2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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斉藤知明氏(以下、斉藤):ではQ&Aに移っていきます。参加者の方からいただいている質問で、僕も聞きたかったものがあるので、1つ質問させていただきます。「ここまでのお話だと、50人規模の企業であればファクトリー型のままのほうが良いということですか?」ということですが、企業規模によって変わるものですか?
安斎勇樹氏(以下、安斎):規模によって変わると思います。さっき、どなたかがコメントでグレイナーという名前を出していたと思いますが、ラリー・E・グレイナーという人が「企業の規模によってその時の課題が違う」という話をしています。
まさにご質問の50人や最初の創業期では、はっきり言って組織の創造性よりも、どちらかというと見つけ出した問題のクオリティのほうが重要なんです。その問題がイケてないと、そもそも事業が伸びません。なので、最初の事業をPMFさせるまでは、ある程度はファクトリー型でやらないとスケールしていかないと思うんです。
ですので、基本的には「50人規模ぐらいまでで、単一事業でその事業を伸ばす」ということをやっているスタートアップであれば、一定はファクトリー型にならざるを得ない部分はあると思います。
ただ、さっき言ったようにそういうスタートアップベンチャーで働きたい方は、個がすごく強い。やりたいことがたくさんあって、その会社に来ているということもあります。さらに、スピードが速いベンチャーほどあっという間にその次の壁に行くんです。
「あースケールしたわー。PMFしたわー」と思った時には、時すでに遅しということがあったりするんです(笑)。
なので、伸び始めている時から徐々に企業理念を見つめ直したり「ほかに可能性はないのだろうか?」と。それこそ「この事業だけを伸ばすことが『とらわれ』ではないのだろうか?」という発想で。「今はこの事業をとにかく伸ばすけど、我々の存在価値は何だろう?」と、ある程度は現場で対話していくんです。
そういう意味で、ブレンド・比率の問題で「(基本は)ファクトリー型が『7』だけど、ワークショップ型も『3』ぐらいは入れておいたほうが良い」という感覚です。「クラシカルな業界で、業界図もあまり変わらなくて先行きも見やすく、ずっと50人のままでずっとこの事業だけで良い」というのであれば、ファクトリー型で良いと思います。
斉藤:ただそういうクラシカルな業界ほど、けっこうディスラプト(disrupt)できるチャンスがあったりするじゃないですか。
安斎:そうですね(笑)。
斉藤:なのでボトムアップ型の組織だと、そういう変化ができる可能性もあるけど、ファクトリー型だと変化せずに今の売上を維持することになる。どっちが良いかという話ですね。
安斎:そうですね。
斉藤:それ(ボトムアップ型になること)を求める場合もあるかもしれないし、業界が変わるかもしれないということですね。なるほどなぁ。ありがとうございます。
斉藤:では続いての質問です。今日もちょこちょこテーマに上がった内容ですが「考える習慣のない、あまり考えたくない社員に考えてもらうようにするにはどうするのが有効でしょうか?」。
安斎:そうですね。いろんな感情がありますが、難しいですね(笑)。まず前提として、全員が「自分の『こだわり』を持って主体的な専門家になる」というキャリアを“良し”としているとは限らないじゃないですか。
なので、いろんな問いが浮かんできますね。それは「もし本当に、この社員の方が仕事において考えたくないという価値観を強く持っているとしたら、考えずに働ける仕事でやっていけば良いのでは?」「考える習慣がないとラベルを貼られたこの人は、本当に考えていないのだろうか?」「この社員の方のキャリア段階って、どういう状態なんだろうか?」といった問いです。
もし最初にエクスキューズしたように、考えない仕事に就いていることが幸せだと思っているのではなく、何かしらの状況で受動的になってしまっている場合。この「考えない社員」と言われている方の「キャリア発達段階がどのフェーズにあるのか」がけっこう重要だと思うんです。
マネジメント層とメンバー層は雑に分けられますが、うちの会社だとメンバー層ってグレードが3段階ぐらいに分かれているんです。グレードが3段階目までいくと1人前なんですね。「手取り足取りされなくても自分の頭で考えて、自分の専門性で働ける」というのが1人前です。
だとすると、考えていない状態の人はまずタスクをきちんとこなし、それに対して承認を受けて「自分はこの会社にいても良いんだ。自分はこのタスクをちゃんと解決できて、役に立っているんだ」というところをいったん乗り越える(必要がある)。そうでないと、他の人と協力して働いたり、自分の頭で考えるところにまずいけないんですよね。
「自分の頭で考えて1人前になる」というところと「考えていない状態」って、キャリア段階的に2段階ぐらい溝があるんです。なので、1段階目の人に対して3段階目のマネジメントをしてしまうことが、マネジメントエラーとしてけっこうあると思っています。
自分の頭で1人前のように考える前に「このタスクをきちんと処理できるようになって、この会社に貢献できて、自分の居場所を確保する」というところで、もしかしたらマネジメントエラーが起きているのではないか? と思いました。
斉藤:僕はこの質問を見た時に、まず「考えていない人」というのはいなくて、引き出せていないとか、考えが出せていないだけじゃないだろうかと思ったんです。でも、安斎さんの第1の回答に「考えたくない人もいる」という話があったじゃないですか。
実際にUSだと、いわゆる(考えていなくても)良い層とそうじゃない層に分かれるという話も議論としてあったりしますが、そうではないんですよね。
あまり考えないけれども、それは仕事じゃなくライフをチョイスしているだけで。人生を豊かに過ごすことを仕事以外のところに求めている人たちや、仕事においては考えたくないと思っている人たちもいるんだと知りました。
「考えていない人なんているわけがない」と思うのも「とらわれ」なのかもしれないなと思って、今の質疑をお聞きしている中で頭が行ったり来たりしました(笑)。
安斎:そうですね。ベンチャーは特にそうかもしれないです。「自分で問題を見つけて解決するのが当たり前だ」みたいな(笑)。
斉藤:そうなんですよ(笑)。
安斎:そういう人たちで組織を構成することは悪くないと思うんです。なので、採用の問題だと思うんですよね。その方は何かを評価され、採用されてその会社にいるはずです。
その時に、何を期待されてその会社に入ったのか。それがもし「もう少し主体的に働けそう」という見込みで採用されたのにも関わらず、なぜか知らないけどまったく考えてくれないのだとしたら、環境やきっかけがないのだろうと思います。
あるいは、まったく考えたくなさそうな人を採用しておいて、考えさせようとしているのだとしたら、それは採用とマネジメントのエラーだなという感じですね。
斉藤:では続いての質問です。一方で、今のところとつながる質問だなと思ったのですが、大きな企業になればなるほど、数がたくさん必要になる側面も含めて、正直、採用の自由度は減りますよね。
そういう人たちが、考える習慣が身に付いている人だけを採用するのは難しい現状があると思っています。その人(考えない人)が悪いという話でもないかもしれませんし、環境がそうさせただけかもしれません。ですが、考える習慣がもともと身に付いている人たちは市場にあまり出回っていません。
だからこそ、考える習慣が今はない人に対して「どうやったら(今後)『問いをデザインする力』や『問いかけをし続ける力』、『Whyを考える力』を身につけていくことができるのか?」ということが、今は求められているのかなと思います。
あらためての質問になるかもしれませんが「こういう(考えるのが嫌だと思っている)人たちに対して、どうやったらそういう(考える習慣が身に付く)場所作りができるんでしょうか? あるいは、そういう場所も嫌だと思っている人に、変わってもらうことはできるんでしょうか?」という質問ですが、これは難しいですか?
安斎:そんなことはないと思います。むしろ、大企業の場合はたくさん採用して、タレントマネジメント論でいうと、要するに適者生存型でやっているわけです。「残った奴でやれば良い。残った奴が偉い」みたいな(笑)。
おそらくワークショップ型に切り替えるということは、適者生存ではなく、適者開発というのか「みんなの才能をどう活かすか?」「みんな才能を持っているはずだ」という発想でやることだと思うんです。
とはいえ、今の採用がそうなってしまっているのは、少しずつ現場レベルで単に振るい落とすのでなくて、芽を育てる「非公式な育成の習慣」みたいなものを身に付けていく必要があるからだろうなと思うんです。
その時に、どこからやれば良いのか? というのはあるんですが、日々の業務すべてを問いかけに満ち溢れさせて、ボトムアップにするのは無理だと思うんです。オペレーションでやらなきゃいけないことや、それこそ担当してもらうタスクがある中でチェックしなきゃいけないとしたら、3ヶ月や半年スパンなど、もう少し長い目でみていく必要があります。
どんな会社も目標設定をして、その目標がどうだったのかを評価するみたいなスパンが、半年とか1年とかクォーターであると思うんです。
その中で、トップダウンでやってもらわなければならない目標が8~9割あったとする。それなら、1割でも2割でも良いから本人に立ててもらった目標をボトムアップに入れ込んで、達成してもらう。こういうサイクルを、その(ふだんの)サイクルの中に組み込むことだと思うんです。
ふだんの業務はファクトリー型だけど「その中で発揮したい『こだわり』はあなたが決めて良いし、見守るし支援するよ」と、ブレンドしていくのが良いんだろうなと思っています。
そして、そこをきちんと目標評価制度に組み込めれば良いと思うんです。でも、もし組み込めないなら、マネージャーとメンバー間の中で「目標数値はこの金額だけど、この半年間でトライしてみたいことや忍ばせてみたいこと、個人的にやってみたいこととかはある?」と聞いて、覚えておく。それを1on1の中で追いかけるんです。
斉藤:(スライドを指して)こういう「遊び心をくすぐり」とかは、まさにそうですよね。
安斎:そうですね。
斉藤:これ、おもしろいなと思いました。「もし社長にバレないように、戦略を1つ追加するとしたら、何を入れますか?」(笑)。確かに、自分もこの問いかけは、スライドの左よりも右のほうがたくさんしゃべっちゃう気がします。
安斎:そうですね。ファクトリー型の中でそういうミニゲームやミニクエストみたいなものを忍ばせることは、けっこうできるはずです。そんな感覚で問いかけに織り交ぜていくのが良いのかなと思います。
斉藤:チャットに「非常に有益な中で、初心者が最初からやれることって何だろう? ティップスってないかしら?」という質問がありました。この定石を試してみるのは入り口になりますか?
安斎:そうですね。アジェンダがガチガチじゃないミーティングやアイデア発想会議などでこういう定石を試してみるとか、それこそ「目標設定1on1」で、いったん部下との面談だけでやってみることですね。
斉藤:全部が全部、これ(スライドのよう)にはならないですよね。
安斎:ならないと思います。変えられないと思いますし、フィードバックしなきゃいけないところもあると思います。
斉藤:そうだ。僕がすごくおもしろいなと思ったのが、さっき「ファシリテーターには4つのタイプがある」という話をしてもらいましたよね。その時に「論理的に受け止める」のか「能動的に伝える」のかで、安斎さんは自分は左上の「提案タイプ」だとおっしゃったじゃないですか。みなさんがどう思ったのかはわからないですが、安斎さんは引き出すほう(触発タイプ)なのかなと僕は思いました。
安斎:なるほどなぁ。
斉藤:正直、会社を経営されているので自分の中では「提案タイプ」だと認識されている。だからここ(すべてのタイプ)をぐるぐる回すように意識しているんですよね。だから「整理タイプ」も「共感タイプ」も「触発タイプ」も大事だと捉えていらっしゃるのかなと思って、すごくおもしろかったんです。
安斎:そうですね。僕の場合はもともと研究者というバックグラウンドがあります。なので、僕のリーダーシップ発揮の(ための)武器は、会社で起きている事象と進むべき道を言語化して、モデル化して、示すことなんです。
斉藤:めちゃくちゃ左側(論理重視側)ですよね(笑)。
安斎:そうなんですよ。
斉藤:なるほどなぁ。どれが悪いという話ではないんですよね。さっきのファシリテーション(のタイプ分け)も「偏ってしまうとよくないよ」という話なのかなと思いました。
安斎:そうですね。まったく共感せず、話も聞かないで「いや、お前はこれをやったほうが良いよ」といきなりパッと言っても、聞いてもらえませんよね(笑)。提案が刺さるためには、やっておくことがあります。
斉藤:では、お時間も迫ってまいりましたので、次を最後の質問とさせてください。
「定石を知りました。でも、どうやったら新しい問いかけの仕方をチーム内で生み出すことができるのか、まだ知識や理解が追いついていません。どうやったら(問いかけを)組み立てることができるのか悩んでいます」というご質問です。
安斎さんが問いかけを作り出す時に意識していること。さっきの「こだわり」と「とらわれ」だと「どうやって『こだわり』を引き出すのか?」「どうやって『とらわれ』を剥がすのか?」「『とらわれ』が何か、『こだわり』が何か」に、焦点を当てる作り方をされていると思います。
もう少し実践的に、目の前の場に課題があった時にはどうやって問いかけを生み出しますか?
安斎:いくつかありつつ……。『問いかけの作法:チームの魅力と才能を引き出す技術』という本で、丸々質問を組み立てる章が後半にあるんです。レシピのように、質問の組み立て方法が載っています。そこまで読まない人のためにさっきの定石を前半に置いているという感じなので、本編を読んでほしいなと思うんですが(笑)。
斉藤:(笑)。
安斎:問いかけが下手な人のために、めちゃくちゃ重要なポイントが1個あるとしたら「問いの主語に気を付ける」ということです。これは、ミーティングやチームの思考にかなり影響するけど、一番簡単に変えることができる部分です。
例えば「うちの会社はどうすべきか?」と「うちの会社のために、あなたはどうするべきか?」では、「会社」が主語なのか「私」が主語なのかでだいぶ変わりますよね。「自分事」感がない会議って、無自覚のうちに「会社」や「社会」や「事業」など大きい主語の話が飛び交っているんです。
他方で、主語の大きさを下げていき「あなたはどう思う? 私はこう思う」と言っていると、「みんな違って、みんないい」みたいに、バラバラの場になって「で?」となるんです。なので、ファシリテーターが初歩的に気を付けるべきは「今はどの主語の話をしているのか?」ということです。
主語の大きさが上がってきた時には、自分事感を出すために個人主語の話を聞いてみる。みんなが個人の話をしてきたら「じゃあ私たちは」「このチームは」と少し主語の大きさを上げる。このように、主語のゲージをちょっといじるだけでもだいぶ変わってきます。1on1なのにめちゃめちゃ組織主語で、ずっと聞き続けている場合もあると思うんですよね(笑)。
斉藤:確かに(笑)。1on1こそ難しいですよね。会社主語で考えてほしい側面もあるし。だからこそ「自分主語で問いに対して考えてもらったこと」を、会社主語に最初に接続するのは実はマネジメントの仕事ですよね。
一人ひとりに接続していくこともできる。まずは「意見を生み出す」というところを考えると、確かに主語が自分に近ければ近いほど話しやすいですね。
安斎:そうなんですよね。けっこう、ここの感覚をつかめると質問の組み合わせでいろんなことができるようになってきます。
まず個人の過去を深掘りして「この会社であなたがしてきたことって何がある?」と聞いておいて、「じゃあ私たちは未来をどうしていこうか」と言うと、個人の過去から組織の未来にグーッと場が上がっていくんです。
そんなふうに主語のコントロールに少し気を付けるだけでも、だいぶ視座が変えられる。また、過去を振り返って未来に向かったり、組織の過去を振り返って個人の未来を考えたり、自由にできるようになります。基本、定石を守るというよりは、どちらかというとそっちのほうが簡単かもしれないですね。
斉藤:目的格として「『こだわり』と『とらわれ』を意識してどう変容するか?」というものがあった時に、過去・未来という時間軸のレバーや、個人・会社という主語の広さのレバーがあって、それで(問いかけを)組み立てていくイメージなんですね。基本、定石に比べたら応用編ですね。「主語を変える」という簡単な手法も含めてご紹介をいただき、ありがとうございました。
斉藤:あらためて、今日は「イノベーションを創出する組織づくり 人と組織の創造性を高める、きっかけとなる問いかけの作法とは」について、ウェビナーをお送りしてきました。最後に安斎さんから一言、締めの言葉をいただけますでしょうか。
安斎:本日はありがとうございました。非常に多くの方からたくさんチャットで質問をいただきました。すべて受けきれなかったのですが、すごく良かったなと思うのは、みなさんが共通して「心理的に安全で良い組織を作りたい」という前提でここにお集まりだということです。
「How」はいろいろ、「難しい」とか「どう使っていこう」ということがあると思うのですが、「Why」を共有している人たちがいろんな会社にいることがすごく大事なことだと思いました。
そして、僕自身も『問いのデザイン:創造的対話のファシリテーション』を書いた時に「これが結論だ」と思ったのですが、1年半悩んで『問いかけの作法』を出しまして。絶賛探求の最中です(笑)。
おそらく、これは探求し続けなきゃいけない領域なのだろうと思っています。「人」と「集団」が集まった時に良い状態にすることは普遍の哲学的テーマだと思いますし、その探求は1人ではできません。
僕も答えがわからないことがたくさんあるので、みなさんと引き続き議論をしながらこのテーマを探求していきたいとあらためて思った次第です。早い時間からみなさん、どうもありがとうございました。
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