2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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ーー1月は新年を迎えるタイミングで、前年の「反省会」をした方が多いと思います。一方で熊平さんは「内省と反省は違います」とおっしゃっていますよね。内省(リフレクション)と反省の違いを簡単におうかがいしてもよろしいですか?
熊平美香氏(以下、熊平):もちろん人によって反省で変われる人もいるから、反省自体が悪いと言うつもりは決してないんですけれども。反省には「申し訳なかったな」とか「こうすればよかったのに」というネガティブな気持ちがあるのではないかと思うんです。ポジティブに、スキップしながら「反省してまーす」という人はいないですよね(笑)。
ーー「反省の色が見えない」と言われてしまいますよね(笑)。
熊平:学習において最も重要なのが「心理的安全性」だと言われていますよね。心理的に安全ではない状態で振り返っているのが「反省」だと思うんです。学習とは違うところに心がいってしまうから、そこに無駄な動きが出てくると私は思います。
間違ったことを認めることが悪いわけではないのですが、振り返って学ぶという機能からすると、反省は、振り返りの効果が完全には出ない。原理原則に当てはめると、心理的安全性がそこにないから学べないはずなんです。
リフレクションは「未来を作る力」という考え方なので、過去が失敗でも成功でも、はっきり言ってどっちでもいいんです。大事なのは「経験した」ということ。経験に価値があると考えるからです。
だから、うまくいかなかったことからも学べるし、もちろんうまくいったことからも学べます。どちらかというと、うまくいかなかったことのほうが、はっきりと学びが可視化される。だから(失敗しても)「やってよかったね」「これがあったからわかったよね」という感じになるんですよね。
学びに焦点を当てるのか、結果や過去に焦点を当てるのかでいうと、明らかにリフレクションのほうが未来志向ですね。
ーーこの図に書いてあるとおりですが、反省の時に考えがちな「誰の責任か」「どう言い訳しようか」というのが、熊平さんのいうところの「無駄な動き」なんですね。
熊平:そうそう。違うことに頭がいっちゃうから、学習にはいかないと思うんです。反省しようという気持ちは良いことだと思うんですけど、「反省してる場合じゃないよ」って言いたい(笑)。「反省を早く終えて、リフレクションしよう」って。
ーーリフレクションには、良いことも悪いことも両方含まれるのがいいですよね。去年1年を反省して「うまくいかなかったな」という気持ちになってしまうよりも、両方学びになると捉えて前向きに考えたほうが、次の1年につながる部分も多くなると思います。
熊平:そうですね。経験学習でも「感情」を振り返るんですよね。うまくいったことはポジティブな気持ちになるし、うまくいかなかったことはネガティブな気持ちになる。だから両方出してみて、自分にとってなぜそれが気になったのかなと振り返るんです。
例えばうまくいかなかったことが100個あったとしても全部は覚えていなくて、でも1つや2つは、強く覚えていることがあるはずです。「なぜそこにこだわってるのかな」と振り返ると、「これが自分にとっては大事だから、ここが気になったんだな」ということがわかるんです。
自分を知るという意味でも、その経験を次に活かすという意味でもリフレクションをするのがいいと思うんですよね。
ーーリフレクションは未来に向けたものというお話の流れで、1月は新しいこと始めようと考える方も多いので、ぜひ「何か新しいことを始める時にどうリフレクションが使えるのか」について教えていただけますか?
熊平:わかりました。まず、新しいことを始める時にはビジョンを持ってほしいので、「リフレクションはビジョンを形成する上でも大事」ということを知って欲しいです。
何を実現したいかだけではなくて、それは自分にとってなぜ大事なのか、自分の動機の源とのつながりも自分で言語化したり。それから、どんな経験を経てそのことを実現したいと思ってるのか。自分ごとになっている背景をしっかりと自分でも見られるようになると、目標がより自分ごと化されて、こだわりになっていくと思うんです。
目標を掲げても、いろんなことがあって忘れてしまったり、あるいはうまく進まない時に残念な気持ちになって「諦めようかな」と思う時もあると思います。その時に再びこの話を思い出して、自分の内発的動機を掻き立てていく。そういうメカニズムもあるので、リフレクションではまずビジョンの背景の言語化を絶対にやっていただきたいです。
そして、行動を始めたら、経験の振り返りをぜひやっていただきたいです。リフレクションは経験をしてそれを振り返ることですが、それは現状とありたい姿のギャップを埋めていく作業なので、リフレクションは、ビジョンの実現を助ける行為なんです。
熊平:リフレクションには、いくつかのポイントがあります。まず、自分自身の内面の振り返りが大事です。それから現実をどう捉えているのかを振り返るのもリフレクションです。また、ありたい姿をアップデートしていくのもリフレクションです。ありたい姿は、行動と共に変化するものでもあります。
行動の結果、その姿に近づいていくから変わる場合もあるし、やってみたらちょっと違う方向だったと気づく場合もあると思うんですが。その都度、リフレクションを通して、ありたい姿を再定義していくことで、ビジョンを持ち続けることができます。
そして、もちろん自分の行動を振り返るという、まさに経験から学ぶリフレクションも大切です。
リフレクションは「自分が目指したい姿を作っていくプロセス」に欠かせない行為です。誰かに言われたからやっていることは誰かが評価してくれるけど、もし自分が自分に約束したことになると、もう頼りは自分のリフレクションしかない。なので、そうやってリフレクションをしながら、ありたい姿に近づいていくのかなと思います。
ーー自分の今の現状やありたい姿をメタ認知することが重要ですね。
熊平:大事だと思います。自分のモチベーションが下がることがあったり、「これじゃないんだ」と思うんだったら、それを振り返ればいいと思う。なんとなくやり過ごしてしまうと、「目標を立てたのに(いつの間にか)消えちゃったね」となる。そうならないためにも、リフレクションが大切です。
逆にリフレクションをして(ありたい姿になれたと思えて)ビジョンに到達したと思えたら、ビジョンは完了したと思えばよい。こんな風に、ありたい姿を実現する過程で、リフレクションを使ってもらえるといいんじゃないのかなって思います。
ーーありがとうございます。お話をうかがっていて「メタ認知」が大事だなと思いつつ、メタ認知をするのが得意な人と苦手な人がいる気がしています。メタ認知をする力を鍛えたり、身につけたりする方法は何かありますか?
熊平:鍛え方は本当に簡単で、「どうしてそう思うんですか?」という質問ですね。メタ認知ができていない人は、「自分の考えはこれ。以上!」という感じで、それを吟味するとか、別の見方があるという発想がないと思うんですよ。
まずは自分の考えをより深めてもらう。より考える機会を増やしてあげる。そうしていくと、少しずつ「自分はこう考えてるのか」というふうに、自分の思考がスローモーションに見えてくるんです。
逆にジャッジが早い人ほどメタ認知が弱かったりするんです。早く決めることもすごく大事な価値観だと思うんですけど、それが「自分の考えを疑わない」という価値観になってしまうと、自分の考えを手放せなくなったり、多面的に見られなかったりします。
あともう1つの鍛え方は、心地が悪いけどぜんぜん違う人や文化の中に身を置くことですね。そうすると自分の思考が通用しない状態になるので、メタ認知をせざるを得なくなるんです。
ーー多様性が大事と言われてる時代ですから、嫌でもそういう機会は増えていきますよね。
熊平:増えているんだけど、「あいつはおかしいな」「自分は正しい」で終わってしまうと、そこから学ぶことにならない。多様性と出会っても、メタ認知は上がらない。
ーーただ多様性のある人を集めても、ぶつかるだけで終わってしまうのは残念ですよね。
ーーここまでは自分の中の価値観についてのお話でしたが、相手がいる場面でどう価値観をアップデートするかというお話もおうかがいしたいです。
職場などの多くの人が集まる場所には、絶対に1人2人は「価値観が合わない人」「意見がぶつかってしまう人」がいると思うんですね。そういう人に対してどうすればいいのか、コツなどがあれば教えていただきたいです。
熊平:価値観が違う人には、認知の4点セットを使った対話がおすすめなんです。この4点セットの対話をやると、意見が違う時にまず「なんでその人がそう思うのかを知ろうとする心」が芽生えます。さらにいうと、どういう価値観やものの見方がその意見に紐付いてるのかを知ろう、という考え方になります。
昔は私も「その人は私に反対している」と思っていましたけど、実はそうじゃない。その人は、「自分が大事にしている価値観が脅かされてる」と思っている。それが反対意見が生まれている背景だと、わかるようになってくるんです。
そうすると、私の意見に反対してるその意見はわりとどうでもよくて、「その意見の背景に何があるのかをちゃんと聞こう」となるんです。その動作ができるようになると対話が上手にできるようになります。ただ、相手が対話のアプローチを知らないと、しんどいときもありますね。
ーーそうですね。
熊平:だからこそ日頃から「意見の背景を聞く」という考え方が大切です。これは聞きとろうとしないと聞けないので、その聞き取ろうとする習慣がすごく大事です。
熊平:そもそも自分の意見も、所詮は過去の経験と何かしらのものの見方で縛られてるものだから、「この意見はどこからやってきたのかな?」と自分でも思えるようになっていくと、「違う考え方があることは自然なことだ」と受け止められるようになる。
この免疫をつけるには、やはり難しい対話でいきなり本番を迎えるのではなく、日頃から良いコミュニケーションの中で意識しておくことが大事かなと思います。
ーー書籍の中には「推論のはしご」のお話もありますが、「この人は私を否定しているのではなく、その背景に何が大事な価値観があるはずだ」と、いったん立ち止まってみることが大事ですよね。
熊平:そうですね。それができないと力関係で決まってしまうか、対立して終わるか、どちらかになりますよね。
ーー日頃から良いコミュニケーションをとっていると、相手の人となりがわかるので、「この意見を持ってる人」ではなく、「今回はこの意見を持ってる人」と考えることができますよね。
熊平:本当に、そうですね。ものの見方レベルで対話できるようになると楽です。「こういうことが大事だと思うから、こうなんだよね」という説明をしてくれると、「こんな経験もあるからさ」「あっ、そうなんだ」という話になるけど。いきなり意見だけ言われて「反対です」って来られると、「?」ってなりますよね。
ーーそうですね。
ーー逆に親子や夫婦、直属の上司や部下のように、近しい関係性の人との価値観のズレが起きる時は、近しいからこそ言葉が足りず、修復しづらくなってしまうのかなと感じています。価値観のズレを修復するために一番大切なことは何でしょうか。
熊平:一番大事なことは、まず「自分を知ること」だと思いますね。やはり自分のメタ認知力が一番大事だなと思います。
価値観の合わない人といる瞬間に、先に反応するのはやはり「感情」です。ムカッとするんです。そのムカッとしていることをメタ認知して感情をコントロールして、評価・判断を保留にできているか、その力が問われる。
相手のことを聞いてみようと思えたら、例えその人が自分とかなり違う価値観を持っていたとしても、ちょっと歩み寄る可能性は上がりますよね。
ーーそうですね。なかなか難しいですけどね。
熊平:難しい。でも、感情が先に反応するから、その時に「あっ、来た来た!」と思って、「今、こういう状態になっているんだな」と、冷静に自分をメタ認知する。相手の世界を聞いて、その人の何がこだわりなのかがわかると、「それが私の癇に障ったんだ」というのもわかるんです。そこで「じゃあ、どうするか」という、問題解決にいけますよね。
熊平:例えば相手がコミュニケーションが大好きで、もうとにかく話しかけてくる。ところが、こっちはちょっと静かに考えたいタイプだとします。お互いの大切にしていることが邪魔し合ってる状態だと上手に言わないといけない。
そんな時に、冷静に「この人は、コミュニケーションを大事にしているから、私に積極的に話しかけてきているのか」と理解できると、「いや、実は私は今こうで」と、今の自分の状態を、相手にも理解してもらえるように説明できるんじゃないかなと思います。
それができないと「もう、うるさいな!」「黙っててよ!」となって、(相手も)「なんだよ!」となってしまう。
ネガティブな感情は多くの場合、相手にもうつります。だからこれは修行だと思ったほうがいい。ロバート・キーガン先生の理論を読むと、自己中心型から相互に学習できる世界観にいくのは、人間としての成熟が必要であることがわかります。
だから私はいつも、難しい対話に遭遇したら、自分が成長するために「与えられた修業の場だ」と思うようにしてます(笑)。
ーーなるほど。意見が対立した時に「これは人として成熟するための修行の時なんだ」と思えれば、少し前向きに取り組めそうですね。ありがとうございました。
相手とうまくいかない時や、自分の中でうまくいかない時は、まず判断を保留にして、冷静に自分自身をメタ認知してみる。価値観のアップデートは、まず自分を知ることからということがよくわかりました。私も日頃の生活の中で習慣として意識していければと思います。熊平さん、ありがとうございます。
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