきたわけ(笑)。「詩って言えばなんでも許されるわけじゃないぞ」と、友だちに怒られたけど。
ほんの少し自分の捉え方を変えるだけで、何かがスッとわかったような気がする。つまり拒否感を取り除くことができる。わかってはいないんだけど、「わからなくてもいい」とか「わかってみたい」と、次への回路を開くきっかけをもらえるんだよね。そこはおもしろいと思いました。(視聴者から)コメントをもらっていますね。「ありました。『FOUJITA』というタイトルの映画です」。
荒木:本当にそうだね。わかりたいという欲求。「近づきたい」とかね。
渡邉:内田樹さんか誰かが「わからないと思った時に諦めてしまうのが現代の病だ」「子どもは基本的にそういうことが多いんだけど、大人になったら『わからないこと』自体を契機にしてほしい」と言っていました。
具体的には、「わからないもの」に出会った時、それは自分のスケールより大きいものなんだから、すぐにわからないということ自体を宙吊りにしておく能力を身に着けるべきだと。今すぐ解けないんだから、それを体に残しておこうということなんですね。
例えば、「ちょっとググったらわかる」とか「自分がいいと思っていることを誰かがTwitterで言ってくれる」という状況は、自分のスケールをまったく超えていない。
荒木:そうだね。
渡邉:(本の)2×2マトリックスで言うと「既知の問いへの既知の答え」にしかなっていないんだけど。(わからないものに出会った時に)まだわかっていないからこそ、そこに何か新しいものがあるかもしれないと思えるかどうかに、肝がありそうですね。
荒木:あるね。ツルツルとした山を登っている感覚がある。見開き2ページでわかる行が1行だとすると、「ここはわかる。でも、あとはわからない」と、その1行にピッケルで杭を打つような感じ。でもその1行を頼りに次のページをめくると(わかる行が)2、3行あったりして「これ、俺イケるんじゃないか?」という快感があって。
荒木:さあ、質疑応答とかいく? 何か話したいことある? 大丈夫?
渡邉:歴史書でわからない時、どうしてるの?
深井:歴史書でわからないのはすごく簡単で、「事実ベースの羅列がわからない」「結局のところ問いに答えられていない」というレベルの顕在的な不明点しかないんだよね。
荒木:わからなさの範囲が、自分でわかるんだ。
深井:何がわかっていないかが簡単にわかる。さっきの映画『パワー・オブ・ザ・ドッグ』とか、たぶん僕は2人に比べて「わからない本」をあまり読んでいないと思うんだ。でも『切りとれ、あの祈る手を』という本を人から紹介してもらって読んだことがあって。ちょっと捉えどころのないものを読むことは、今の話とめっちゃつながっているなと思って。
渡邉:僕が最近で一番わからなかった本は『ジョジョの奇妙な冒険』なんです。
深井:あれ、わからないんだ。
渡邉:大好きなんですが、絵柄が緻密すぎて何が描かれているのかわからないんだよね。1コマの中が混み合っているの。「どこからどこまでが服?」「これ、どういう体勢?」みたいな。しかも時々「グキッ」とかなるから、本当にそういう体勢なのかわからなくなってくる。
Kindleで買おうとしたんだけど、カラー版とモノクロ版があって。「そんなの、荒木(飛呂彦)さんが描いたオリジナルを読みたいから白黒に決まってるでしょ。カラーはちょっと高いし」と白黒を買っていたんだけど、「もしかして、カラーだと輪郭がわかる?」と思って(笑)。それでカラーを買ってみたら、すごくわかりやすかったです。
深井:色が付いていなかったからわからないんだ。
荒木:なるほどね。
渡邉:そういう話じゃないか(笑)。
荒木:オンラインから質問が入っています。「今日の会話や、こちらの本の中に『(読書する)冊数を追い求めすぎるな』というメッセージがありました。とはいえ、大量の読書の後に得られるものもあると感じています。3名も大量の読書の後に今の境地に至っていることだと思いますが、いかがでしょうか?」ということです。どうでしょうか?
深井:小説的なものは噛み締めて、何度も同じものを読むタイプなんです。音楽でも映画でもそう。好きなものを何度も何度も、観たり読んだりする。
だけど社会科学に関しては、量をこなしたことによって見えてくるものがあったね。いろんなものを読んだから、歴史の領域や社会学の領域について、今の人類がだいたいどういうことを考えているのかがわかる。範囲が見えてくるからなんだよね。スコープを見ることの価値はすごくありましたね。マッピングされていく感じ。
荒木:(渡邉氏は)どうですか?
渡邉:今の話は、まさにピエール・バイヤールの書いている『読んでいない本について堂々と語る方法』の、「共有図書館の見取り図を得る」だよね。
そうすると、1冊の中の展開も俯瞰できるようになってくる。「このテーマの本でこういう章立てで、だいたい引用しているのがこの人ということは、このへんは(自分は)知っているかもな」と思える。「ここは知らないから重点的に読もう」という読み方は、冊数をこなすとできるようになりそうだよね。すごく普通のことを言っちゃったけど。
渡邉:「『冊数を追い求めすぎるな』というメッセージがありましたが、とはいえ大量に読んだらどうなるんですか?」という質問です。博さんはどうですか?
荒木:読書に何を求めるか次第のような気もしていて。ねばならないで読むとあまりいいことないので、「いいんじゃない?」という(笑)。
渡邉:元も子もなさが(笑)。
荒木:やっぱり、冊数を重ねていくと見える世界があるというのは事実だと思う。僕もそんなに冊数は多いわけではないというか、上には上がいるから。すごく読んでいる人っていっぱいいるから、そういう人に比べればぜんぜん見えていないんだけれども。ただ、過去の自分と比べると、量が増えたことによって、見える世界が増えてきた気はする。
ただ、さっき龍ちゃんが言ったように、1つの本を深く読むことによって得られる幸せがあると思う。僕がなぜこんな中途半端なものの言い方をするかというと、けっこう冊数に囚われすぎて苦しんでいる人、ストレスを抱えている人をよく見るからなんですよね。
「1週間に何冊読む」「年初にこれだけ読むと決めました」ということを決めちゃったがために、読まなくてもいいようなライトな本ばかり漁っちゃっているとか。そういう、あまりハッピーじゃない読書ライフを送っている人も見かけるので、読みたいなと思ったら読めばいいと思う。元も子もない回答なんだけどね。
これは「読書の病」というところで書いたんですが、僕らがこういうメッセージを発することによって「たくさん読んだほうがいい」となってしまうのは、あまり健全ではないような気がする。そんな感じでしょうか。
渡邉:次、行ってみますか?
荒木:「最近読んで感動した小説は何ですか?」。小説、読んでないな。
深井:ぜんぜん読めてない。
渡邉:別のコメントで「質問ではないのですが、(レイモンド・)カーヴァーの『大聖堂』の考察を早く聞きたいです」と書いてくれています。ちょうど今配信中の『超相対性理論』は、お互いに本をすすめ合う回で、博さんが『大聖堂』を薦めてくれているんです。まだ考察は語れないんですが、僕も一昨日読みました。
荒木:読んだ? どうだった?
渡邉:風呂で読んだ。風呂にちょうどいい長さだった。
荒木:そうだよね。
渡邉:小説って常にそういうものだと思うけど、あらすじを聞いた感触とまったく違うものが体に染みるよね。「あっ、こういう感じか」みたいな。
主人公の語り手である夫、「私」への共感のできなさというのかな。時代背景もあると思うんだけど、空気を読まない冗談をすごく言っちゃう感じ、自分を見ているようで痛々しいというか(笑)。共感できるがゆえの共感できなさが刺さりましたけどね。
荒木:カーヴァーは、『大聖堂』の一番初めに「羽根」という短編があるんだけど。
渡邉:まだ読んでない。
荒木:これ、マジおもしろい。意味がわからなくておもしろいんだよ。僕の「Voicy」でも語ったんだけど、何がおもしろいかというと、伏線が回収されるってあるじゃない。
だいたい小説って「ここに出ていた情報は意味ないと思っていたけど、最後こういうふうに回収されるんだ」ということに発見や喜びを得たりすると思うんだ。でもこれは「回収されない」んですよね。「あの情報は何だったの?」というか。それがリアルだなと思ったの。
荒木:つまり、我々が生きている世界って回収されない伏線ばかりじゃない。それが無数にある。でも「小説の世界はそれが回収されるからおもしろい」という見方もあるけど、僕が感じたのは、回収されないがゆえのリアリティがすごくあるなということ。
読む人にとってはストレスになるかもしれないんだけど、そういうことのほうが実はおもしろかったり。(龍之介は)奥さんが『大聖堂』を読んだんだって?
深井:置いといたら、妻が先に読んだ。まだ僕は読んでない(笑)。
荒木:そうだったんだ(笑)。カーヴァーの話をしてしまいましたけれども。(ところで2人は本は)紙と電子どっち派?
深井:2人は紙派じゃなかったですか?
荒木:僕は紙派だけどね。
渡邉:僕、両方派。
荒木:両方使うけど、紙だな。
深井:移動が多いからね。移動する時は電子派。本当はどっちも欲しい。
荒木:僕もけっこう両方持っているかもしれない。
深井:本当は2冊ずつ買いたい。
渡邉:どっちも買っている本、ちょいちょいあるね。大事な本ほどリアルの本が欲しくなる。
荒木:そうだね。
渡邉:人にパッと貸せるとか、本棚にあることがけっこう大事だったりする。でも、移動中や打ち合わせ中にとにかく参照したいこともあるから、Kindleも買う。だからどっちも買いますね。ルールとしては、紙か電子かというより、気になったら全部買っておく。家の中で本を置く場所を何ヶ所か作っておいて、背表紙が目に入る環境を作る。
荒木:それ、めちゃくちゃ大事です。背表紙のメッセージは侮ってはならない。それが見やすい場所に配置されていることは、お子さんがいるご家庭であれば教育上とても良いことだと思います。電子書籍はそれができないのがちょっとね。
深井:あとやっぱり、電子はなんかダメだね。
荒木:何が?(笑)。
深井:わからないけど、なんかダメだなと(笑)。ページ数が決まっていないからかな?
荒木:全体が見えないってこと?
深井:いや、それだけじゃない。「一覧性がないとか」「全体が見えない」とかもあるんだけれども、何だろうね。
荒木:フィジカルなタッチがない?
深井:よく画面で見るんだけど、ずっと気持ち悪い。画面で見ること自体が気持ち悪いなと思いながら、画面を見ている。
荒木:それはアレじゃない? メアリアン・ウルフとかが(書いている……)。
渡邉:『プルーストとイカ』ね。「イカ本に外れはない」ってやつ(『自分の頭で考える読書』からの引用)。
荒木:そうそう(笑)。
渡邉:まさに「リアルな本をめくっている時と電子本を読んでいる時で、脳の中で賦活するエリアや状況が違う」という話が書いてあって。紙の本を触っている時は、実はけっこう五感を使っているんだって。触っているし、紙の匂いもあって、空間認識も行っていて空間野も賦活(活力を与える)するって書いてあったな。
深井:(電子本だと)空間野がないから気持ち悪いのかな?
渡邉:電子だと、実は空間野があまりアクティブにならないという話が書いてあったような気がします。
深井:そうかも。
渡邉:それが何を意味するのかはよくわかっていないんだけど、俺の中で勝手に脳内理解したのは、よく「あの時に読んだあの本の、前半の右下のあたりに書いてあったんだよな」ってあるじゃん。
荒木:あるね。
深井:めちゃくちゃ画像記憶だな。すごい。
渡邉:それが起こるのは、どうしても紙の本。
深井:読むスピードもぜんぜん違う。画面だと遅い。
荒木:遅いんだ。
深井:めっちゃ遅い。紙のほうが圧倒的に早く読める。
荒木:それはなんとなくわかる気もするな。
渡邉:例えば原稿を書いた後に、「画面上でエラーチェックするか、一度刷るか」ってあるじゃん? この時、刷ったほうがエラーを見つけられる率が上がるんだって。ジャーナリストの津田大介さんは、この研究を読んだ上で、訓練してiPadでも同じように見つけられるようにしたんだって。えらいと思った。
深井:どうやって訓練するんだろう?
渡邉:すごく集中して見るんじゃない?(笑)。
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