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『取材・執筆・推敲』(ダイヤモンド社)刊行記念トークイベント「取材・執筆・推敲、そして「発表」!! ——生きるための教科書『取材・執筆・推敲』を使いこなすために——」(全7記事)

『鬼滅』も『スラダン』も、起承転結ではなく「起“転”承結」 ベストセラー著者が見つけた、読者の心をつかむストーリーの作り方

代官山蔦屋書店にて、『取材・執筆・推敲 書く人の教科書』(ダイヤモンド社)の刊行記念イベントが開催されました。本セッションでは、著者・古賀史健氏と担当編集者・柿内芳文氏、そして東京工業大学でメディア論の教鞭をとる柳瀬博一氏のトークの模様をお届けします。本書は「書く人の教科書」でありながら、「生きるための教科書」でもあると語る柳瀬氏。本記事では、古賀氏が発見した「起転承結」の型について、本書の「ガイダンス」に込められた思いについて語られました。

「起“転”承結」の発見

柳瀬博一氏(以下、柳瀬):いきなり話がポンと変わるんですけど、この本の中身で一番、僕が改めて今後参考にしたいなと思ったのが、起承転結から起“転”承結の話なんですよ。

取材・執筆・推敲 書く人の教科書

古賀史健氏(以下、古賀):はい。はい。

柳瀬:起“転”承結のほうがいいじゃんって、なんで発見しました?

古賀:もう10年ぐらい前ですけど、若いライターから「原稿の書き方がわからない」という相談を受けたことがありました。どういう流れでどう書いていけばいいかわからないという、ぼんやりした相談だったんですけど。

その時に、まず最初に月並みな一般論から始めて、その一般論をバンと覆す、「しかし○○なのだ!」みたいな、ひっくり返す要素で読者の人をびっくりさせて、それに対する説明があって、最後にいいかたちの結論が入れば、それで1,000文字〜2,000文字のコンテンツは簡単につくれると思うよ、みたいな説明の仕方だったんですよね。

自分で説明しながら、これってぜんぜん起承転結じゃないし、なんなんだろうって思って。今話した内容を、もし四字熟語にするんだったら、これ起“転”承結だよなって。

今まで自分が無意識的に書いてきた文章を読み返しても、だいたいそのかたちを使ってるんですよね。「あ、これはちょっと発見しちゃった」と思ったのが、10年くらい前ですね。

連載漫画で培われた、早めに読者をつかむための「起“転”承結」の構造

柳瀬:この本を読んでから、いろんなヒットしている漫画を考えてみると、漫画はわりと長いのに起転承結が多いなと。長いからかな? 

古賀:そうですね。

柳瀬:『SLAM DUNK』は、三井寿くんが起転承結の「転」ですよね。いきなりヤンキー時代の三井くんと悪い仲間がバスケ部に殴り込んできて、最後は「バスケがしたいです」と。『鬼滅の刃』も、わりと早めに鬼舞辻無惨さまというラスボスを出しますよね。

むしろ、起承転結って誰が最初に設定したんですか?

古賀:もともとは中国の漢詩の型なんですよね。それを日本に輸入して、一番いい型だと。日本人が学ぶ唯一の構造、作文構造的なかたちではあるので。実際に結婚式のスピーチなどで語られる起承転結って、おもしろいのはおもしろいんですよね。

柳瀬:はい、はい。

古賀:4コマ漫画も起承転結だし。ただ本当にストーリーをおもしろく語ろうとしたり、あるいは連載漫画という、1回1回の章でいつ打ち切られるかわからないような時には、早めに読者をつかまないといけない。

早めに読者にびっくりしてもらって、次のページを何が何でもめくらなきゃという。ページをめくってもらうかどうかがやっぱり漫画は勝負なので。早めにびっくりを持ってくるのは、連載漫画の中で培われた構造だと思いますね。

柳瀬:しかも漫画って長い。だいたいの漫画がドストエフスキーより長いですもんね(笑)。

古賀:今は普通にそうですね。僕らが子どもの頃って『三国志』とかがめちゃくちゃ長い漫画の代名詞だったけど、今は平気であれを超える漫画がいっぱいありますからね。

柳瀬:あります。のきなみドストエフスキー超え、三国志超え。そうすると確かに、起承転の転を待ってたら、飽きちゃいますよね。

古賀:そうですね。飽きるのと、やっぱりくどくどした説明がずっと続くので、例えば映画館でもう席に座っちゃって、2時間我慢して観るしかないというよっぽどの状況だったら、起承転結の転まで待つのはできるかもしれないけど。

起“転”承結で作られる、映画の予告編

古賀:今Webとかで映画の予告編が出ますよね。予告編はどれだけびっくりの要素を詰め込むか。それでお客さんをつかんで、この映画おもしろそうだ、見に行こうとさせるものだから。予告編はけっこう起“転”承結で作られていたりするんですよね。

柳瀬:予告編のほうがおもしろい映画ってけっこうありますよね。

柿内芳文氏(以下、柿内):『映画は予告篇が面白い』という本があって、前に映画の予告編を作っている会社に取材に行ったことがあって。

映画は予告篇が面白い (光文社新書)

柳瀬:あ、そうなんですか。会社があるんですか? 

柿内:あります。株式会社バカ・ザ・バッカって会社ですけど。社名が「バカばっか」っていう。

(一同笑)

柿内:話を聞いてて、やっぱり映画の予告編をつくるっておもしろなと思って。まさに古賀さんがおっしゃっているように、本当に起“転”承結的なところでやってるし、予告編ってすごくクリエイティブなんですよね。本編よりおもしろくなることもあるし、本編が例えばラブコメなんだけど予告編はすごく切ないラブロマンスになったり。

柳瀬:確かに。

柿内:本編にはない音楽が使われていたり。編集をやることによっていいリズムも生まれるじゃないですか。予告編は短いが故にリズムもあって勢いも出て、万能的な、なんでもできるみたいな。優秀な予告編ってすごいですよね。

本でも予告編ができないか?

柿内:最近だと『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』の最初に、「これまでのヱヴァンゲリヲン新劇場版」と何分間かやっていて。あの編集がすばらしい。

柳瀬:あれ、すごいですよね。

柿内:編集者として嫉妬するレベルの、すごくいい編集がされているなと。

柳瀬:映画公開後に解禁された田植えの映像とか、いくつかの連続した予告編も含めて、『エヴァンゲリオン』そのものの1つのストーリーになっていますよね。

柿内:そうなんですよね。

柳瀬:本ってあまり、プレスリリースも予告編的に作っていないですね。

柿内:僕は本で予告編ができないかなってずっと思っていて。昔思っていたのは、やってないですけど、本の最初の30ページぐらいはもう予告編にしちゃって、立ち読みではみんなそこだけを読む。でも買って読む時に予告編はいらないから、買ったら捨てりゃいいんじゃないかって。

柳瀬:ビリッと。

柿内:中綴じの一折り分。要は、もう取り外してなんら問題ないという、この「一折り取り外し本」。特に専門書の場合は、それがあればいいんじゃないかなと思って。

柳瀬:専門誌と、あと漫画でいうとコンビニのビニ本(不透明な袋で覆われた成人向け漫画)の中に、むしろ冊子から抜いたやつじゃなくて、予告編だけを置いておくとか。

古賀:そうですね。

柿内:そういうのもぜんぜんありだと思う。

柳瀬:それ、やってください。

『取材・執筆・推敲』冒頭のガイダンスは、読者に向けての「予告編」

古賀:実はこの本(『取材・執筆・推敲』)はけっこう長めにガイダンスがあって、35ページ分使ってるんですよね。

柿内:なかなか目次にならない(笑)。

古賀:このガイダンスは、僕の中では予告編なんですよ。

柳瀬:僕、最初に言おうと思って忘れてたんですけど、この本はまずガイダンスを何度も読むといいと思ったんですよ。だから実はガイダンスに付箋が一番多いんですよ。そうか、これは予告編だ。前書きじゃない。

古賀:そうなんです。取材・執筆・推敲という順番で、どうしても語らないといけない。でも、おそらく読者の方は、書き方を教えてほしいと思ってますよね。取材から始まるという、ちょっともたつく展開なんですよね。

柳瀬:すぐ書きたい、書き方本が欲しいと思っている人にとっては。

古賀:「書き方のノウハウを教えてください」といって、この本を手に取る読者はきっと多いので。いきなり最初にけっこう膨大な量を使って取材の話をすると、「自分はライターじゃないから、取材関係ないんだけどなぁ」という人もきっといるんじゃないかと思っていたんですね。

その前に予告編的なガイダンスを入れて、そこで圧倒的におもしろい話をして、さあここから始まるぞと持っていけば、おそらく読者の方も最後までついてきてくれるんじゃないかということで、ガイダンスに一番力を入れています。

柳瀬:ありがとうございます。考えてみると、いきなり「ライターは『書く人』なのか」って言っておいて、今の古賀・柿内議論のまんまの予告編ですね。

柿内:そう。バーンって驚きですよね。

柳瀬:バーンですよね。それで転でいきなり「ちゃうねん」って。「つくる人だよ」と。

古賀:そうなんですよ。ガイダンスと「取材」の部分で、起、転。

柳瀬:本編をつくるのは難しいに決まっていますけど、この予告編は、僕はなかなか書けないと思います。

古賀:(笑)。そうですね。

柳瀬:そっか。

ガイダンスの原稿を見て「もうこれでこの本は完成じゃないか」

柿内:これ(ガイダンス)を書いた時の古賀さんのけっこう自信ありげな表情、覚えています。

(一同笑)

柳瀬:どんな顔してました? 

柿内:「やったったね、どうだ」という。

柳瀬:しめしめ感が。

柿内:全体の道のりからいったら、まだぜんぜん序盤なわけじゃないですか。ただ、やっぱりここにすごく力を入れて、時間をかけて書いていて。

その後、微調整はもちろんありますけど、ほぼこのまんまの原稿があがってきた時に、古賀さんから「どう?」っていう、「これはやったったで」っていう感じを、今すごく思い出しましたね。僕もやっぱり度肝を抜かれた。もうこれでこの本は完成じゃないかみたいな。

柳瀬:ということは、全体を書いた後にここを書くんじゃなくて、先に予告編を作ったわけですか? 

古賀:そうです。先に作りました。

柳瀬:映画と違うところですね。

古賀:そうですね(笑)。

柳瀬:これから出るであろう映画の予告編を先に作ったというのは、ある種、当人に対する決意表明でもありますね。

自分で何かをつくるときは、「ガイダンスを書いてみる」

古賀:そうですね。それで言うと、ちょっと脱線ですけど、僕中学の時に映画監督になりたいと思ってて。でも、なる方法がわからないじゃないですか。中学生で映画を作るってできないから。僕がなにをやったかと言うと、自分が作りたい映画のポスターを必死に描いていたんですよ。

柳瀬:やっぱりポスターの絵を描いたんだ。

古賀:ゾンビ映画のポスターとか、戦争映画のポスターとか、ポスターを何枚も作って。

柳瀬:どんな映画を作りました? 覚えてますか? 

古賀:僕が考えていたのは、顔とか体がバラバラになっちゃって、顔だけが歩いてきたり、足だけが歩いてきたりするゾンビ映画なんですよね。

柳瀬:あ、既存の映画じゃなくてオリジナルの、俺がつくるであろう映画の。

古賀:そう。俺の映画のポスターを書くんですよ。そのポスターにもちろん煽り文句とかもいっぱい書いて。

柳瀬:エアポスター。

古賀:そう、そう(笑)。「○月×日公開!」とかまで書いて、自分でつくったポスターを教室に貼ったりしていました。

柳瀬:……すごいですね。

(一同笑)

古賀:このガイダンスをつくる作業とけっこう似ていたかもしれないですね。

柳瀬:ポスターを作って。ない本の装丁をやるようなもんですよね。

古賀:そう、そう。

柳瀬:古賀少年の来し方を考えると、けっこうこのガイダンスにつながるものがありますよね。

古賀:そうですね。このガイダンスと近いかもしれないです。

柳瀬:と思ったら、本には書いてないですけど、「ガイダンスを書いてみる」っていいかもしれないですね。本だけじゃなくて、自分のつくる、なにかのガイダンス。

でも、それって企画書ではないですね。さっき柿内さんが、企画はどうかなという話をしたじゃないですか。

柿内:企画書って、一直線の平坦な道みたいになりがちなんですよね。

柳瀬:完成形がある前提のものですよね。

古賀:そうですね。自分がなにを書くかはもうわかっていたので、そこに至る前提知識として「コンテンツの三角形」みたいな話は、ガイダンスの中でしていますし。ここまで読んだら、もう次ページをめくらないと収まらないよねというところまで。

僕は漫画家の先生の取材をすることもあって、漫画家の人たちが次のページをめくってもらうためにどれだけ努力しているかをよくよく聞いていたので。その気持ちがずっとありますね。

柳瀬:なるほどなぁ。

世界的ベストセラー『嫌われる勇気』でも重要だったイントロの部分

柿内:『嫌われる勇気』の最初のイントロのところと、並行して読んでみてもおもしろいかもしれない。

嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え

柳瀬:そっか。みなさん、どこのご家庭にも1冊ある、あの『嫌われる勇気』を。うちは大学と家と1冊ずつ、計2冊ありますので。それを今日帰った後に。

柿内:僕はあのイントロが大好きなんですけど。そういえばあの原稿が来た時も、古賀さんが同じ「やったったぜ」という顔をしてたなって思い出しましたね。あそこに最初、相当力を入れていたから。

ここまでイントロがうまく書けたから、このスタイルで書けそうという。だって古賀さんが自分で考えてやる初めてのスタイルだから、登場人物の「青年」と「哲人」でできるかどうかって未経験なわけですよね。

本当にできるかは、あのイントロを書けた瞬間に「たぶんこれが書けるなら書ける」という確信を持ったと思うんですよね。

柳瀬:よし、いけるぞ、と。

柿内:それが僕に伝わった瞬間があったなと思い出して、一緒だなと思って(笑)。

柳瀬:そっか。古賀さんはそういう意味でいうと、映画監督をけっこうちゃんとやってるじゃないですか。

古賀:あ、そうですね(笑)。結果的に。

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