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ワクセルオンライン講演会 マッコイ斉藤氏「これからのバラエティとメディアのあり方」(全4記事)

バラエティで大事なのは「はっきり言ってあげること」 マッコイ斉藤氏が考える、お笑い番組をつくる人の“資質”

ソーシャルビジネスコミュニティ「ワクセル」(主催:嶋村吉洋)にて行われた、「これからのバラエティとメディアのあり方」の講演会の模様を公開します。『とんねるずのみなさんのおかげでした』をはじめ、数々の人気番組を手掛けてきたマッコイ斉藤氏と、『ラナンミイロ』やYouTubeで、自身と同じ悩みを抱える女性に向けて発信をする井上彩子氏の対談。本記事では、19歳でTV業界に入ったマッコイ斉藤氏が考える、TV番組とYouTubeの作り方の違いや、バラエティ番組を作る上で大切な「情」について語られました。

TVマンからしたら、YouTubeの編集はありえない?

井上彩子氏(以下、井上):じゃあ次の質問なんですが、YouTubeの話に絡めて「バラエティ番組とYouTubeの作り方の違いはなんですか?」

マッコイ斉藤氏(以下、マッコイ):僕はTVを19歳の時から30年近く、ずっとやってきているので、TVと同じ手法でYouTubeをやっているだけなんです。

井上:何も変えずに?

マッコイ:変えずに。僕がYouTubeをやろうと思った時は「YouTuberって編集が下手だな」と思っていたんですよ。YouTuberはTVの人から見たら信じられない編集をしているんですよ。「マシンガン編集」と言うんですか、バババッとトークをたたみかけるように。

井上:言葉と言葉の間をカットカットしていく方法ですよね。私、それしています。

マッコイ:僕らTVマンからしたら、ものすごくだめな手法なんですよ。

井上:あえて余白を作るということですか?

マッコイ:余白もそうですし、間もそうですし、すべてが……。こんなことを言ったら失礼ですけど、ド素人の動画を作って見せているんですよ。とにかく「同ポジ編集」であれはありえないんですよ。

「同ポジ編集」というのは、同じ画角で映るもののサイズや位置を変えずにカクカク編集しちゃって、間もなければためもないというか、人が落ち着いて観るものじゃない。それに違和感があったんです。「それがYouTubeの編集だ」と言う人もいるんですけど、僕は違うと思うんです。僕らからするYouTubeの編集はダサいんですよ。

「軸」の絵と「逃げ」の絵をつくると臨場感が出る

井上:私は経験上、常に1人でカメラに向かってしゃべって、言葉の間をカットしていたんですけど、カメラマンを用意してカットせずにやった動画が再生回数がバンといきましたね。魅せ方がぜんぜん違いました。

マッコイ:そりゃそうですよ、見やすいですし、臨場感もありますし。マシンガン編集や同ポジ編集は小学生でもできる編集なんですよ。YouTuberを馬鹿にしているわけではなくて、そういう技術でも見られるような内容だという。YouTubeってそういうところじゃないですか。

だから最初は気にならないでYouTubeを観ていましたけど、僕らは30年もTVとかPVを作ってきているので、だんだん「こんな編集はいくらYouTubeだとしてもできない」となるんですよ。

僕はカメラを4、5台持っていますから、必ず視点を切り替えてやらないとだめなんですよ。逃げの絵を必ず作っておかないと。「軸」と「逃げ」は、最低でも押さえなきゃいけないんですよ。

井上:スタッフのみなさん、すごく頷いていますね。

マッコイ:だって僕は今は偉そうに座っていますけど、そっち(スタッフ側)の人ですからね。軸の絵と逃げの絵と言っただけでウンウンと頷くのは、そういうのがわかるということです。

井上:私は「うーん」となりますけど。

マッコイ:「テロップベースはここの絵に入れようかな」とか、みんな考えていますよ。寄りと引きと、とか。

井上:撮りながらですか?

マッコイ:そうです。ワンショットで撮っていたら、同ポジになっちゃうんですよ。

演出家は撮影しながら、観ている人の目の動きを意識している

マッコイ:ワンショットで放送するんだったら、例えば生配信とかは臨場感があるじゃないですか。ノー編集で、ライブ感もあるし。そういう力の絵が強い時に「ワンカットでいいや」とやればいいじゃないですか。

長渕剛さんがNHKとかで歌う時は、よくワンカットでガーッと押していくじゃないですか。長渕剛さんはすごい人で歌にも力があるから、そういう時にワンカットで押すと逆にすごく迫力があって惹きつけられるんですよ。もう切り替えなんかいらないという。

逆にダンスとか、少女時代とかNiziUみたいなグループとかユニットの時は、カメラは最低でも4台、5台。演出家だったらクレーンを1台置いてドリー移動撮影しようかな、とか。

井上:観ている人の目の動きなんですかね。NiziUとか少女時代はいろんな角度で見たいからということですよね。

マッコイ:そうです。その時も「軸の絵」が存在するんです。それがフィクス(固定撮影)なのか、横撮りをしながらの軸を入れながら、寄りの絵をポンポンと入れていこうかな……とか。演出家は絶対にそこまで考えてやっています。

井上:ぜひ演出してほしい……。

マッコイ:演出してって……(笑)。(『あやぱいチャンネル』をやっている)井上さんだったら、GoProを頭に付けて、(風景が)必ずおっぱい越しで見えるようにして、「おっぱい散歩」をやればいいじゃないですか。

井上:ショートでそれを上げますかね(笑)。

マッコイ:「ぶらりおっぱい散歩」をやればいいじゃないですか。

(一同笑)

井上:GoPro買います(笑)。

マッコイ:GoProも、魚眼でワイドに見えるようにして。そういうのをやらない手はないですよ。

井上:ちょっとやってみようかな。

マッコイ:(YouTubeの)ショート動画はちゃんと利用したほうがいいです。

井上:やってみます。一切使ったことがなかったです。

マッコイ:本当ですか? だめですよそれは。

TVの仕事が好きだから、ずっとやり続けられた

井上:お話を聞いていて思ったんですけど、私はもともと会社員をしていたんです。エアライン(航空会社)で働いていて、途中で辞めてこの業界に入ってきたんです。マッコイさんは19歳からTVの業界に入られていますけど、他のことをしようかなとか、もう辛いからやめようかなと思った経験は一度もないんですか?

マッコイ:ぜんぜんないですね。だって好きな仕事なんで。そりゃ20代の時とかは「こんなに寝られないのか」と思うような、つらい時もありましたけど。

井上:どれだけ寝られないんですか?

マッコイ:僕は今51歳なんですけど、僕らが20代の時代の「寝られない」は、無睡眠で仕事に行きますよね。朝の6時とか7時ぐらいまで仕事して、8時からロケとか。

井上:頭が回らないですよね。

マッコイ:それが若いので回るんですよね。あと現場が刺激的すぎるやばい時だったので。『天才たけしの元気が出るテレビ』って検索すると、今では考えられない、信じられないようなロケをやっていますよ。だから、ずっと目がギラギラして。

井上:アドレナリンがずっと出ているんですね。

マッコイ:それでロケが終わったら、そのまま編集所に入って編集していました。月曜日にスタジオの収録だったので、それまでの土日月はほぼ寝られなかったですね。

井上:よく健康でいられますね。

マッコイ:僕もそう思うよ。

(一同笑)

井上:実際にお会いして、スタイルもいいなと思って。お肌も艶があるし。

マッコイ:いや、今は寝ていますよ。

(一同笑)

マッコイ:昔の20歳ぐらいの時の話ですからね。(今日のスタッフの中に)TBSのディレクターでしたと言っている人がいたけど、彼がTBSのADの時だってそうだと思いますよ。僕の時よりかは寝ているとは思うけど。『天才たけしの元気が出るテレビ』は半端じゃないバライティだったので、本当に寝られないのは当たり前でした。でも楽しかったんです。

井上:一番は、好きなことは続けられるってことですね。

マッコイ:人に「これやりなさい」と言われてやっている仕事じゃなくて、自分がおもしろいなと思ってずっとやり続けていたんです。それは今も変わらないので、まだやめようとは思わないですね。

不良はバラエティに向いている

井上:それこそマッコイさんに憧れてこの業界を目指す方もいらっしゃると思うんですけど、直接アプローチは来ないんですか?

マッコイ:来ますね。うちの会社の前に何人か立っていたりします。絶対にやめてください。

(一同笑)

井上:やっぱりいらっしゃるんですね。直接会社に行くのはNGですか?

マッコイ:うちの会社の玄関にぼーっと立たれても、僕は芸人さんの師匠じゃないから。でも履歴書を送ってきてくれて面接しようかなと思う子もいます。僕のファンというか、そうやって「マッコイさんの下で働きたい」という男は、だいたい不良ですね。

井上:不良なんですか。でも逆にそこがおもしろいなと思いませんか?

マッコイ:思いますけど。根性もあり愛情深いのが不良なんですけど、「笑い」はそれだけじゃすまないところがありますから。そこに気づかせて、そういった人を成長させるというか教育するのには、ものすごく時間を要します。でも実は、不良はバラエティに向いているんですよ。

井上:マッコイさんももともとは不良ですか?

マッコイ:いやいや、なんて質問をするんですか(笑)。ご想像におまかせしますよ。

井上:真面目そうです。

マッコイ:真面目でしょ? 農業高校で真面目に生きてきましたから。

自分が不器用だと思っている人は努力する

井上:不良かどうかは置いておいて、いっぱい履歴書が送られてきた時に「なにこれおもしろい」と思うようなポイントはありますか? 「こいつおもしろいな」という。

マッコイ:僕は人見知りで不器用なやつが好きなんです。器用にしゃべって、しかも話が長い人は嫌いですね。

井上:さっきの私のスタートの話はだめですね。

マッコイ:いや、不器用でいいんじゃないですか? 人柄が出てました。

井上:いいんですか? よかった。

マッコイ:不器用な人は、それに勝る才能が内に秘めているようでいいですよ。自分が不器用だと思っている人は努力するので、本当に寡黙で口数が少ない人は好きですね。

井上:そういう方がいざ業界に入ってきて、仕事をしていく中で良くも悪くも変わっていくことはあるんですか?

マッコイ:ADからディレクターになるのは、映像が好きで、おもしろいものを作りたいという子たちの集まりですから、そりゃいい意味でも悪い意味でも変わらないとだめですよね。それは経験なので、悪く変わったら「お前もっとこうなればいいんじゃない」という注意をしてあげればいいし。

変わらなきゃいけないのが、我々の仕事ですから。びっくりするくらい変われるんですよね。編集の腕が上がったり演出の手腕が上がったり、ディレクターはやる気さえあればいくらでも(技術を)盗めるので。

バラエティに一番大事なのは「はっきり言ってあげること」

井上:人をすごく見ていらっしゃいますよね。最近YouTube毎朝観ているんですけど、マッコイさんと検索して出てくる動画を観ていると、良しも悪しも意見をはっきり言うじゃないですか。でもそこに嫌な感じがしなくて、「なんだろうこの愛らしさは」というか(笑)。人柄の良さがあるから、こういう言い合いでも観ていられるのかなと思うんですけど。

マッコイ:バライティにおいて、僕なんて本当は演出する側なのに、最近よく「出てくれ」と言われるので、仲のいい人のところだけは出ているんです。

一番バライティにおいて大事なのは、はっきり言ってあげることで。今のTVがおもしろくないのは、無難なことばっかりやっているからですよ。みんな「いいことを言わなきゃいけない」と思うから、芸人さんが芸人らしい仕事をぜんぜんできていない。

井上:小さい頃、子どもながらに両親とテレビを一緒に見るのが恥ずかしいという思いがありましたけど、今はないですよね。

マッコイ:ドキドキワクワクして、ギリギリを攻めてみんなハラハラして見ていて、芸人さん本人も「何をやるんだろう」という、あのドキドキ感がないじゃないですか。だから、もっと言いたいことをバシッと言って、でもただ言って傷つけるんじゃなくて、ちゃんと最終的に救ってあげるのが大切なんです。

愛情を持って接していれば、いくら悪口を言ったって笑ってもらえると確信できるじゃないですか。だから「情」ですよ。情がなければ伝わらない。特にお笑いなんか、出ている側には絶対に「口にしない愛情」があるんですよ。それがわかっていないとだめかなと思いますね。

井上:勉強になります。

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