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『取材・執筆・推敲』(ダイヤモンド社)刊行記念トークイベント「取材・執筆・推敲、そして「発表」!! ——生きるための教科書『取材・執筆・推敲』を使いこなすために——」(全7記事)

「なぜなぜ」を繰り返し、物事を俯瞰して見る 一流の編集者・取材者に学ぶ、人生が豊かになる“思考法”

代官山蔦屋書店にて、『取材・執筆・推敲 書く人の教科書』(ダイヤモンド社)の刊行記念イベントが開催されました。本セッションでは、著者・古賀史健氏と担当編集者・柿内芳文氏、そして東京工業大学でメディア論の教鞭をとる柳瀬博一氏のトークの模様をお届けします。本書は「書く人の教科書」でありながら、「生きるための教科書」でもあると語る柳瀬氏。本記事では、古賀氏、柿内氏それぞれが考える「取材」のポイントが語られました。

「書く人の教科書」は、「生きる人全員の教科書」になる

柳瀬博一氏(以下、柳瀬):まず、僕の感想なんですけど。この本を読んでみたら、副題に『書く人の教科書』と書いてますけど、書く人に絞らないほうがいいなと思ったんですよ。絞らないというのは、この本のお客さんは書く人が中心なんだけど、これは生きる人、すなわち全員の教科書になるなと思いました。

古賀史健氏(以下、古賀)・柿内芳文氏(以下、柿内):ありがとうございます。

柳瀬:なぜかと言うと、僕らは、というか、あらゆる人は今、毎日書いていますよね。

古賀:本当そうですね。

柳瀬:絶対書いてますよね。

柿内:書いてますね。今日もたくさん書きました。

柳瀬:はっきり言いますけど、この薄っぺらいこの機械(スマートフォン)が登場するまで、こんなにみんな文章を書いてないですよね。突然みんな書き始めたわけじゃないですか。ただ、スマートフォン以前から、テキストのかたちに落としこまないだけで、しゃべってるのと書くのって、ほぼほぼ同じことだなと。

古賀:そうですね。

柳瀬:ちゃんとしゃべれるとかあるいはプレゼンできるとか、コミュニケーションをして喜ばせるのと書くのは一緒だなと思ったのが、実はこの本の最大の感想なんですよ。

古賀さんに聞きたいんですけど。あえて本書の読者対象を「書く人」から「生きる人への教科書に」と広げたとき、この本をベースにどこから教えますか? 「古賀さん、教えてください」なんて。

(一同笑)

「考える」ことができるのは、いろんなものに触れているから

古賀:僕は、やっぱりこの「取材・執筆・推敲」という順番はものすごく大事だと思っているんですよ。

柳瀬:どうしてですか。

古賀:「書く」とか、今柳瀬さんがおっしゃった「話す」もそうだし、もっと手前の段階で言えば、「考える」時には必ず言葉を伴って考えているので。その言葉を伴って考えるにあたっても、基本的になにかを考えるのは、外界に触れた時なんですよね。

柳瀬:自分の中に閉じこもっているんじゃなくて、なにか触ったり。

古賀:なにかを見たとか聞いたとか、触ったとか食べたとか、そういう外界との接触があった時に、その刺激に対して自分が感じる・考えるという流れにいく。本当に部屋の中で一人でじっと悶々としてたら、そんなに考えられないと思うんですよ。

柳瀬:「考える」と言うと絵柄的にはそういうことをしたくなりますよね。

古賀:それは前段階で、たくさんいろんなものに触れているからであって、いきなり最初から無菌室みたいなところに入って、なにかを考えることはなかなか難しいと思うんですよね。

柳瀬:そっか。

人生が豊かになる「書かない人のための取材論」

古賀:この前公開された『すばらしき世界』という西川美和さんの映画、これは佐木隆三さんの『身分帳』という本が原作なんですけど、その中におもしろい一節があります。

身分帳 (講談社文庫)

主人公の男性は、長らく刑務所に入っていたんですね。刑務所内でいろいろな問題を起こして、基本的に刑務所の独房に入っていて。独房に入っていた人間って、独り言が多くなるらしいんです。

柳瀬:あ、そうなんだ。

古賀:自分が考えていることを、全部言葉にしちゃう癖がつくんですって。だから彼が出所した後も、バスの中とかで考えていることが全部言葉でダダ漏れなんですよね。

柳瀬:ほう。

古賀:それは独房に長く入っていた人たち特有の現象らしくって。なんでかと言うと、やっぱり自分が考えたことに対しても、周りになんにもリアクションをとってくれる人もいないし刺激がないから、自分で言葉に出してその声を聞いて、また考えるという「自問自答」をしている。いったん声でアウトプットして、それを聞くことでインプットして、また考えてアウトプットしてという連続になってるんですよね。

柳瀬:ひとりぼっちだから、もう一人の自分をつくるということですね。自分との対話が独り言なんだ。

古賀:そうなんです。

柳瀬:それは気づかなかった、独り言ってそうなんですね。

古賀:独房に長くいた人は、無意識に声に出しちゃうという話が(原作の中に)あって。これもまさにそうなんだけど、基本的に僕らが考えて言葉にする前には、外界との接触がある。その外界との接触というのは、まさに「取材」なんですよね。

その取材者の目を持って、世の中を見て、聞いて、感じることをやっていれば、当然考える量も質も変わってくるので。取材の量と質が上がれば、ライターとして文章がうまくなるとか賢くなること以前に、ただ単に人生が豊かになると思うんですよ。

柳瀬:今の話で言うと、むしろ「書かない人のための取材論」って必要ですね。生きる楽しみにもなるんですね。

古賀:本当におっしゃる通りです。

取材は「これってなんでだろう?」という疑問を持つところから始まる

柳瀬:柿内さん、まったく別の仕事の世界から転職してきて、なんの経験値もないのにいきなり編集がうまい人とかいるじゃないですか。話を聞いてみると、やっぱりもともとの目線がものすごく取材者的な人っていますよね。

柿内:いますね。

柳瀬:まったくメディア業界と関係のないところにいるのに。いつでも一流のライターや編集者になれる思考、視座を持った人っていますよね。

柿内:います。

柳瀬:そういえば、取材という概念も、案外教わるもんじゃないですね。

柿内:そうですね。そういう仕事をするまでは、まったく考えたことがないですよね。

柳瀬:例えば編集者って、プレ取材という取材の前の取材をしないといけない時ってあるじゃないですか。出版社時代とかにそれを学んだことってありますか? 

柿内:プレ取材……。どうだろう。

柳瀬:例えば下調べとか。

柿内:まぁ、下調べはする時ももちろんありますけどね。取材っていうと、日々をどう読み解くか、世界という読み物をどう読むかという古賀さんの話があると思うんですけど。編集者も全く同じだなと思っています。僕だとやっぱり、取材というのは「これってなんでだろう?」と素朴な疑問を持つところから入ることが多くて。

柳瀬:まず疑問を持つ。

柿内:素朴な疑問から「なぜ、なぜ」って解いていくことが編集者になる前から多かったので、自分はずっと人生で取材をしてきたんだなって、後から気づくんですけど、当時の自分はそれを「取材」だとは思っていないわけですよ。ただ日常生活を送っているだけであって。

柳瀬:なるほど。

末っ子かつ一人っ子が身につけた、全体を引いて見る癖

柿内:僕の場合だと、出自が男3兄弟の三男なんですけど。上と10歳と8歳も離れていて、どちらかと言うと一人っ子。三男なんだけど一人っ子。

柳瀬:末っ子だけど、ちょっと一人っ子。

柿内:末っ子かつ一人っ子というのは、基本的に家族とか兄の関係性が俯瞰的に見えるんですよね。

柳瀬:そうなんだ。

柿内:兄がこうやって怒られてたとか、ちょっとだけ全体を引いて見る癖がなんとなくついていて。さっき素朴な疑問とか言いましたけど、そこから「なんで編集協力という言葉なんだろう」って。

柳瀬:(笑)。

柿内:普通だったら「そういうもんだな」で終わりだと思うし。「そこはそう書けばいいんだな」なんだけど、僕は最初に「え、なんで協力? 編集者は僕で、ライターは編集の協力はしてない。編集ってなに、ライターの役割ってなに?」っていう。しつこいので、10年ぐらいは「なんで?」って思っちゃうんですよね。

柳瀬:編集協力という4文字に対して10年。

柿内:解決するまで、「なぜ」って思い続けているんですよ。そうすると出版・編集と関係なく、似たような現象って世の中にいろいろあるじゃないですか。実態と違う名前が与えられているものって、他にもたぶんあると思うんですよね。

そっちもなぜなぜと思っていると、どこかでたまたまなんかの瞬間に誰かが答えを出してくれたり、まさに自分の言葉でつかんでしまう時に、芋づる式にすべてがわかる、みたいな。

柳瀬:一番最初に重要なのは、取材前に抱く疑問ですね。

柿内:そうですね。

柳瀬:だから、古賀さんもこの本を書こうと思ったのは、さっきの大きな疑問ですよね。「なんで『書く』ということに方法論が、スキームがないの?」という話でしたよね。

古賀:はい。そして、今の学校はなんで機能していないのかという疑問ですね。

勉強と取材の違いは、誰かに伝えるためかどうか

柳瀬:ちょっと掘り下げたいところなんですけど、そもそも疑問を持つにはどうしたらいいんですかね。ちょっとトートロジー(同語反復)ですけど。

古賀:(笑)。僕は、取材の原点にあるのは「なにかを知ろうとする態度」だと思うんですよね。例えば学校の勉強も、知ろうとすることじゃないですか。

勉強と取材はどう違うのかと言うと、取材は前提として、そこで知ったことを誰かに伝えるんです。誰かに伝えるために、調べたり考えたりしているんですよね。勉強は誰にも伝えなくていいんですよ。

柳瀬:とりあえず自分の中で。

古賀:そうそう。自分がわかればいいんです。わかったことを誰かに伝える。それこそ家に帰って家族に伝えるとか、明日学校で友達にしゃべるとかでもいいんだけど。そうやって誰かに伝える前提で情報を仕入れる、あるいは考えるというのは、僕の中では全部取材なんですよ。

柳瀬:それは「ねえねえ聞いてよ理論」ですね。

(一同笑)

古賀:柳瀬さんが一番好きなやつ(笑)。

柳瀬:古賀さんは、昔から取材の経験があったんですか?

古賀:僕はそれこそ音楽を聴く時とか、映画を観る時とかも、やっぱり「明日友達にこう話したい」とか、「この魅力をどうやったらみんなわかってくれるだろう」と考えながら、聞いたり見たり読んだりしていたので、ずっと取材でしたね。

柳瀬:そう考えると、取材という言葉をもっと広く使ったほうがいいですね。人生のおもしろさだから、みんな取材したほうがいいですね。

“インタビューされたらどう答えるか問題”

古賀:そうなんですよ。だからお勉強的な態度で本を読むのは、自己満足になっちゃうんです。それをどう人に伝えるかといったら、自分の言葉で再編集しないといけないので、もう一段階上の理解が必要なんですよね。

例えば、『となりのトトロ』という映画を見て、あの2時間の映画を5分ぐらいでしゃべるとしたら、自分の中で編集が必要じゃないですか。

柳瀬:確かに。

古賀:構造的な理解も必要だし、それを抽象化したり、一番クライマックスのおもしろいところは詳細に話したりする編集が必要なので、言葉でアウトプットするのは理解の度合いがぜんぜん違うんですよね。人に伝える前提で物語を鑑賞すると、普通のお客さんとして見る時とぜんぜん違う。

例えば僕が映画館に行く時はいつも、映画を見終えて映画館を出て、テレビのレポーターみたいな人からマイクを向けられて、「この映画どうでした?」って聞かれた時に、俺はなんて答えるだろうって思いながら見ているんですよ。

柳瀬:この本の中にも、“インタビューされたらどう答えるか問題”が、ちらっと出ているんですけど。

古賀:そう、そう(笑)。本を読む時も映画を観る時も、音楽を聴く時もコンサートに行った時も、いろんなところで「全部終わったあと、マイク向けられたらなんて言うだろう」って考えているんですよね。

柳瀬:これからどこか試写会に行くと、全部古賀さんのところにマイクが向きますね。

(一同笑)

柿内:古賀さんを捕まえておけば。

柳瀬:とりあえずコメントが1本録れる(笑)。映画関係の方はぜひ古賀さんを。

転校生は「取材」している

柿内:古賀さんはまさに、ナチュラルボーン(生まれつき)の取材者ですね。

柳瀬:ですね。

柿内:人ってやっぱりナチュラルボーンでしか生きられないですよ。

古賀:でも、僕って父親の仕事の都合で転校が多かったんですよ。

柳瀬:転校生って、そうなりますよね。

古賀:転校生ならではの人格形成ってあって。僕、小学校だけで4つ変わっているぐらいで。

柳瀬:コロナ禍ですけど、握手していいですか。私も小学校4つ変わりました。

柿内:あ、そうなんですね。

古賀:新しい学校の新しい輪にどうやって入っていくかって、切実な問題じゃないですか? 

柳瀬:転校生は、「取材」しますよね。

古賀:誰が一番力を持っているのかとかも取材するし(笑)。

柳瀬:(笑)。勢力を観察して。

古賀:そう、そう。物事を俯瞰的に見る癖もついているし、どうせ1年2年で僕はここから去っていくんだ、というあきらめも最初から持っているし。

柳瀬:ちょっと刹那的なんですよね。

古賀:そうなんですよ。だから人間関係は深めるんだけど近づきすぎないとか、今やっている仕事にかなり影響していると思います。

柳瀬:あ、僕、その話を昔担当していた作家の重松清さんとした記憶があります。

古賀:あー、そうなんだ。

柳瀬:重松さんがやはり転校生だったので。でも、今の話で言うと、「疑問をどうするか」と考える前に、取材して誰かに話す癖をつけておくと、自然と疑問が出てきますよね。

古賀:そうですね。

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