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田中泰延×阿部広太郎 「自分のことはしゃべらない。相手のことも聞き出さない」 『会って、話すこと。』(ダイヤモンド社)刊行記念(全6記事)

100万字を超えるメッセンジャーの9割ぐらいは無駄話 『会って、話すこと。』編集者が語る、会話の「過程」のおもしろさ

本屋B&Bにて、『会って、話すこと。 自分のことはしゃべらない。相手のことも聞き出さない。人生が変わるシンプルな会話術』(ダイヤモンド社)刊行記念イベントが開催されました。本セッションでは、著者・田中泰延氏と電通コピーライター・阿部広太郎氏の対談の模様をお届けします。阿部氏の著書『それ、勝手な決めつけかもよ?だれかの正解にしばられない「解釈」の練習』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の刊行記念対談以来の再会となる両氏。本記事では、それぞれの著書の編集者を交えたクロストークを展開しました。出版のきっかけとなった「手紙」のエピソードや、本を作る上での「無駄な話」のおもしろさが語られました。

本を書くことは「自分との出会い直し」

阿部広太郎氏(以下、阿部):泰延さんのツイートは、なにかの壮大な下書きなんだなって思ったんですよね。泰延さんが常日頃、ずっとなにか考えていることがツイートされていて、そこに編集という「1つに編む」という力が加わった時に、書籍になるんだなって。

田中泰延氏(以下、田中):そう。この本(『会って、話すこと。』)の内容も、基本的にはTwitterで何年も前に書いたことばっかりなんだけど。「俺良いこと言ってんな」ってそれをつなげて原稿にして、「今野さん、どうですか?」って言ったら「これでいいですよ」って言うから、「ああよかったんだ」って。それで本になるっていうことなんですよ。

阿部:泰延さんと出会い直してるような感覚にもなりました。

田中:まあ、夜道では俺は俺に会いたくないけどね。感じ悪いなーって(笑)。でも、「出会い直し」ですよね。「本を書く」ってそうじゃない? 「自分との出会い直し」をしない限り書けないもんね。

阿部:書けないと思います。自問自答でありながら、編集者という方の存在がスポットライトを当ててくれるので。本当に大事な存在ですね。

田中:今回後ろに、なんと編集者の名前を入れさせてもらいました。今野良介さん。僕は「共著」「共著」って言ってるけどね。

いろんな思い出があって、これは早稲田大学前の「ぷらんたん」っていう喫茶店で、名前のペナントを(飾ってもらっています)。今野さんの在りし日の感じがあって、草葉の陰から俺のことを見守ってくれてるんですけど。もう今は星になってしまったあれですけど……。いや、生きとるわ! ていう話で(笑)。

今日はここから「本を作ること」ということで、阿部さんの本の編集を担当したディスカヴァー・トゥエンティワンの橋本莉奈さんに、お二人がどうご縁を作ってきたかということと、それから今墓場から蘇ってきた今野良介さんと、4人でお話をさせてもらいたいと思っています。

阿部:チャット欄のところにもたくさんコメントいただいて、あとで見るのが楽しみです。ありがとうございます。

編集者を交えて語る「本を作ること」

田中:ありがとうございます。著者と編集者の4人が揃いまして、この状態は実はなかなか珍しいんですよね。実は。では、自己紹介をお願いします。ディスカヴァー・トゥエンティワンから、橋本莉奈さんです。

橋本莉奈(以下、橋本):ありがとうございます。ディスカヴァー・トゥエンティワン編集部の橋本莉奈と申します。私は今年の4月に編集部に異動しまして、第1作目に担当したのが、阿部広太郎さんの『それ、勝手な決めつけかもよ?』という本でした。

この本の刊行記念として、B&Bさんで6月に阿部さんと田中さんの対談イベントを実施していただいて、今日は田中さんの新刊の刊行記念としてまた対談イベントをしていただけるということで。しかも、なんと今度は自分が出るということで大変緊張しているんですけれども、楽しみにしておりました。今日はよろしくお願いします。

(一同拍手)

田中:そして、ダイヤモンド社の今野良介さん。

今野良介(以下、今野):はい、ダイヤモンド社の今野といいます。よろしくお願いします。

田中:今野さんね、こういうところ来るといつも硬いよ(笑)。ふだんはぜんぜんこういう人じゃないんだけど。

今野:これが僕です(笑)。

田中:緊張しいやね。

今野:2年前に田中泰延さんと『読みたいことを、書けばいい。』という本を作って、その時に一度、阿部さんと横浜でイベントを開いていただいて、その時に初めて阿部さんとお会いしました。

田中:阿部さんは僕が本を出したりなんかすると、すぐ呼んでくれんの。ありがたいわ。

阿部:いやいや。泰延さんはいつでも話を聞きたい人なんです。

今野:電通に悪いイメージがあるわけじゃないんですけど、阿部さんは僕の中で「電通っぽくない人ナンバーワン」なんです。僕も生真面目なタイプなので、勝手に少し親近感を感じています。田中さんとしゃべっている姿を見ると、僕がしゃべっているような気がして(笑)。

今回もイベントを開いていただいたということで、ちょっと僭越ながらおじゃましにまいりました。よろしくお願いします。

阿部:よろしくお願いします。

(一同拍手)

「自分の心を素直にしていく力」に背中を押され、編集者の道へ

田中:阿部さんはぜんぜん電通っぽくないんだけど、ふだんはハンティング・ワールドのポーチを持って、ポロシャツの襟を立てて、サマーセーターを首からかけて、「よっ、田中ちゃん」ってよく僕に話しかけてきます。その姿は、あまりこういうところでは見せないようにしていますけども。

阿部:もう絶滅危惧種ですよ(笑)。たぶん令和にはいないタイプの人だと思うんですけど。

田中:平成でもいなかったわ(笑)。昭和やからそれ。今日僕が4人で話したかったのは、この阿部さんの本ができる過程で、橋本莉奈さんは編集の人じゃなかったのにこの本の出版を実現させたということ。すごくびっくりしたんです。

「やりたいことをやる」っていうのは、会社の中でも通してしまえば実現するんだって感じました。この編集者と著者の関係が熱いなと思って、今日はその辺を聞きたかったんです。そもそもどういう経緯だったんですか?

橋本:ありがとうございます。私が、阿部さんが主宰をされている「言葉の企画」という講座に参加して半年間、言葉や企画について学ばせていただいたんです。その阿部さんの講座を受けている中で、阿部さんの言葉の持っている底しれぬパワーみたいなものを感じまして。阿部さんの言葉や考え方をもっとたくさんの人に広めたら、世の中に良い化学反応が起こるんじゃないかと思ったんですね。

それと同時に、自分自身の生き方にも影響があって。阿部さんのお話って「自分の心を素直にしていく力」があるんです。私はもともと出版社で営業の仕事をしてたんですけれども、阿部さんの企画や発信、行動に関するお話をたくさん聞いている中で「営業の仕事も楽しいけど、本を企画して形にする編集者にも憧れるな」「編集の仕事もやってみたいな」って思いに、だんだん素直になってきまして。

そういう過程があったので、阿部さんの考え方を自分が本という形にすることができれば、阿部さんの言葉も世の中に届けられるし、自分のやりたいこともできるという、1つの大きい夢が自分の中で生まれてきました。

編集者から著者へ送る「手紙」に込めた思い

橋本:そこで阿部さんに手紙を書かせていただいたんですね。

田中:出た、手紙だね。

阿部:手紙ですね。

橋本:たぶん阿部さんは最初「これなんだろう? 何の手紙かな?」って思われたと思うんですけど。

阿部:そうですね。「どんな種類の手紙かな」というか(笑)。もちろんネガティブな手紙ではないのはわかるんだけど、何が書かれてるのかなっていうのは最後までわからなくて、電車の中で読む時までずっとドキドキしていましたね。

田中:かなりのボリュームのやつが来ると、ドキッとしますよね。

橋本:確かに、急に渡されても私がどういう思いなのかわからなかったですよね。

阿部:いやいや、本当にうれしかったです。

田中:阿部さんが教えていらしたわけだから、最初はその講義の内容についてだと思うよね。あとは住宅ローンの連帯保証人になってくれとか、そういう嫌な手紙もあるじゃないですか。

阿部:ありえますよね。でも、結果的に思うのは、手紙をもらって僕もシンプルに幸せだったんですけど、橋本さんは、当時営業の仕事をされながら企画を書いていて、それってやっぱりエネルギーがいることだと思うんです。

なのでこの本が1つのきっかけとなって、橋本さんの「書籍の編集者になりたい」という気持ちが叶っていく助けになれたのであれば、それはものすごく幸せなことだと思います。橋本さんがこれから作られていく本がたくさんあると思うんですけど、そのスタートに立ち会えたのであれば、がんばってよかったなって思います。

「最初でダメなら次はない」からこそ、最初の手紙に思いを込める

阿部:そして、始まりは「手紙」。本当にその異様な熱量は、それぞれ(編集者の)お二人に共通されてるのかなって思います。

田中:有名な今野さんの「狂ったメール」というのがあって。

阿部:その話もうかがいたいですね。その始まりの大切さというか、そこに熱を込めることから転がり始めるんじゃないかなって僕も思うんですけど。そこを今野さんもすごく感じられていると思います。

田中:今野さんもあの手紙を書いて、僧侶の生活から編集に移られたという。

今野:世を離ったのではありません毛を刈っただけです。僕は田中さんの前の本(『読みたいことを、書けばいい。』)で、依頼文を本文中に晒されてるんですけど。それで見る人見る人みんなに「あんなに長いメールを書くんだ」って言われて。でもいろんな人に書いた最初のメールを見返してみたら、田中さんに送ったメールが3番目ぐらいに短かったんですよ。「毎回同じようなことやってたんだな」って思いました。

なんでそんな長くなるかというと、橋本さんの場合とちょっと違うかもしれないですけど、基本的に僕は一方的に著者のことをめちゃくちゃ知っていて、でも相手は僕のことまったく知らないわけじゃないですか。

そのものすごい認識の差があるところを埋めながら、「自分が誰で、何がしたくて、何を実現したいのか」ということを最後まで読んでもらうためにはどうすればいいかって考え始めると、どうしても長くなるんですよね。読んでくれなかったらしょうがないですけど、最初がダメだったら、もう次はないですから。

田中:そうね。最初でダメだったら本当に次はないよね。最初に長い手紙を書いて拒絶されたら、それ以上長い手紙を書いても事態がよくなることはないからね。

今野:やっぱり相手のことは考えますよ。短いメールじゃないと読まないだろうなって人に何千字も書かないです。

田中:そうかそうか。「ダイヤモンド社の今野です。本書いて、儲けませんか?」って短く書いてあったほうが、ガーッって食いついてくる人もいるかもしれないよね。

今野:そういうケースもあるかもしれないですね。知らんけど。でもやるとしても、きっとそれは戦略的に、ですよ。

著者と編集者をつなぐ「幾千、幾万のやりとり」

田中:やっぱり「なんでそれを世の中に作りたいか」という思いを相手に伝える努力は、ぜったいにしたほうが良い。あと、編集者と著者って本が出るまでに無限に会話するじゃん。むちゃくち会話するやん。「これはどうなの?」とか、作ってる途中も「これでいいのか?」とか、無駄話もするし。俺と今野さんなんて、2人のメッセンジャー9割ぐらい無駄話しかしてないからね。

今野:100万字ぐらいになってるんじゃないですか?

田中:100万字超えてると思う。ひどいよ、本当に。

今野:でも、阿部さんも「幾千、幾万のやりとりを経て」って、『それ、勝手な決めつけかもよ?』の最後に書かれてましたよね。

阿部:はい。でも、「幾千、幾万」って書いたら、校正の人に「それは多すぎじゃないですか?」って赤字で書かれたんですよ。でも、気持ち的にはそれぐらいずーっとやりとりしてたと思うんですよね。

田中:たぶん文字数を数えたら万はいってる。ぜったいにいくからね。

阿部:一つひとつの赤字だったり、そこに対するどうしたらいいかというやりとりも含めると、個人的にはそれぐらいの物量を感じるんですよね。

田中:「何月何日までに本を出す」って目的があってしゃべっているけど、その目的のアジェンダだけの会話をしてたら、たぶん本は出ないよね。

阿部:出ないと思いますね。

一緒に仕事をするからこそ大事な「ぶっちゃけ」の部分

田中:その辺、2人はどう? 世間話とか違う話で盛り上がりつつ、本の話もしなくちゃいけないな、みたいなところはありました?

阿部:でも本を作る時も、直接会って打ち合わせができたらなって思ったんですけど、コロナ禍になってしまって、リモートで打ち合わせをする時間が長くなったんです。その時に、僕は橋本さんのなにか言いたげな表情だったり、「なにか気にして言えてないことがあるんじゃないかな」「遠慮してないかな」っていうのは(感じていました)。

もちろん(橋本さんは)口に出さなくても、でも顔に書いてあったり言葉に雰囲気を持っていたりしたので、そういう時は「どうだろう?」って聞いてましたね。「どう思う?」「ぶっちゃけどうかな?」って。話してもらうことによって前進していく感覚もありましたね。(橋本さんは)どうですか?

橋本:そうですね。オンラインで、しかも私も、経験値的にまだ1人で本を作れるわけではないので、上司とか先輩とかにも一緒にミーティングに入ってもらって、3〜4人で話すということをずっと繰り返していたんですよね。

それで私もオンラインならではの空気感にツッコめないというか、「ここ切り込んでもいいのかな」と思っていたところもありまして、それを阿部さんが敏感に察知してくださったかたちです。ミーティングはミーティングでやっていたんですけれども、阿部さんとはメッセージやお電話でもいろいろやりとりはさせていただいていました。

阿部:「ぶっちゃけ本当はどう思ってるの?」っていう、そのぶっちゃけの部分が大事な気がします。遠慮しあってしまった瞬間に、取りこぼしてしまうものがあるなと思いますね。

ボケ続けているメッセンジャーのやりとりは、まだ氷山の一角に過ぎない

阿部:先日、このイベントに向けて(泰延さん、今野さんの)お二人のメッセンジャーに入れていただいたんですけど、どこまでもお互いを高め合っていて、意味合い的にはとにかく「ボケ続けている」んですよ。本当にすごかったです。

田中:「高め合ってる」ってみんな一瞬期待したけど、ボケ続けてるだけやからね(笑)。この4人のメッセンジャーのグループを作ったんだけど、俺と今野さんが一昼夜ぐらいボケ続けて、次の日の朝、橋本さんが「追いつきました」って(笑)。

今野:イベント前にブロックされるかと思いました。「いい加減にしろ」って思われていないかって。

(一同笑)

阿部:エネルギーが底知れないなと思いましたね。さっき泰延さんと今野さんが、「2人のやりとりは何十万字に至るぐらいのやりとりをしてきたんだ」って言いましたけど、マジだなって思っていて。

本の帯の裏にも「田中泰延と、会って、話すことを、なぜだかやめられずにいる」って今野さんが書いてますけど、この3行は、それを知った上で読むと「本当にそうなんだろうな」って。

田中:本当にそうなのよ。この4人のボケ続けてるメッセンジャーの裏では、2人でボケ続けている、ほぼ同じ分量のメッセンジャーもあるからね。あとTwitterで仲のいい5人ぐらいの板もあって、そこでも同じ文量でボケ続けてるから、(阿部さんは)全体の5分の1ぐらいしか見えていないです。

阿部:氷山の一角ですね。(『会って、話すこと。』には)今野さんと泰延さんの会話をギュッとされたダイアローグが載っていますけど、フルバージョンで1冊できるんじゃないかなと思うぐらい、きっとすごい量の対話があったんだろうなと思いますね。

田中:会話だけのやつのサブ本、出しますか。

今野:社内で企画通らないですよ。

(一同笑)

編集者の「禁じ手」をするに至った理由

田中:僕はこの本を「共著だ」って言い切ってるんですけど、いろんな事情があって田中泰延の本ってことになっています。でも本当に今野さんの原稿があるし、あと「2人のダイアローグ」は完全に今野さんが書いているわけですよ。

一応2人で会って、飲み屋に行ったりZoomしたり喫茶店に行ったりしてるんだけど、でもただのしゃべりは、それがおもしろおかしく原稿になるわけじゃない。橋本さん、こんな本の作り方はどうですか?

橋本:今野さんも「禁じ手」って本に書いていらっしゃったんですけど。編集者の方がこれだけ本の中に出てきて、原稿の一部も編集者本人が書かれてるっていう本を、私はあまり見たことがないなと思って。この決断に至った理由を聞きたいですし、勇気がいることだったんじゃないかなと私は思ってしまいました。

今野:そもそも、ダイアローグ部分の原稿を僕が書いてるっていうのまだ明かしてないですからね(笑)。

田中:これを観ている方、そういうことなんですよ。

今野:真面目な話、僕はすごく真面目な人なんですよ。学級委員長だったし、ボケ続けることとは対極にいたはずなんです。どっちかというと「結論」重視派だったはずだし。

でも、田中さんと話してるうちにそうじゃなくなっていって、そっちのほうが楽しくなっちゃったんですよね。コミュニケーションそのものの「過程」が楽しくなって、「その先に何があるんだろうな」って考えるのが楽しくなっちゃったんです。

テニスのラリーのような「過程」が楽しくなった

例えば、テニスの試合をやっているとするじゃないですか。僕は「ラリーがおもしろい」と思っているんです。サービスエースだけで終わる試合って、ぜったいにつまんないと思うんです。それはやってる方も、観てる方も。

当然、観客もその決着を見に来てるはずだし、選手も最終的な目的は勝つことなんだけど、ラリーが続けば続くほど、際どいラインのボールをなんとか拾って返したりするほど、「えっ、これどこまでいくの?」みたいにワクワクしてくる。それはやってるほうもそうだし、見てるほうもそうなんじゃないかなって思うんですね。

それと同じような感覚を、田中さんとしゃべってるうちに感じてきちゃって。もしそれがテニスなら、観客である読者の方々もそうだったらいいなって、途中から思ったんですよね。

本の中でボケまくっていて、「これダイヤモンド社から出すのすごいな」と思いながら書いてたんですけど(笑)。でも、それが僕らがやってきたコミュニケーションだし、それが僕が選んだ著者だから、そのままいっちゃうしかないかなちょっと開き直りに近いところがあるんですよね。

田中:みんなからは本当にどうでもいいと思われるかもしれないけど、俺がこの本の会話のところで一番好きなのは、今野さんが「学生の頃、ある定食屋に入ったんですね」って言って、俺が「定食屋、何定食ですか?」って聞いたのに、(今野さんは)「その時にサッカーの……」って、答えてないんですよ(笑)。そこが俺すっごい好きで。

一応「俺、『何定食食べたんですか?』って聞いてるよな」って。ぜんぜん答えていない。でも会話のおもしろさってそういうことじゃない? そこは無視してるんですよ。それが文字になって売っちゃっている。今野さんが作った原稿の中でもそこがすさまじいなと思っています。

信頼関係があるから「無駄な話」ができる

阿部:そういうところってカットされちゃいますからね。Webの対談だとしても「これおかしいよね」って誰かが消しちゃったりとか、1行抜いちゃったりとか。

田中:あと最悪なのは、「田中氏と今野氏は時折ユーモアを交え、会話の本質について語り合った」って。

今野:(本が)30ページぐらいになりますね。

田中:もうペラッペラの本になる(笑)。ホッチキス止めになっちゃうから。無駄なところがすごく大事ですよね。

この4人の板ができた時も、僕が一番盛り上がったなと思うのは、りなりな(橋本氏)はラムネが好きっていう話(笑)。「ラムネ派です!」ってすぐ返ってきたよね。「そういう無駄な話をするな」っていう禁止とかマウンティングは、本当に必要なくて、そこが楽しいんですよね。

阿部:お互いの関係性がちゃんとあるんですよね。もちろん、本当に初対面の人にラムネ云々って話をしても「えっ?」ってなっちゃうかもしれないですけど、お互いの関係性がいい感じに存在していて、いい距離の4車線だったんですよね。

田中:そうね。橋本さんと直接会うのは今日で2回目なんだけど、信頼してるんだよね。信頼してるとくだらないことが言えるんですよ。信用できない人とは、仕事をちゃんと遂行して、利益につながることを着々とやらないとやばいから。

そういう意味では、冗談の言えない会社とか冗談の言えない組織って、お互いに激しく信頼し合ってないんでしょうね。成果を出すためにみんながそこに集ってるという、苦しい状態なんだと思います。

ラリーをつないだ先で決まった「会話」のスマッシュ

阿部:信頼関係でつながっていくと輪が広がっていくし、「会って、話すこと。」が、今回のスマッシュですよね。お互いラリーをつないでいる中でスマッシュが決まったような、まさにそんな本ですよね。

田中:だからちょっと特殊な本なんですよね。一応僕のクレジットで、印税が僕の会社のに入ることになっているけれども、今野さんがこんなにいろいろやってくれたので、最後は法廷で決着をつけたいなと思っています。

今野:何を争えばいいんですか。示談でいいじゃないですか。

田中:示談で(笑)。ジダンのような髪型の方がなにかおっしゃってますけれども。でも、本当におもしろい本になったなと思っています。

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